ディジュリドゥを作ります
今回作るのは、ディジュリドゥという楽器。何度やってもローマ字打ちがうまくできないこの名前、聞きなれない方も多いと思うが、どんな楽器か文章で説明するよりもまずは動画でみてもらうのが早いだろう。
久しぶりに吹いたのでお世辞にもうまくない演奏だが、雰囲気はわかってもらえたと思う。ヴォォォィィィィィゥゥゥゥゥ…と、うねるように変化する独特の音色。音程でメロディを奏でるのではなくて、音色のうねりを楽しむタイプの楽器だ。
もともとオーストラリアのアボリジニが使っていた楽器で、本物はユーカリの木でできている。シロアリが中身を食べてしまって、筒状になってしまった木を使うのだ。そう、筒。この楽器、じつはただの筒だ。笛みたいに横穴も開いてないし、弦が張ってあるわけでもない。だから作るのも簡単。さっそく工作を始めよう。
すぐできます
この手作りディジュリドゥ、実は僕が大学時代に練習用に使っていたものだ。簡単に作れて音もいい。
工程は3つ。吹き口を整えて、長さを決めて、組み立てる。30分もあればできる。費用も材料と工具合わせて2千円くらい。
材料は左の写真のとおり。塩ビパイプ2本と、連結用の部品(インクリーザーというらしい)3つ。ホームセンターで買える。パイプの太さは適当だが、今回は40ミリと75ミリを用意した。インクリーザーのほうは、パイプに合わせて20ミリ×40ミリ、40ミリ×75ミリ、75ミリ×100ミリを準備。
材料はこれだけ
1.吹き口を整える
用意したインクリーザーのうち、一番小さいものが吹き口になる。サイズは自分の口に合わせて選んでほしい。
吹き口を整える、といってもたいしたことはなくて、ヤスリで吹き口の角を落として、口に当てたときに痛くないようにするのだ。直接息を吹き込む部分なので、愛情をこめて磨いておきたい。とはいえ、音には影響しないので磨き方は適当でいいです。
細いほうが吹き口です
ヤスリで角を落として
サンドペーパーで磨く。ここまで所要時間10分
2.長さを決める
次に、長さを決める。これも適当でいい。2本のパイプをあわせてだいたい1.5mくらいが扱いやすいのではないかと思う。
長さを決めたらノコギリで切る。ギコギコやっていると15分くらいかかるだろうか。これが楽器のボディとなるので、気合を入れて切りたい。気持ちだけ。多少切り口が曲がってもどうということはないので適当でいいです。
のこぎりで切ります
3.組み立て
ちょうどいい長さにパイプが切れたら、いよいよ組み立て。部品をつなげて長い1本の筒にしていく。
接着剤を使わなくても、部品は意外ときっちりはまる。ばらして持ち運べるのが塩ビ楽器のいいところだったりするので、ボンド止めはしないほうがいいかもしれない。あくまで適当に。
組み立ては2分でできます。
細いほうに吹き口をつけて
インクリーザーで
太いほうとつなぐ
あ、長すぎた
ちょっと短くします
つなげて
太いほうの端にもインクリーザーを
できました!!
すぐできました
はい、適当にやってるだけで27分でできました。簡単ですね。
ではこのいい加減な楽器、どんないい加減な音がすることだろうか。ということで演奏してみます。
鳴りは上々。木製のものとはちょっと音の質感が違うが、吹きやすさの点ではむしろこっちのほうがいろんな音が出しやすいように感じた。練習用には最適だ。
音の出し方
・まずくちびるを軽く閉じて吹き口に押し付ける
・くちびるの隙間から息を吐き、ブーっと音をたてる
・ その音が反響して、動画のような音が鳴る
音が出にくかったり変だったりする場合は、思い切って楽器の長さを変えたり、吹き口のサイズを変えてみるとうまくいくかも。
慣れてきたら口の中で舌を動かしてみると、音色を変えることができる。息つぎしないで長い音を吹き続けるには、息を吸いながら吐く「循環呼吸」という必殺技があるのだが、説明するときりがないので割愛。この辺のテクニック的なことは検索するといろいろ出てくると思うので、研究したい人はぜひ。
さて、ディジュリドゥ作りはどうだっただろうか。うまくできたけれども、すぐに完成してしまったし、僕自身一度作ったことがあるので面白みにも欠ける。もう一つくらい何か作ってみようじゃないか。おまたせしました。次に挑戦するのはこれです。
この輝くボディ!
お待たせいたしました。次に作る楽器は、サックスです。
塩ビパイプでサックスを作る。あまりに無謀な試みかもしれない。しかしサックスは僕にとって思い入れのある楽器だ。そんな楽器が自分の手で作れたら最高じゃないか。
だめでもともと。やってみることに意義がある。さっそく追加の材料を買いに走った。
追加部品はこれだけ
さっき切った切れ端でつないだり
アロンアルファで止めたり
このカーブがサックスですよ
サックスとわたし
大学のころ、僕はジャズ研に入っていた。「ジャズ研に入っていた」というとジャズマンだったみたいでかっこいいが、実際に入っていたのは2ヶ月だけで、練習が面倒になってすぐにやめてしまった。「練習がつらくて」ではなく「練習が面倒になって」であるあたり、自分の根気のなさがよく表れたエピソードだ。
そんなジャズ研に入部するときの話だ。入部の書類を書きながら、出会ったばかりの先輩と話をしていた。先輩に、好きなジャズマンは?と聞かれ、僕はアメリカのテナーサックス奏者の名前を答えた。そのときの先輩の反応は覚えていないけれども、とにかくそういった会話を入り口にして僕はジャズ研に入った。そして、これは後からわかったことだが、その先輩もテナーサックス奏者だったのだ。
そんなちょっとした偶然があって、僕はジャズ研でテナーサックスを吹くことになった。というわけではなかった。僕が持った楽器はトロンボーンで、なぜかというと高校の吹奏楽部でやっていたホルンからの移行が楽そうだったからだ。そもそも高校でホルンを選んだ理由も、楽器を買わなくても借りられるから、という無気力なものだった。そうやって体温の低いなりゆきに流された結果、僕はサックスには1度も触れることなく、2ヶ月後にはジャズ研をやめたのだった。
僕はあの日、入部のときに自分の楽器としてサックスを選んでいればよかっただろうか。そうしたら練習に飽きることもなく、ジャズマンとしてメキメキ腕をあげていただろうか。そんなことを考えてみるのだけれども、絶対にそうはいかないのはわかりきっている。
サックスのほうが指使いが難しいから。余計にすぐやめていただけだろう。
いい形
新世代のサックスを
僕のサックスに対する思い入れを語るつもりが、僕の無気力さを露呈するだけの結果になってしまった。おかしいぞ。
とにかく、楽器脱落者として言いたいのは、「指を使わなくても華麗に吹けるサックスがあってもいいじゃないか」ということだ。さっきの話はそういう結論だったことにしてほしい。
楽器作りに話を戻そう。本気のサックスを作るのは無理ですよ、そりゃ。素人だし、パイプだし。でも、ディジュリドゥを改造することで、新しいサックスができないだろうか。形をかえて、サックス型のディジュリドゥを、いや、ディジュリドゥ風に吹けるサックスを作るのだ。このプロジェクトが成功すれば、一切手を使わないで口だけで演奏できるサックスが出来上がる。もう指使いを練習する必要はないぞ!新世代のサックスで、全楽器脱落者の夢をかなえるのだ!
ただし音はぜんぜん違いますが。
色が変なら塗りゃいいんだ
輝くゴールド。まばゆい!
ワクワクしながら乾燥待ち…
確かな手応え
この楽器、形を組みなおした時点では「煙突?」という感じのビジュアルだったが、スプレーで色を塗り始めると様子が急変した。ピカピカ光っているのだ。そういう塗料を塗ったんだから当たり前といえば当たり前だ。しかし、この光沢の高級感が楽器に命を吹き込んだ。
パイプから楽器へ。いま、突如として目の前に、真鍮製のサックスが出現した。
できました!!
できた!
ついに完成!この金色に輝くボディ、ヘアピン型に曲がったフォルム。これをサックスと呼ばずして何と呼ぼうか(NGワード:パイプ、ディジュリドゥ)。通りすがりの人にものすごく怪訝そうな顔で見られているが、そんなことを気にしている場合ではない。とにかく、ここに僕のサックスは完成した。
高鳴る胸を押さえて、ついに、息を入れる。全楽器脱落者の夢が、今ここに実現する…!
ジョン・コルトレー豚
ブヒョ、ブヒーブヒー。偶然通りがかった豚の声ではない。その音は、とても悲しいことだが、僕の手の中から聴こえていた。華麗なアドリブソロを奏でるはずだった僕のサックスは、豚の鳴きまねだけが得意な、宴会の一発芸みたいな楽器だったのだ。
「…うなるベースに疾走するドラム、火を噴くようなトランペットのソロが終わり、次のソロは…豚、豚だ!…いや違う、手作りサックス!!」
客席の動揺を目の当たりにしつつ、32小節のソロを延々と豚の物まねをしてやりすごす。そんな光景を想像して、やっぱりこの楽器を世に出すのはこの記事だけにとどめておこうと思った。新世代サックス、失敗セリ。楽器脱落者の皆さん、ご期待に添えずすみませんでした。
元に戻したものの、金ピカで気恥ずかしい楽器になってしまった