とくべつ企画「あなたの知らない世界」 2018年3月25日

動物園で骨折した次の日に風邪で学校を休んだ

これくらいの段差から飛んで骨折しました
これくらいの段差から飛んで骨折しました
いまから30年ほど前。小5のとき、動物園で右足を骨折した。

骨折したのだけど、その時はまさか骨を折ったとは思わなかった。だって20cmくらいの段差だったのだ。

※この記事はとくべつ企画「あなたの知らない世界」のうちの1本です。
1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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なんの動物を見たか覚えていない

順を追って説明しよう。

僕の生まれ故郷、宮城県には動物園がひとつしかない。場所は仙台市。お馴染み伊達政宗像が立つ青葉山……の、そばにそびえる八木山にある。

僕が子どもの頃は「八木山動物園」という名前だったが、知らぬ間に「セルコホーム ズーパラダイス八木山」という名前になっていた。

ネーミングライツだ。故郷を離れているうちに動物園に経済の波が来ていた。なんなら動物園のそばに地下鉄東西線まで通っている。

今どうなってるんだあの辺りは。そわそわするが、とりあえず今は八木山動物園と呼ばせてほしい。
そんな八木山動物園で再現写真を……と思ったけど宮城まで足を伸ばすのをサボり、上野動物園に来ました。
そんな八木山動物園で再現写真を……と思ったけど宮城まで足を伸ばすのをサボり、上野動物園に来ました。
たまたま開園記念日につき入園無料になるという、まさかのラッキー。
たまたま開園記念日につき入園無料になるという、まさかのラッキー。
僕は仙台市から車で1時間ほどの場所に住んでいたので、「八木山動物園に行く」ということはなかなかの大イベントだった。年に1回あるかないか。その八木山動物園に、おじさんが連れて行ってくれるという。おじさんの娘たち(僕のいとこ)も一緒だ。

そりゃテンションもあがるだろう。ちょっとしたモッシュすら起きかねない勢いだ。だが、動物園に着いてからどんな動物を見たのかは、びっくりするほど覚えていない。
上野動物園ではシャンシャン(要予約)を見ることができなかったが、オスのリーリーはいた。後ろを向いて笹を食べている
上野動物園ではシャンシャン(要予約)を見ることができなかったが、オスのリーリーはいた。後ろを向いて笹を食べている
プレーリードッグ。後ろ向き。
プレーリードッグ。後ろ向き。
ライオン。後ろ向き。どうした?どうしたみんな?なぜ目を合わせてくれない?
ライオン。後ろ向き。どうした?どうしたみんな?なぜ目を合わせてくれない?
僕と妹と2人のいとこ、子ども4人であちこち散策したはずなのだけど、象を見たような見ないような、曖昧な記憶しかない。

なぜならこの後の事ばかり覚えているからだ。

誰も骨折だと思っていない

八木山動物園の園内をぐるりと巡り、我々一行は動物園の入園口まで戻ってきた。まだテンションが高い。入園口のそばにあった、車椅子用のスロープを走り回っていた。
上野動物園で言うと、入園口から入ってすぐの辺り。ちなみに園内はバリアフリーが進んでいて、S字スロープを見つけることが出来なかった
上野動物園で言うと、入園口から入ってすぐの辺り。ちなみに園内はバリアフリーが進んでいて、S字スロープを見つけることが出来なかった
車椅子が段差を乗り越えるために、S字に設けられたスロープがあったのだ。子どもの目にはちょっとした「コース」に映り、曲がりくねりながら駆け下りて、また上って駆け下りてを繰り返した。それはそれはグルグル走り回った。さらにテンションはアップし、前の走者に追いつくために、コースを乗り越えて段差を飛んだ。

グキッ

着地に失敗した。大袈裟な音を出してしまったが、結論から言うと右足の小指の付け根に小さなヒビが入った。今思うにたった20cmほどの段差である。小5男子が飛ぶにはイージーすぎる段差だ。

……な、はずなのだが、僕は体育が大の苦手で、鬼ごっこで誰にも追いつけなかったり、キックベースで三振したり、身体能力がバグっていたので難易度についてはあまり大きな声を出せる立場にない。
これくらいの段差だったと思うんですが……。
これくらいの段差だったと思うんですが……。
これはちょっと高いですね。
これはちょっと高いですね。
切り株じゃなかったんですよ。もっと固い材質なんですよ。
切り株じゃなかったんですよ。もっと固い材質なんですよ。
いや固いけどもこんなにツルツルしてない。
いや固いけどもこんなにツルツルしてない。
いやいくらなんでも低い……けど、否定できる自信が無い。
いやいくらなんでも低い……けど、否定できる自信が無い。
足が痛い。痛いけど、全く歩けないわけではない。この時僕を含め全員が「ねんざ」だと思った。無理もないだろう。この状況で「骨折だー!」と転げ回るようではクレーマーだと思われるだろう。

さて八木山動物園に別れを告げるわけだが、仙台に来た目的は動物園だけではない。いとこが描いた絵がコンクールに入選し、市街地のデパートに飾られているのだ。

痛む足を引きずりながら絵を見に行った。エレベーターで催事場のフロアまで昇る。牛の絵に金賞を示す金色の折り紙が貼ってあった。この日一番覚えている動物の姿がこれだ。

心配と「やれやれ」の狭間

帰宅。動物園でねんざした旨が母に告げられる。小5の息子が動物園ではしゃいでねんざである。なんなら、いとこ達の中で一番年上だ。

30年後のいま、ちょうど小5の子どもがいるのだが、そんなことになったら「大丈夫…?」と「やれやれ」が混在するだろう。あの時の母もそうだったのだろう。
親子のイメージです(ゴリラ像)
親子のイメージです(ゴリラ像)
翌日。湿布を貼って一晩寝たが、もちろん骨がくっつくわけもなく、足はズキズキと痛み、腫れも広がってきた。平日なので学校に行かねばならないが、昨日よりも痛くて歩けない。

ここで恐らく母親は「やれやれ」のほうに天秤がぐらりと傾いた。学校には「風邪を引いた」と一報を入れ、一日様子を見なさいということになった。説明責任の放棄である。

その後、引率者として責任を感じたおじさん一家が「念のため病院に行こう」と来てくれて、ようやく骨折が判明した。レントゲンを一瞥した医者は「折れてますね」とあっさり告げた。
これはライオンの生活圏内に置いてあった生々しい骨です。
これはライオンの生活圏内に置いてあった生々しい骨です。
人生初の骨折である。そんなにあっさり言う……!? と感じたのを覚えている。もっと重々しく告知されるのを期待していた。毎日患者を診る医者には普通のことなのだろうけど、「ホコリついてますよ」くらいに軽く言われたのがなんだかおかしかった。

風邪で寝ていたんじゃなかったのか

足にギプスをはめられ、療養のため3日ほど家でダラダラしたあと、父親に車で学校まで送ってもらって登校した。松葉杖をつきながら教室に入っていくと、同級生たちがざわついた。

「風邪は!?」

そうだった。

初日に母親は「風邪を引いて休む」と言ったんだった。3日ほど休むにあたり、学校には「骨折しました」と言い直したらしいが、担任から同級生たちに与えられた情報はこうだ。
風邪を引いて寝る → 足を骨折!!
風邪を引いて寝る → 足を骨折!!
全くつながらない。

「風邪で寝ていたはずなのに、どうして足を折ったんだ」「転んだのか」「寝相が悪かったのか」「夢遊病か」「宇宙人に折られたのでは」「キャトルミューティレーションだ」「それは血と内臓を抜かれるやつ」と、憶測が飛び交う教室。そこに本人が松葉杖をついて登場した。みんなが目を輝かせて聞いてくる。

「どうして骨折したの?」

恥ずかしい。ややこしい。聞かないでほしい。

あの日母親が放棄した説明責任が、こんなに重いものになるとは思わなかった。

ラブストーリーと骨折は突然に

なんだか「嘘をつくと後々大変になるよ」という寓話みたいになってしまった。大変もなにも変な場所で骨折しているから色々おかしくなったのだけども。

あの骨折は1ヶ月弱で完治し、その後現在に至るまで、幸運なことに骨を折ってはいない。最初で最後の骨折になることを祈りたい。

あと、折れたら正直に申告しようと思います。
トラはこっちを向いてくれました。
トラはこっちを向いてくれました。
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