大量に出てきたマッチ
この夏、新潟にあったじいちゃんの家を皆で片付けていると、他の家族が私を呼ぶ声がした。「ほらこれ、あんたどうする?」
この3箱とビニール1袋分くらい
薬箱から大量のマッチがでてきた。数えたら430個ある。
写真やお面や変な置き物好き、という、いま思えば趣味が似ていたじいちゃんのこういったコレクションは私が処分をどうするか考える役目だった。(大概捨てられず貰ってくる)
顔はめ好き。血筋を感じる
ひとまず眺めてみよう
マッチには大きく分けると、販売用と広告用があるのだが、じいちゃんのは広告用がほとんど。行った先々で記念に貰ってきたものらしい。
少しだけ紹介したい。
タバコ、居酒屋、酒造、喫茶店、旅館・ホテル、石油、理容、生命保険、郵便局、農協、もろもろ。可愛いなあ。
微妙な古さがまた良い
オイル系マッチは女性モデルを採用(なんとなく爽やか順に並べました)
お色気マッチも!
仕事の都合や旅行好きのため、泊まった旅館・ホテルが多くを占めていた。それだけでなく、お色気系もちょっとだけどあった。
厳しかったじいちゃん
こういうのをクローズアップしてしまうとどんな人だったんだと思われてしまいそうだが、校長先生をしていたじいちゃんは、ご飯を食べる時は正座、夏休みや冬休みには毎日午前中に宿題の成果を報告させ(その時も正座で)、働かざる者は食うべからず精神の厳しくて真面目な人だった。
開けてビックリ。カラフルなマッチたち
他に面白かったのは、たまに変わった色のマッチがあったこと。ちゃんと箱のデザインに合わせてるのが良い。
集めたらこんなに。綺麗だ
こんなおしゃれマッチ貰ったら嬉しい
コレクターが驚く程の価値あるものは無いだろうけど、それなりに楽しめるマッチ。
そうして眺めていると都内のお店もいくつかある事に気がついた。
これは…どこか行ってみたい!
東京や近郊で行けるとこをピックアップ。候補は18箇所あった。
さてどこに行こうか。いくつか同じマッチがあった「割烹 文豪屋敷」が気になる。とんかつや高級喫茶店もいいな。
事前調査開始
これら広告マッチの大半は、大まかな住所か電話番号しか書かれていないのがほとんど。向かう前にネットで下調べをする事にした。
すると…ほとんどお店が無くなってる!
ここもあそこも…もう無くなってる…!
喫茶店や旅館、居酒屋が無くなっていっている中で生き残ったのは下の写真の3店舗のみだった。
カレー、中華、中華。全部食べ物屋さんだった。
この中だと「カレー&アクセサリー」というおかしな組み合わせが目を引く。マッチのデザインも可愛らしいJUNEが一番気になった。最近カレーも食べていないし…よし、ここに行ってみよう!
カレーJUNEに向かう
インターネットで調べると、すぐに見つかったJUNE。信濃町駅出てすぐの好立地にあった。
駅前の「味のプロムナード」の中。
地下への案内。味があるなあ
あった! 44年続くカレー屋さん。どんな人がやっているんだろうか
マッチには「カレー&アクセサリーの店」と書いてあったのだが、お店の看板からアクセサリーの文字は消えていた。もうやめちゃったかな
手作りの椅子が並ぶ店内
メニューは超シンプルでポークカレーのみ。ということは、じいちゃんと全く同じものが食べられる!
じいちゃんも食べたポークカレー
実はポークカレーしか出していない、というのはネット情報で知っていた。だからこだわり親父の店かと思いきや、優しそうな女性が注文を受けにきて、カレーをよそってくれた。
外で食べるカレーは、すぐインドの人やスパイシーな香りを想像しちゃうけど、このお店はそれこそ家にいるような落ち着きがあり、お母さんにカレーをよそおって貰うような感じに近かった。
銀のお皿が嬉しい(並)。福神漬けとキャベツサラダを乗せ、さらに半熟卵(100円)を乗せていただきます
このカレー、とことんマイルド。タイとかインドカレーのようなスパイシーさは無く、とっても優しい味がした。といってもきちんと辛味も感じる。
マイルド感アップするキャベツサラダ
次に、お母さんに薦められるまま無料のキャベツサラダを混ぜてみる。シャキシャキという食感がカレーに新しい。そして、それだけ食べると酸味があるのに混ぜると不思議とマイルド感アップ!そこに大好きな半熟のトロトロ卵が…口の中がホンワカしちゃう。
ルー、キャベツ、半熟卵。マイルド織り成す三重奏
あー美味しかった。
大学が近くにあり学生もたくさん来るそうで、並盛りでもお腹いっぱいになれた。
お店の人にこれを見せてみよう
じいちゃんのマッチを見せてみる
奥から「いらっしゃいませー」とお客に挨拶しながらこれまた優しげな男性が入ってきた。お、こっちがこだわり店長?
カレーの感想を伝えたあと、マッチを見せる
カウンターに向かい、私がここに来た経緯を話しながらマッチをお2人に見せてみる。懐かしいねえという反応が来ると思ったのだが…マスター「あれ?そこから取ったんじゃないの?」
お店の端に全く同じマッチが置いてあったのだ。それもたまたま。
聞くと、私がじいちゃんの家で最近マッチを見つけたように、こちらのお2人(姉弟だった)も最近実家でこのマッチを見つけたのだそうで、古いけどまだ使えるからといってお店に出したという。もうすぐ全部無くなると言っていた。
わー…なんかタイミングが合って凄く嬉しい!
左がじいちゃんので右がお店にあったもの。写真では分かりにくいけどじいちゃんの方は茶けっている。
キャベツサラダとアクセサリー
他にも気になったことを聞いておこう。まず、なぜカレーにキャベツサラダを入れるようになったのか?珍しいですよね。
お2人「カレーは栄養がてんこ盛りなんだけどね、ビタミンCが足らないの。それで何か無いかなって考えてキャベツに至った」 とのこと。健康に気を使ってくれての事だったのね。
そしてもう一つ気になったのはマッチに書かれていた「アクセサリー」だ。昔はこちらのご姉弟のお母さんが手作りで作ったものなどを並べて置いていたらしい。しかし食べ物屋とあって保存環境が良くないと判断し置かなくなったそう。
という話をしていたら、奥にお2人のお母さんがいらした。これまた優しそうな表情を浮かべている。
私のニヤニヤ顔とちがい、お2人のなんと穏やかで優しげなことよ
私がじいちゃんの代わりに久々に訪れた事を皆さん喜んでくれた。長年続けていると、遠くから「10年ぶりに来たよ」なんて言ってくれるお客さんがたまにいて嬉しいとも言っていた。
味も人もマイルドで優しいカレー屋さん。これからもずっと続いて欲しいなと思った。
時を経て広告の役割を果たしたマッチ
都内でマッチが一番多かった上野の店は、新幹線がとまるので行ったというのに合点がつくけど、なぜ信濃町の、このカレー屋さんに入ったのだろう? 教師をしていたから大学に用事があったのか、知人が住んでいてその知人のお薦めのカレーだったのか?
とにもかくにも、じいちゃんのあのマッチがあったから私は美味しいカレーを食べる事ができた。広告マッチは何十年経とうが広告の役割を果たしてる。何気に凄い広告ツールだったのだなあと、今度はラーメン食べながら思った。
夜は上野の蓬莱閣へ。ここも凄く美味しかった。じいちゃんは何食べたかな (写真は酸辣湯麺)
ところで、「マッチ一本火事の元」というけどいま私の手元には約1万2千本のマッチがある。どうしたものか…