特集 2018年7月28日

埼玉にいる外来種のセミ、タケオオツクツクは機械のように鳴く

タケオオツクツクという外来種のセミを探してみた。
タケオオツクツクという外来種のセミを探してみた。
生物に詳しい友人から、私が住む埼玉に外来種のセミがいるという話を聞いた。なんでも川口市などの竹林に生息しているらしい。

それは気になるじゃないかと現場へ行ってみると、成虫は聞いたことのない機械的な鳴き声で、幼虫は見たことのない胴長のフォルムで、羽化の姿はとても美しく、そして食べたら美味しいセミだった。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:七面鳥で作る水ターキー、ケンターキー、シーチメン他 (デジタルリマスター版)

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タケオオツクツクを探しにいこう

友人に教えてもらった埼玉新聞のサイトに掲載されていた情報(こちら)によると、そのセミの名は学名がプラティロミア・ピエリで、竹林に住む大型のセミでツクツクボウシの近縁なので、調査チームによって『タケオオツクツク』という名前が提案されているそうだ。「タケオーツクツク」と鳴く訳ではない。

中国大陸東部からベトナムに至る地域に分布しているセミが、なぜか埼玉の川口市北部や隣接するさいたま市南部に生息しているのだ。これは気になる。

この報道だけだと細かい場所まではわからないが、とりあえず行けばどうにかなるだろうということで、7月中旬の昼間に川口市内で竹林を探してみることにした。竹林があればセミもいるはず。
虫捕り網を持って竹林へとやってきた。
虫捕り網を持って竹林へとやってきた。
だいたいこの辺かなと適当に走り回ってみつけた竹林を前にして、セミの鳴き声に耳を傾けてみる。

もし聞き慣れない鳴き声がしたら、それがきっとタケオオツクツクの可能性が高い。
これは違うかな。セミに詳しいわけではないので、鳴いているセミがなにゼミなのかはわからないが、特に聞き慣れないという感じではない。埼玉でよく聞くセミの声だと思う。

ならば目視で探してみるかと、竹藪の周りをウロウロしてみる。この竹藪は私有地っぽいので、中には入らず道路脇から観察する。もしセミがいたとして、私が見てそれがタケオオツクツクだとわかるのかという疑問もあるのだが。
セミを入れるために100均で適当に買った洗濯ネットがブラジャー用だった恥ずかしさ。
セミを入れるために100均で適当に買った洗濯ネットがブラジャー用だった恥ずかしさ。
今年の夏はとにかく暑い。そして竹藪の回りは蚊がすごい。なんでセミを探しているんだ俺。なかなか厳しいミッションなのかもという気がしてきた。

地元の方にヒントをもらった

いればきっと見つかるはずと思いつつも、鳴いていないセミを探すというのは無理なんじゃないかという気もする。

うーん、竹林の場所が間違っているのか、探し方が悪いのか、時間帯の問題なのか、どうも手がかりが見つからない。やっぱりそんな簡単には見つからないか。
セミの抜け殻がいくつかあったけど、これがなにゼミかまるでわからない。
セミの抜け殻がいくつかあったけど、これがなにゼミかまるでわからない。
こういうとき、ゲームの世界だと町の人に話を聞くと重要なヒントをもらえるのだが、生物探しでも同じことが起きがち。そこで掃除をしていたおじさんに話を聞いてみると、うまいこと知りたかったことを教えてもらえた。

・この辺ではタケゼミと呼ばれている。この辺は造園業者が多いから、海外から輸入した竹材の中に卵が混ざっていたのでは。

・3、4年前からうるさいセミがいるなと話題になっていたが、去年爆発的に増えた。この辺の竹林にもいるけど、私有地や保護区だから入っちゃダメだよ。

・生きているのは見たことがない。死んでいるのが去年落ちていたけど、なんだか黒っぽいセミだった。

・夕方になると鳴き出して、夜になると止む。うるさいのなんの。本当にうるさいんだよ。

・時期はニイニイゼミ、アブラゼミが先で、タケゼミはこれからが本番。
「外来種のセミを探してまして~」なんてややこしい話は通じないかと思いきや、スラスラと答えていただいて驚いた。この辺の人にとっては、もはや日常に入り込んだセミなのかもしれない。
「外来種のセミを探してまして~」なんてややこしい話は通じないかと思いきや、スラスラと答えていただいて驚いた。この辺の人にとっては、もはや日常に入り込んだセミなのかもしれない。
やはりタケオオツクツクはこの辺りにもいるようだ。ただ鳴くのは夕方限定のようなので、この時間に探しても無理なのだろう。本日はこれにてセミリタイヤ。
これはニイニイゼミかな。
これはニイニイゼミかな。
輸入した竹箒についた卵から外国のカマキリ(ムネアカハラビロカマキリ)がやってきて在来種を駆逐しているという事例があるけれど、造園や加工に使う竹材にセミの卵が入っていた可能性もあるのか。

本当の入国ルートはわからないけれど、新聞記事によるとこのセミの卵は一年後に孵化するそうなので、なるほど考えられる説である。
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タケオオツクツクの鳴き声がすごい

そして数日後、今度は19時ちょい前に川口市の竹林へ友人とやってきた。この時間ならタケオオツクツクが鳴いているはずだ。

前回の調査で見つけておいた駐車スペースに車を止めて、ドアを開けた瞬間に聞こえてきたのは、聞き慣れないセミの大合唱だった。ギーーン。

なるほど、これはすごい。
何種類かのセミの声が混ざっているようだが、その中でも一番目立っているのが、グラインダーで金属を削っているんじゃないかというギーン、ギュイーンという音である。

甲高く、大きく、そして機械的な鳴き声。これによって私の中でタケオオツクツクのヴィジュアルがゾイド(タカラトミーの動物型ロボット玩具)みたいなメカとなった。鳴くときに火花が出ているイメージだ。

とかいってこの声が違うセミだったら恥ずかしいなと後日調べたら、埼玉昆虫談話会のサイトに掲載されていた鳴き声(トップページ右フレーム真ん中あたりの「寄せ蛾記 169号 2018年5月31日発行」のところです)と同じだったので、たぶん正解なのだろう。

でっかい幼虫を発見!

ここにタケオオツクツクが存在していると耳で確認したところで、正体探しの作業へと移行。

探すのは竹に止まっているであろう成虫ではなく、羽化するために地上へと出てくる幼虫だ。他のセミと同じように、きっと日暮れ頃から這い出てくるはず。

竹林沿いの道をゆっくりと歩きながら、地面付近をライトで照らして探していると、枝をよじ登るセミの幼虫を発見!これか!
いた!(これはタケオオツクツクではないことが直後に判明)
いた!(これはタケオオツクツクではないことが直後に判明)
いたのはいいけれど、これが探し求めていた幼虫だろうか。ええと、全然わかんないな。なぜならタケオオツクツクの幼虫の姿を知らないから。

アブラゼミとかミンミンゼミの幼虫と、どこか決定的に違うという訳でもないだろうし、羽化して成虫になるのを見守って確認するしかないのかな。

なんてモヤモヤしていたら、ちょっと先にある竹林脇を探していた友人から電話が掛かってきた。間違いなく例のセミの幼虫がいたよと興奮しているぞ。

いやいや、幼虫を見ただけじゃ本当にタケオオツクツクかわからないでしょと思いながら向ってみると、明らかに私が見つけた幼虫とは違うシルエットのやつがいた。うへー。
でかい!そして胴体が長い!
でかい!そして胴体が長い!
いわゆるセミの幼虫の姿がイメージできる人なら、こやつの違和感がわかってもらえるだろうか。

まるで普通の蜂と女王蜂くらいに違うボリューム感。タケオオツクツクは大型のセミだという話なので、幼虫もでかくて当然。きっとこいつだ。
さっき私がみつけた幼虫と、友人がみつけたタケオオツクツクと思われる幼虫。大きさが全然違うぞ。
さっき私がみつけた幼虫と、友人がみつけたタケオオツクツクと思われる幼虫。大きさが全然違うぞ。
セミの幼虫といえば、ずんぐりむっくりの丸っこい体つきをしているものだが、これはウエスト部分にくびれがあり、そしてグラマラスな胴体を持っている。蜂っぽい。

細長い缶ジュースしか知らなかった小学生の頃、初めて350ミリ入りの外国製缶コーラを知って、その大きさに驚いたことを思い出した。
お腹側。やっぱり胴体が大きいな。
お腹側。やっぱり胴体が大きいな。

タケオウツクツクの羽化はフォトジェニック

友人の話だと、さっきまでこのセミを捕りに来ていた虫マニアがいて、何十匹もの幼虫を持ち帰っていたとか。

そんなにいるのかと足元を照らしてみると、1メートル間隔くらいで例の巨大幼虫がウロウロしているのが見えた。いるところにはいるもんだ。

竹林に住むセミなのだが、竹はツルツルしていて幼虫が登れないため、羽化する場所を求めて道路側へと来ているのだろうか。

気がつくとあれほどうるさかったセミはまったく鳴りを潜め、代わって幼虫が枯草の上を歩くカサカサという音が小さく聞こえていた。
カサカサとカブトムシとかクワガタくらいの速度で歩き回っている。
カサカサとカブトムシとかクワガタくらいの速度で歩き回っている。
擬木に止まった一匹が羽化しそうなので、じっくりと観察することにした。
道路沿いの擬木を羽化場所に決めた幼虫。
道路沿いの擬木を羽化場所に決めた幼虫。
しばらく待っていると背中が割れて、翡翠やエメラルドのように輝くゴージャスなボディがあらわれた。セミヌードっていうやつですか。
しばらく待っていると背中が割れて、翡翠やエメラルドのように輝くゴージャスなボディがあらわれた。セミヌードっていうやつですか。
そのままグイッと背筋を伸ばして全身を殻から出した。幼虫の大きさよりも羽化した後の方が断然大きい。エスパー伊藤の鞄に入る芸の逆バージョンみたいだ。
そのままグイッと背筋を伸ばして全身を殻から出した。幼虫の大きさよりも羽化した後の方が断然大きい。エスパー伊藤の鞄に入る芸の逆バージョンみたいだ。
脱ぎ捨てた殻につかまって、ゆっくりと羽根を伸ばす。ひと夏の経験がセミを大人へと変えていく。
脱ぎ捨てた殻につかまって、ゆっくりと羽根を伸ばす。ひと夏の経験がセミを大人へと変えていく。
脱皮完了。羽根の先はうっすらと青く、文句なく美しい姿をしている。
脱皮完了。羽根の先はうっすらと青く、文句なく美しい姿をしている。
別の場所で脱皮していた個体。光の当て方次第ではこんなにも輝く。セミ界のジャガーさん(千葉の有名人)だ。
別の場所で脱皮していた個体。光の当て方次第ではこんなにも輝く。セミ界のジャガーさん(千葉の有名人)だ。
スケスケの羽根の下にはメリハリのあるわがままボディ。夜の蝶ならぬ夜の蝉。
スケスケの羽根の下にはメリハリのあるわがままボディ。夜の蝶ならぬ夜の蝉。
セミのとって羽化をしている時こそが生涯で一番輝く時間なのだが、それは一番危険な時間でもある。
セミのとって羽化をしている時こそが生涯で一番輝く時間なのだが、それは一番危険な時間でもある。
撮影しているセミを猫がパクパクと食べちゃうんだな。
撮影しているセミを猫がパクパクと食べちゃうんだな。
タケオオツクツクの羽化、すごいね。茶色くて固い幼虫の姿から、数十分で変身完了。まったくどういう仕組みなんだろう。

もちろん他のセミの羽化も美しいし、他の昆虫も羽化だってかっこいい。ただここまでじっくりと羽化を見る機会がなかったので、改めて昆虫の変態に驚いてしまった。
これはアブラゼミの羽化シーン。かっこいい。
これはアブラゼミの羽化シーン。かっこいい。
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タケオオツクツクを食べてみる

このようにたっぷりと観察させていただいたタケオオツクツクだが、忘れてはいけないのが外来種であるという点だ。どう向き合うのが正解なのかは人それぞれだろうが、今回は捕まえて食べてみることにした。

もちろんセミを食べるのは初めてではない。竹の根の汁で育った幼虫がどんな味なのか、気になるじゃないですか。こいつは大きいので食いでがありそうだし。

まずは洗った幼虫を茹でたものと、多めの油で炒めたものを食べてみよう。
タケオオツクツクの油炒め。殻が固いので、茹でたものよりもこっちが食べやすかった。
タケオオツクツクの油炒め。殻が固いので、茹でたものよりもこっちが食べやすかった。
他のセミと比べて味がああだこうだといえる程食べた経験がある訳ではないのだが、臭みやクセがなく美味しいセミだと思う。ムッチリと脂の乗った上質のタンパク質だ。よく竹の汁だけでここまで育ったな。もしいるならセミソムリエの意見を聞いてみたいところである。

見た目通りで殻がちょっと固いけど、小魚程度という感じ。アユの塩焼きを丸ごと食べるタイプの人なら気にならないだろう。ただ脚は喉に引っかかるので、外してから食べた方がいいと思う。もちろん嫌な人は本体も無理に食べなくていいと思う。

続いては羽化したばかりのタケオオツクツクを炒めたもの。幼虫とは収獲のタイミングが数十分違うだけだが、これがまるで違う食感なのだ。
羽根が伸びる前の状態を多めの油で炒めた。遠目からならエビに見えるだろうか。
羽根が伸びる前の状態を多めの油で炒めた。遠目からならエビに見えるだろうか。
幼虫の状態がクリーミーなエクレアだとすると、こちらはサクサクのミルフィーユ。全体が鶏皮をパリッパリに揚げたような香ばしさ。まだ硬化する前のセミなので、脚を食べても喉に引っかからない。

昆虫の中でも相当美味しい部類だと思う。どこか竹を焼いたときの爽やかさに通じる香りがあるような気もするけど、それは私の思い込みだろうか。

数年後、西川口の中華料理屋で、このセミが食材として使われる未来が想像できる味がした。

竹に止まったセミを見つけた!

ここから先は余談だが、数日後の昼間にまた川口市の竹藪へとやってきた。ほら、竹に止まっている成虫を見てみたいじゃないですか。

やっぱり昼間は鳴いておらず、目視で探すしかないのだが、炎天下の中をたっぷりと歩き回って、どうにか無事発見することができた。
300ミリの望遠レンズでようやく撮影できるくらいの距離で発見。
300ミリの望遠レンズでようやく撮影できるくらいの距離で発見。
セミがいたのは普通の虫取り網で捕まえるのは絶対無理という高さの場所で、竹の節のところに脚を掛けて止まっていた。

竹は節以外がツルツルなので、成虫となったセミも捕まれないのだろう。2匹目も同じように節を掴んでいた。へー。
肉眼だとどんなセミか全然分からないので、画像にてその姿を確認。色合いはミンミンゼミっぽいけど、やっぱり胴体が長いね。
肉眼だとどんなセミか全然分からないので、画像にてその姿を確認。色合いはミンミンゼミっぽいけど、やっぱり胴体が長いね。
もう一匹いた。やはり節に止まっている。
もう一匹いた。やはり節に止まっている。
ニイニイゼミも節だね。
ニイニイゼミも節だね。
私が偉そうにいうことでもないんだけど、もしタケオオツクツクの観察・捕獲をする場合は、絶対に他の場所で放たない、逃がさない(成虫は飛んで逃げるし、幼虫も意外と足が速い)、そして私有地や立ち入り禁止エリアに入らないこと(外来種を捕ることが免罪符にはならない)。調査グループに迷惑が掛かるので要注意。

そういえば、この日の夜も羽化を観に行ったのだが、昆虫マニアの人から「セミ屋ですか?」って聞かれて戸惑った。どうやら虫好き、虫マニアを「虫屋」と呼ぶ文化があり、それの進化系でセミを専門にしている人を「セミ屋」と呼ぶようだ。ごめん、セミ屋じゃないよ。

参考資料

以下、タケオオツクツクの参考資料画像です。もしかしたら川口市、さいたま市以外にいるかもしれません。
抜け殻。
抜け殻。
殻だけでも見慣れるとわかる。
殻だけでも見慣れるとわかる。
幼虫。
幼虫。
何度見ても違和感を覚えるシルエットだ。
何度見ても違和感を覚えるシルエットだ。
幼虫のオス。
幼虫のオス。
メスはお尻の先に産卵管となる縦線がある。
メスはお尻の先に産卵管となる縦線がある。
羽化したての成虫のオス(左)とメス(右)。オスには鳴くための腹弁がある。
羽化したての成虫のオス(左)とメス(右)。オスには鳴くための腹弁がある。
お亡くなりになった成虫は彩度が落ちるようだ。話を聞いたおじさんが黒っぽいといってたのは、死んだセミを見たからか。
お亡くなりになった成虫は彩度が落ちるようだ。話を聞いたおじさんが黒っぽいといってたのは、死んだセミを見たからか。
外来種のセミなので、おもしろがってちゃダメなんだけど、生息場所のヒントを頼りにフィールドへと出て、見たことのないターゲットを探すのはやっぱりおもしろかった。

別に好きで日本に入国したわけでもないだろうけど、その鳴き声がちょっと(かなり)騒がしいと感じてしまう外来種のセミ。これからどんどん増えていくのだろうか。

ヒアリのようにわかりやすい危険性がある訳ではないけれど、外来種ってこうやって増えていくんだぞという現実を感じた体験だった。
トンボの羽化もすごいよね。
トンボの羽化もすごいよね。
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