特集 2018年5月1日

突然出前を送りつけられる最高の生活

3日に渡って、出前を送りつけられました
3日に渡って、出前を送りつけられました
マンガやドラマで、出前を勝手に送りつける嫌がらせがある。さぞ迷惑だろうなと思う一方、ピザや寿司が突然届くのが羨ましいなとも思う。

あれって、送る側に悪意がなければ最高なんじゃないか。筆者が出前を送りつけられる側になり、送り主を変えて3日に渡って試してみた。
1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

前の記事:大人が3人いれば「ドクロ」くらい漢字で書けるんじゃないか


出前を送りつける嫌がらせがある

昔のドラマや漫画で、嫌がらせで出前を送りつける行為があったと思う。こんな感じだ。
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頼んでいない高額な出前が迷惑な時間帯に来る。嫌だろうなと思う。行為そのものは犯罪である。

ただこの嫌がらせ、ピザや寿司が届いているのだ。ピザや寿司である。タイミングや金額を見るととても迷惑だが、ピザや寿司が届くのはとても嬉しい。
悔しいかもしれないが熱々のピザを持っている。ピザ食べたいな、と思う。
悔しいかもしれないが熱々のピザを持っている。ピザ食べたいな、と思う。
頼んでいない出前が突然くる。これって悪意なくやられたら最高なんじゃないだろうか。試してみた。

条件を考えよう

頼んでいない出前が突然くる。これを実現させるために下のような条件を作り、3名の方から出前を送りつけてもらった。
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うちは、妻と4ヶ月の娘と筆者の3人暮らしである。妻と話し合い、不測の事態が起きても許容できる範囲で条件を考えた。これなら何をどう送りつけられても最高のはずだ。わくわくした感情しかない。

1日目 意外なものが来た

さあ、1日目である。その日は妻もご飯の準備が必要ないので、娘を寝かせてスマホのバックアップを取っていた。しかし、しばらくやっていなかったのでうまくいかない。時間があるので徹底的にやろうと、普段つないでいないパソコンにつないで、もそもそといくつかの方法を試す。
空いた時間にやることとして、ちょうどいい作業だと思う。
空いた時間にやることとして、ちょうどいい作業だと思う。
ちなみにこの時間に「何が届けられるんだろうか」と考えてはいけない。最初に考えた条件以外は、あの嫌がらせの状況に似せておきたい。頼んでいない出前が突然届けられるのだ。ご飯どきにご飯のことを考えないのはもう全然無理だったが、2人ともご飯のことは考えていない「ふり」をしながらスマホの設定をあれこれいじっていた。

すると突然知らない番号からの電話が鳴る。「出前が予定より早く着いてしまうのですが大丈夫でしょうか」と言うのだ。「え?出前?」と思ったが「いいですよ」と返事をする。妻になんの電話か聞かれるが曖昧に答える。なるべく予告のない状態で出前が届いた方がいい。

この時点でところどころ行動が矛盾しているが、全て「出前を突然送りつけられる」ためである。この後もこのような矛盾した挙動が続くが、そういうものなのだと思いながら見守って頂きたい。
そして…
そして…
そして突然、玄関のチャイムがなる。「こんな時間になんだろうね」と言いながらドアを開けると、なんと出前が届いていたのだ。

そうだ! 編集部の藤原さんからである。ここで突然、出前を送りつけて欲しいと事前にお願いしたことを思い出した。なんだってんだ! 藤原さんめ!
編集部の藤原さん。
編集部の藤原さん。
してやられた!
してやられた!

嬉しい!

4,000円ほどを配達員さんに支払う。突然にしてはなかなかの出費である。でも嬉しい。なぜかというと4,000円くらい払うだろうなと何となく思っていたし、ちょうどお腹が空いていたからである。(僕の中に嫌がらせを受けたい自分と、企画の準備をした自分が同時に存在しています。)

しかし袋が冷たい。形もごろごろしていて料理が入っている感じがしない。一体なんだろうか。
これは…!
これは…!
くっそー! もつ鍋だ!
くっそー! もつ鍋だ!
上野にある、もつ鍋屋さんの出前らしい。
上野にある、もつ鍋屋さんの出前らしい。
全く予想していなかった、自分で作るタイプのもつ鍋が届いた。いや、そもそも出前が来ること自体予想していなかったのだが、それにしてもびっくりした。

よくご飯のメニューを考えるときに「今はステーキってテンションじゃない」とか「お刺身の口じゃない」とかいう言い回しがあるが、突然届いたもつ鍋は一瞬で受け入れることができた。一瞬でもつ鍋のテンションともつ鍋の口になったのだ。軽い足取りで準備をする。
モツを温めて、
モツを温めて、
ニンニクと唐辛子を入れて野菜を煮込む。
ニンニクと唐辛子を入れて野菜を煮込む。
こってりとしたいい匂いがする。くっそー、藤原さんめ!
こってりとしたいい匂いがする。くっそー、藤原さんめ!
そういえば藤原さんが、前に「ご飯は炊いておいてもいいかもしれません」と言ってくれていた。「一体何のことだろう」と思いながら炊いたが準備しておいてよかった。
こういった食卓になった。くーー、やられた!
こういった食卓になった。くーー、やられた!
ノンアルコールビールが冷蔵庫にあったのでいそいそと出してくる。最高だ。最高である。
うまい!!
うまい!!
お店の味だ。ニンニクと唐辛子が効いている。なんてものを送りつけてくれたんだ、ちくしょう!許さんぞ!
出前なのに熱々じゃないか! なんてうまいんだ!
出前なのに熱々じゃないか! なんてうまいんだ!
ビールに合うじゃないか、もう!
ビールに合うじゃないか、もう!
締めは麺だと、なんて粋なことをするんだ! 藤原さんめ!
締めは麺だと、なんて粋なことをするんだ! 藤原さんめ!
麺もうまい! ちくしょう!
麺もうまい! ちくしょう!
というわけで怒涛のうまさ、怒涛の良さがあった。選んだ理由を色々と想像しながら食べるご飯はおいしかった。プレゼントを受け取った感覚だろうか。だとしたら随分図々しいお願いをしてしまったが、そんなことを忘れるくらいおいしく感じた。無事出前が届いた報告をして、藤原さんからコメントをもらいました。
ピザや寿司など定番の出前もいいですが、こういう機会はなかなかないので意外性があった方がよかろうとモツ鍋にしました。みそ、醤油、しおの3種類の味があり、どれがおいしそうかしばらく迷ったんですけど、これ自分が食べるんじゃないんだよなと気づいてベーシックな醤油味に決めました。プレゼントを選ぶような気持ちになりますね。味はいかがでしたでしょうか?
味はおいしかったです。ありがとうございました!

2日目 奇跡、起きる

出前を送りつけられる生活、2日目である。出前ばかり食べていては贅沢が過ぎるので、藤原さんのもつ鍋から1日空けて、今度は編集部の安藤さんにお願いした。
編集部の安藤さん。
編集部の安藤さん。
「出前を送りつけてほしい」と頼んだら「わかりました いまですか」のスピードで了承してくれた。すごいスピード感で生きている。
「出前を送りつけてほしい」と頼んだら「わかりました いまですか」のスピードで了承してくれた。すごいスピード感で生きている。
この日はまたご飯のことは忘れてテレビを見ていた。録りためていたバラエティ番組を見ていたのだ。
テレビ。
テレビ。
すると玄関のチャイムが鳴る。「何だろう、こんな時間に」と言いながら出る。出前である。

「なんだと、出前だと!」というおなじみのリアクションをして、受け取った袋を一旦部屋の中に置いて財布を取りに行く。お代を払って部屋に戻ると、妻が硬い笑顔で僕の置いた袋を見つめていた。
これは…!
これは…!
もつ鍋だ…!!
もつ鍋だ…!!
1日目と同じものが届いてしまった。「うまいものを選んで送れ」という傲慢なお願いをしてきたバチが当たったのだろうか。最も起きなくていい奇跡が起きてしまった。誰にも悪意がないのに結果的に嫌がらせみたいな状況が完成してしまったのだ。
全く同じかと思ったら違うところもあった。気を遣って鍋をオプションから外しておいてくれたのだ。
全く同じかと思ったら違うところもあった。気を遣って鍋をオプションから外しておいてくれたのだ。
あと味も違った。1日目の藤原さんのもつ鍋はしょうゆ味、2日目の安藤さんのもつ鍋はみそ味だった。すごく、すごく助かる。
野菜を煮る。もう説明を読まなくても作れる。
野菜を煮る。もう説明を読まなくても作れる。
木の器の方が熱くなくて持ちやすいという知見も得ている。
木の器の方が熱くなくて持ちやすいという知見も得ている。
もつ鍋だ。ちくしょう…!
もつ鍋だ。ちくしょう…!
善意のもつ鍋と善意のもつ鍋の板挟みになってしまった。悪意さえなければハッピーじゃないかと思っていた僕が甘かった。純粋な善意から始まる悲劇が世の中にはたくさんあるのだ。

2日ぶりのもつ鍋を食べながら人類が今まで生み出してきた悲しみに思いを馳せていたが、一緒に食べていた妻が笑っていたのが救いだった。なんかごめん、なんかごめんと言いながらもつ鍋を食べた。「なんかごめん」以外になんて言えばいいのだ。
締めはそう、麺だ。おいしいのだがおとといの追体験という感じがどうしてもしてしまう。
締めはそう、麺だ。おいしいのだがおとといの追体験という感じがどうしてもしてしまう。
食後、安藤さんにも届いた報告をしてコメントをもらった。
もつ鍋セットを選んだのは、料理したくないから出前とるのに食材が届くのが嫌がらせっぽいなと思ったからです。オプションで鍋を抜いておきました。最後まで大盛り焼きそばプレート2枚(1枚だと金額的に出前不可だったので)と悩んだんですが、そんな大量に焼きそば送り付けたら本当に嫌がらせっぽいなと思い、とどまりました。
「迷惑にならない程度の嫌がらせっぽさ」を探った結果のもつ鍋だったようだ。安藤さんらしい選択だと思う。ということは、やはりこのもつ鍋は偶然連続で届いたもつ鍋である。マジの嫌がらせでないならまだ前を向いて生きていける。3日目だ。3日目にいこう。

3日目 大切なのは信じる心だ

また1日空けて3日目、この日はアマゾンプライムでロードオブザリングを見ていた。
娘を寝かしつけながらスマホで見ていた。
娘を寝かしつけながらスマホで見ていた。
フロドが必死に火山を登る様子を見ながらどうしても脳裏に浮かんでしまうのはもつ鍋のことだ。もつ鍋以外が食べたい。もつ鍋以外が食べたい。

この日の出前は編集部の古賀さんにお願いした。
古賀さん。もつ鍋は好きだろうか。どうだろうか。
古賀さん。もつ鍋は好きだろうか。どうだろうか。
お願いするにあたって「もつ鍋以外で」と条件を付け足すことを本気で考えたが、仲間(担当編集の藤原さんと妻)の励ましを胸に今までと条件を揃えたオーダーをした。フロドも指輪の誘惑に耐えながら旅をしている。僕も、頑張るなら今だと思った。

やがてインターホンが鳴り、出てみると…
もつ鍋ではない感じのもの!!
もつ鍋ではない感じのもの!!
温かい袋を渡された。生の野菜にはない、調理された食べ物の温もりである。
カレーでした!
カレーでした!
インドカレーのチェーン店、ターリー屋の出前である。すごい。どこからどう見てももつ鍋ではない。妻もほっとしている。

ターリー屋って庶民派価格のカレー屋さんなので4,000円ほどとなるともう机の上がパーティーみたいになるのだ。
カレーは、バターチキン、キーマ、ベジタブルの3種類。
カレーは、バターチキン、キーマ、ベジタブルの3種類。
ナンもご飯もあるし、
ナンもご飯もあるし、
普段ならなかなか頼まないチキンの何かと
普段ならなかなか頼まないチキンの何かと
なんかケチャップのついたごろっとした何かもある。
なんかケチャップのついたごろっとした何かもある。
いかんせん送りつけられたので食べ物の名前が分からないが、チキンの何かもケチャップの何かもとても嬉しい。もつ鍋ではない喜びを噛みしめながら机に並べた。
うまい!!
うまい!!
カレー3種類と、ナンとご飯、それぞれの組み合わせを食べ比べるのがとても楽しかった。その合間にチキンのやつとケチャップのやつを食べるのだ。もうパーティーであるこれは。

ちなみにチキンのやつは多分タンドリーチキン。ケチャップのやつは、スパイスがたくさん入ったポテトサラダを餃子の皮みたいなもので包んで揚げたものだった。調べたらサモサというらしい。サモサ、おいしかった。

古賀さんに無事届いた報告をして、コメントをもらった。
出前というと日常系が蕎麦で祭系が寿司とピザみたいなイメージがあって、でもそれ以外にもいろいろ出前ってあるらしいぞということで「それ以外系」から選ぼうというのは最初に決めてました。

そのなかでナンって家で食べたことないなーと思って、いっぺん家で食べてみたいということでターリー屋に決めました。
やっぱり寿司やピザ以外にしたくなるのが人の心理みたいだ。古賀さんの「家で食べたことないもの」の中にもつ鍋はあったのだろうか。あったかもしれない。ぞくぞくする話である。

出前を送りつけられるの、楽しかった

家庭の食卓というのはかなり閉じられた神聖なものだ。なかなか他人にあれこれ言われたりメニューを指定されたりはしないものだろう。せいぜい1品もらうくらいだ。そこをもう強引に、他の人の色に染めてしまう方法として、出前を送りつけられるのはとてもおもしろかった。全然嫌じゃない。かなり嬉しい。もちろん悪意なく送りつけてもらっているからなのですが。

あとこれ、頼み方が肝になる試みだと思った。出前を送る方はかなり色々考えてくれようとするが「自分が今食べたいもの」ぐらいの気軽さで選んでもらった方がいい。金額の設定も、ちょっと減らして2人前で3,000円にするだけでだいぶ結果が変わりそうだ。

1日空けて2度も同じ家庭にもつ鍋を届けたあのもつ鍋屋さんは、我が家のことをどう思っているだろうか。家で飲み会をする予定が急遽2日後にずれたと思ったかもしれない。僕ならそう思う。
あと、チゲと塩だ。食べてないのは。
あと、チゲと塩だ。食べてないのは。
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