稽古風景を見てください
詳しい説明は後にして、とにかく稽古風景を見てほしい。
左側に見えるモクモクはスモークではなく加湿器から出る水蒸気。やっていることがかっこいいと、水蒸気をも演出に見えてしまう
まずは基礎練習
これは主に着地の練習で、実際ショーの中でも登場シーンなどトランポリンを使って飛びステージに着地することが多くある。
もちろんステージ上にマットは敷いていないし、衣装を着た状態で衣装に引っかかり着地に失敗することもあるそう。
アクションというと派手な立ち回りを想像しがちだが、基礎を怠ると大きなけがや事故に繋がるので、こういった基礎練習がとても大切なのだ(大切なのだ、とか言っているが、全部教えてもらったことだ)
そして、その基礎と殺陣を組み合わせた立ち回りがこちら。
回転から刀の収め方まで何から何までかっこいい!!
わたしはここから稽古の終わりまで「かっこいい」「すごい」「やばい」しか言っていない。
取材メモを見返しても興奮しすぎて自分でも読めない暗号がつらつら書き綴られているだけなので、暗号を解きつつ一生懸命思い出して書こうと思う。
派手に見えて実はめちゃめちゃ細かい
アクションというと派手で豪快な動きを素早いスピードでこなすイメージがあるが、実は決まりごとがたくさんある上めちゃめちゃ細かい仕組みになっていることを知った。
言われてみれば「確かに!!」という知識が目白押しだった。
わたしが今回教えてもらった中で一番「確かに!!」と思ったベスト・オブ・確かに!!は、
時代劇の立ち回りを思い浮かべてほしい。
敵が主役に襲いかかる時、必ず「やー!!」とか「おりゃあー!!」とか、何かしら声を発してから襲いかかっている。
声が“今から襲いますよ”という合図になっているのだ。
この声があれば、後ろから襲われた場合も対応できる。
ちなみにこの声は「やー!!」でも「おりゃあー!!」でも「とりゃあー!!」でもなんでもいいらしい。
ただその他大勢の敵の中でひとりだけ「父のかたきー!!」などと意味を持った言葉を発してしまうと話の筋が変わってきてしまうので、きっと怒られるしやめた方がいいと思う。
敵側には見せるためのポイントがいくつもある。
さっきから敵敵言っているが、専門用語で中心にいる斬る役は【心(しん)】、周りにいる斬られる役は【絡み(からみ)】というと教えてもらったので、それで解説したいと思う。
動きがかっこよければ用語もかっこいい!
絡みは心を大きく見せるために、心より低い姿勢で構える
姿勢も刀の位置も低いため、誰が主役か一目瞭然
これが忍者の構えになると心の姿勢も低くなるので、絡みはもっと低くなる。
ひっく
なるほどこれなら衣装を着ていなくても主役感が伝わってくる。
ちょっとした工夫だが、やるとやらないとでは見え方は大違い。
また、絡みは斬られる際もポイントがある。
斬られた部分をお客さんにわかりやすいよう、わざと見せるそうだ。
とてもよく見えます
ほかにも、心が泳いだり絡みの攻撃を迎えにいったりしてしまうとかっこ悪いので、タイミングを心の役者によって変えたり、映像の場合はカメラの位置を把握してどう見せるかを考えた上で動くなど、抑えなければならないポイントがたくさんある。
考えただけで目が回った。
女子だってアクションが好き
そもそもなぜわたしがこれほどアクションに憧れを抱いてるかというと、小学生の頃ジャッキー・チェンの大ファンだったことがきっかけだ。
将来の夢は、ジャッキー・チェンと共演すること。
ジャッキーに少しでも近づくため中国語を勉強したり、英会話教室に通ったり、カンフー教室に足を運んだこともあった。
中学生になって「ギャラクシーアクションクラブ」の存在を知った。
ギャラクシーアクションクラブのショー出演者募集要項を見て電話をかけようかかけまいか、相当悩んだ記憶がある。
結局当時のわたしは勇気が出ず、応募をあきらめた。
浜松にアクションクラブができた理由
そんな憧れのアクションクラブに取材許可がもらえたのは、前回のわたしの記事で登場した音響マンの父のおかげである(父が登場した記事はこちら→
音響マンが教えるマイクのベストな持ち方は「松山千春」)
わたしの父は自営業で舞台やイベントの音響をやっていて、ギャラクシーアクションクラブの皆さんとも何度か一緒に仕事をしている。
そのつてで、今回代表の中村 茂さんを紹介してもらったのだ。
父よ、素晴らしき機会をありがとう!
素晴らしき哉、人生!
ギャラクシーアクションクラブ代表の中村 茂さん
中村さんは、ギャラクシーアクションクラブ創設者の一人だ。
元々は東映の所属で、東京で刑事もののスタントマンとして活躍していた。
土日祝日はヒーローショーに出演していたが、映像系スタントマンのプライドから“小遣い稼ぎ”と思っていたそうだ。静岡県民はペットボトルのお茶をお茶として認めない、というエピソードにちょっと似ている。
そんな中村さんだが、29歳の時頸椎損傷という大けがをしてしまう。
トランポリンを使ったアクションで、3回転するつもりが2回転半と回転が足りない状態で首から地面に落っこちてしまったとのこと。聞いてるだけで痛い!
当時の記憶を笑顔で語ってくれる中村さん。素敵な笑顔につられてわたしも笑うが、話の内容的には笑えない
そのことがきっかけで地元浜松に戻り、学生時代同じ体操部だった同級生2人と再会、そのおふたりと共にギャラクシーアクションクラブを立ち上げたそうだ。
これが、浜松にギャラクシーアクションクラブができた理由である。
今はショーの企画や演出、地元劇団などアマチュアの方の指導にも注力されている。
ちなみに中村さんは小学生のお孫さんもいるとのこと。
アクションクラブ代表のおじいちゃんなんてかっこよすぎるし、自分が孫だったら学校でゴリゴリに自慢したい。
敵が優しい
稽古中、わたしも立ち回りを体験させてもらった。
これから体験させてもらう立ち回りを、まずはギャラクシーアクションクラブの皆さんが実演してくれた。
観てるだけでブルッた。これができたらめちゃめちゃかっこいい!!
実はわたしも小学生の頃から約22年間、劇団などでミュージカルを続けている。
アクションはほぼ未経験だがコンビネーションや見せ方などはダンスと通ずる部分があるし、役の中で動くという芝居をベースにした考え方は、アクションもミュージカルもまったく一緒だ。
うまくやりたい。
うまくやってあわよくば褒められたい。
そんな思いで体験させてもらった立ち回り筆者バージョンがこちら。
混乱のあまり笑ってしまっている。
本当はかっこいい顔で決めたかったが、とても顔まで神経が行かないのである。
やっぱり見るのとやるのとでは全然感覚が違った。偉そうなこと言ってすみませんでした。
また絡みをやってくれたメンバーの皆さんがとっても優しいので、わたしがどこを斬るのが正解か迷っている時「おなか!おなか!」と小声で教えてくれるのだ。
敵、優しい!!
なかなか見ることのできない迫力ある稽古を見せてもらって、体験までさせてもらって、最高の時間だった。
一生忘れないし、きっと死ぬ間際に人生のいちシーンとして思い出すと思う。
平日はスーパーの鮮魚担当、週末はヒーロー
ギャラクシーアクションクラブの皆さんは、平日はそれぞれ仕事をこなし、休日ステージに立っている。
稽古時解説をしてくれた石川 亮さんはメンバー歴23年!高校生の頃から所属しているそうだ。
「ゴルフの石川 遼くんと漢字違いの石川 亮なんです」と紹介してくれた石川さん。ゴルフがうまいかどうか聞くのを忘れたので、今度会ったら聞きたい
石川さんが高校生の頃はジャッキー・チェンの全盛期。その頃はみんな好きで観ていたそうだが、それに加えギャラクシーアクションクラブのショーを観て入団を希望。以来数えきれないほど舞台を踏んでいる。
見せてもらったショーの通し稽古でも主役を担当。亮さんという名前もいかにもレッドっぽい!
貴重な女性メンバーのひとり疋田みさとさん(20歳)は、普段スーパーの鮮魚コーナーで働きながらこのギャラクシーアクションクラブに参加している。
鮮魚コーナーと聞いたので、稽古で刀さばきを見せてスーパーで魚をさばいていたらおもしろいなと思い「では、スーパーでは魚をさばいて…」と繋いだら、「いえ、さばいてはいなくて…詰めてます」と正確にお答えいただいた。
「魚を詰めています。トレーとかに」と疋田さん
疋田さん自身も元々学生時代から演劇をやっていたが、映画のスタントマンをやっているお姉さんの影響で(お姉さんかっこよすぎる)アクションの世界に飛び込んだそうだ。
男性メンバーが多い中参加した勇気だけでも素晴らしいと思うが、稽古中の疋田さんの表情はアクション俳優そのものである。
インタビュー中はかわいい女の子だったのに稽古ではこの表情
「ショー中、観ている子どもと目が合って楽しそうにしているのを見ると頑張ろうと思う」と疋田さん。
かわいさとかっこよさと謙虚さを併せ持った、素敵な方だった。
大西ルドルフォさん(30歳)は、やはりジャッキー・チェンに憧れ空手を始め、中学3年生の頃からギャラクシーアクションクラブに参加。15年もショーに出続けている。
30歳に見えない。お酒を買う際もよく年齢確認をされるそう
工場で塗装の仕事をする傍らショーに出演している大西さんは、この生活を続けているあまり、逆に休みができた時何をしていいか困ってしまうという。
土日ばっちり休んでいるわたしは申し訳ない気持ちになったが、大西さんはきっとアクションが好きで好きでたまらなくて、休むよりショーに出演している時間の方が心から楽しいのだろう。
「平日の夜、友だちとごはんに行ったりはします。からだが持てば(笑)」と笑う大西さんの表情からは、疲れは一切見えなかった。
大西さんの好きなジャッキー映画は酔拳シリーズ。ちなみにわたしは酔拳より酔拳2派(どうでもいい)
この日同行したカメラマンとまさかの同窓生だった齊藤豊大さん(46歳)は、高校生の頃高飛び込みの部活に入り、その友だちの友だちがギャラクシーアクションクラブに所属していたことから自分も入団したという。
所属して30年と歴も長く、稽古中は後輩の指導にもあたる
齊藤さんは印刷会社会社員と、3児の父と、アクションクラブメンバーと、さまざまな顔を持つ。
これまで半月板や靭帯のけがも経験しているが、ショーを観てお客さんが喜んでくれることが嬉しく、痛みが取れればすぐに復帰してきたという。
トラウマになってまたやるのが怖くなるのでは?と思ったが、齊藤さんの頭の中にはそんな考えは微塵もないらしい。
代表の中村さんも、齊藤さんも、大けがの部類に入るけがを笑顔で語ってくれるので、わたしはその都度あまり使ったことのない「フヘヘ」という笑顔で相槌を打った。
取材後、中学で齊藤さんと同じクラスだったカメラマンから聞いた話によると、齊藤さんは中学生の頃からヒーローものが好きで、科学室で何か光り物の実験をした時それをバックに変身ポーズを決めていたのが記憶に残っているとのこと。
子どもの頃から憧れていて今本物のヒーローになっているなんて…かっこよすぎる!!
強そうに見えて家では…
最後に登場してもらった齊藤さんは稽古中かっこいい立ち回りを見せてくれたが、家では子どもたちに蹴られてばかりらしい。
アクション俳優ジョークだ!!
自主公演で主役を務めた斎藤さん(中央の黒い服)も、子どもには弱い
【取材協力】
ギャラクシーアクションクラブ
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