スマホの着信を派手にしたい
私がイメージする「アニメ的な電話」といえば、これである。
「ベル音に合わせて踊る」という言い方がしっくりくる。こんな電話が現実にはあるわけないのに、みんな自然に受け入れていた
自分は普段スマホをバイブにしていて、着信に気付かないことがよくある。これって、アニメの電話とは対極である。バイブは主張が「ブー」という控えめな音と、触れていないと伝わらないわずかな振動しかない。あまりにも地味である。
思えばガラケーの時代には、着信があるといろんな部分がキラキラ光る「イルミ」機能が全盛だった。どれだけキレイに光らせることができるか、各社がしのぎを削っていた時代が確かにあった。
実はみんな、今はこの地味さに我慢しながらスマホを使っているのかもしれない。そして深層では、昔みたいな派手な電話を欲しているに違いない。きっとそうだ。「アニメみたいな電話」復活の機運が高まっていると勝手に感じた。作らねばなるまい。
そして完成したものがこちら。レッツ、ダンシング!!
まどろっこしい工作はすっ飛ばして、いきなり料理番組みたいなショートカットをしてみた。あらぶるスマホ、ここに誕生。
このマシンを使えば、着信に反応してスマホが飛び回り、あの稲妻みたいなのがピカピカ光る。強烈に視覚へと訴えてくるため、もう電話を取り逃すこともないだろう。
アニメの表現を現実に取り入れることで、ユーザインターフェースは新時代に突入してしまうのではないか。なんて適当なことをつらつら考えていたけれど、そんな理屈は抜きにしても、とりあえず「分かりやすさは正義」なのだと思い知らされる。
ここからは、どんな風にしてこの「アニメ電話」を作ったのかを紹介していきたい。
どうやってスマホを飛ばそう
アニメみたいな電話を作りたい。そのためには、スマホが勢いよく「ぴょーん! ぴょーん!」とジャンプし続けるのが理想である。
それをどうやって実現するか――まず思い付いたのはソレノイドを使う方法だ。電磁石の力で鉄心を引きつけてバネを引き、バネが戻る力で「びょーん」とジャンプさせる。ただ、そこそこ重量のあるスマホが宙を舞い、バランスよく連続ジャンプする姿がいまひとつ想像できなかった。これはグダグダになるパターンだな……そう思ったので、さっさと別の方法を考える。ピンとこないときには、諦めが肝心である。
で、結局は万能パーツであるサーボモータに頼ることに。スマホケースの裏に、互い違いに2つ配置する
それが交互にパタパタと動くようにした。ひたすらプログラム通りに動き続けてくれる従順なやつである。見ていると人間の方が息切れしそうになる
実際にはサーボモータの「ギーコ! ギーコ! ギーコ!」というギア音が部屋中に響きわたり、かなりやかましい。裏返しになったセミが必死にもがいてるの見ているようで、なんだかゾワゾワする。ただこれも勘であるが、なんとなく面白い動き方になる予感がしていた。
根拠のない直感を信じて、いざスマホを装着してみると……
突如人間に牙をむくように暴れはじめるスマホ
その奇妙な動きを見ていると、意図せず凶暴な新生物を生み出してしまった博士のような気持ちになる。「スマホの振動試験でもやってるのか?」と家族から冷静なツッコミが入る
そろそろ止めようと手を伸ばすと、それを避けるように抵抗をはじめる新生物。こら、暴れるな
追っ手から逃げるように飛び回ったスマホは、足を滑らせて机の下へと転落していった。こういう展開、ありがちである
ちなみにちゃんと動作を止めると、両方の足を引っ込めた状態で停止するようにした。プツっと電池が切れたみたいに止まる。これもまた妙に生々しい
妻に見せたら、「
テオ・ヤンセンのビーストっぽくていいんじゃない」という評価をもらった。これと比べられるテオ・ヤンセンさんには申し訳ないが、機械的な動作が生物っぽさを生むという点ではたしかに共通しているのかもしれない。
たった2つのサーボモータさえあれば、スマホは意外と良い動きをする。新発見である。
アニメ電話を支える技術
今回つくりたいのはあくまで「電話」なので、ただ勝手にスマホが飛び跳ねるのではダメである。ちゃんと着信に反応して動くようにしたい。
「アニメ電話」実現のため、全体の構成はこんな感じにしてみた
まず(1)、着信を検知して動作する専用のスマホアプリを自作した。これは以前にも似たような電話を作ったことがあった(
『もっと知りたい、昔の電話』)ので、特に迷うことなく完成。
次にスマホアプリからBluetoothで(2)のkonashiというマイコンを制御する部分。ここも今まで何度もやってきたのでお手の物だ。(3)のLEDやサーボモータ制御については、特に変わったことはしていないので説明は省略する。
かように、工作とは経験の積み重ねである。やればやるほど自分の中にストックが溜まるので、やったことのある部分は短時間で完成する。するとその浮いた時間で、どんどん新しいことに挑戦し、結果としてより複雑なものが生み出せるようになる。これぞ人類の進化の歴史そのものだ。
回を重ねるごとに、自分自身の進化がダイレクトに感じられる。工作の醍醐味のひとつである。
そんな感じで電子的な部分が短時間でできたため、今回は自分の中では初となる外装を設計してみた。見た目がすっきりすると、配線むき出しの工作よりも何割増しかよく見える。別の言い方をすると、見た目でごまかせる。
設計したデータをもとに、レーザーカッターを使ってMDFとよばれる板を切り出して、
木工用ボンドで組み立てる。外装にマシン名を書くことで、以降は画像単体で見た人にも何の装置なのか伝わる手法をあみ出した。わかりやすい!(自画自賛)
稲妻の部分には、光を拡散させるためのトレーシングペーパーを貼る。そこにLEDを装着したあと、
さらに光を反射させるための白い紙を貼る。レフ板みたいなものである
ここまでやると、指向性の強いLEDでも面で発光している風に見えるようになった。これがアニメ電話でよくある「謎の稲妻が飛び出すやつ」である。着信中は、これがランダムで光るようにした
配線が終わると、あとは裏蓋をすれば完成。型番らしきものを書いておくと、グッと作品っぽくなるのでオススメ(特に意味はないが)。電源はモバイルバッテリで動作するようにした
そんなわけで完成である。最後は製品紹介をして終わろう。
アニメみたいな電話、ついに誕生
新開発「着信があるとアニメみたいに飛び跳ねる電話」、通称「アニメ電話」を使えば、もう着信を見逃さない!(開発者、川辺にて)
木のぬくもりが感じられる、静謐さをまとうボディ。その一方で「いかなる着信も見逃さない」という強い意志をも感じさせる
使い方はとっても簡単。「アニメ電話」の番号に電話をかけると……
動き、光、音、振動。五感を刺激するアクションで、着信を強烈にアピール
昔のアニメに出てくる電話を彷彿とさせるダイナミックな動きが特徴。まるでブレイクダンスを見ているよう
生を感じる電話、「アニメ電話」ここに誕生――
いちおう携帯もできる
アニメ電話はモバイルバッテリで動くので、外に持ち出しても使用可能である。ただし屋外は明るすぎるため、「LEDの点滅が全く見えない」「カメラのシャッタースピードが早くなり、写真に躍動感がない」といった大きな問題が。
とはいえ一番の問題は、こんなかさばるものをいちいち持ち歩けないという点だろうけど。
動作中……のはずなんだけど、こんな地味な写真しか撮れない。スマホがまるで、生まれたばかりの子鹿のようだ