特集 2018年2月22日

冬の桑畑がかっこいい!

すごいでしょう、言いたい事は以上です。
すごいでしょう、言いたい事は以上です。
真冬に見た桑畑がただかっこよかった。なので養蚕の名残りを追いかけながらファインダー越しの桑畑の世界を堪能した。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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桑畑が稀少になっていた

明けましておめでとうございます。
明けましておめでとうございます。
正月休み、神奈川県厚木市の実家に帰省し、父の所有する「月刊カラオケファン」をパラパラとめくると特にやる事もなくなるので近所を無目的にブラブラする。
父のカラオケファン棚。「貸してくれ」と頼んだら断られるくらいの愛読者である。
父のカラオケファン棚。「貸してくれ」と頼んだら断られるくらいの愛読者である。
牧歌的な住宅街を歩いていると突然目の前に悪魔的な光景が広がり心のずっと奥の方がざわめき散らした。
なんじゃあれは。
なんじゃあれは。
鳥じゃない、飛行機でもない、桑畑だ、なんか異様にかっこいい。
バーン
バーン
ワッシャー!
ワッシャー!
妖怪だー!
妖怪だー!
いい年こいていろんな人が閲覧するインターネットのホームページの写真に「妖怪だー」とか書いてなぎ倒されはしないだろうかと心配になるが、そのぐらい圧倒的だったのである。
このややこしい枝と樹皮!
このややこしい枝と樹皮!
しかしこれがあの桑畑か。桑畑っていうのは背の低い木に柔らかい緑の葉っぱを茂らせて、初夏のいたずらな雨があがるとその上をかわいいカタツムリがのそのそ歩いていて、そんなんじゃなかったっけ。毛を刈ったアルパカを見た時のようなビジュアルショックだ。
どてっぱらに風穴!ベリーワイルド!
どてっぱらに風穴!ベリーワイルド!
どこを目指してんだそれ!
どこを目指してんだそれ!
そういえば私が子供の頃は通学路の脇にまだ桑畑あったけどなあ、あと民家の畑に防空壕があって、入りたいと家のおじいちゃんに頼んだら「富士山のマグマにつながってるからダメだ」とか地獄同然の理由で断られたなあ。

改めて探してみたがぜんぜん見当たらない。桑畑がなくなっているのだ。
畑の周囲に植えられた桑の木は見かける。このあたり(相模原市周辺)では防風などの目的でこのように植えられた桑を「マワリックワ」と呼ぶらしい。
畑の周囲に植えられた桑の木は見かける。このあたり(相模原市周辺)では防風などの目的でこのように植えられた桑を「マワリックワ」と呼ぶらしい。
それはそれでかっこいいマワリックワ。リラックマみたいだがぜんぜんリラックスしてない。
それはそれでかっこいいマワリックワ。リラックマみたいだがぜんぜんリラックスしてない。
もっと見たいな桑畑。どこに行けばいいのだろう。

桑といえば生糸を作るお蚕様の食事(葉っぱ)だが、養蚕業は和装離れや化学繊維の普及、海外製品の台頭などにより現在は衰退の一途をたどっている。神奈川県も例外ではなく、最盛期で8000軒以上存在した養蚕農家も2010年には全て廃業したという。

県内各地の民俗資料館や博物館ではその足跡がいろいろ残されているが、取り急ぎ目に止まったのが相模原市にある相模田名民家資料館だった。
明治から昭和にかけての養蚕農家の姿を伝える木造の資料館。当時の民家が再現されている。
明治から昭和にかけての養蚕農家の姿を伝える木造の資料館。当時の民家が再現されている。
養蚕業の今昔を写真で解説。
養蚕業の今昔を写真で解説。
蚕に繭を作らせる枠「まぶし」蚕の性質を利用して効率よく繭を作ってもらう仕組みになっている。
蚕に繭を作らせる枠「まぶし」蚕の性質を利用して効率よく繭を作ってもらう仕組みになっている。
鍋で煮て柔らかくした繭(まゆ)から糸を取る座繰器。
鍋で煮て柔らかくした繭(まゆ)から糸を取る座繰器。
かまいたちによって3層に分かれたオカイコさま模型。
かまいたちによって3層に分かれたオカイコさま模型。
駐在している方にこのあたりに桑畑はありますかと聞いてみたところ、やはり今ではすっかり見られなくなったようだ。周辺を日が暮れるまで歩いたがぽつぽつとマワリックワを見つけた程度だった。
しかしものすごい存在感。
しかしものすごい存在感。
こっちに歩いてきそうだ。
こっちに歩いてきそうだ。
うおーごちゃごちゃしてたまらん。
うおーごちゃごちゃしてたまらん。
やばいの見つけた!家の庭に移植したい。
やばいの見つけた!家の庭に移植したい。
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関東のシルクロード

相模田名では桑畑は見つからなかったが収穫はあった。

資料館の解説によれば安政6年(1859)横浜港が開港すると、群馬や埼玉、長野、山梨などで生産された生糸が輸出のために八王子に集積され、横浜に送られていたという。
明治中頃まで生糸の仲買で栄えた八王子~横浜のルートは後年の研究者によって「絹の道」と名付けられている。
明治中頃まで生糸の仲買で栄えた八王子~横浜のルートは後年の研究者によって「絹の道」と名付けられている。
そんな身近にシルクロードが存在していたとは。今でも当時の街道が未舗装で残っている部分があるらしい。じゃあそこに桑畑があるかというとそういうわけでもないんでないのと思ったがとにかく行ってみようよ、それからじゃん。
おそろしい事実をリークするブルゾンなんとか。
おそろしい事実をリークするブルゾンなんとか。
京王線南大沢駅からバスで鑓水(やりみず)方面へ向かう。バス停はその名も「絹の道入口」。
襲いかかる気まんまんの鳥
襲いかかる気まんまんの鳥
カリスマ性の高すぎるホタルがいた。
カリスマ性の高すぎるホタルがいた。
バス停から10分程歩くと「絹の道」資料館に着く。
ここでさらに、八王子も織物がかなり熱かったことを学ぶ。
ここでさらに、八王子も織物がかなり熱かったことを学ぶ。
話を聞くとこの周辺にも桑畑はほとんどないのではないか、むしろ八王子駅方面を見た方がよいのではと言われた。
史跡となっている「絹の道」にも行ってみたが雪でシルキーなことになっていた。
史跡となっている「絹の道」にも行ってみたが雪でシルキーなことになっていた。

八王子駅がかなり桑

八王子駅北口を出ると、大容量2000テラバイトのハードディスクのようなオブジェにきらびやかなレインボーの装飾「絹の舞」がたすきがけされている。
八王子の「八」なのかな?
八王子の「八」なのかな?
古くから八王子は「桑都(そうと)」と呼ばれ養蚕業や絹織物がさかんだった。さらに幕末から明治にかけて「絹の道」を通じた生糸流通の拠点としても活況を呈していた。

で、その桑要素の濃さにちなみ、昭和29年に駅北側の通りに世界でもまれな桑並木が植樹され「桑並木通り」となっているらしい。桑畑を追っかけるまで全然知らなかった。
「桑並木通り」ただし駅のすぐ北の並木はマロニエ。
「桑並木通り」ただし駅のすぐ北の並木はマロニエ。
駅から北へしばらく歩いて甲州街道とぶつかる交差点から桑並木がはじまる。これがまたすごかった。
おお、これは……。
おお、これは……。
カマキリだー!
カマキリだー!
整然とした印象など与えてたまるかという勢い。
整然とした印象など与えてたまるかという勢い。
商業ビルが立ち並ぶ大通り沿いで、原生的なうごめきのように思い思いに幹をよじらせている桑達の迫力がものすごい、もうなんならエロい。
ぜひ下から見上げてください。すごくかっこいいから。
ぜひ下から見上げてください。すごくかっこいいから。
駐車禁止とのコラボ
駐車禁止とのコラボ
さらに北上し滝山街道方面へ。道の駅付近に広々とした桑畑があった。
スレンダーな脚をきれいなV字形で突き出している。シンクロナイズド桑畑だ。
スレンダーな脚をきれいなV字形で突き出している。シンクロナイズド桑畑だ。
旧滝山街道沿いには小さいながらもいい桑畑が点在していた。
ビームのような枝!
ビームのような枝!
樹皮のガッサガサがとにかくいい。
樹皮のガッサガサがとにかくいい。
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秩父の桑畑スケープいいね

もういっちょ織物の産地に行ってみた。「秩父銘仙」で有名な埼玉県の秩父。銘仙とは絹の平織物の事で、もっと言うと平織物とは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせたシンプルな織り方で作られた丈夫な生地である。
西武秩父駅から徒歩5分「ちちぶ銘仙感」では秩父銘仙をはじめとした秩父織物の貴重な史料が展示されている。
西武秩父駅から徒歩5分「ちちぶ銘仙感」では秩父銘仙をはじめとした秩父織物の貴重な史料が展示されている。
古くから織物が盛んだった秩父では明治時代に独自の「ほぐし捺染」の技術を特許化し、今に伝わる「秩父銘仙」が誕生。大正から昭和初期にかけて女性のおしゃれ着として流行し、最盛期には7割の市民が織物業に従事していたという。
秩父銘仙の展示、ハイカラさんだ!
秩父銘仙の展示、ハイカラさんだ!
糸を撚ったり整える機械の展示がかっこいい。相模田名で見た農機よりがぜん工業的な感じだ。
糸を撚ったり整える機械の展示がかっこいい。相模田名で見た農機よりがぜん工業的な感じだ。
平成25年に国の伝統工芸品に指定され、現在でも生産が継続されている。数少ない現役、桑畑も期待できそうだ。

秩父~長瀞にかけてを散策すると、なかなかにフォトジェニックな桑畑達に遭遇することができた。
剪定されているものも、いないものも、迫力が違うのだ。
近づくと殴られそうな迫力。
近づくと殴られそうな迫力。
なにか新しい生き物の胎動のような
なにか新しい生き物の胎動のような
シートンがおもわず動物記を書きそうな立派な角。
シートンがおもわず動物記を書きそうな立派な角。
実家での暇つぶしを皮切りに始まったかっこいい桑畑をめぐる小さな旅はのけぞるほどすごい密度の枝との出会いをもたらした。秩父に来てよかった。
すごく振り乱している!
すごく振り乱している!
この密度すごくないですか
この密度すごくないですか
もう言葉はいらない
もう言葉はいらない

やたらめったらフリーダムに枝を伸ばし、生の歓びを謳歌しているようにも、髪量が多すぎて寝起きとかに困っている人のようにも見える冬の桑畑。いつの間にか随分と珍しい存在になってしまったが、このなんとも名状しがたき魅力に気付いてしまった。もう素通りはしない、させないぞ。
ぽつんとたたずんでるやつもいいよね。
ぽつんとたたずんでるやつもいいよね。
■ 取材協力
相模田名民家資料館
神奈川県相模原市中央区田名4856-2
TEL042-761-7118

ちちぶ銘仙館
埼玉県秩父市熊木町28-1
TEL:0494-21-2112
http://www.meisenkan.com/
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