起きるために、朝カレーを食べる
「朝カレー」というキーワードで、イチロー選手を思い出す人も多いのではないだろうか。だが、今回の企画は特にイチロー選手を意識したものではない(すごい選手だとは思っている)。
ちなみにイチローは、すでに朝カレーを卒業しているという話も聞く。そしてブームも、一旦ピークを迎えたのちに収束に向かっている気がする。というのも、今回朝カレーを提供しているお店をインターネットで探していたとき「201〇年○月より、朝カレーは廃止いたしました。ご了承ください」というような注意書きを何度か見たのだ。
朝カレーポイント1・かつての朝カレーたちは、存命じゃない可能性がある
某喫茶店での朝カレー目撃情報を見て、お店に駆け込んでみたところ「カレーは11時からです」と言われたりなどもした
朝カレーよ、がんばってほしい。わたしもがんばるから。
そんなわけで、カレーのための早起きを数日やってみることにした。その結果、まず言いたいことがある。大田市場が想像以上にカレー地帯であったことだ。
朝カレーポイント2・大田市場がカレー地帯
朝と食。2つのキーワードから、連想するのが「市場」だった。東京には、さまざまな市場がある。そしてそれらは、朝弱い都民にとって、手の届く場所にあるはずの遠い花火だ。
「市場 カレー」と検索窓に入力してみたところ、大田市場が思い当たった。(なお築地市場にも老舗のカレー屋がある。くわしくは
西村さんの記事を読んでほしい)
英語「ota. fish」が、周辺の日本語を訳しているわけではなさそうな潔さにぐっとくる
張り付いた魚が脱皮する前のセミのように見えた
淡々としたよい表情ではないか
こちらの車も、なんだかよい表情に見える
喋り出しそう
「水産棟前」のバス停から歩いて3分くらいで、お店が並んでいる地帯に着いた
到着してみて、驚いた。カレーをメニューに置いているお店がけっこうある。市場で働いている人が頻繁に利用するので、社員食堂のように、レギュラーメニューとして備える必要があるのかもしれない。
でも、それにしたってなのだ。カレーの存在感が強い。ぼんやり歩いていても向こうから視界に突入してくるのだ。
ステーキって書いてあるし、皿の過半数ステーキに覆われているけど、カレーだ
ラーメンとカレーのセットも発見。朝だけどランチって書いてある。目だけでお腹いっぱいになる画の強さにさっそく圧倒される
フォントが良いかんじだ。まずはこのお店に入ってみたい
「玉子カレーライス」というメニューに目が止まった
「玉子」である。どういう状態なのか、詳細が書かれていない。固茹でか、それとも半熟だろうか。もしかして生かもしれない。それだけでわくわくできる。たまごってすごい。
しかも、である。ぜんぜん想像してなかった姿で登場した。
二つの目を持った、目玉焼きスタイル
なんて朝っぽいんだ
笑みももう、こぼれるしかない
目玉焼き、さらにはハムとレタス、ポテトサラダも同居している。彼らがセットになると途端に空気が朝に占拠される。味も、旅館の朝ごはんを思い出すような「THE朝の味」がする。
嬉しいと食べ物を接写しがちです
まさかここで出会えるとは思っていなかったハム
正直なところ、ここまで朝の空気感を期待してなかった。食べにきたのがカレーだったからだ。好物とはいえ、茶色だし、味も朝っぽくはないだろうと、冷静に見つめている自分がいたのだ。
ちなみにカレーは、一度どこかで触れたことがある気がするような、つまり、ごくごくふつうなカレーであった。でも、それがいい。ほっとする。
目玉焼きがちょうどいい半熟具合なのってほんとずるいですよね(褒め言葉)
起きてよかった。起きられてよかった。
朝と背中合わせの日々を過ごしている気になっていたが、そんなことなかったのかもしれない。朝のほうは、わたしを両手で受け止める準備をしてくれていたのかもしれない。ずうずうしくも、そう思っちゃうくらいには、心がふくれあがっている。
なお突然だが、カレーの総評をお風呂の様子で表していきたいと思う。朝風呂とカレー、ぱちっと目が覚めるかんじがちょっと似ているのだ。
ちなみにハトヤのカレーは、上記に相当するうきうき感がありました。あひるはおもちゃのやつ
あと、紅茶も朝っぽさがすごい。同行してくれていた編集部・橋田さんが頼んでいたのだが、立ち込めるにおいのすべてが、朝にあふれていた
気が大きくなっているところで、ここぞとばかりにもう一軒行ってみる。カレーとシチューとハヤシライスがメインのお店のよう
しれっとおにぎり紛れ込んでいるのが良い
干支の楊枝入れ、おばあちゃんちにあった気がする(と思う人が100人に3人くらいいるんじゃないかと思うので載せます)
頼んだのは、シチューとカレーのあいがけである。シチューと……ごはん
すごい。ちゃんと境界線がくっきり
思えば、シチューにはパンばかりを添える人生を過ごしてきた。もしかして、白米onシチュー、面と向かい合うのははじめてなんじゃないか。
でも、思いのほか、ああ、今、ごはんの上にシチューがかかっているのが現実なのだなぁと静かに受け止めていた。
それよりも圧倒されたのがボリューム感。2杯ぶんくらいありそう
シチューはひたすら優しかった。ゆえに食べた後にカレーを食べるとそのスパイシーさが際立つ。熱いシャワーみたいだ。ぱちっと目が覚める。
これは良い!もっと食べたい。
……のだが、今日はもう胃のキャパシティが上限に達してしまっているので、後日あらためて別のお店に行ってみることにした。
「街の食堂」的なカレー「街の中華屋」的なカレー
そして迎えた大田市場訪問2回目の朝。寝坊しませんようにと祈りながら眠ったところ、目覚ましよりも10分早く起きてしまった。めずらしい。
3軒目に向かったのは「味の店双葉」
ちょっと見切れてしまったが「生のあじフライ」って良い響きだ。カレーライスだけ縦書きなのもじわじわ良い
魚料理がメインのお店のようだ。入店すると、贅沢にも4人がけテーブルに案内してもらえた。ありがたいなぁと思いつつ席に座る。
と、なんだこれは
テーブルの上に、マヨネーズと大根おろしが鎮座している。
大根おろしが食べ放題なんだそうだ
ちょっと高そうなポン酢 も持ってきてくれた
醤油よりポン酢派なので、とてもうれしい。ついドバッと放流してしまった
唐突に、朝食べる大根おろしの良さを噛みしめる事態が訪れたためか、さっぱりとした食べ物が食べたくなってきてしまった。
そんなわけで、つい頼んだ生魚
マグロの中落ち
食べていると、キッチンのほうから「おいしいでしょう」と店員さんが声をかけてくれた。たしかにおいしい。すごくおいしい。トロッとしすぎていないのにコクがある。マグロの赤身のしゅっとした味わいと、トロのトロッとした部分の舌触りが、いいとこどりで混ざりあっている。
と、マグロに話が飛びましたが、もちろんカレーも。
食べますとも。ふつうのカレーより50円安い小カレーを頼んだのだが、十分大きかった
口にすると、じんわりとした熱がほろほろと広がっていく。やけどするような熱さではないのだが、妙に持続性がある。このあたたかさ、身に覚えがある。温泉だ!
店内にはニュースを読むアナウンサーの声が鳴り響いていた。時々その内容に反応するお客さんたち。朝っぽい
ラーメン餃子と書いてあるが、
カレーの存在を食品サンプルでしっかりと確認している
「ランチ」とあるが、朝でも提供している
カレーライス、「加里会飯」と書くのか
いらっしゃいました
ついてくるのは中華スープ
カレーは、どろっとしていて、ちょっと塩っけがある。実家で出てきそうでもあり、誰かの家でも出てきそうな、「家」っぽさのある味わい。油分がしっかり配合されていて、重厚感がある。お風呂でたとえると……
美肌成分でとろとろしたお湯の中につかっているような感じなんじゃないか
朝カレーポイント3・名店エチオピア、御茶ノ水だけ朝カレーをやっている
大田市場について書いてきたが、さいごもう一店舗だけ加えさせてほしい。エチオピア、カレーの名店だ。神保町、高田馬場、御茶ノ水と都内に3店舗あり、そのなかで、唯一朝から営業しているのが御茶ノ水店である。
辛くしたかったらとことんまで辛くできてしまうカレー屋という印象が強かったが、朝メニューは朝を全力で考慮したものであった。
絶賛工事中の御茶ノ水駅周辺
駅から徒歩ですぐの、どでかいビル(あとで調べたらソラシティという名前だった)
お店は地下1階にある
わたしにとっては出勤2時間前だが、周辺の人はすでにオンラインな感じがした。仕事している人っぽいのだ。つられてしゃきっとした気分になる。できる人になったような気持ちになれる。
到着
お店には、朝のためだけの「朝カレー」が用意されていた。朝ごはんらしい具のチョイスと量感だ。値段も普段の半分くらいだし。なのにサラダとドリンクがついている
なんだこの待遇。食事の時間だけこのビルの子になりたい。
頼んでから5分もしないうちにカレー到着
野菜は、野菜のなかでも特にやさしさが全面にあふれている、煮ると煮るほどほろほろとするやつが入っていた。味はひたすらやさしい。カレーってこんなに優しかったんだ。
薄切り大根がやわらかいです
誤解をおそれずにいうと、味噌汁のやさしさが、味噌汁の味を抜きにして、カレーと巡り合った感じ
このカレーは、風呂に例えるならば半身浴っぽさがある。ぬるめの温度で、じわじわと元気が蓄積されていくような感じだ。
朝、カレーを食べるのはいいぞ。難点があるとすれば、ブームのピークが過ぎ去った(と思われる)ことだろうか。いやいや、提供店舗が減ったとしても、もっと開拓すれば道はひらけるのかもしれない。カレーのためなら、もうちょっと早起きできる気がしてきた。
もっと深掘りしたい、大田市場
本文に入りきらなかったのだが、大田市場でもうひとつ買ったものがあった。かつカレーサンドだ。
カツカレーサンド、ありそうでなかったような気がする
見ていると、「めずらしいでしょう。人気なのよ」と店員さんが近寄ってきた。残り1個しかないところを見ると、そうなのかもしれない。即座に購入した。
食べてみたところ、「あ!これは玉ねぎだな……」という感触がしっかりあった
液体を留めておける包容力がけして高くはないであろうサンドイッチにカレーを封じ込めたこと、これは勇気ある行為なのではと思う。おみやげにおすすめします。
唐揚げの入ったおにぎりもつい買ってしまった。手書き文字の良さ