特集 2018年6月6日

あの巨大ウルトラマンと恐竜ロボットをつくった会社は同じ

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あの巨大ウルトラマンロボットをつくった会社に話を聞きに行ったら、世界中の博物館に展開している恐竜ロボットのパイオニアだった。という話をしたい。
1984年大阪生まれ、2011年からベトナムなどの東南アジアをうろついています。今はタイ在住。ドリアンの造形が好きで、写真のように被ったり着たりしています。

前の記事:幕末っぽい写真で今を撮る

> 個人サイト ネルソン水嶋.jp

巨大ウルトラマンロボットってまずなんだよ

「あの」と付けたところで、いやますます、↑と思われることはもちろん承知している。という訳で説明から入ります。事の経緯は昨年3月に書いた「27年前に見たウルトラマン製造工場は幻だったのか」という記事に詳しい、おさらいしましょう。
記憶の中のウルトラマンロボットのスケッチ。
記憶の中のウルトラマンロボットのスケッチ。
小学1年生の頃、科学雑誌で上のような写真を見た私。「ウルトラマンって、人が入っているんじゃなく、実物大のロボットだったのか!」と全身に稲妻走る。ウキウキ気分で同級生に教えたところ、「そんな訳ないやろ!あほちゃう!?」とメッタメタのメタにバカにされ、恥ずかしさのあまり自ら記憶に蓋をした。それから大人になってふと思い出すことはあったが、現実感のない記憶に何かの見間違いだったと思うようになったのだ。
だが、これが実在した。
だが、これが実在した。
しかし、ここまで細部を思い出せるのに幻とまでは考えづらい。あれこれあって最終的にその雑誌の出版元である学研さんの書庫を調べさせてもらったところ、なんと当時手にした雑誌を発見!記憶は完全に正確ではなかったが、27年越しのモヤモヤはスカッと晴れたのでした。
なお、仰向けになっていたのはウルトラマンではなくバルタン星人。複数の写真を混ぜて記憶していたのだ。
なお、仰向けになっていたのはウルトラマンではなくバルタン星人。複数の写真を混ぜて記憶していたのだ。
ロボットの正体はかつて熊本の遊園地で行われた催し物のひとつ。上の動画には、ホームビデオで撮った巨大なウルトラマンロボットが現れる瞬間が収められている。

そんなロボットをつくった当事者に話を聞く

前置きが長くなったが、そんなウルトラマンロボットをつくった会社、つまりウルトラマン製造工場、その現場に行って話を聞こうというのが今回の記事の趣旨。しかし、どうやって調べるのか?答えはすでに出ています。
誌面のクレジットにある『ココロ』が社名でー、
誌面のクレジットにある『ココロ』が社名でー、
こちらの櫻井さんこそが、当時を知る人物です!
こちらの櫻井さんこそが、当時を知る人物です!
正直!もうワクワクである。最近まで自分の記憶違いだと思っていたものが実在して、しかもその当の現場で関係者に話を聞けるというのだから。当初、ここまで先に進めるとは露ほどにも思わなかった。
あのときのこと、聞かせてください…!
あのときのこと、聞かせてください…!
櫻井さん「―あれだけ大きなロボットだったので、私も強烈な思い出として残っています。当時を知る社員も今では数名ばかりになってしまいましたが」

水嶋「ですよね、誌面を通して見た私ですらこうして覚えていた訳ですし。当時、櫻井さんはどのような立場で、ウルトラマンロボットを見ていたんですか?」

櫻井さん「新卒で入って数年経った頃で、機械設計の部門でしたが、製品を担当したのはほかの部署でした。しょっちゅうトラックで大きな部品が搬入されはじめ、『何かすごいものが来たぞ』という感じでしたね」

水嶋「やっぱり、当時としても大型だったんですね!」

櫻井さん「そうですね。仕様や演出を決めるのに2年、制作で1年、大きなプロジェクトでした。熊本へ運ぶときは10トントラック7~8台で運搬していきましたよ」
「当時の写真もあります」「えっ」
「当時の写真もあります」「えっ」
わーーー!いきなりすごいもん出た!
わーーー!いきなりすごいもん出た!
カッコイイ…そして!
カッコイイ…そして!
遠近法?と疑う余地もなくドカンと伝わるそのデカさ!!
遠近法?と疑う余地もなくドカンと伝わるそのデカさ!!
いやー、もう、すっごいなぁ。だって、つい一年ちょっと前まで、27年間ずっとこれを幻だと思っていたんですよ。その生写真がここにある。小1の私よ、この声を届かせられるものなら届かせたい!お前の恥はそそがれる!

しかし、ロボットメーカーであっても特撮の衣装メーカーではなかった(今もそうだけど)ココロさん。円谷プロの監修があったろうにせよ、この外装も含めた完成度はなにゆえかというと、「怪獣マニアの造形に詳しい社員がいたからなんとかなった」とのこと。なんとかなったって、対応力ありすぎませんか。
そしてつづいての関心はこのロボットの、今。何しろ30年弱、やはり…いや、まず確認せずにはいられない。
そしてつづいての関心はこのロボットの、今。何しろ30年弱、やはり…いや、まず確認せずにはいられない。
水嶋「このロボットは、今どこに?」

櫻井さん「運用が終わったあと、しばらくは高崎の倉庫で保管されていたんですが、10年以上前に処分されてしまったそうです」

水嶋「あ、そうなんですね……」
あれ、悲しい。思っていたより悲しくなった。なんだろう、昔よく遊んだ近所の兄ちゃんを、ふとしたタイミングで思い出し、もう亡くなったと知らされた感じ。そんな経験はないけど、そんな感じ。一目会えたら久しぶりとも伝えられるのに、もうできない。そうかー、もうないのか…。悲しいなー。

しかし、そんな私にとって、この取材の最後にとんだサプライズが待っていたのだ。そのうち分かるから、今はこのまま読み進めてもらいたい。

国産の恐竜ロボットは海外の博物館から広まった

ここからは話題を変えて!ココロさんの話をしたい。実はこちらの会社、ある製品で世界的なシェアを持っているのだ。と、まぁ、冒頭で書いてるんだけど、それはー!
恐竜ロボット!!
恐竜ロボット!!
少年時代を過ごした人なら、見たことがない方が少ないんじゃ?要するに動く恐竜、夏休みの大きな博物館でよく見かけるやつです。首が動いたり、目が閉じたり開いたり、鳴いたりとかする、あの恐竜ロボットです。

水嶋「当たり前に知ってる恐竜ロボットですが、ふしぎとどこがつくっているとは考えたことがなかったですね。ココロさんでは、どれくらいつくられているものなんですか?」

櫻井さん「海外に400体、国内に200体、おおよそ600体ありますね。ロンドンの大英自然史博物館にもありますよ」

水嶋「えっ、海外?それにそこってすごい大きなところじゃないですか!」
こちらが大英自然史博物館にあるティラノサウルス。 昔見た恐竜ロボットよりさらに動きが滑らかだなー。
今でこそ国内でもよく見かける恐竜ロボットだが、開発当初は需要がなかったという。当時の日本の博物館は学術機関としての意識が高く、ロボットはオモチャのような扱い。一方で、欧米をはじめとした海外の博物館ではビジネス的な志向もあって、家族客を呼び込む上で子どもにキャッチーなものを置きたいという需要と噛み合ったのだ。日本国内で広まったのは、そのあとのこと。
「工場で製品をお見せしますよ」「幸せです…」
「工場で製品をお見せしますよ」「幸せです…」

恐竜ロボットの肝は「学術的に正しくリアル」か

櫻井さん「恐竜や人型の場合、一般的な(業務用)ロボットとは動き方に対する考え方が真逆なんです。作業効率が高く合理的というより、リアルで生物的かどうか。学者さんと議論を重ねて、化石から分かる骨格からスピードや関節の動き、鼻腔の長さとそれに似た現存する動物などから鳴き声も再現します」
特別に工場内を見させていただいた。
特別に工場内を見させていただいた。
爪の向きなど、細部に至るまで検証済み。ときどき、ロボットを見たその分野に詳しい人からもつっこみが入ることがあるというから、全てにおいて気は抜けない。
爪の向きなど、細部に至るまで検証済み。ときどき、ロボットを見たその分野に詳しい人からもつっこみが入ることがあるというから、全てにおいて気は抜けない。
水嶋「あ、そうか。ロボットという技術に意識が行きがちだけど、そもそも前提として『動く標本』なんですね」

櫻井さん「はい、そうですね。化石の横で、それが生きているときはこうだったんだよと見せるものですから、そこは学術的に正しい動きでなければいけません」

そうして学術と技術を組み合わせつづけ、これまで開発してきた恐竜の種類は実に200種類!そのへんの図鑑に載ってる数より多いよね…。実際、櫻井さんふくめ事業関係者は恐竜にめちゃくちゃ詳しいとのこと。なんたって学者と議論するレベルなのだから、そりゃそうか。
リアルにつくってもらったね~、君。
リアルにつくってもらったね~、君。
水嶋「あれ?でも、ここ10年くらいで恐竜には毛が生えていたとか聞くようになりましたよね。『学術的に正しい』ことが重要となると、それって…」

櫻井さん「はい。それも、博物館や施設から『毛を生やしてほしい』という要望があれば対応しました。そもそもロボットなので、定期メンテナンスを前提に提供しています」

そうかー。新たな技術や発見によって学説が変われば、恐竜ロボットも変わる。動きは生物的でも、ビジネスモデルは合理的。それにしても、世界中の恐竜ロボットたちに毛を生やすなんて壮大な植毛だなぁ。
この彼も、見ての通りフサフサです。
この彼も、見ての通りフサフサです。

エディー・マーフィーとの共演だって仕事のうち

櫻井さん「恐竜ロボットが使われる場所は、博物館などの学術機関ばかりでもないんです。たとえば映画とか」

水嶋「えっ、映画ですか!?」

櫻井さん「アメリカに駐在していた頃、『ビバリーヒルズ・コップ3』で遊園地での銃撃シーンがあるからそこで使いたいと。映画のほかにもドラマなど、テレビ関係にはよく提供していますね」

水嶋「恐竜の仕事、幅広いですねー」
恐竜以外に人型もつくられています。
恐竜以外に人型もつくられています。
撮影では、恐竜ロボットの担当者として櫻井さんも一ヶ月に渡り参加。エディー・マーフィーにも会え、メガホンを取っていたジョン・ランディス監督から遊びに来たスピルバーグ氏を紹介してもらったという。わっ…今調べて知ったけど、ランディス監督もブルース・ブラザースとかマイケル・ジャクソンのスリラーの監督をした名監督じゃないか。

ちなみに、『~コップ3』と『ジュラシック・パーク』は公開年がたった一年しか違わない。もしかしたら、ランディス監督の「あいつ今恐竜映画撮ってたなー、ココロさん紹介したろ」なんて考えもあって間を取り持ったのかもしれないなぁ。勝手な想像だけども。
人と接することを前提とした人型ロボットは、
人と接することを前提とした人型ロボットは、
血管も再現するほどの質感も大事な要素。
血管も再現するほどの質感も大事な要素。
そして一般家庭用の100Vの電圧で、つまり家のコンセントに挿せばすぐ動く!技術ばかりでなく、汎用性も大事です(それもまた技術だけど)。
そして一般家庭用の100Vの電圧で、つまり家のコンセントに挿せばすぐ動く!技術ばかりでなく、汎用性も大事です(それもまた技術だけど)。

大人たちの夢と技術が、看板広告を恐竜に!

恐竜ロボットの技術のすごさや需要の高さは十分伝わったが、まだひとつ謎がある。そもそも、どうしてつくったのか?需要があった訳でもない、だからこそ今このパイオニアなんだけど、当時からすると「恐竜のロボットをつくる」なんてかなり斜め上の発想だ。

櫻井さん「ロボット事業は私が入社した頃にはすでにあったのですが、ココロの前身は看板広告をつくる会社だったんです」

水嶋「看板広告!?予想外ですね…」
ロボティクスを教える教育機関向けの教材。およそロボと付く分野は教育からエンタメまでほぼ関わっているらしい。
ロボティクスを教える教育機関向けの教材。およそロボと付く分野は教育からエンタメまでほぼ関わっているらしい。
緩急のある動きを行うため、空気制御が主流。ココロさんでは、いかにもカクカクした「モーターくさい動き」はもっとも避けるべきものだとのこと。
緩急のある動きを行うため、空気制御が主流。ココロさんでは、いかにもカクカクした「モーターくさい動き」はもっとも避けるべきものだとのこと。
櫻井さん「最初に看板が動いたらおもしろいよねと、パンダのロボットをつくったそうです。で、次はなかなか見られないものをつくりたい。(当時人気だった)パンダといった動物もいいけれど、それはブームが去ればいつかはじっくり見れる。じゃあ、誰も見たことのないものは?となって、恐竜ロボットをつくりました」

理屈は分かる。分かるけど、そこで恐竜つくろうかって意志と行動はやっぱりすごい。太平洋越えたらアメリカに着く、なら行こう、みたいな。ウルトラマンロボットの『造形に詳しい怪獣マニア』もそうだけど、ここでも電気系統に詳しい機械設計者がいたから実現したとのこと。幅広い趣味を持った技術屋集団と、夢見るボルテージの高さがココロさんの遺伝子なのかもしれない。
こちらは子ども向けのロボット製作キット。恐竜や人型ロボットで夢を与えながらも、ロボットそのものの楽しさも教えることで、この分野を次世代につないでいく。いいなー、ちょっと昔に戻りたくなっちゃった。
こちらは子ども向けのロボット製作キット。恐竜や人型ロボットで夢を与えながらも、ロボットそのものの楽しさも教えることで、この分野を次世代につないでいく。いいなー、ちょっと昔に戻りたくなっちゃった。

最後にとんでもない贈り物をもらってしまった

そうだ、櫻井さんに渡したいものがあった。ウルトラマンロボットの記事を読んでくれた知人が、「当時の様子が載っていたから」と古い雑誌を私に二冊ほど譲ってくれたのだ。
「宇宙船」という特撮系の雑誌、これは1990年に刊行されたもの。
「宇宙船」という特撮系の雑誌、これは1990年に刊行されたもの。
当時行われたショーの様子が事細かく紹介されている。
当時行われたショーの様子が事細かく紹介されている。
懐かしそうに読む櫻井さん
懐かしそうに読む櫻井さん
良いものだけど、自分が二冊も持つよりは、一冊を当時現場に立ち会っていた櫻井さんにこそお譲りしたい。むしろこれ以上にふさわしい持ち主がいるだろうか。鬼に金棒、勇者に聖剣だ、違うか。もちろん、譲ってくれた知人には了承済み。
櫻井さん、ぜひそのままお受け取りください。
櫻井さん、ぜひそのままお受け取りください。
櫻井さん「え!?いいんですか?」

水嶋「ココロさんの資料にもなるかと思うので」

櫻井さん「それじゃ、お返しという訳じゃないですが」
櫻井さん「ウルトラマンロボットの生写真、差し上げます」
櫻井さん「ウルトラマンロボットの生写真、差し上げます」
水嶋「あ、どうも」
水嶋「あ、どうも」
水嶋「…」
水嶋「…」
水嶋「はい?」
水嶋「はい?」
櫻井さん「もらってください」

水嶋「えっ?えっ?いいんですか!?」

櫻井さん「私どもとしても、当時の製品を覚えてここまでお越しくださったことはうれしいことですので」

水嶋「あ、あおぉ~、ありがとうございます!!」
ヘンなリアクションになっているのは、喜びと、驚きと、指紋を付けちゃいけないという気持ちと、取材から一時間半経っても抜け切らない緊張感が混在しているからです。
ヘンなリアクションになっているのは、喜びと、驚きと、指紋を付けちゃいけないという気持ちと、取材から一時間半経っても抜け切らない緊張感が混在しているからです。

紹介しきれなかったココロさんのエピソード

取材で聞けたほかのエピソード、本編で紹介しきれなかったものを箇条書きでご覧ください。
・恐竜ロボットの繁忙期は夏休み、もちろん理由は子ども向けの博物館の展示が増えるから。

・恐竜ロボットの代表的なメーカーは、日本にココロさんを含め二社、アメリカにも複数存在。最近は中国も。

・開発以前から映画撮影用の恐竜ロボットはあったが、性質上耐久性が低く雨風に晒される環境だと一週間ほどで壊れる。そこは前身が看板屋だったノウハウが大いに生き、ココロさんでは20~30年の長期使用に耐えるものが開発できた。

・人型ロボットは音声ソフトが多言語対応していることから、海外の方に違和感がないようにクォーターの感じを出し、男性にも女性にも印象の良い清潔感のある見た目を意識している。

・人型ロボットは一般的に、老いた外見ほど技術的な難易度は下がる。理由はシワがあるので可動部の外装のたわみが目立たない、老人は体型がでっぷりしているのでメカを詰め込んでも目立たないから。逆に、若い女性はシワをつくれないので難しい。

・ポップコーンの自動販売機メーカーとしても有名。販売機内で種の状態から調理する方法を確立し、出来たてを提供できる点が画期的。

・『ココロ』という名前の由来は、ロボットの会社というと冷たいイメージがあったため、心のこもったロボットをつくろうという思いから。

・実は、というより今まで私が書かなかっただけだけど、サンリオのグループ会社。
動く人型ロボットさん。ロボですが、目が合うとドギマギする。

記憶の幻は生写真として手元に残った

小学一年の頃に見た記憶を、大人になって「間違いではなかったかもしれない」と追い続けたら、雑誌は実在していて、当時の関係者にも話を聞けて、しかも最後にはなんと当時の生写真までいただけた。一連の出来事をひっくるめて、奇跡かよ。この生写真は家宝にしよう。最近も現代服で撮った湿板写真を家宝にすると言ったけど、私の子孫はいずれ、実態が謎すぎる先祖に首を捻ることになりそうだ。

ウルトラマンロボットの記事でも最後に書いたけど、もし「あれは記憶違いかな~」という思い出があれば、ぜひ追える限り真実を追ってみてほしい。完全に合っている保証はないけれど、たぶんにそう記憶するだけのなにかはあったと思うのだ。大人になってからの理屈より、子どもの頃の記憶の方が正しいこともある。
家宝セット。先祖の生まれは、21世紀か、19世紀か、はたまたM78星雲か。
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