特集 2017年12月13日

現存世界最古のモノレール「ヴッパータール空中鉄道」

世界最古のモノレール
世界最古のモノレール
モノレールは、跨座(こざ)式より懸垂(けんすい)式がよい。

跨座式の野暮ったさに比べると、空中に渡されたレールにぶら下がって走る懸垂式の軽快さったらない。

ドイツのヴッパータールという街に1901年に開業し、以来100年以上営業している現役世界最古のモノレールがある。

懸垂式モノレール好きとしては、ぜひとも乗っておきたい。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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1901年に開業した世界最古の現役モノレール

跨座式とは、レールにまたがるように走るモノレールで、懸垂式は、レールにぶら下がるように走るモノレールだ。

現在、日本で営業しているモノレールでいえば、東京モノレールや大阪モノレールが「跨座式」で、千葉都市モノレールや湘南モノレールが「懸垂式」になる。

日本で営業しているモノレールは、いずれも戦後開業したものだ。しかし、ドイツの「ヴッパータール空中鉄道」は1901年に開業している。1901年といえば、ドイツはドイツ帝国で、第一次世界大戦もまだ始まってない。そんな時代にすでにモノレール、しかも懸垂式を作って運行している。しかも、百年以上たった現在でも現役で営業を続けているのだ。

というわけで、ドイツのヴッパータールにやってきた。
ヴッパータールフォーヴィンケル駅
ヴッパータールフォーヴィンケル駅
ヴッパータールフォーヴィンケルという駅で下車。ここに、モノレールの始発駅があるらしい。
モノレールのピクトグラム「ぶらさがってんな」というのが伝わってくる
モノレールのピクトグラム「ぶらさがってんな」というのが伝わってくる
ヴッパータールフォーヴィンケル駅の駅前はびっくりするほど何もなかったけれど、案内にしたがいつつなんとなくにぎやかな方を目指して行くと、レールらしきものが見えた。
あれは……
あれは……
おぉ!
おぉ!
おー、これに乗りに来たんだよー
おー、これに乗りに来たんだよー
RPGゲームに出てくるような欧風の古い町並みの中に突然、オレンジと青のビビットな色使いのモノレールが空中を滑空している。

魔法だけじゃなく、科学技術もある程度発展しているという設定のRPGゲームの中盤あたりに行けるようになる町っぽさがある。

これに乗るために、わざわざ日本からやってきたのだ。感慨もひとしおである。

1日乗車券を買って乗りまくるぞ

鉄とガラスの始発駅
鉄とガラスの始発駅
まずは、切符をかわなければいけない。

ドイツは、鉄道もトラムも基本的に「信用乗車方式」となっていて、改札というものがない。
乗客が自分で切符を購入し、自分で切符に打刻して勝手に乗って勝手に降りる。ヴッパータールのモノレールもそうで、自分で切符を購入しなければいけない。
一日乗車券(たぶん)
一日乗車券(たぶん)
つまり、キセルしようと思えばいくらでもできる。しかし、しばしば抜き打ちの検札をすることがあるらしく、その時に有効な切符を持っていない場合は、高額な罰金を課せられる。
モノレール車内に掲示してある警告。日本語でも注意喚起
モノレール車内に掲示してある警告。日本語でも注意喚起
改札がなく、切符さえきちんと買えば、乗り降りがほぼ自由というのは非常に楽ちんである。

とりあえず、早く乗りたい

切符も買ったので、とにかく早くのりたい。ひとまず、こちらの始発から、終点まで、一回乗り通してみたい。
なぜか帽子をかぶった象のキャラクターと、グニャグニャしている路線図
なぜか帽子をかぶった象のキャラクターと、グニャグニャしている路線図
やたらぐにゃぐにゃしている路線図だが、いちばんひだり端の駅から、右端の終点まで、30分程度だ。
後ろの座席が全面ガラス張り
後ろの座席が全面ガラス張り
モノレールは、運転席が片方にしかついていない。つまり、終点で必ず方向転換する仕様になっている。

そのため、この始発駅もモノレールがグルっとUターンするための線路がついている。
検車場に車両を送る場合は、まっすぐのレールにすげ替えられる
検車場に車両を送る場合は、まっすぐのレールにすげ替えられる
新しい車両はきれい
新しい車両はきれい
乗り込んだ車両が動き始めた。
懸垂式の真骨頂
懸垂式の真骨頂
懸垂式モノレールのなにがいいかって、この低空飛行感がたまらない。

そんなに高いわけじゃない高さを、ツーっと横滑りしていく感じが、たまらない。
低空飛行楽しい、のび太がタケコプターで飛んでるのはこれぐらいの高さだろうな
低空飛行楽しい、のび太がタケコプターで飛んでるのはこれぐらいの高さだろうな

高速道路をまたぐ

古い町並みの中をどんどんと進んでいくと、行き止まりみたいなところに出くわす。何かをまたぐようだ。
何をまたぐのか?
何をまたぐのか?
アウトバーンだ!
アウトバーンだ!
高速道路、アウトバーンだ。かなり低い位置でまたいでいるので、妙なスリルが味わえる。

高速道路をまたぎ終わると、またしばらく住宅街の中を抜け、大きくカーブしたとおもうと、こんどは地面が川になった。
なぜか水の量がすごい
なぜか水の量がすごい
実は、ヴッパータール空中鉄道は、そのほとんどがヴッパー川の上を走ることになっている。

ヴッパータールは、細長い谷筋に流れるヴッパー川に沿うように発展した工業都市だ。空中鉄道は、その川にそって路線がひかれた。路線図がぐにゃぐにゃしていたのはそのせいだ。
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ちなみに、行った日は、前日に雨が降っていたためか、川の水はかなり増水していた。
川の上を走ります。
川の上を走ります。

工場の中を抜ける

ヴッパータール空中鉄道の見どころはこれで終わりではない。次は工場の中を抜けるのだ。
バイエルの工場を抜ける
バイエルの工場を抜ける
製薬会社の「バイエル」の工場が両岸に並んでいるエリアに入る。このエリアでは、モノレールが川を渡してある工場のパイプをいくつも越えていく。
川の両岸に工場が立ち並んでいる
川の両岸に工場が立ち並んでいる
導水管の上すれすれで滑空するモノレール
導水管の上すれすれで滑空するモノレール
ものの数分だが、ハードル超えをしているようでなかなか楽しい。

バイエルは、アスピリンの開発で世界的に有名になった会社だが、もともと染料工場をこのヴッパータールに作ったのが最初らしい。

工場エリアは、立ち入りできないが、モノレールからは工場の中を眺めることは可能だ。

なぜ川の上にモノレールを作ったのか

しかし、増水がすごい
しかし、増水がすごい
繰り返しになるけれど、前日に雨が降っていたためか、川の水がすごい。しかし、モノレールはまったく影響を受けてなかった。

たのもしい
たのもしい
そうこうするうちに、終点のオーバーバルメンに到着。
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30分ほどなので、ほんとにあっという間である。
レールだけでもインスタ映えしそう
レールだけでもインスタ映えしそう
あいかわらず、川は増水している。
川をまたいで駅を支える鉄骨
川をまたいで駅を支える鉄骨
鉄骨がむき出しでいいかたちですね
鉄骨がむき出しでいいかたちですね
ヴッパータールは、川に沿って細長く発展した工業都市だったため、新しい交通手段として、当初はシカゴの高架鉄道のように、川の上に鉄骨を組んで列車を走らせる計画だった。

しかし、ヴッパー川の線形が複雑で、あまり小回りの効かないものが作れなかったため、結局、ケルンで懸垂式モノレールを開発していたランゲンの案が採用され、空中鉄道を建設することが決まった。

まさに、地形の制約から選ばれた交通システムだったといえる。

やたら出て来る象はいったいなんなのか?

ところで、ヴッパータールのモノレールに乗っていると、やたらと象を見かける。
なぜか象の記念メダル
なぜか象の記念メダル
路線図の下に描かれているのも帽子をかぶった象だった。動物園・スタジアム駅という駅があるので、その動物園のマスコットキャラクターなのかな。と、勝手に納得していたのだが、さにあらず、この象はある事故が元になっていることが、後で判明した。
モノレールの解説本
モノレールの解説本
お土産屋さんで購入した、ヴッパータール空中鉄道の解説本を読むと、こんなことが書いてあった。
象のタフィーが切符を買う
象のタフィーが切符を買う
1950年7月、サーカス団が購入した子象のタフィーが、宣伝のためにモノレールに乗車するということがあった。

ところが、タフィーは騒音やカメラマンのフラッシュを明らかに怖がっており、ついに、何人かの乗客を押しつぶし、窓をつき破って12メートル下のヴッパー川に落ちてしまった。

あわてた飼育員はタフィーを探しに行くと、かすり傷ほどで、それ以外はどこもケガをしてなかったという。

象がモノレールから落下し、しかも無事だったというニュースは瞬く間に「野火のように」広がった。しかし、この決定的瞬間をだれも写真に撮っていなかった。仕方ないので状況をコラージュした写真の絵葉書を売っているという。
ドイツの雑コラ
ドイツの雑コラ
こういった、どうでもいいエピソードを、後生大事してキャラクター展開までするというのは、ヨーロッパ風の冗談なんだろうか。小便小僧もそれに近い気がする。

個人的にはタフィーが押しつぶしたという乗客の安否も気になるが、この本ではそれ以降、特に言及されていないので、ちょっとしたケガで済んだということにしておきたい。

懸垂式モノレールの聖地「ヴッパータール」

ヴッパータールといえば、一部の方にとっては舞踏団などで有名だったらしいのだが、現地は、完全に「モノレールの町」という雰囲気であった。

ただの交通機関でも、これだけの年季が入ったらそれそのものが観光資源になるのだ。
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