特集 2018年2月14日

国内唯一、フイゴ式の鳩時計の工場見学

時計工場を見学してきた
時計工場を見学してきた
鳩時計のなかでも、時計の中で本当に鳴いているような音が出る「フイゴ式」の鳩時計。国内でフイゴ式鳩時計を作っている会社は一か所しかない。

その工場見学へ行けることになった。鳩時計だけじゃなく時計全般の話を聞きつつ、製造の様子を見てこよう!
島根県生まれ。毛糸を自在に操れる人になりたい。地元に戻ったり上京したりを繰り返してるため、一体どこにいるのか分からないと言われることが多い。プログラマーっぽい仕事が本業。(動画インタビュー

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フイゴ式の鳩時計工場見学に行こう

フイゴ式の鳩時計を生産してる工場へ見学に行くことになった。

フイゴ式とは、和紙で作られた蛇腹状のエアポンプで笛を鳴らす仕組みだ。
これが鳩時計に入るとこうなる。内側で鳴いてるような音だ。
鳩時計特有の懐かしい感じの鳴き声は、フイゴによって出されてるのだ。

鳩時計も電子音になりつつある昨今、このフイゴにこだわり続け、国内で唯一アナログのフイゴ機構の鳩時計を製造している会社がある。「リズム時計工業株式会社」さんだ。

その茨城の工場を見学させてもらえることになった。
最寄りは関東鉄道常総線の黒子駅
最寄りは関東鉄道常総線の黒子駅
左からリズム時計工業の青木さん、菅谷さん、古木さん、中島さん。今日はよろしくお願いします
左からリズム時計工業の青木さん、菅谷さん、古木さん、中島さん。今日はよろしくお願いします
昨年11月で67年目を迎えた「リズム時計工業株式会社」の製品は、世界で90か国以上で販売されている。国内でも(腕時計を除く)時計のトップシェアをもつメーカーのひとつだ。

工場を見学しよう

まずは案内してもらった工場の様子から紹介しよう。

そこには大量の鳩時計があり、時間の誤差チェックのために並べられているのだが、30分に一度、一斉に鳴く。

さらに一時間に一度は時計の「時」の数だけ鳴くため、共鳴し合ってるかのように「カッコーカッコー」と響き渡る。
一斉に鳴く大量の鳥……というと、なにかの前兆っぽさがある。けどここは工場だ。日常だと見る機会がないこの一斉の「カッコー」がたまらなくて、2度目は待機し、動画を撮った(これがそのときの)。

説明してもらいつつ、各自気になったものをじっくり眺めつつ案内された。
どれも気になるものばかりで、ものすごくゆっくりと進んでいく
どれも気になるものばかりで、ものすごくゆっくりと進んでいく
気になったものについては説明を受ける
気になったものについては説明を受ける
見学は主にものづくり好きな皆さんと同行していたので、「これ、買って使ってみたい」ものがたまに出現する。

袋に入ってその辺に置いてある鳥たちを見つつ、これ売ってたら買うのに……と話し合う。
一袋200羽ずつ入った鳥がその辺に置かれてて、あーこれは普通に売られてたら買う!
一袋200羽ずつ入った鳥がその辺に置かれてて、あーこれは普通に売られてたら買う!
「鳥だけじゃなく、その辺にある部品どれも単品で売って欲しい……」という声もあった。

工場内では流れ作業を手際よくこなす人や、検品する人。作業の速さに圧倒される。
見ごたえのある速さ
見ごたえのある速さ
時計に鳩時計の仕組みの部分がセットされる
時計に鳩時計の仕組みの部分がセットされる
電波時計の周波数を変えての動作テスト(関東と関西で違う)で、「これを境にあっちは40キロヘルツ、こっちは60キロヘルツの周波数になっています」とか説明されると、おお……無理に西日本の周波を作り出すのか! と、謎の感慨が……。
西日本の周波数での動作テストをするためのマシン
西日本の周波数での動作テストをするためのマシン
ほかにも、工場にさり気なく置いてあるものひとつひとつが見慣れない。
並べて寝かせられてる人形たちは……
並べて寝かせられてる人形たちは……
これのやつか……! 「人形がひもを引っ張ってベルが鳴る」っぽく見えるよう、ベルが鳴るタイミングで人形の腕が動く仕組み
これのやつか……! 「人形がひもを引っ張ってベルが鳴る」っぽく見えるよう、ベルが鳴るタイミングで人形の腕が動く仕組み
謎のパーツについて、すぐにこうやって答え合わせができるのも楽しい。
ここでしか見られない、昔から使われてるこういうケースが積んであるのもたまらない
ここでしか見られない、昔から使われてるこういうケースが積んであるのもたまらない

塗装や検証の様子を見学

職人さんが塗装する作業部屋にも入れてもらう。このタイミングでは問題なかったのだが、「入室時 防毒マスク着用の事」と貼り紙で注意が促されてた。
ひとりで作業をされていて、
ひとりで作業をされていて、
同時進行で複数個を作っていく。全部でひと月ぐらいかかる。
同時進行で複数個を作っていく。全部でひと月ぐらいかかる。
完成したらこうなる
完成したらこうなる
修理に出された商品の塗装をすることもある。その場合は色の調整をすごく細かくおこない、色を決めたら一気に塗る。
小さい板(円の中にある)に試し塗りして、乾いたあとで塗装の本番
小さい板(円の中にある)に試し塗りして、乾いたあとで塗装の本番
あとは時計の耐久性や劣化の検証実験のためのエリアだ。

温度を極端に上げたり下げたり、紫外線を当てたりし、材料の劣化具合を見る。
紫外線を浴びせるための機械……!
紫外線を浴びせるための機械……!
こういう耐久性の実験もするのか
こういう耐久性の実験もするのか

からくり時計もおもしろい

鳩時計だけではなく、からくり時計も見ごたえがある。商品点数は10型ぐらいあって、動きの種類はだいたい3種類ぐらいある。
「一体これ、誰がどう思いついてこうなるんですか……」と投げかけると「動き方のアイデアには、パターンがあるんですよ」と説明される。

まずはさっきの動画の「文字盤の回転」。

あとは「文字盤そのものがまるごと回転するタイプ」。(分針が動いてるのは、無理に時間を合わせてもらった関係なので、あまり気にしないでください)
つぎに「文字盤が分割して開く」タイプ。これは動いてるところは確認できないので、古いものを見せてもらった。
いまはもう動かない
いまはもう動かない
今でこそパターンに沿って考えていけばいいのかもしれないが、そもそも最初に思いついた人はどう考えてこうなったんだろう。

動かなくなった時計が置いてあったスペースには、ずらっとちょっと古い時計が並んでおり、これも見ごたえがある。
若干レトロだったり、デザインを見るだけでもたのしい
若干レトロだったり、デザインを見るだけでもたのしい
短時間で見せてもらった情報量があまりに多く、なんだかすごく贅沢……、いや、それどころか情報過多で最初の方で見たものが記憶の彼方だ。
時計そのものが人形っぽいものや、ゴテゴテの鳩時計やからくり時計もある
時計そのものが人形っぽいものや、ゴテゴテの鳩時計やからくり時計もある
そしてこの大きい時計は、家ではなく施設等に設置されるタイプのからくり時計だそうだ。
記念撮影が始まった
記念撮影が始まった
人形の表情が良い
人形の表情が良い
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最近の鳩時計って?

フイゴの鳩時計をたくさん見せてもらったが、このタイプのものって、基本的に「時間がきたら鳴く」だけで昔から進化はしてないのだろうか。

案内してくれた菅谷さんによると、 どうやら3年前のモデルから明暗センサーが付いて、夜間など部屋が暗いときは鳴かないようになる仕様なったらしい。

買いたてのころはみんな珍しがって、鳩が出てくるのを楽しみに待機したりするものだが、確かに毎日だと「いま黙っといて」みたいな状況も出てくるか。
うちの実家のもずっと切りっぱなしなんですと、同行してくれたテクノ手芸部のよしださんが実家の写真を見せてくれた。工場で見たのとまったく同じ
うちの実家のもずっと切りっぱなしなんですと、同行してくれたテクノ手芸部のよしださんが実家の写真を見せてくれた。工場で見たのとまったく同じ
ほかには「スマホアプリをタップすると、フイゴの鳩時計が鳴く」という鳩時計。こちらはリズム時計工業さんが協力して生産を行っているOQTA株式会社の製品で、遠地からでもネット経由で鳴らせるため、単なる時計ではなく遠方に住む家族とのコミュニケーションツールとして開発された。(今回の取材は、その開発者の高橋さんの紹介により実現した。製品について詳しくはこちらのリンク。年内に量産タイプを発売予定とのこと)
同行してもらった高橋さんが作られてるのが
同行してもらった高橋さんが作られてるのが
IoTの鳩時計「OQTA(オクタ)」
IoTの鳩時計「OQTA(オクタ)」
使う人に合わせた作りになっていったり、IoTの技術とのあわせ技で楽しめるものになりつつもあるのか。

フイゴの鳩時計を作り続ける理由

電子音の鳩時計も増えているなか、フイゴの鳩時計を作り続けているリズム時計工業さんだが、こだわりや継続してる理由はあるのだろうか。
社内に「正確な時刻をあらわす時計」よりも、「お客様の生活を豊かに楽しくする商品」に価値観を持って商品企画をするっていうようなスピリットがあります。
確かに「時間を知る」以外の価値を持ってる商品が多いですね。
お客様から修理の依頼を頂いたときに、10~20年前の商品だけどどうしても使い続けたいっていう声があるので、細々とでも続けていきたいと思っています。そういう商品がお客さまの生活を豊かに楽しくするのに繋がっているかなと。
うちもフイゴを使っているという理由から(IoT鳩時計「OQTA」のコラボを)オファーさせてもらいました。
やっぱり人の気持ちや情緒をあらわす、このアナログの機構をわざわざ作ってるところでマッチしたので。
「情緒」ってワードは私たちも結構使っている言葉です。あんまりこの会社に入るまでは使わなかった言葉なんですけど、特に鳩時計・からくり時計に関しては、「情緒性のある商品」というのをしっかり意識して作りこんでいます。
フイゴ以外で情緒的な要素の商品はあるんでしょうか?
からくり時計であれば人形がついてたり、ステンドグラスとか工芸品を使ったタイプのものも「時を知る価値」ではなく「別の価値」ですよね。例えば「もらったときの感動」とか、そういうところを重要視してるからこそ、こういう商品を出し続けています。

「情緒」や「温かみ」のようなキーワードを大切にしてますね。
「生活を豊かに」というワードが出てきたところで、カタログが2冊出てきた。鳩時計の生産がスタートした頃、1975年と80年のものだ。そのスピリットのもとで過去にはどのような商品があったんだろう。
当時のカタログ
当時のカタログ

定番目覚まし時計の話から

カタログにくわえて、昔の現物が残ってるものも出てきた。

まず登場した昔からずっと定番の、今でも続いている目覚まし時計に「これだー!!」「持ってた!」「おぼえてる!」と皆がざわめいた。
文字盤のデザイン特徴的。側が違うけど同じデザインパターンのものがいくつも出ている目覚まし時計
文字盤のデザイン特徴的。側が違うけど同じデザインパターンのものがいくつも出ている目覚まし時計
「ピピピ」という電子音ではなく、「ジリリリリ」というベル音。単価が安い目覚まし時計は、中国やベトナム製が増えており、国産が減るなかで、「完全になくさないでほしい」……というお客さんのニーズもあり、このタイプともうひとつだけはずっと国産にこだわって作り続けられている。

以前は流通数も少なめだったが、電気量販店の国産商品の販売需要が増えたことなどから、近年は上向きなのだそうだ。
昭和50年台の目覚まし時計。この猫のほしい
昭和50年台の目覚まし時計。この猫のほしい
「世界の時刻がよみとれます」とは……?
「世界の時刻がよみとれます」とは……?
製造・販売されている商品は、このような定番商品以外にも多種多様で、腕時計以外の時計と言われるものはなんでもやっている。
ここまで多種だったとは(※今はもう販売されてません)
ここまで多種だったとは(※今はもう販売されてません)
高いものだとデパートの商材や芸術品の域のものまで
高いものだとデパートの商材や芸術品の域のものまで
電話の横に置かれてた時計も大理石。この手のは会社や病院とかでよく見かける
電話の横に置かれてた時計も大理石。この手のは会社や病院とかでよく見かける
こんな高級時計について、何度も目にしたことはあるはずなのに、そんなに意識せずに今まで過ごしてた気がする。
そしてもう本当にカタログ見ごたえがある
そしてもう本当にカタログ見ごたえがある

30~40年前の時計が欲しい

今ではお目にかかれないような、遊び心満載な商品のオンパレード。
もう釘づけ。これ書籍化されないかなぁ…
もう釘づけ。これ書籍化されないかなぁ…
パラパラとカタログを見てると、「これ、今売ってたら欲しい……!」という声が何度もあがる。
これ売れますよ!
これ売れますよ!
この辺りもほしい!! (あまりにどれも欲しがり過ぎて「本当ですかー?」みたいな反応されつつ)
この辺りもほしい!! (あまりにどれも欲しがり過ぎて「本当ですかー?」みたいな反応されつつ)
それにしても、なぜこの数十年でこんなにも変わったんだろう。

どうやら単純に「全体的にみんなの趣味嗜好が、わりとシンプル寄りになった」ということらしい。社内に10名ぐらいのデザイナーさんがいて、年間に出る新商品は100ぐらい。そのぶん廃番になる商品もある。

そんなに入れ替わり激しいなら、確かに売れゆきが良くないものはどんどんなくなって、シンプルに寄っていくのか。
これなんか商品名に女優の名前が付いてたりして、そういうのを見てても面白い
これなんか商品名に女優の名前が付いてたりして、そういうのを見てても面白い

過去の思い出に遭遇

カタログを見てたら、同行してたテクノ手芸部よしださんが「これうちにあった! へーこれ3500円だったんだ!」「リズム時計だったんだー!!」「母に写真送らなきゃ」と騒ぎ出した。
どうやら上段の左から2番目のがそうらしい
どうやら上段の左から2番目のがそうらしい
おお、こんなところで思い出に遭遇! いいなー と思っていたら、つぎに私が知ってる商品も出てくる。
これ、知ってるーーー!!! 「のらくろクン」ってアニメがやってたんですよ(1987年ごろ)。「のらくろ二等兵」のほうではない
これ、知ってるーーー!!! 「のらくろクン」ってアニメがやってたんですよ(1987年ごろ)。「のらくろ二等兵」のほうではない
自分で持ってたわけではない。けど、友達の家や町の時計屋、ほんと色んなところにあったぞこれは。懐かしすぎる。

話を聞くと「これは本当に大ヒットした商品」とのことで、あーやっぱり、どうりで色んなところで見たわけだ! と納得。
うわーー、ちびまる子ちゃん(のらくろクンとは同じ曜日の同じ時間!)も! これは初めて見た! 個人的な趣味で興奮してしまってすいません と謝りつつ何度も鳴らしてたら、「記事がフルでこの内容になってたらどうしよう」と担当編集・石川さんに言われた
うわーー、ちびまる子ちゃん(のらくろクンとは同じ曜日の同じ時間!)も! これは初めて見た! 個人的な趣味で興奮してしまってすいません と謝りつつ何度も鳴らしてたら、「記事がフルでこの内容になってたらどうしよう」と担当編集・石川さんに言われた
このように思い出と記憶の扉が開きまくりで、それほど生活に浸透してたということなのだ。

鳩時計? 電波時計?

本題から逸れてしまったが、鳩時計の話に戻そう。

個人的な話になるが、ここ1~2年鳩時計が欲しいと思っていた。海外の鳩時計サイトを眺めつつ、良いのはやっぱり高価だなぁ……と実際眺めてたりもした。

けど一方で、近年すっかり電波時計に慣れていたため、「時間が完全に正確じゃないのもなー……」と思っていた。
!
この気持ちをみなさんに訴えつつ、「今後、鳩時計が電波時計になることはないのか」と尋ねてみたところ、その答えは「ない」だった。
鳩時計の形を変えて、針がむき出しにならないようにすればもしかしたら可能かもしれないらしいが、「できない」ときっぱり言われる
鳩時計の形を変えて、針がむき出しにならないようにすればもしかしたら可能かもしれないらしいが、「できない」ときっぱり言われる
ちょっとガッカリしていると、「電波時計と鳩時計、ふたつ買えばいいんじゃないですか?」とみなさんに言ってもらい、ああ……確かにそうだな、何を今まで悩んでいたんだろう……となった。

リズム時計工業さんのスピリットである「情緒」や「あたたかみ」を思うと、少しぐらい時刻がズレてもいいような気もしてきた。

「鳩時計、いまここで注文しないんですか!?」と周りのみなさんに言われたが、いや、しっかり選びたいので、もうちょっと考えてから買います、ということにして(かなり本気です)、工場見学を終えたのだった。

茨城まで行くなら、おやつを買い込み小旅行気分だ! と、勝手にボックス席の電車旅を想像してたが、都会とおなじロングシートで意外とすんなり到着。おやつはほぼそのまま持って帰ることになったが、滅多にできない工場見学は遠足のようだった。大人の遠足っぽい旅、またどこか行ってみたい。
乗っていったのは除草剤の広告の電車だった
乗っていったのは除草剤の広告の電車だった
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