特集 2018年6月3日

似顔絵師さんの机の上は工夫と創造にあふれていた

描かれています
描かれています
細く長く、似顔絵を描く仕事をしている。毎日その仕事に従事している人が、ひもかわうどん(群馬のものすごく太いうどん)だとしたら、わたしは白髪そうめんくらいの細さではあるが、はじめて描いてからは16年、おこづかい程度ではないちゃんとした賃金をいただくようになってからは11年が経つ。

でも未だに似せて描くことに苦手意識がある。ひもかわうどんのごとく、似せることをずっと続けている人たちは、ほんとうにすごい。できれば、その姿を近くで見てみたい。描かれるのが自分の顔なことには、照れくささばかりがつのるのだが、勇気を出して描かれまくってみたい。5人に描いてもらった。

※この記事はとくべつ企画「〇〇放題」のうちの1本です。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。

前の記事:モノレールから見える「ポンジュース」の看板と記念撮影した

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2人に同時に描いてもらう

まずは横浜ランドマークタワーに向かう。今年25周年を迎えた、みなとみらい地区でもひときわ目立つ高層ビルである。ここの69階、展望フロア「スカイガーデン」に似顔絵のお店「CEHF’S(シェフズ)」はある。
国内でも指折りの高所で描いてもらえる似顔絵である
国内でも指折りの高所で描いてもらえる似顔絵である
MATSさん(左)とSAKIさん(右)
MATSさん(左)とSAKIさん(右)
MATSさんは似顔絵歴14年。SAKIさんは6年、このお店の店長である。今日はこの2人が同時にわたしの似顔絵を描いてくれるという。そう、2人同時なのだ。なんという贅沢な事態なのだろう。
うれしさあふれる一方で、自分も描いていたせいか、人の仕事道具への興味が強い。席につくやいなやさっそく目の前のパレットが気になってしまっている
うれしさあふれる一方で、自分も描いていたせいか、人の仕事道具への興味が強い。席につくやいなやさっそく目の前のパレットが気になってしまっている
パレットの端に並んでいるさまざまな色は、固まった透明水彩絵の具とのこと。都度水で溶かしながら色をつくっていくのだという
パレットの端に並んでいるさまざまな色は、固まった透明水彩絵の具とのこと。都度水で溶かしながら色をつくっていくのだという
透明水彩絵の具を買ったら、まずチューブから出すんですよ。全部。
全部!!
と、会話をしているうちに似顔絵の執筆は始まっていた。振る舞いが自然すぎる。まずは鉛筆で下描きをし、おおよその構図をとっていく。
前に店頭で見て「これ誰が買うんだろう」と思っていた超でかいMONOが、目の前で使われていた
前に店頭で見て「これ誰が買うんだろう」と思っていた超でかいMONOが、目の前で使われていた
はっ……!消しゴムがでかい……!!
なんかいろんなものに反応しちゃってすみません!(注:いきなり出てきましたが、編集部の橋田さんは、この日同行をしてくれています)
わたしの画材への反応が過敏だ。さらに、顔も頭もぷらぷらと動かしまくっている。落ち着きがなさすぎるんじゃないだろうか。描かれている人なのに。
すみません!似顔絵描かれている時って、どういう風にしているのがいいのでしょう……?
いやいや、今が100点です。こうやって、話をして楽しくしているのがいいんですよ。じっとしてなきゃとか、ずっと前だけ向いていなきゃとか、ありませんから。いろいろ興味しめしてくれている時点で、100点ですね!
全肯定すぎるだろう。姫ってこんな感じなのだろうか。姫になった経験がないのでよくわからないが、学生時代ほぼとった記憶のない点数「100点」の衝撃は強い。

会話をどんどんふってきてもくれる。しかも復唱のしかたや相槌のタイミングが絶妙なのである。
ペンネーム、なんで『ネッシー』なんですか?
わたしの本名、同姓同名がすごく多くて。インターネットで名前を検索しようとすると、途中であきらめたくなるくらい多くて……
あきらめたくなるくらい!(復唱)
検索しやすいペンネームをつけたいなと思ったんです。
うんうん(相槌)
(相槌のタイミングが、聞き上手だ……)

ちょうどその頃、同僚がわたしの手の動きを見て、急に「ネッシーみたい」って言ってきたんです。脈絡なく。なんだそれはって思ったんですが、頭にこびりついてしまい……
「おお!!(大きい反応)
微妙な由来のいきさつまで、テンション高く聞いてくれたうえに全肯定である。

なお、その話の流れから、似顔絵の背景にネッシーを描いてもらうことが決定した。本物のネッシーを見たことがある人はおそらくいないので、各自の心の中にいるネッシーを描いてもらうかたちだ。
和気あいあいと話しながらなので、描かれていることに意識がむかいすぎず、緊張しない
和気あいあいと話しながらなので、描かれていることに意識がむかいすぎず、緊張しない
それにしても、MATSさんもSAKIさんも手の動きがめちゃくちゃ早い。口の動きが活発になろうとも、手の動きはそのまま。一定のスピードで安定を保っている。迷いがない。
描きながら迷ったらダメですね。描いている時は、今描いていることのちょっと先を考えています。というか、頭では考えていなくて、「手」という別の人格が動いています。
名言出た!
逆に、描いている時にしゃべらないでいると、すべての感覚が絵に集中しすぎてしまって、絵がぶれてしまうんです。顔を見すぎてしまうと、イメージが凝り固まってしまって。
なるほど。似るか似ないかは、見る量には比例しないのですね。
あと、似顔絵を描かずに話をするだけだったら、緊張してしまうかもしれません。筆を持つことで、気が大きくなるみたいなところがありますね。
絵と会話、両方ある状態がいいのか。
鉛筆で概ねかたちを決めたら、その上から、黒いサインペンで線を描いていく
鉛筆で概ねかたちを決めたら、その上から、黒いサインペンで線を描いていく
あれ、ペンのふたに修正液でなにか描いてありますね……
それ、日付です。買ったら書いておくんです。ペンは古くなるにつれて、出にくくなることが多いので。混雑する連休を迎えるのに、新しいペンを買いに行く時間がとれなかった時は、片っ端から試し描きして、ちょっと出るやつに、さらに印をつけておいたりもします。全然かっこよくないんですけど……
いやいや、そういう工夫が良いんですよ!
左手で画板をにぎりしめながら、がりがりと描き進めるSAKIさん
左手で画板をにぎりしめながら、がりがりと描き進めるSAKIさん
SAKIさんの主な画材はコピックである。コピックとは、アルコールのマーカーである。紙にアルコールが染み込んでいく過程が、手に馴染むまではちょっと使いづらい。でも馴染むと一変して、いろんな塗り方ができて楽しい汎用性の高いペンだ。
肌まわりを塗る用と、
肌まわりを塗る用と、
 それ以外のものが分別されている
それ以外のものが分別されている
2つにわけてあると、どの色を選ぶかの判断がつきやすいんです。色は、厳選して置いていて、けっこう少ないほうだと思います。
コピックは、集めだすと数百くらい余裕で所有できてしまうペンでもある。肌色だけで10色以上はある。20~30本は、ほかのペンであれば、多いと言われることもあるかもしれないが、コピックにとっては少ない。
描くの早いよね。
というかコピック、けしてベタ塗りに向いているペンじゃないのに、そのスピードで塗れるのがすごいです……!
ペンを寝かせて塗っています。大きい面を塗るときは、それでスピードを出しています。
そう言っている間もベタ塗りは止まらない
そう言っている間もベタ塗りは止まらない
一方MATSさんは、透明水彩で着色したあと、
一方MATSさんは、透明水彩で着色したあと、
修正液を手に持った!
修正液を手に持った!
修正液でなにか描いてる!
修正液はハイライトとして使用しています。
終始、特別な道具は使っていない印象だ。だけど、彼らが手に持つことによって、道具が特別になる気がする。道具を生かすも殺すも使い手次第なのか。ああ、使っている道具ぜんぶが気になる……!
と、コレはなんだろう
と、コレはなんだろう
ふと目に入った水色のボトル。こんな画材見たことない。
あ、それは化粧水です……。
肌のパリパリ感が尋常じゃなかった時に持ってきたやつ……。
ああああ、そうでしたか!
ここで、終始興奮気味に撮影をしていた橋田さんが、ほぼ完成したらしい似顔絵を見て、
すごい!!
と言い始めた。
できました!
できました!
!
!
!
!
ああああああ、おおおおおおおおお、やーーーーーーーーかわいい!
この時会話を録音していたのだが、音源を聞き返したら、上記みたいな悲鳴のようなものが大音量で入っていた。そうとう興奮していたらしい。だが無理もない。そこに描かれていたのは、わたしの成分を保持したまま、わたしより何倍もかわいくなった人だったのだ。
わたしより全然かわいいのに、わたしだなーってかんじが、します!
そして、ネッシーである。こういう生き物なのだとしたら、近所の川とかにいてほしい。だってかわいいのだ。似顔絵みたいにまたがったりしながら遊びたい。遊び相手になってほしい
そして、ネッシーである。こういう生き物なのだとしたら、近所の川とかにいてほしい。だってかわいいのだ。似顔絵みたいにまたがったりしながら遊びたい。遊び相手になってほしい
ちなみに、フレンドリーに会話を楽しみながらの似顔絵だからなのか、リピーターさんが多いそうで、さらには、リピーターさん同士の交流も行われているそうだ。
うちのお客さん、いちばん多い人は500枚以上描いています。それで、その人のお祝いごとには、常連さんが駆けつけたりすることもあります。
似顔絵コミュニティ……!
この日も、ちょうどわたしが描かれている途中で、小学校1年のころから通っているというリピーターさんが店にやってきていた。歳を聞いたら15歳。今日はじめてひとりでランドマークタワーを登ってきたのだという。記念すべき日に遭遇してしまった。
手、ネッシーになったつもりで撮ったはずなんだが、なんだろうこのわたしの手つき
手、ネッシーになったつもりで撮ったはずなんだが、なんだろうこのわたしの手つき
CEHF’S(シェフズ)
http://master-xebec.com
場所:横浜ランドマークタワー69階展望フロア「スカイガーデン」
https://www.yokohama-landmark.jp/skygarden/
価格:1人(バストアップ)2,000円(税別)
背景は2,000円(税別)追加
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