山を下りたら
ケーブルカー乗り場の駅前にムササビのモニュメントがあった。まあ一応、と思って撮ってみたらそれっぽい写真になってしまった。これでよかったじゃん。と思うのはやっぱり本物を見て似てることが分かるからだ、と自分を納得させたい。
寒いところ&暗いところ好きとしては実は大はしゃぎで途中からムササビのこと半分忘れていたのも正直に記しておきたい。
(ムササビウォッチング、夜の登山は専門サイトでじゅうぶん準備をしてから行ってください)
東京でも西のほうにはいろんな野生動物が住んでいる。
高尾山にはムササビがいるこをと最近知った。しかも結構な確率で会うことができるという。高尾山と言ったら中央線である。中野・吉祥寺・立川・ムササビだ(かなりかいつまんだが)。しかも夜行性なので早起きして見に行かなくていい。僕向きではないか。
だからムササビを見に行ってみました。
※2006年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
ムササビは日没後30分後から3時間ぐらいのあいだに行動するらしい。そのため、最終のケーブルカーで高尾山駅まで行き、そこから徒歩で薬王院まで登ってムササビを待つことにした。帰りは全て徒歩である。
最終のケーブルカーに乗ると僕のほかに客がもうひとり。普段着である。なんだろう?と思ってたら彼の携帯電話が鳴った。
「…いや、ごはんいらない。だから要らないって」
と話していた。ムササビ仲間かもしれない。
僕はというと恥ずかしいぐらいの重装備である。しばれフェスティバルのために買ったダウン。あたまにつける懐中電灯。真っ暗でも撮影できるナイトショット機能つきのカメラ。遭難したとき用のスニッカーズ。高尾山とはいえ冬山である。どんなに準備をしてもしすぎということはない。
と思ったら登山道は街灯と自動販売機の明かりでやたらと明るい。なぜか車もときどき走っている。酒屋さんのトラックも走っていた。荷台にビールが満載だった。あれはうちにも来るカクヤスではないのか? 帰りのケーブルカーに乗り損ねた観光客が「あははは」なんて談笑している。
こんなところにあたまにライトをつけた探検気分の男がひとり。ザ・場違い。
くやしいので自動販売機でレディボーデンを買おうかと思ったがやめておいた。
(余裕があるのはここまでで、これからどんどん辛くなってゆきます。このページだけ読んで山に登らないでくださいね。)
高尾山駅から薬王院に向かって歩く。
ギュルルルルル…
ムササビの声がする(取材前にいろいろ調べておいた)。思ったよりも大きな声だ。見上げてムササビの姿を探していると、音もなく四角い影が頭上を横切った。
!! あっさり見てしまった。こんなにすぐいるとは。帰り際に登場してくれると助かったのだが、だって駅を出てまだ10分ぐらいである。帰ってあるある大辞典でも見るか?(この日は日曜日でした)
いや、写真だ。今回はあわてて撮影できなかったが、このペースでムササビに遭遇できれば飛行シーンを撮影できるかもしれない。
気持ちを切り替えて薬王院に向かうことにした。
夜の山道を歩いてお寺へ。参道のあちこちには石仏やしめ縄をまいたご神木がある。お寺の境内には天狗の伝説にちなんだ石像があり、霊山としての高尾山を示すものとしてどれもたいへん興味深い。
歩いているときはそう思うように努めた。でもすなおに言おう。怖かった。怖いよ。
だって暗いところでナイトショットで写真撮って、モニターで確認したら天狗がこっち向いてるんだもん。
さらに驚くのが暗闇からときどき人があらわれることだ。山頂から降りてくるようだ。びびりながらも山男風にふるまわなきゃと思って挨拶してみるが、「…こんばんは」という超小さい声にしかならなかった。いつも行くコンビニのやる気のない店員の挨拶みたいだった。
薬王院の境内でしばらくムササビを待つことにした。
…………
ギュギュギュギュ
…………
グルルルルル
10分にいちどぐらい、ムササビの声がする。そのたびに見上げて探してみるが見つからない。
動かないとさすがに寒い。顔をさわってみたら鼻水が流れていた。感覚がないので分からなかった。暖かいものが食べたい。
「白いシチューをかけたごはん」
メモ代わりに録っておいたICレコーダーにそう語る自分の声が入っていた。
徐々にムササビの声がしなくなった。もう今日は動かないのだろうか。僕がうねうね動いていたので(じっとしてると寒い)その衣擦れの音を警戒したのかもしれない。
もう、ムササビいいかな。ほら、さっき見たし。ムササビを見たい人はイメージ検索するといいよ。
→ ムササビ画像検索
ネットって便利だね。指が寒いを通り越して痛くなってきたので帰ることにします。
ケーブルカー高尾山駅から清滝駅までの下りは真っ暗だった。
ほんとうに街灯がひとつもない。山道だから当たり前か。でももう遅い。
覚悟を決めて真っ暗な山道を下る。歩きながら分かったことは
・小川の近くでひんやりした空気がかわる。視界が悪いぶんほかの感覚が敏感になっていたのかもしれない。
・水のにおいも分かった。すごいぞ。
・ムササビの声はしなかった。もう巣に戻ったのだろうか。
・気を紛らわそうと思って適当にルールー言っていたら
ルールル…
♪ルールル ルルル ルールル ルルル
徹子の部屋のテーマソングになった。僕はあの歌が好きだったのか。
大自然からインナーワールドまで、いろんなことに気づかされた暗闇だった。
ケーブルカー乗り場の駅前にムササビのモニュメントがあった。まあ一応、と思って撮ってみたらそれっぽい写真になってしまった。これでよかったじゃん。と思うのはやっぱり本物を見て似てることが分かるからだ、と自分を納得させたい。
寒いところ&暗いところ好きとしては実は大はしゃぎで途中からムササビのこと半分忘れていたのも正直に記しておきたい。
(ムササビウォッチング、夜の登山は専門サイトでじゅうぶん準備をしてから行ってください)
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