1901年に開業した世界最古の現役モノレール
跨座式とは、レールにまたがるように走るモノレールで、懸垂式は、レールにぶら下がるように走るモノレールだ。
現在、日本で営業しているモノレールでいえば、東京モノレールや大阪モノレールが「跨座式」で、千葉都市モノレールや湘南モノレールが「懸垂式」になる。
日本で営業しているモノレールは、いずれも戦後開業したものだ。しかし、ドイツの「ヴッパータール空中鉄道」は1901年に開業している。1901年といえば、ドイツはドイツ帝国で、第一次世界大戦もまだ始まってない。そんな時代にすでにモノレール、しかも懸垂式を作って運行している。しかも、百年以上たった現在でも現役で営業を続けているのだ。
というわけで、ドイツのヴッパータールにやってきた。
ヴッパータールフォーヴィンケル駅
ヴッパータールフォーヴィンケルという駅で下車。ここに、モノレールの始発駅があるらしい。
モノレールのピクトグラム「ぶらさがってんな」というのが伝わってくる
ヴッパータールフォーヴィンケル駅の駅前はびっくりするほど何もなかったけれど、案内にしたがいつつなんとなくにぎやかな方を目指して行くと、レールらしきものが見えた。
あれは……
おぉ!
おー、これに乗りに来たんだよー
RPGゲームに出てくるような欧風の古い町並みの中に突然、オレンジと青のビビットな色使いのモノレールが空中を滑空している。
魔法だけじゃなく、科学技術もある程度発展しているという設定のRPGゲームの中盤あたりに行けるようになる町っぽさがある。
これに乗るために、わざわざ日本からやってきたのだ。感慨もひとしおである。
1日乗車券を買って乗りまくるぞ
鉄とガラスの始発駅
まずは、切符をかわなければいけない。
ドイツは、鉄道もトラムも基本的に「信用乗車方式」となっていて、改札というものがない。
乗客が自分で切符を購入し、自分で切符に打刻して勝手に乗って勝手に降りる。ヴッパータールのモノレールもそうで、自分で切符を購入しなければいけない。
一日乗車券(たぶん)
つまり、キセルしようと思えばいくらでもできる。しかし、しばしば抜き打ちの検札をすることがあるらしく、その時に有効な切符を持っていない場合は、高額な罰金を課せられる。
モノレール車内に掲示してある警告。日本語でも注意喚起
改札がなく、切符さえきちんと買えば、乗り降りがほぼ自由というのは非常に楽ちんである。
とりあえず、早く乗りたい
切符も買ったので、とにかく早くのりたい。ひとまず、こちらの始発から、終点まで、一回乗り通してみたい。
なぜか帽子をかぶった象のキャラクターと、グニャグニャしている路線図
やたらぐにゃぐにゃしている路線図だが、いちばんひだり端の駅から、右端の終点まで、30分程度だ。
後ろの座席が全面ガラス張り
モノレールは、運転席が片方にしかついていない。つまり、終点で必ず方向転換する仕様になっている。
そのため、この始発駅もモノレールがグルっとUターンするための線路がついている。
検車場に車両を送る場合は、まっすぐのレールにすげ替えられる
新しい車両はきれい
懸垂式の真骨頂
懸垂式モノレールのなにがいいかって、この低空飛行感がたまらない。
そんなに高いわけじゃない高さを、ツーっと横滑りしていく感じが、たまらない。
低空飛行楽しい、のび太がタケコプターで飛んでるのはこれぐらいの高さだろうな
高速道路をまたぐ
古い町並みの中をどんどんと進んでいくと、行き止まりみたいなところに出くわす。何かをまたぐようだ。
何をまたぐのか?
アウトバーンだ!
高速道路、アウトバーンだ。かなり低い位置でまたいでいるので、妙なスリルが味わえる。
高速道路をまたぎ終わると、またしばらく住宅街の中を抜け、大きくカーブしたとおもうと、こんどは地面が川になった。
なぜか水の量がすごい
実は、ヴッパータール空中鉄道は、そのほとんどがヴッパー川の上を走ることになっている。
ヴッパータールは、細長い谷筋に流れるヴッパー川に沿うように発展した工業都市だ。空中鉄道は、その川にそって路線がひかれた。路線図がぐにゃぐにゃしていたのはそのせいだ。
ちなみに、行った日は、前日に雨が降っていたためか、川の水はかなり増水していた。
川の上を走ります。
工場の中を抜ける
ヴッパータール空中鉄道の見どころはこれで終わりではない。次は工場の中を抜けるのだ。
バイエルの工場を抜ける
製薬会社の「バイエル」の工場が両岸に並んでいるエリアに入る。このエリアでは、モノレールが川を渡してある工場のパイプをいくつも越えていく。
川の両岸に工場が立ち並んでいる
導水管の上すれすれで滑空するモノレール
ものの数分だが、ハードル超えをしているようでなかなか楽しい。
バイエルは、アスピリンの開発で世界的に有名になった会社だが、もともと染料工場をこのヴッパータールに作ったのが最初らしい。
工場エリアは、立ち入りできないが、モノレールからは工場の中を眺めることは可能だ。
なぜ川の上にモノレールを作ったのか
しかし、増水がすごい
繰り返しになるけれど、前日に雨が降っていたためか、川の水がすごい。しかし、モノレールはまったく影響を受けてなかった。
たのもしい
そうこうするうちに、終点のオーバーバルメンに到着。
レールだけでもインスタ映えしそう
川をまたいで駅を支える鉄骨
鉄骨がむき出しでいいかたちですね
ヴッパータールは、川に沿って細長く発展した工業都市だったため、新しい交通手段として、当初はシカゴの高架鉄道のように、川の上に鉄骨を組んで列車を走らせる計画だった。
しかし、ヴッパー川の線形が複雑で、あまり小回りの効かないものが作れなかったため、結局、ケルンで懸垂式モノレールを開発していたランゲンの案が採用され、空中鉄道を建設することが決まった。
まさに、地形の制約から選ばれた交通システムだったといえる。
やたら出て来る象はいったいなんなのか?
ところで、ヴッパータールのモノレールに乗っていると、やたらと象を見かける。
なぜか象の記念メダル
路線図の下に描かれているのも帽子をかぶった象だった。動物園・スタジアム駅という駅があるので、その動物園のマスコットキャラクターなのかな。と、勝手に納得していたのだが、さにあらず、この象はある事故が元になっていることが、後で判明した。
モノレールの解説本
お土産屋さんで購入した、ヴッパータール空中鉄道の解説本を読むと、こんなことが書いてあった。
象のタフィーが切符を買う
1950年7月、サーカス団が購入した子象のタフィーが、宣伝のためにモノレールに乗車するということがあった。
ところが、タフィーは騒音やカメラマンのフラッシュを明らかに怖がっており、ついに、何人かの乗客を押しつぶし、窓をつき破って12メートル下のヴッパー川に落ちてしまった。
あわてた飼育員はタフィーを探しに行くと、かすり傷ほどで、それ以外はどこもケガをしてなかったという。
象がモノレールから落下し、しかも無事だったというニュースは瞬く間に「野火のように」広がった。しかし、この決定的瞬間をだれも写真に撮っていなかった。仕方ないので状況をコラージュした写真の絵葉書を売っているという。
ドイツの雑コラ
こういった、どうでもいいエピソードを、後生大事してキャラクター展開までするというのは、ヨーロッパ風の冗談なんだろうか。小便小僧もそれに近い気がする。
個人的にはタフィーが押しつぶしたという乗客の安否も気になるが、この本ではそれ以降、特に言及されていないので、ちょっとしたケガで済んだということにしておきたい。
懸垂式モノレールの聖地「ヴッパータール」
ヴッパータールといえば、一部の方にとっては舞踏団などで有名だったらしいのだが、現地は、完全に「モノレールの町」という雰囲気であった。
ただの交通機関でも、これだけの年季が入ったらそれそのものが観光資源になるのだ。