特集 2017年10月23日

ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケはどうか

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友達と3人でカラオケに行くとする。大抵の場合、なんとなく決まった順番に従って「Aさん⇒Bさん⇒Cさん⇒Aさん……」という感じに1曲ずつ歌っていくことになる。

もし3人で計3時間カラオケを楽しむとしたら、その“1曲ずつリレー形式”をやめ、一人が1時間ずつぶっ通しで歌ったって同じことじゃないかと、ある時ふと思った。一人あたまの歌唱時間はどっちでも変わらないんじゃないかと。

そんな思い付きを実行に移してみたのだが、結果的に全然“同じこと”じゃないのがわかった。
大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)

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数日前から緊張し始める

“ひとり1時間ずつぶっ続けカラオケ”を試してみるにあたって、私がアルバイトをしている大阪・西九条にあるミニコミ専門書店「シカク」のスタッフと、店の常連さんに応援を頼んだ。私を入れて総勢5名でやることになった。
左から「シカク」副店長のみゆきさん、「シカク店長」の巴さん、私、常連客ヤマコさん、常連客ハヤトさんの5名。
左から「シカク」副店長のみゆきさん、「シカク店長」の巴さん、私、常連客ヤマコさん、常連客ハヤトさんの5名。
私にとっては気心の知れたメンバーで、よく飲みに行ったりする(ハヤトさんには「ひとんち酒場」の時にも豆腐だけの店の店長として協力してもらった)間柄なのだが、このメンバーでカラオケに行くのは初めてである。

みんなには事前に一人が1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケというのをやってみたいと説明してある。

5人いるので合計5時間となる。なかなかの長丁場。カラオケチェーンの「カラオケ まねきねこ」の一部の店舗では朝7時から正午まで30分10円(一人あたり)という破格のルーム料金で歌うことができると聞き、「ちょうど5時間だしこりゃあいい!」と、その時間帯に決行することにした。

しかし朝7時から始めるということは7時前には店に集合しないといけない。当たり前だ。「1時間ちょっと前には起きておかないとな」、と午前5時45分にアラームをセットした。起きてみると外がまだ暗かったので、ぼーっとした頭でへへへと笑った。こんな時間に起きて、カラオケに行くのだ……。

一旦時間を巻き戻し、それから遡ること2日。カラオケ参加メンバーと会う機会があった。お酒を飲み、目前に迫ったぶっ通しカラオケのことが話題に上がったのだが、驚いたことにシカク店長の巴さんと副店長のみゆきさんはすでに二人で当日に向けた練習のためにカラオケに行って“通し稽古”を行っているとのことだった。また、ヤマコさんハヤトさんも、何を歌おうかとここ数日ずっと考えているとのこと。
2日前に会うと、すでに練習済みだったり当日歌う曲目をかなり綿密に考えていたり、みんなすでに事前準備をしていた。
2日前に会うと、すでに練習済みだったり当日歌う曲目をかなり綿密に考えていたり、みんなすでに事前準備をしていた。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その1
「参加メンバーが自発的に事前準備をし始める」
発案者の私が最ものん気に構えていたようで、「え!何も準備してないんですか?1時間どうするんですか!?」と言われる始末。そして、そう言われてみると1時間という持ち時間が目前に広がる荒野のように思えてくる。

自分の出番までそわそわしっぱなし

さて、そうして当日を迎えたわけだが、重要になってくるのが歌う順番である。野外フェスのプログラムのように、トップバッターが誰でトリを務めるのが誰、という風にタイムテーブルが組まれることになる。
事前にあみだくじで順番を決めてある。私は2番手。最初は勇気がいるし、最後は荷が重いと思っていたので自分としてはなかなかのくじ運だった。
事前にあみだくじで順番を決めてある。私は2番手。最初は勇気がいるし、最後は荷が重いと思っていたので自分としてはなかなかのくじ運だった。
時間をフルに使いたいので6時50分に店前に集合。できる限り迅速に入店し、準備を整える。
10分前に到着。時間にルーズな私もこの日だけはしっかりしている。
10分前に到着。時間にルーズな私もこの日だけはしっかりしている。
「カラオケ まねきねこ」は店舗によって飲食の持ち込みが自由となっており、今回使わせてもらった大阪福島店もそれに該当していたので、各自お酒やお菓子など思い思いのものを持ちこんだ。
ドリンクバーの「コーンポタージュスープ」と缶チューハイが卓上に混在する変な朝。
ドリンクバーの「コーンポタージュスープ」と缶チューハイが卓上に混在する変な朝。
入店した時点で7時を少し回っていたので大急ぎで歌にとりかかる。
「一枚だけ記念写真撮ります!はい撮りました!もうスタートしてください!」と大慌てである。
「一枚だけ記念写真撮ります!はい撮りました!もうスタートしてください!」と大慌てである。
トップバッターの巴さんは、出順も踏まえた上で完璧に曲目リストを組んできており、一気に6曲ぐらい予約。
画面に映し出される予約曲のタイトルを「見ないで!」と言われる。次は何かな?というワクワク感を楽しんで欲しいそうである。
画面に映し出される予約曲のタイトルを「見ないで!」と言われる。次は何かな?というワクワク感を楽しんで欲しいそうである。
そしてついに一曲目が始まる。布袋寅泰の『バンビーナ』である。のっけからテンションが高い。
いきなり容赦ないテンション!
いきなり容赦ないテンション!
椅子に足を乗っけてシャウトする全力パフォーマンス。
椅子に足を乗っけてシャウトする全力パフォーマンス。
「まだ朝の7時ですよ!」と言われつつも、いきなりオーディエンスの心をわしづかみにしている。
「最高だー!」「うおー!!」と大盛り上がりである。
「最高だー!」「うおー!!」と大盛り上がりである。
で、この時の私の気持ちなのだが、「うわ……このあと俺か……気が重い」というのが正直なところであった。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その2
「前の出番の人が盛り上がっていると気持ちがまったく落ち着かない」

2曲目も3曲目も同じ人が歌い続ける

1曲終わったところまではいつものカラオケと同じだが、次も引き続き同じ人が歌う。巴さんの2曲目はGLAY「Winter, again」だ。

これもまた、こんな激しい曲だっけ!?というぐらいの熱気あふれるパフォーマンス。サビでは思いっきり手を広げて歌いたいらしく、そのためにオーディエンスにマイクを持ってもらうほどだ。
逢いたい気持ちがガンガン伝わってくる。
逢いたい気持ちがガンガン伝わってくる。
「ヤバい、疲れ果てました」と3曲目でおもむろに座り込んだ巴さん。Syrup16gのバラード「Reborn」をしっとり歌う。
そうなのだ。このように自分で緩急をつけないといけないのがぶっ通しカラオケである。無理は禁物だ。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その3
「持ち時間の中で“静と動”の流れを作ることになる」
と、思いきや次は再び立ち上がってのモーニング娘。「ハッピーサマーウェディング」だ。
今度はいきなり父さん母さんに感謝。こんなに支離滅裂なライブをするミュージシャンが本当にいたらすごい!
今度はいきなり父さん母さんに感謝。こんなに支離滅裂なライブをするミュージシャンが本当にいたらすごい!

緊張によって他人の歌を楽しむ余裕が無い

巴さんの持ち時間は続き、福山雅治「Squall」からのウルフルズ「バカサバイバー」など激しい緩急を持ち味にしつつオーディエンスを虜にしている。

しかし次に出番を控えた私にはそれを楽しむ余裕がない。何度もスマホを取り出しては刻一刻と迫る時間をチェック。巴さんがSuchmos「STAY TUNE」の歌詞の東京を言い換え「大阪フライデーナーイ」と歌うのを聞いても「やべえ……特にそういうの用意してない……」と焦るばかりである。

盛り上げ上手の巴さんがGLAY「誘惑」の間奏部分でエアギターを披露しても、同じように「やべえ……そういうの上手にできないわ……」と焦るのみ。
それにしてもエアギターのサイズ感がデカい。
それにしてもエアギターのサイズ感がデカい。
途中、みゆきさんが頼んだ「肉うどん」が唐突なタイミング運ばれてきて「あ、そうかカラオケだったんだ」と、少し和まされたりしながらいよいよ自分の番を迎えた。
白熱のステージに突然現れた「肉うどん」。
白熱のステージに突然現れた「肉うどん」。
終わってみると、なんと巴さんは1時間の間に12曲も歌っていた。フルアルバムといった感じの充実具合だ。

とにかくなんでも盛り上げてくれるオーディエンスが頼もしい

今回、私は1曲目に歌う曲しか決めてきておらず、とりあえず自分が生まれて初めて買ったCDをスタートにして思春期ぐらいまでに聴いてきた曲を順々に歌ってみようかなと思っていた。

しかし、なんとその初めて買ったCDであり1曲目に歌おうと思っていた たま「さよなら人類」が今回使った機種には入っていなかった。唯一の軸を失いいきなりオロオロする。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その4
「機種によっては入ってない曲があり、準備していた通りにできずうろたえる」
気持ちを切り替え、そのあと何枚目かに買ったTHE BLUE HEARTS「情熱の薔薇」を歌うことにした。
ぶっ通しカラオケならではの重圧を感じつつ歌う。
ぶっ通しカラオケならではの重圧を感じつつ歌う。
緊張していたのだが、いざ歌い始めるとオーディエンスがかなり献身的に盛り上げてくれるので助かった。
「いいぞ!」「この曲大好きですよ!」などと歓声があがり、照れる。
「いいぞ!」「この曲大好きですよ!」などと歓声があがり、照れる。
ちなみにこれが私の位置から見たオーディエンスたちの様子だ。
「ファンのみなさんって本当にありがたい」みたいな気持ちに、自然となる。
「ファンのみなさんって本当にありがたい」みたいな気持ちに、自然となる。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その5
「オーディエンスを大事に思う気持ちが生まれる」
巴さんとは違い、私はなんとなくその場で曲を決めていこうと考えていたのだが、自分が歌い、次に曲を予約するのも自分なので変な間があく。せっかくいいスタートだったのに、シーンとした空気になり焦った。こうなると、曲間を盛り上げるしゃべりも必要になってくる。
曲間のMCをしながらの選曲が難しい。「今日はありがとぉー!!……あー。
曲間のMCをしながらの選曲が難しい。「今日はありがとぉー!!……あー。
あの。ありがとぉー!!」ぐらいしか言えなかった。

曲と曲の間の静けさがすっかり怖くなった私は、歌いながら次の曲を入れるというスタイルに落ち着いた。マイクを脇に挟みながら端末で次曲を探し、予約していくのである。
服と同化してわかりづらいが、これによって“歌いつつ選べる”。ただし、スタイリッシュではない。
服と同化してわかりづらいが、これによって“歌いつつ選べる”。ただし、スタイリッシュではない。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その6
「事前に曲を決めておかないと曲と曲の間がすごい静か」
途中、だいぶ疲れたところで時計を見たらまだ半分ぐらい時間が残っていた時はゾッとしたが、なんとか自分の持ち時間を乗り切ることができた。

自分の出番が終わると、あとは楽しいだけ

自分の番が終わり、ふーっと肩の荷がおりた。間髪入れず、次の歌い手であるハヤトさんの出番だ。

ハヤトさんの1曲目はTHE BLUE HEARTS「人にやさしく」だ。革ジャンを着てニルヴァーナのTシャツを着てめちゃくちゃ楽しそうに歌っている。ちなみに楽しみ過ぎて昨夜一睡もしてないそうである。
全力ノリノリ野郎のおでましだ。
全力ノリノリ野郎のおでましだ。
出番前の自分だったら「うわーまた元気な新人出てきたなー困ったなー」としか思わなかっただろうが、すでに歌い終えた自分は心の底から純粋に楽しむことができている。それが嬉しかった。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その7
「自分の番が終わるとすごく寛大な気持ちで楽しめるようになる」
あとはもう、他人が歌うのを聴いて「いいぞー!」とか言いながらお酒飲んだりしていいのである。ただただ楽しいだけの時間!この解放感はクセになりそうだと思った。

ハヤトさんはその後も元気いっぱい歌い続けた。最後はTHE BLUE HEARTS「リンダリンダ」で締め。
手品のように浮いています。
手品のように浮いています。
見ての通りハヤトさんは終始テンション高めで歌い続けたのだが、途中で「すごく疲れたので一曲暗い曲を、座って歌います」と言って井上陽水の「ゼンマイじかけのかぶと虫」という曲を歌った。それが何もかもうまくいかない感じの歌で、すごくよかった。本人も後で言っていたのだが、「いつものカラオケだったら絶対に選んでないけど実はすごく好きな曲を歌うことができる」のもぶっ通しカラオケならではなのだ。

ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その8
「自分で作る緩急の流れの中で、普段歌わない曲にもチャレンジできる」

まるでショーを見ているように感じられ始める

4番手のみゆきさんは1曲目のCreepy Nuts(R-指定&DJ松永)「助演男優賞」で高速ラップを披露し、勢いもそのままに2曲目はSMAP「SHAKE」。激しく飛び跳ねっぱなしである。
動きが速すぎてどうしてもブレる
動きが速すぎてどうしてもブレる
見ているうちに、何かのショーを見ながらのんびり飲み食いをしているような、そんな気持ちになりだした。特にみゆきさんの熱いパフォーマンスは見飽きることがなく、この歌手を応援していきたい!という気持ちすら生まれるのであった。
「僕らの、アイドルですわ……」とつぶやくヤマコさん。
「僕らの、アイドルですわ……」とつぶやくヤマコさん。
あまりにフルスロットルで歌い続けたため、床にしゃがみ込む一幕も。もちろんオーディエンスからは「がんばれ!まだいける!」などと歓声があがるのであった。
この時ようやくちゃんと撮れた。
この時ようやくちゃんと撮れた。
みゆきさんが小沢健二を歌うのを聴いていて、「あ、そうだ!オザケン歌えばよかった!」と思ったのだが、もう私の出番は終わっている。もう歌えないのである。これもまたぶっ通しカラオケならではの厳しさである。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その9
「後で、『あれ歌えばよかった!』と思ってももう歌えない」

やり切った感をみんなで噛みしめるエンディング

トリを務めるのはヤマコさん。今回のメンバーで一番の年長で、いつも落ち着いて穏やかな雰囲気の人である。

そんなイメージを裏切らない感じで、奥田民生のミディアムテンポのナンバー「野ばら」からスタート。
缶チューハイ片手にリラックスムードで歌う。
缶チューハイ片手にリラックスムードで歌う。
いよいよ本日最後の歌い手ということも手伝ってか、野外フェスなどで日が暮れてくる時間帯のような心地良いムードに。スピッツの「スパイダー」をあえてGO!GO!7188がカバーしたバージョンで歌うなどの小技を挟みながら、ゆったりと楽しませてくれる感じである。

初めて聴いた倉橋ヨエコの「今日も雨」という曲がすごく良かった。こういう曲をしっかり聴かせてくれる人がトリでよかった、と私は思った。
「人生色々あるけどさ!頑張っていこうぜ!」的なメッセージを感じるステージである。
「人生色々あるけどさ!頑張っていこうぜ!」的なメッセージを感じるステージである。
最後は鳴りやまないアンコールの拍手に応えて奥田民生の「イージュー☆ライダー」で大団円。
大きな達成感が込み上げてくるが、カラオケを歌っただけだし外は真っ昼間だ。
大きな達成感が込み上げてくるが、カラオケを歌っただけだし外は真っ昼間だ。
店の外に出て4人の写真を改めて撮ってみると、どうだろう、なんだかこんなバンドがあってもおかしくないようなしっくり具合。
みんなすがすがしい表情をしている。
みんなすがすがしい表情をしている。
もともと仲の良い面々ではあるが、一緒に遊んでいる時とはまた違う不思議な一体感が生まれ、より仲良くなれた気がする。

その理由を自分なりに考えてみるに、まず、1時間ぶっ続けで歌うことにより、それぞれが出番を任されてスターっぽい立場になる。そしてそのプレッシャーから解放されると今度は次のスターを応援する側にまわる。少しの負荷と、立場の入れ替わりが一体感を生んでいるんじゃないだろうか。同じプレッシャーを経験した仲間、みたいな。
ひとり1時間ずつぶっ続けで歌うカラオケをやって分かったこと その10
「いつものカラオケには無いプレッシャーによって心地よい達成感が生まれる」

正直なところ、通常のカラオケよりも面倒である。「なんでこんなことをしているの」と思うような、意味のわからない緊張も発生する。しかし何かいつもと違う不思議な充実した感覚があるのだ。

1回目のぶっ通しカラオケを体験した我々は、早くも「次回はいつにします!?」と話し合っている。むしろ2回目からが本当のぶっ通しカラオケかもしれない。

個人的な反省点も色々ある。次はもっと流れを意識して選曲し、「これから歌う曲は、実は昔好きだった人から教わったものでして」などとオーディエンスを引き込むMC力も身につけたい。
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