試合の紹介にあたってルール説明
・土俵(長方形の板)から出たり、倒れたりしたら負け
・制限時間は1分。時間切れの場合は果敢に攻めたほうが勝ち
1回戦 第15試合
透明なロボット
(しゅろっと)
vs
モースとイン・ザ・シェル
(こやしゅん)
さっそく1回戦の試合から紹介していこう。「透明なロボット」は透明である。
見えるが。
これまでヘボコンにはいくつかの「透明」を主張するロボットが登場してきた。その根拠はさまざまで、例えばクリアカラーの素材を使っていたり、全面鏡張りになっていたり。その中ではかなり現実的な透明度が高いと思われるこの「透明なロボット」。透明な理由は、こちらだ。
後ろについたカメラの映像が正面に映る
後ろの映像が前に投影されるので実質透明、という理屈である。完全に見えてはいても、理論上の透明、あるいは広義の透明といってもいいだろう。
対するモースとイン・ザ・シェルは、本人が最近住み始めたという大田区の大森をモチーフにしている。
カラフルに塗られた貝殻に注目
大森は貝塚(縄文時代に貝殻を捨てた跡)が発見されたことで有名。それにちなんでボディに貝殻を張り付けるなど、機体には大森要素をふんだんにちりばめた。
なお、ちりばめられた貝殻は大森産だが、天然の貝が見当たらなかったので大森の居酒屋で貝料理を食べ調達した。
そんな「広義の透明」と「広義の大森産」がぶつかり合う広義対決。試合展開は動画で見ていただこう。
試合開始と同時にほら貝を吹き鳴らす、こやしゅんさん。ほら貝から出る呼気の風力でロボットは動く。
もちろんそれで動くはずがなく、あっという間に土俵際に追いつめられる
他にも動力に電動ミニカーを積んでいたのだが、結局馬力が全然足りずそのまま場外へ落下
わざわざ動画の再生ボタンを押していただいたのが申し訳なくなるほどの瞬殺ぶりであった。が、ほら貝のおかげで音声だけは勇壮だった試合である。
なお、この試合でテーブルから落下したことにより、モースとイン・ザ・シェルは大破。貝塚をモチーフにしたロボットが粉々になり、貝塚そのものになってしまった。
僕たちの大森貝塚。貝が積みあがったビジュアル的にも、(太古の)ごみ捨て場であるという意味的にも
一方で透明ロボットはこのあともどんどん勝ち進むが、試合のたびにiPhoneが壊れるリスクに客席が湧いた。
2試合目、乱戦でもみくちゃにされるiPhone
1回戦 第11試合
サッカー日本代表がんばれ
(みっく)
vs
歯磨き上手かな2
(S川)
「サッカー日本代表がんばれ」のベースは市販のサッカーロボ。
申し訳程度の小さいボールを発射することができる
その上にヘリコプターのおもちゃを横倒しで2台搭載。回転ブレードで相手を切断する作戦だが、そのせいでサッカーロボの機動力も落ち、部品それぞれの良さを打ち消しあったロボットが完成した。
そして「歯磨き上手かな2」は、2015年のイベント、西ヘボコンに出場した「歯磨き上手かな」の次世代機である。
この形相で歯磨きを迫ってくる
前モデルは妙に生き物っぽくて気持ち悪い動きだったが
今回は歯ブラシがドリルのように回る
歯磨きというより掘削されそうなマシン。これだけ凶悪な動きでありながら、受ける印象が「迫力」ではなく前回の「キモイ」なのは、やはり才能なのだと思われる。
そんな2体の戦い、これがアツかったのでぜひ動画で見てほしい。
試合開始と同時に歯磨き上手かな2の頭部が落下
ベースに使用していたオフロードカーだけが頭部を乗り越えて躍り出た!
そのままドリフト走行を続け、敵機の脇を抜け
そのまま場外へ…
ヘボコンにおいて部品が外れるのは日常茶飯事なので、今回のように大部分が外れてしまってもOK。しかし残った車体がそれを乗り越えて、さらに敵機まで乗り越えて場外へ走り去るとは。まさに爆走。オフロードカーの実力を思い知る試合であった。
ただしその実力というのがあくまで本業の「走行」の方であり、ロボットバトルの実力ではなかったのが残念であった…。
1回戦 第7試合
DXM01ケロべロス
(秘密結社デウス・エクス・マキナ)
vs
私の妹ロボット 佐藤八海
(佐藤家)
さて、実は今回のヘボコンではもう1体、マネキンの頭を搭載したロボットが登場。それがこの、私の妹ロボット 佐藤八海である。
ウサギ耳、頬のチーク、赤毛、と一つ一つの要素は全部かわいいのに、トータルではこの怖さ。
制作者が持参した設計図
「一人っ子なので妹を作りたいんです」という夢のある制作動機、そしてこんなにかわいいイラストなのに、しかし実際に登場したのは養生テープでさるぐつわをされた猟奇的なマシン。
しかも口からなんか出てる…
この不穏さ、フランケンシュタインどころではない。もちろん会場は騒然である。
いっぽう、対戦相手のDXM01ケロべロス。武器は前部に搭載された超音波シェーバー。確かに刃物ではあるが、肌に優しい刃物。戦闘には向いてなさそうだ。
ノートPCに筋電センサ付きスーツ、スマートフォンと、ハイテクてんこ盛りだ。なお、すべてただの衣装である。
(一応PCはバッテリの充電用にも使えるそうだ。充電…!)
試合の様子はこちらだ。
試合開始と同時に頭をうつむかせ、スライムを吐き出す妹
しかしタイミングが早すぎたためケロべロスには当たらず、土俵端での押し合いへ
押し合いが長引くにつれ、次第に自分の吐いたスライムに足を取られ始める妹
しかしキャタピラの馬力で最後は押し切り、ケロべロスは場外へ
妹がスライムを吐いた瞬間にはあまりの絵に客席から悲鳴が漏れたが、攻撃としては特に効果もなく、素の馬力で勝利した形だ。妹、けっこう実力派である。
1回戦 第13試合
ポプテジェラ
(せいゆう)
vs
グレイトアゲイン
(淺野義弘)
このイベント当日の2日ほど前、出場者の一人から問い合わせのメールがあった。
「ロボットは1チーム1体なのでしょうか。2体作ってしまったのですが…」
トーナメント戦なので1体に決まっていると思うのだが、2体作ってしまったものは仕方がない。幸いヘボコンのロボットは縦横のみサイズ制限があり、高さ方向は無制限。「縦に積んでみてはいかがでしょうか」という返事をした。(我ながら雑な返事である)
そして、当日、本当に縦に積んで登場したのがこの「ポプテジェラ」である。
下半分の車と、上半分の巨大な角のついたロボ、それぞれ分離して単独のロボとして戦える
分離して、というか単に上に乗っかってるのが落ちてくるだけなのだが、なんにしろこういったダイナミックな分離型ロボというのはヘボコン史上初だと思う。
対するグレイトアゲインはアメリカの偉い人をモチーフにしたロボットだが
顔の形がどことなく不定形で、クトゥルーっぽいのだ
そういった不気味さもたたえつつ、攻撃方法は「紙コップからアルファベットをばらまき、日本人の英語コンプレックスに訴えかける」。果たしてそれがロボットに効くのかという疑問もあるが、とにかく試合の様子を見ていこう。
試合開始と同時にポプテジェラが分離。その勢いでポプテジェラ(上)が突進
一切の抵抗ができないまま、グレイトアゲイン、場外へ…
試合の様子は画像4枚ずつで紹介していくつもりだったのだが、あっけなすぎて2枚で終わってしまった。
1体でこの威力だったポプテジェラ、2体で戦うとどうなってしまうのか…と思われたが、実はポプテジェラ(下)は機動力に劣る。2回戦目では(上)が健闘している最中に、身動きが取れない(下)が押し出され負けた。2機で攻めるというより、むしろ1機丸ごと弱点だったわけである。
さて前半4試合の紹介が終わったが、ここまでで勘のいい人は気づいたかもしれない。今回、圧倒的にストレートな押し出しで決着する試合が多かったのだ。所要時間15秒くらいで終わるやつ。史上最もバトルしていなかったロボットバトル大会といってもいいかもしれない。
あと必殺技を搭載したマシンは、タイミングを見計らず試合開始後すぐに技を出してしまう(またはうっかり出てしまう)のも今大会の特徴だった。
2014年に初回大会を開催してから4年。作る方の技術はさておき、操作する方の技術がどんどん退行していくヘボコン。
次ページではまた4試合、ご紹介しよう。
1回戦 第3試合
號魔卿モッモ太郎
(じきる)
vs
オスマン帝国軍団の野望
(オスマン帝国軍団)
全体に黒い2体の対決
登場の瞬間に司会の古賀さんが「なんで二人ともこんなにすすだらけなの?」と放ったこの試合、しかしよく聞いてみると黒は黒でも全く違った方向性があった。
周囲に犬猿雉をあしらい、中央に鎮座するのが生誕前の桃太郎
號魔卿モッモ太郎は、第2の世界の終末の時に生還した唯一のロボットである。
何のことだかよくわからないと思うが、わからなくていい。ちなみに製作者の腕には包帯が巻かれている。
これを外すと力が暴走して世界が崩壊する
要はあれである。中2病がコンセプトなのだ。だからロボットが真っ黒なのである。
ちなみにこのイヌがヌンチャクみたいなの振り回しててけっこう迫力ある
こちらも黒いが…
六足歩行のキットに武器(ティーバッグ)やパイロットの人形を搭載し、黒く染めたマシン。
名前がオスマン帝国である理由は「なんかかっこいいと思って」。そして黒く塗った理由も「なんかかっこいいから」である。全32体の出場マシンのうち、圧倒的な何も考えていなさであった。モッモ太郎が中学生とすると、こちらはさながら小学生である。
奇しくも黒同士であり、そして精神年齢アンダー15の大人同士の対決である。
まずは正面衝突。瞬発力の高い2体だが、よりスタートの速かったモッモ太郎がやや有利
その後もくるくると方向を変えつつ取っ組み合いが続く
そこそこ粘ったものの、最終的にはモッモ太郎の押し切り勝ち
シンプルな展開ではあるが、回転しながら2体が押し合う様子はなかなか手に汗握るものがあった。そして特筆すべくは試合終了後。
2体が完全に絡まり、ほどけなくなってしまった
ヘボコンの慣習として「負けたチームが勝ったチームにロボットの一部を託す」というものがあるのだが、今回はそれどころではなく、完全に一体化してしまった。
2回戦以降、モッモ太郎はオスマン帝国軍団を同化吸収した状態で戦い続けることとなる。コスプレ的コンセプトだった中2病に、現実が追い付いてきた瞬間である。
2回戦 第2試合
ゆく年くる年2019ロボ
(店長)
vs
アメリカン・スピリッツ
(やばたにえん)
vs
私の妹ロボット 佐藤八海
(佐藤家)
vs
號魔卿モッモ太郎
(じきる)
2回戦はバトルロイヤルだ。いつもの2倍のサイズの土俵で、4体のロボットが同時に戦う。もちろん生き残るのは1体だけだ。
この試合の出場チームは先にご紹介した口からスライムを吐く妹ロボ、そして中2病モッモ太郎、さらにこの2体である。
ゆく年くる年2019ロボ
正月がモチーフのこのロボは、前部についた獅子舞が超高速で回る。そういう武器とかではない。わざわざ遅いモーターを買ったのに、単に取り付け方を間違ってしまったのだ。さらに推進力にも強力なモーターを買ったが、つなぎ方がわからず、ただ鳩が持っている。
これ
アメリカがテーマのロボット
先にご紹介したグレートアゲインとは、まさかのアメリカかぶりである。
フォークリフトのキットがベースになっており、びっくりガムと大統領を持ち上げることができる。それ自体も謎機能だが、このチームの更なる特徴としては
わざわざ4人で操作しているところである
4人に分担するためにわざわざ電源を手回し発電機にしている。本末転倒とはこのことではないか。
というわけでこの4体の試合の様子である。
試合開始と同時にまたスライムを吐く態勢に入る、妹
しかしそのままバランスを崩して転倒。するとアメリカン・スピリッツが将棋倒しになる形で巻き込まれ転倒!
残った2体で押し合うも、力が拮抗しており膠着状態へ
そのまま時間切れで試合終了、判定にてモッモ太郎の勝利
なんといってもこの試合、特筆すべくはアメリカン・スピリッツの巻き込まれ転倒である。「ヘボい」とか「ハイテク」とかの軸に乗ってこない、なんとも「不運」としか言いようのない負け方であった。
準決勝
ロックフェスティバルロボ
(タナゴリラ)
vs
透明なロボット
(しゅろっと)
記事の最初に紹介した、iPhone搭載の(広義の)透明ロボ。その後順調に準決勝まで勝ち上がってきた。
そして対戦相手はロックフェスティバルロボ。
情報量が多すぎる写真
ロックフェスティバルロボの特徴は2つある。一つは楽器を使用したコントローラー。
これはメインコントローラーのピアニカ
メンバー全員が楽器を持っている。うち、ピアニカはこんな風にいろんな機能がついているが、他は「紐がついていてフタを持ち上げる」みたいな単機能である。
そして二つ目の特徴は、負かしたチームからパーツではなく、メンバーを吸収していくこと。
1回戦は4人だったメンバーが
準決勝では7人になっていた
これ、もし全チームがこのシステムを採用すれば、だれが勝っても全員優勝ということになる。最高に平和な世界ではあるが、コンテストの根幹を揺るがす恐ろしい大会ハックでもある。
そんな1対7で行われた対戦の様子がこちらだ。
瞬発力で勝る透明ロボがまず突進、ロックフェスの前進を阻止
土俵が輝いているのはロックフェスの必殺技「強制インスタ映えアタック」によるもの(相手をライトアップするだけで攻撃力はない)
透明ロボは動きを食い止めるも、押し切るまでの馬力はなく、膠着状態
最後、ロックフェスが少しだけ盛り返すも、結局、時間切れ。判定で透明ロボの勝利
このままタナゴリラが勝てば7人+1人で8人が優勝できる算段だったが、一気に7人の敗者が生まれた試合であった。
決勝
號魔卿モッモ太郎
(じきる)
vs
透明なロボット
(しゅろっと)
そして決勝戦はこの2チームである。すでにどちらも紹介済みだが、その後の展開も少し追ってみよう。
1回戦で敵と吸収合体した號魔卿モッモ太郎。製作者のじきるさんも対戦ごとに包帯を巻く部位を増やしていき、
決勝では目隠しをして戦うことに
中2病というわりと出オチの設定にも関わらず、最後まで完遂したのはえらい。
そして透明ロボのしゅろっとさん、機体に搭載したiPhoneが割れないかも見どころの一つだったが、実はこのiPhoneに帰りの高速バスのチケットが入っており、故障すると帰れなくなることも判明。これまでも水を使ったロボットや突進の強いロボットと当たりつつなんとかノーダメージで来たものの、決勝になって強敵が現れた。
このヌンチャク!
射程距離こそ狭いが、金属製でかなり当たりが強そう。会場からは「やばいやばい!」と半笑いの歓声が飛び交う。優勝よりもiPhoneの無事が気になる、そんな上の空の決勝戦が始まる…。
最初は間合いを伺いつつじわじわ距離を詰める2体だったが…
ここで透明ロボが一気に突入、ゼロ距離まで接近することで、ヌンチャクの回転を封じた!
そしてこのタイミングでのトラブル発生。モッモ太郎の本体が故障し、操作不能に
しかしモッモ太郎、1回戦で吸収したオスマン帝国のリモコンに持ち替え、ギリギリでこらえる!
が、持ちこたえることができずあえなく押し切られ、敗退。優勝は透明ロボに
一気に間を詰めてヌンチャク攻撃を封じる透明ロボの作戦。相手を派手な照明で照らすとか、無駄に4人で操作するとかが「作戦」と称されるこの大会において、唯一登場した、本来の意味での作戦であった。
そしてもうひとつ、イベント序盤に貼られていたあの伏線。1回戦の吸収合体が、まさかこの試合で伏線回収されるとは……!
全23試合、3時間を超える長い戦いの、決勝戦にふさわしいアツい戦いだった。
というわけで第一部、印象に残った8試合は以上である。
次ページではあらためて受賞ロボットの紹介と、そしてここに登場しなかったロボットたちを一挙ご紹介しよう。
受賞ロボット
まずはヘボコンの中では最もランクの低い賞である、トーナメント上位から。「ヘボい=良い」というコンセプトにより、これらの受賞者には祝福以上に「たしなめ」が贈られる。
號魔卿モッモ太郎(じきる)
・1回戦時点で敵機を吸収合体、以降融合したまま戦った
・長引くと辛い中2病設定を最後まで責任を持って演じきった
透明なロボット(しゅろっと)
・GoProとiPhoneを使用した「実質透明」ロボ
・帰りのチケットの入ったiPhoneが壊れないかが最大の見どころに
以降は本当に名誉な賞である。ヘボコンにおいて2番目にすばらしい賞、審査員の選ぶ審査員賞だ。
ジェイルトレイン(スタードラゴン)
正面に開いた口から敵を内部に取り込み、「投獄」するという必殺技を持つ。が、なにぶん口が小さいため誰も内部に入り込むことはなかった。
また、ヨーロッパ企画のおふたりが評価した点としては、上の写真の右側に見えるビー玉の詰まったペットボトルがある。このロボットは直進しかできないプラレールをベースにしながらも、片側に重りを搭載することによって
円弧状の動きを実現し、敵をかく乱した
ヘボコンによくある、言い張るだけで実効性のない「そういう設定」系の技と、軌道を変える実用的な工夫、この2つがバランスよく実装された名機であった。
対ヘボ用灰熊型戦闘兵器「川漁」(土屋英玄)
技術力の低い人限定ロボコンの趣旨に反してマイコン2機やジャイロセンサーなどを搭載し、古賀さんに「子供だからってハイテクやって良いと思うなよ」と言わしめた小学6年生、土屋君。
腕に1台、本体に1台
しかしながら、本体側のマイコンは「プリズムを回して虹を出す」という完全にどうでもいい機能に使用されており、また腕のマイコンに至っては「激しく振ると音が鳴る」というもはやロボットの機能ですらない、単なるハイテクな衣装であったため、ペナルティは免れた。
土屋君は来年、中学一年生。個人的にはFacebookにアップされていたこの設計図の、リアルに中二に片足突っ込んでる感じもたまらなかった。(あと絵の弱々しさも…)
審査員であるロボコンマガジン編集長の矢野さんからは「早くロボコンにおいでよ」という受賞理由にかこつけた勧誘の言葉が贈られた。
来年から中学校でロボット制作をやる部活に入りたかったが、人数不足で今年廃部になってしまったという土屋君。矢野さんからは「歴代のロボコンの猛者たちは、自分で部活を立ち上げた人が多い。がんばれ」とエールが贈られた。大きな物語のプロローグという感じの、アツい展開である。
じゃんけん号(KSC)
「じゃんけん」という牧歌的なモチーフながらも、どこか異常性を感じる機体。手の造形が妙にリアルだったり、機体全体に執拗にちりばめられたグー・チョキ・パーの意匠など、とにかく偏執的なのだ。
手前に配置された大きなグー・チョキ・パーに加え、後ろにはボードに貼られたサザエさんのグー・チョキ・パー、さらにその上ではメタモン(ポケモン)がパーを掲げている
さらに会場を沸かせたのはその必殺技。フォークリフトのキットをベースにしており、コントローラーの操作により…
「パーが上下します」(KSC)
この「パーが上下します」という聞いたことのないフレーズが妙に司会および観客のツボにはまってしまい、大会中何度も復唱された。技としての攻撃力はない。
この「パーが上下します」、および会場投票で2位になったことがおもな受賞理由である。
アメリカン・スピリッツ(やばたにえん)
前ページでも紹介した、アメリカがテーマのロボット。
受賞理由は「4人も操作者がいて、2人が動力担当という無駄の多さ(古賀)」、「将棋倒しの犠牲になって転倒という悲しい敗因(石川)」である。
将棋倒しになったアメリカン・スピリッツ
しかしそもそも「副」デイリーポータルZ賞とは何なのか、という話である。
実は当初、このチームにデイリーポータルZ賞を贈呈予定だったのだが、表彰式の時に名前を読み上げるもチーム全員不在。そのため繰り上げてKSCがデイリーポータルZ賞に輝いたのだ。
表彰式にて、不在とわかり困惑する司会者二人(いまさらの紹介だが、司会は僕と古賀さん)
しかしながら打ち上げの場には戻ってきて、どうやら単に煙草を吸いに行っていただけであったことが判明したため、あらためて「副」デイリーポータルZ賞として贈呈した次第である。
こうしてヘボコンに、新たなヘボエピソードが刻まれた。
そして最後に、ヘボコンにおいて最も重要かつ名誉とされる、この賞の発表である。
モースとイン・ザ・シェル (こやしゅん)
会場投票により選ばれた、ヘボコンの最優秀賞がこちらである。
なお、同時中継を行っていたニコニコ生放送上でも投票が行われ、そちらでも受賞者のこやしゅんさんが1位になっていたという。
ほら貝を小脇に抱え、賞品の「小学生が作ったトロフィ」を掲げる、こやしゅんさん
貝塚をテーマにしたロボが試合に負けてバラバラになり、自ら貝塚と化してしまうエピソードのトホホ具合。そしてヘボコン史上初めて競技にほら貝を持ち込み、戦(いくさ)感を盛り上げてくれた功績をたたえられての受賞であった。
戦績としても1回戦敗退、総試合時間7秒。まさに最ヘボ賞にふさわしい戦いぶりであった。
その他のロボットたち
最後に、これまでに紹介しきれなかったロボットたちを一挙にご紹介して、この記事を締めくくろう。
クワトロカブトムシ盛り合わせ(カーネルおいさん)
この方は当初は出場の抽選に外れたのだが、キャンセル者が出たため、大会3日前に急遽、繰り上げ出場が決まった。そのキャンセルした人の理由が「ロボットに使用するためのカブトムシが捕まらなかったため」というものであり、搭載された4体のカブトムシはそれに対するオマージュである。
転倒無効タイプロボ(WAX松本)
上下前後左右すべての面にキャスターを搭載することにより、転倒の概念をなくしたロボット。ルールの裏をかく作戦はよかったものの、カブトムシに押し出されあっさり敗北。
信州物産展(Kbylab2018)
長野のゆるキャラ「アルクマ」を筆頭に、リンゴや蕎麦など、長野の物産で固めたロボ。うしろからところてん方式でそばを押し出すことで進む(進まない)「蕎麦ジェットシステム」を搭載。
イクラはいくら?(クイズ・ダジャレ係)
イクラの寿司がモデルだが、軍艦のキュウリにあたる部分に万札を採用、体をもってダジャレを表現している。クイズ要素はない。
ヘボコンの付録ロボ(胡桃木)
4年前、初回のヘボコンに登場した名機ミラビリス号をペーパークラフト化したマシン。内部に仕込んだLEDで目を光らせているのだが、ボディが紙のためそのまま透けてしまい、病気っぽい斑点模様が浮き出る。
モデルがこちら。2014年大会より、「日本うんこ学会」非公認!腸内細菌プロメテウス・ミラビリス号(モッサリオ・モッサモッサ)
卓上ヘボコン広告塔(ペンとサイコロ)
ヘボコンが好きすぎてボードゲームを作ってしまったというボードゲーム作家の方が、ゲームの部品をパーツとして参戦。タイヤが四角いにもかかわらず意外なほどの機動力を見せ、そのパワーはヘボコンで最強とされるキャタピラタイプ相手にも善戦するほどであった。
PP8(原園康寛、福田武志/Temp32)
PPはポリプロピレンの略。起き上がりこぼしをロボット化したもの。中のメカ部分が外からは見えないため、どちらに進むかわからないという致命的な欠点がある。試合では起き上がりこぼしなのに転がり出て負けた。
殺人回転草(伊藤健史)
西部劇で地面を転がっているあの草がモチーフ。転がって相手に飛び掛かっていき、かゆい思いをさせるという攻撃方法を想定していたが、転がるところの実装が追い付かず、本番ではプルプル振動するのみであった。
不条理008(杉浦電機)
先端についたボール状のパーツを振り回して攻撃する予定であったが、回転するところまで至らず、プルプルするだけ。殺人回転草とは「お互いプルプルするだけ」という虚無の試合を繰り広げた。
生きた化石(サラリーマン・ボブ)
シーラカンスらしく、魚型でありつつも歩行するのが特徴。しかしながらシーラカンスのカバーをかぶせたことでベースの歩行キットが歩かなくなってしまい、結局、後ろからミニ四駆で押している。
ミニ四駆(いいだまん)
AIを使用した音声認識コントローラーを搭載。操作者が音声で指示することにより、操作者が自分でそれを理解し、手元のリモコンで操作する。それは人工知能というかただの知能ではないか。
1歳の思い出号2018(いないいないピタゴラス)
1歳の子供の大好きなものをすべて盛り込むのに加え、父の大好きな(審査員の)ヨーロッパ企画の要素も盛り込むことで、全力で媚びた1体。しかし「(審査員賞賞品の)DVDはもう持ってるだろうから」(石田さん、酒井さん)ということで審査員賞は逃した。
ブリュッセルの少年像(あば)
小僧の放水で水車を回して動く、おそらくヘボコン史上初と思われる水力駆動ロボット。ただし小僧の放水は電動なので特にエコというわけではない。土俵を濡らさないよう水はね防止ガードがついており、配慮が泣けた。
真向勝負からくり力士(つじぐち)
張り手のスピードの速さ、および粘土製の顔にニスを塗ったことによる肌つやの良さが特徴。敗戦後の「足腰鍛えて出直します」というコメントで、我々にヘボコンが相撲のイベントであることを思い出させてくれた。
ポールダンスロボ・ワンナイトカーニバル(アニポールきょうこ)
2016年の世界大会で最ヘボ賞を獲得したアニポールさん。今回はクラッカーで威嚇する技を搭載したものの、機能をたくさんつけすぎて操作方法が複雑化、イベント開始前の写真撮影時に誤発射してしまう。本番は空になったクラッカーの殻だけを搭載しての参戦となった。
ヤンキーホーンからゴッドファーザー愛のテーマを奏でる。
まだまだ広がるヘボの可能性
2014年に始めたヘボコンは今年で4周年。その間に自分の主催や司会をした分だけでもおそらく20近いイベントを行い、そのたびに「新しいヘボの形」が開拓されてきた。それは単にうまく動かないことに始まり、電池を逆に入れる、遅刻して2回戦から来る、同じ動かないでも相当額の資金をつぎ込んだうえでまだ動かないなど、本当にバリエーションがあるのだ。
そうしてさんざん開拓されてきたヘボのフロンティア、さすがにそろそろ出つくしたかと思われたのだが、このたびヘボコン2018の開催により、また新たに大量のヘボが登場したのだ。
イベントを重ねるごとに、ますますヘボの可能性は無限であると感じる。
次は
8/4~5のMaker Faire Tokyoにて、「和ヘボコン」を開催予定である。
今回のような大きな大会はまた来年の春夏あたりに開催予定。それまではヘボくない立派なロボットの構想を練っておいてほしい。来年、実際に手を動かした瞬間、それがヘボに変わるから。
イベント全体の映像はこちら