最新のお化け屋敷とは
最近のお化け屋敷は進化しているという。
正直なところ、近年のお化け屋敷事情を語れるほどの経験もないのだけれど、まあ車が空を飛ぶ時代である、お化け屋敷が進化してもまったく不思議ではないだろう。
最新のお化け屋敷にやってきました。
東京ドームシティにあるお化け屋敷「
怨霊座敷」は気鋭のお化け屋敷プロデューサー五味弘文さんが手掛け、映像演出でチームラボが協力しているのだとか。しかも英語・中国語・韓国語の多言語対応。そう聞くと新しいもの好きとしては行ってみたくなるのも当然である。
しかし
何を隠そう僕はお化けが怖い
怖いだろうお化け。大人になれば怖いものなんてなくなるのかと思っていたのだけれど違った。これを読んでいる10代20代のお化けが怖い諸君、残念ながら大人になっても怖いものは怖いので覚悟しておいた方がいいです。
しかしこれも仕事だ。プロデューサー五味さんにお話を聞く前に、作品を体験しておくのは礼儀である。意を決して入口をくぐった。
ルールを説明してくれる人がすでに怖がらせ口調なのが完成度高い。
靴を脱ぐところから始まる恐怖
このお化け屋敷の特徴として、まず入口で靴を脱いで預けるところからはじまる。ここから先は人の家、という設定なのだ。
靴のロッカーが赤くてすでに不穏である。
靴をぬぐことで足の裏から怖さが伝わってくる。
靴を脱ぐこと自体はちょっとしたことなのだけれど、やってみるとその効果がよくわかる。足の裏で畳を感じることで、瞬時にお客はストーリーの中へと引きずりこまれるのだ。
怖くて逃げたくても靴がないから逃げられない、という話もある。
写っていなくても内股になっていることがわかる写真だ。
僕はかつて彼女と一緒に富士急ハイランドの戦慄迷宮というお化け屋敷に入り、一人もお化けに会う前にリタイヤした経験がある。座右の銘は「君子危うきに近寄らず」だ。
取材とはいえ怖かったらすぐに帰ろうと思い会場の人に事情を話すと、このお化け屋敷にはエスケープ制度がないという。一方通行かよ!営業停止にすべきである。
しかし時すでに遅し、だった。
一人だったら絶対入っていなかった(後ろに写っている人はお化けではなく撮影係)。
おびえる僕をみかねてか、広報担当の人が撮影係として一緒に来てくれた。僕はこういうことに関しては格好つけるタイプではないので、彼女に前を歩いてほしいとお願いしたがそれは断られた。
ところで今回の体験でひとつだけわかったことがある。
リュックを電車に乗るときみたいに前に背負うとちょっとだけ安心感が増すのだ。これは怖がりは全員やってみるといい。
ホッとするから。
前に抱きしめるものがあることで「自分は守られている」という感覚が得られるのかもしれない。しかし結果的に背中が無防備になるので、できれば前後にリュックを背負うといいと思う。友だちが一緒なら「荷物持ってあげるよ」とかいって自分の身を守るのもアリだ。
課せられたミッションが怖い
内容については詳しく書けないのが残念だが、簡単に説明すると、ある屋敷で女性がひどいことになっており、おかげで恨みがすごいのでちょっとしたミッションをこなすことでなんとかしてあげよう、ということである。
だけどそれは余計なお世話だと思いますよ。
このお客に課せられた「ちょっとしたミッション」が、今までに体験したことのない怖さなので注目である。お化け屋敷って息を止めて駆け抜けるもの、みたいに考えている人がいるかと思うが、課題が課せられるとそれができないのだ。ほんとによくできていて作った人を恨みたくなる。
ぼ、ぼ、ぼくは悪くないじゃないですか。
このお化け屋敷はクリエイター集団チームラボが映像演出に関わっているとのことで、テクノロジーを駆使した仕掛けもすごかった。具体的に警告すると、床がやばい。あとラスボスがどれだけ注意しても意味がないくらいにやばい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
これら幾多の困難を乗り越え、ミッションを達成した僕は本当に偉いと思った。
完全に魂を抜かれた後。
このあとプロデューサーにインタビューをしなきゃいけないのだけれど、一回帰って下着を替えてきたい気分である。
プロデューサー五味さん登場
そんな僕を出口で待ってくれていたのは、お化け屋敷プロデューサーの五味さん。この怨霊座敷を作った本人である。
五味さん。後ろに写っている怖い人は見ないことにしてください。
どうしてこんなに怖いものを作ってしまったのか、お話をうかがった。
大人のためのお化け屋敷を作りたかった
「怨霊座敷」を作ったお化け屋敷プロデューサーの五味さんにお話をうかがった。
どうしてこんなに怖いものを作ったんですか。
インタビューというよりも、どちらかというと苦情に近い。
五味「お化け屋敷って子どもだましみたいなイメージがあるじゃないですか。それを覆したかったんです。だから大人が入っても楽しめるものを、と思って作っていますね。」
今日は五味さんに会うということで五味さんの著作を読んでから来たのだけれど、この本もまったくもって子ども向けではなかった。家族の話がベースにあるのだけれど、そこに抜けないトゲが刺さったみたいに恐怖がしつこく付きまとう。
表紙が怖いので小さく載せておきますね。
小説も怖いのだけれど、五味さんはもともと小説家というわけではなく、学生の頃からお芝居の脚本や演出を手掛けていたのだとか。そのうちにアルバイトで始めたイベント企画の仕事で大人も楽しめるお化け屋敷を提案したところ、これがヒット。いまでは押しも押されぬ最恐のお化け屋敷プロデューサーとして知られるようになった。
お客の想像力を育てるのがコツ
怖いお化け屋敷を作るためのコツとかってあるのだろうか。
五味さん自身はすごく面白い方です。
五味「基本的な部分はあると思うんです。たとえば明るいより暗い方が怖い、曲がり角やドアが多い方が怖い、そういったお化け屋敷の定石の部分ですね。」
そうか、そういえばさっきのお化け屋敷も曲がり角とドアが多かった!
もちろん開けたくない。
曲がり角やドアがあると、その先に何かありそうな気がするのだ。なるほど、あれはお化け屋敷ならではの仕掛けだったのか。
五味「お客さんはものすごく構えながら入ってくるんです。あそこを曲がると何かいるに違いない、あそこからなにか出てくるに違いない、と想像力を働かせて予測するんですね。その想像力を逆手にとって、怖さの部分を育てるように設計します。」
意地悪である。しかし体験するとまんまと五味さんの術中にはまったことがわかる。
とにかく想像力が大切なので、ストーリー性も怖さの秘訣なのだとか。
バンジージャンプとかスカイダイビングとか、人はお金を払ってまであえて危険なことをしちゃう謎の生き物なのだ。お化け屋敷が怖く進化するのもいわば必然なのかもしれない。
実は怖がり
ところで五味さんは自分で作ったお化け屋敷で怖くなっちゃうことはないんですか?
五味「それはまったくないですね。」
五味さんいわく、自分の頭の中で考えたものを形にしただけなので、いくらその完成度が高くても怖くは感じないのだとか。
本当ですか?そもそも怖いものが平気なたちなんじゃないですか。
五味「いえ、人一倍怖がりだと思います。他の人が作ったお化け屋敷とか、怖くて嫌ですから。」
まさかの怖がりだった。五味さんはお化けを信じてはいるが、ぜったい見たくないとも言っていた。そこも僕と同じである。ということは、僕にも五味さんみたいに怖いお化け屋敷を作る資質があるのかもしれない。
怖いから作らないですけどね。
お化け屋敷の進化がすごい
お化け屋敷というとろくろ首の首が伸びたり人だまが天井からつられていたり、失礼ながらそんな高校の文化祭レベルのものを想像していたのだけれど、最新のお化け屋敷を体験するとそのエンタメとしての完成度の高さに驚かされると思う。
もうこれ以上怖くなったら僕は無理なので、あまり進化させなくてもいいですよと個人的には思うのだけれど。
と思っていた矢先に怨霊座敷はさらに怖くリニューアル予定なのだとか。絶対行きません。
「怨霊座敷」
企画制作:(株)オフィスバーン
プロデュース:五味弘文
映像演出:チームラボ
※7/2(月)~7/13(金)の期間、「怨霊座敷」は『超・怨霊座敷』への転換のため、営業を休止します。