と思ったら校区外は全国区じゃないらしい
と、誰もが知っている体(てい)で書いてはみたが、この記事を書くにあたって周りに聞いてみたら思いのほか知らない人が多いらしい。えー、そうだったのか…!
Twitterで聞いたら、校区外、またはその概念を知らない人が33%も!
たとえば、この道路の向こうが私の母校の校区外ですよ。
この向こうに足を踏み入れたのは、確か小4の頃。同級生に付いていく格好で、当時流行っていたメンコ代わりの牛乳キャップのレア物(要するに母校以外の牛乳キャップ)を手中にせんと隣町へ。道路を渡った瞬間に、「校区外…出ちゃった…!」とドーパミンがドバドバ溢れたものでした。
こんな感じで、校区外とは子どもが大人の階段を上るための、ある種の通過儀礼。ネイティブアメリカンが大人になるための一人旅「ビジョンクエスト」のようなもの。とまでは言わないけど、まぁまぁ通じるところある。
そんなエピソードが誰にでもあると言わないまでも、校区外に対するなにかしらの思いはあるはずだ!そこで今回、3人の友人たちからそれぞれの校区外を教えてもらいました。
校区外は全国的に有名な「大人の世界」
天王寺が地元の白井さん、大阪でもトップ級の都会人。
白井さん「まず、今立っている歩道橋の向こうが校区外でしたね」
水嶋「お、さっそく!あれですか」
あれ!
水嶋「でもこんな中心地、迂闊に出ちゃいません?」
白井さん「いや、小学生が街中に出ても楽しくないですから、中心地にあっても近づくことはなかったです」
確かに、小学生がショッピングする訳もなし…。
ちなみに上の写真の向こう側はかの有名な、飛田新地という大人の世界(調べてください)。子どもの頃はすぐそばにまさかそんな世界が広がっていると知らなかったそうだ。さすがにあの街並みは子どもには刺激が強すぎるもんなぁ、ふつうの校区外以上に禁足地かもしれない。
その駅前から南へ真っ直ぐ。
白井さん「この高速道路から向こうも校区外」
水嶋「越えたときのエピソードとかありますか?」
白井さん「何度もありましたよ、少年野球してたので」
水嶋「あ~!」
白井さん「そういう意味では、同じリーグ内の小学校までは試合でよく行き来していたから、校区外はあったけど越えてはいけないという意識は低かったと思います」
そうか。校区外の存在は知っていても、習い事によっては行動範囲が一気に拡大。ましてやリーグ戦のある少年野球なら学校の数だけ行動範囲は広くなる、と。
ちなみにこちらは、母校の小学校の隣にあるという公園。
白井さん「給食で残ったパンを鳩にあげてたら、学校の窓から先生に見られて怒られましたね」
水嶋「なんでそんな冒険したんですか」
神戸の校区外は山あり新幹線ありのバリエーション
次は、神戸出身の岸本くん。
岸本くんはふだん大阪にいるが、この企画のために帰省してもらった。で、会って早々校区外はここだという。
水嶋「バス停のすぐそば?」
岸本くん「そうです」
水嶋「こんな交通の要で、サッと出てまいそうやけど」
岸本くん「なので習い事が隣町って同級生は多かったですね。その場合は校区外越えも黙認されてました」
さきほどの白井さんと同じパターン。思い返せば、自分も水泳教室で毎週思いきり校区外を越えていた。でも遊びで出るときのドキドキ感とは違う、義務感というか、今思えばサラリーマンの通勤気分に似てた。
岸本くんの校区内は神戸市「西区」。
岸本くんがいる側が西区で、校区外の向こうは垂水区。てっきり垂水区民の子どもは全員隣校かと思いきや、一部の同級生は垂水区側(ただし境界線上)に住んでいたらしい。「年賀状を書いているときに急に住所が変わるから面倒だった」とのこと。いや、分かるけど、面倒とまで言うか!?
逆に垂水区の小学校に西区の子どもが通うケースもあったのかもしれない。交換留学生みたいだな。
反対側の校区外へ案内してもらう。
「あの看板あたりには昔、エロ本の自販機があったそうです」、とまるで史跡のように教えてくれる岸本くん。
岸本くん「一応このあたりはまだ校区内なんですが、友達も住んでいなかったので僕にとっても謎です。一度、チャリ(自転車)でフラフラしたかしてないかくらい」
そうか、校区内でも友人がいなければ知らないこともあるのか。その点では、うちの地元は隙間を埋めるようにマンションが建っていたので把握くらいはしていたなぁ。
意味があるのか疑問だという、「学童に注意」。
岸本くん「この先の車が見えるあたりから校区外です」
「あれです」「あれか」
JAFが必要そうな人たちが見える。
よく遊んだという竹林を進む。
岸本くん「ここも一応は校区内なんですよ」
水嶋「えっ、完全な竹林やん!神戸すごいなぁ」
岸本くん「で、この先が校区外」
水嶋「お~!」
なんじゃこの見晴らし~~!!
この校区外は越えられないな、だって崖なんだもの。まるでオープンワールド・ゲーム(広大な世界を自由に歩き回るタイプのゲーム)の行動範囲の外!システム上ここから先は行けません!という感じがする。
そこからまた移動して、ここもまた校区外の境目。
岸本くん「今は校区外から見てますけど、あの新幹線の高架下がちょうど校区内外の境目でした」
水嶋「新幹線!いいなーなんかうらやましい」
たまに新幹線が通っていたそうだ(当然)。将来の運転士が生まれそうな環境。
同じ校区外でも住む街によってずいぶん違う。最初は交差点で正直地味だと思っていたが、竹林の向こうに広がる田んぼや新幹線の高架とは、恐れ入る。自分の地元とスペースは大差ないのに、バリエーションが羨ましい。
だけどそれもそのはずで、神戸は山を背にした湾岸都市。北を「山側」、南を「海側」と呼ぶ習慣があるほどで、それがこの楽しげな校区外につながっているんだろう。
岸本くんに描いてもらった校区の図。
神戸の図。もしかしてだけど、神戸の人って「KOBE」って書くの好き?
明石の校区外は『海』というダイナミックさ
ここで友人の唐津さんが合流、『明石市朝霧』の校区外案内に移ります。
岸本くんと唐津さんはそれぞれ別の機会にベトナムで出会った友人だけど、なんとたまたま地元の校区がふたつ隣。二人とも合流してもらうことになりました。
水嶋「さっそくだけど、校区外はどこですか?」
唐津さん「あ、うーん、うちに厳密なものはありませんが、この歩道橋から先には行くことがなかったですね」
その歩道橋。
唐津さんの学校ではどうやら、校区外が明示的に指定されることはなかったらしい。それでもなんとなく行かない地域はあって、それがこの歩道橋の先である、と。
唐津さん「あとは校区外といえば…『海』ですね」
「海ですか!」「海です」
そうか! 沿岸だったら海になるのか! 隣町があるどころじゃなくて、そもそも海しかないんだ。よく戦国時代の城で山や海に面していれば堅牢な要塞だと聞いたことがあるけど、今実感を伴って理解した気がする。
ちなみに淡路島を見るのは初、フツーに記念写真。
水嶋「そうすると地元での遊び方も海が中心?」
唐津さん「そうですねー、泳いだり、浜辺でサッカーしたり…あ、でも、ここは校区内というか、いろんな校区から生徒が来る『非武装地帯』という感じでした」
物騒な!でもちょっと分かる気がする。自分の地元も、本来は校区外であれ、近所のダイエー(デパート)に行くことだけはなんとなく許される空気があった。結果、いくつかの校区から人がやってきていたので、それこそ『非武装地帯』という表現はよく分かる。
水嶋「逆に唐津さんの方から校区外に出ることはなかったんですか?」
唐津さん「あんまりなかったです。でもたぶん、ゲーセンやマクド(ナルド)が校区外にしかなかったら、行ってたんだろうと思います」
明石出身者と神戸出身者による実演、「明石海峡大橋にある『透明な床』を見たときの反応」。
岸本くん「このへんは僕も知ってますが、とくに●●中学(自主規制)はワルが多くて有名で、メジャーリーガーみたいに目の下にペイントを入れてる生徒もいました」
水嶋「こわっ!あれ、太陽光から目を守るスポーツメイクって聞いたことあるよ。そのへん分かってなさそうなところがかえって恐怖を煽るわ」
「あそこ、偽装ラブホテルで行政処分受けたんですよ」と岸本くん。さっきから自主規制したい話が多い。
校区外という概念は地方都市だけのもの?
と、友人それぞれの校区外を案内してもらいました。ここで思い出してほしいものが冒頭のアンケート、500人余りの人に聞いてほぼ1/3が「(校区外の概念を)知らない」と答えておりました。
実際、周りに聞いてみると、「知らない」人の地元は『東京(首都圏)』か『田舎』(本人談)がほとんどだったんですよね。だけど前者は、校区外はないが縄張り意識がすごいと。エリアによって「金持ち」「ふつう」「ワル」といったヒエラルキーも存在していて、それを踏まえた越境通学までもある。これには、人口密度が高く学校の距離が近すぎるから、ということが背景にあるのかも。
そこで思い出したものが、銀座の小学校のアルマーニ制服についての一騒動。「公立なのに」というところが焦点になっていたけど、その裏には、校区の概念が希薄な東京&首都圏と濃厚な地方都市の、公立学校に対する認識の差もあったのかもしれません。
一方で田舎は真逆で、どこに行くにも遠すぎて校区外で仕切ると遊び場所がなさすぎる。
地方都市はゆとりがある、東京は被る、田舎は広すぎ。 絵も字も下手で罫線も入っている点もぜんぶ大目に見てください。
校区外についてのまとめ
校区(外)について分かったことをまとめると…。
・習い事によっては校区外の概念は希薄
・校区内でも友人がいなければ未知の領域
・ゲーセンなどの遊び場が地元にあれば、校区外を飛び出す機会はグッと減る。
・校区外にはいくつかの校区の生徒が踏み入れる、事実上の「非武装地帯」がある。
・校区外の景色は街の地理環境の影響をモロに受ける。山だったり、海だったり、高架下だったり。
・校区外の概念がある人は、地方都市出身者に多い?東京は狭すぎて、田舎は広すぎて、ない。
そのほか、埼玉県出身の友人の話では、「校区外はあったけど遠くて子どもだけでは行けなかった。代わりに自転車免許というものがあって、それを取れば校区外へ出ることを事実上許された」と話してくれた。
取得時期は小4あたりということで、子どもの行動範囲を自治体独自の免許でコントロールしていたという点がおもしろい。子どもの足ではとても出られないならうちの地元よりも広いだろうし、学校側から厳しく言い聞かせる必要もなかったということなのかもしれない。
校区外は日本のスタンド・バイ・ミーが詰まってる
全国区だと思っていた校区外がそうではなく、自治体の規模によって広さや有無までまちまちだということが分かった。それでも子どもながらの「ここから先はちょっと危ないぞ」みたいな範囲は共通して持っていて、それは大人の世界の入口だったり、見晴らしのいい山景だったり、あるいは海だったりもする(そりゃ危ない)。
冒険したい、手に入れたいものがある、そんな理由でハラハラドキドキしながら境界線を踏み越える。校区外には日本のスタンド・バイ・ミー的な物語が詰まっているのかもしれません。でも私も今や大人の端くれなのでいちおう言っておきますが、子どもだけで遊んで良いのは学校指定の校区内まで!
「校区外にあった有名店なのでちょっと憧れていた」というカレーを食べる岸本くん。こんな店、あるよね。