特集 2017年10月11日

飛行機の席がエコノミーからビジネスになった

とても身にあまった
とても身にあまった
上海行きの飛行機にチェックインをしている最中にそれは起こった。突然「お客様の席はビジネスです」と言われたのだ。え、そんなわけは。エコノミーで取った記憶しかないし、往復で22,000円ちょっとの格安航空券だったはずなのだ。

耳を疑い戸惑いつつ、急にうまれてはじめてビジネスクラスに乗った体験をつづりたい。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

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オーバーブッキングをこの日まで知らずに生きていた

ビジネスクラスに急きょ切り替わった原因はオーバーブッキング(過剰予約)だ。航空会社は、キャンセルが出ることを見込んで予約を席数よりも多めに受付する場合があるのだ。

もしも当日キャンセルがあまり出ず、乗る人の数が席を超えてしまった場合には、振替便を案内されたり席がグレードアップされたりする。
ちなみに飛行機に乗るのは好き。頻度は1年で往復で、合計4回くらい
ちなみに飛行機に乗るのは好き。頻度は1年で往復で、合計4回くらい
飛行機が乗るのが好きなので、乗るだけでうれしいのが自分にとっての飛行機だった。どんなに足下が狭くても、目の前に小型テレビがついてなくても、万が一機内食が衝撃的なまずさだったとしても、かまわない心づもりだ。(むしろ、まずい食べ物ってなかなかありつけないから楽しい)

だって人間は自力で飛べない。なのに、この大きな塊に乗るだけで雲よりも高い場所に行くことができてしまうのはすごい仕組みだ。
余談だが、鳥って飛べるのですごいなーともしょっちゅう思う
余談だが、鳥って飛べるのですごいなーともしょっちゅう思う
旅先に到着すると自宅から遥か離れた場所に着いていることにも、頭ではわかっていてもまだ「不思議だなぁ」とくりかえし感激してしまう。

つまり、わたしの心はエコノミーシートで充分に満ち足りていたのである。飛行機で乗れるだけで幸せなのだ。だけど、幸せが不意に増幅する事態はとつぜん起こった。

「お客様の席はビジネスです」と突然言われた

日常でもよく聞き間違うので、この瞬間もきっと聞き間違えているのだろうと思った。もしくは手違いじゃないだろうかとも思ったのだが、エコノミーが予約超過になったための対処だと説明を受けておおーっと納得した。

手荷物検査に向かうと、係員から「あっちの優先レーンが使えますよ」と指示をうける。優先レーンはがらんとしていて待ち時間がなかった。席が変わると待遇もまるごと変わることに、あらためてびびってしまう。
値段そのままで本当にいいのか
値段そのままで本当にいいのか
置いてあるか、置いてないか。ただそれだけの違いで胸の高鳴りに高低差がありすぎるんじゃないかと感じたエビアン
置いてあるか、置いてないか。ただそれだけの違いで胸の高鳴りに高低差がありすぎるんじゃないかと感じたエビアン
搭乗も優先される。今まで、乗れればいいやの精神で搭乗の順番なんて気にしたことなんぞなかったが、周囲を気にせず荷物を収納できるのがありがたい。

ここの人たちって、こんなに優雅な時間をすごしていたのか……!

交通手段に身を委ねているだけで贅沢が押し寄せてくる

周囲に置かれているものにもいちいち感動してしまう。
良い紙でできているお食事&ドリンクメニュー。披露宴会場みたいだ
良い紙でできているお食事&ドリンクメニュー。披露宴会場みたいだ
読むのが疲れるくらい書いてある
読むのが疲れるくらい書いてある
食事は4種類から選べるらしい
食事は4種類から選べるらしい
客室乗務員さんが「Nice to meet you!」と声をかけながら、機内食はどれがいいですかと、丁寧に聞き回っている。

「Nice to meet you!」、直訳だと「お会い出来てうれしいです」である。決まり文句だとわかっていても、言われ慣れてなさすぎて照れくささがある。
ウェルカムドリンクでシャンパンも来た
ウェルカムドリンクでシャンパンも来た
どういうことなんだろう。節目の祝いごとで飲むものだと思っていたシャンパンを、これから飛行機が飛ぶ、それだけの理由で飲んでもいいらしい。

恐縮しつつも、口にすればただただ美味いのでぐいっと飲み干してしまった。1日あたり相当数離陸しているはずの飛行機の中で何度もこれが行なわれているなんて。静かな祭りは無数にあったのだ。

ビジネスシート、何がそんなに違っていたのか


ここで、具体的にビジネスシートがどのくらい普段とちがっていたかについて書き出してみたい。
① 思っていた以上に広さがちがう
広大すぎた。想像していた以上に空間があまる。足を、奥へ奥へと伸ばしてみても終端にたどりついてくれないのだ。
足の先にあと30センチ以上ありそうな空間がもったいなく感じる
足の先にあと30センチ以上ありそうな空間がもったいなく感じる
身にあまる贅沢だと思っていたが、物理的にもスペースが身にあまっていて、余白が多い。もっと足が長ければいいのに、とつい思ってしまう。
② ヘッドホンが高そう
イヤホンじゃないだけに留まらず、高そうなヘッドホンが、厚手の袋の中にぴっちりと収納されていた。
わたしの化粧ポーチよりぜんぜんしっかりしている
わたしの化粧ポーチよりぜんぜんしっかりしている
結び目までかっこいい
結び目までかっこいい
この界隈にまったく詳しくないんだが、ぱっと見、ちゃんと音楽を聞きたい人がつけてるやつっぽい
この界隈にまったく詳しくないんだが、ぱっと見、ちゃんと音楽を聞きたい人がつけてるやつっぽい
つい浮かれる
つい浮かれる
ちなみに、どこに差すと使えるのかがよくわからず、この浮かれている写真がヘッドホンと自分との接触のクライマックスになってしまった。穴の探し方に問題があったのだと思う。
③ふとんとまくらが
ふかふかで白い
ふとんは足先まですっぽりと埋まるくらいに大きかった。しかも、ふかふかで白い。汚してしまわないだろうかとオロオロする。まくらも、やわらかい。ふかふかを感じたさだけでつい背中に挟み込んでしまう。
白すぎやしないか
白すぎやしないか
うちのふとんにしたい
うちのふとんにしたい
はじめて遭遇するものでも、くるまれるとその包容力に安堵してしまうなーとも思った。大きいってすてきだ。
④ 食器が割れそうでこわい
食器がきちんとしていると背筋が伸びるが、高貴な気持ち以上にわき上がるのが、「こわしたらどうしよう」という不安だ。弁償なんだろうか。
落としたらたぶん割れる
落としたらたぶん割れる
ビールもガラスのグラス。しかもなんか薄い
ビールもガラスのグラス。しかもなんか薄い
美味しいけどこわい
美味しいけどこわい
飛行機は常時動いている。時々気流に走行を邪魔をされて、よくわからない動きをする可能性だって否めないのだ。

ぴかぴかしているグラスはうれしいけどこわい。とてもこわい。なんで、全部ガラス製なんだ。
だけど、お酒の誘惑にはあらがえない
だけど、お酒の誘惑にはあらがえない
うっかり欲張ってしまった
うっかり欲張ってしまった
⑤ 食事の細部がすごい
食事は物品そのものも豪華なのだが、飾り付けがいちいち細やかなことになっていた。
グラス同様、割らないか不安になる食器群
グラス同様、割らないか不安になる食器群
肉がでかい
肉がでかい
見るからに複雑な味をしていそうなドレッシング。ミニトマトは信号機みたいな色の組み合わせだ
見るからに複雑な味をしていそうなドレッシング。ミニトマトは信号機みたいな色の組み合わせだ
豪華な食べ物の末期症状だと思っていた花びらが散っている状態に、まさか今日出会うなんて
豪華な食べ物の末期症状だと思っていた花びらが散っている状態に、まさか今日出会うなんて
寿司の外であばれるいくら
寿司の外であばれるいくら
バターが花模様
バターが花模様
つい接写をくりかえしてしまう事態だ。お腹、すごくすいているのに。
しかもハーゲンダッツがつくという。「バニラ」じゃないのか
しかもハーゲンダッツがつくという。「バニラ」じゃないのか
霜がつきすぎているとか、どうでもいい
霜がつきすぎているとか、どうでもいい
⑥ よくわからない装置がついている
ところで
ところで
これ、なんでしょうか
これ、なんでしょうか
この装置のことが最初から最後までよくわからなかったし、なんだか聞くのが照れくさくて聞けずじまいだった。もし、知っている人がいたら教えてほしい。
⑦ 寝るか起きているかで
すごく悩む
こんな状況、もう次はないかもしれない。寝たらもったいないんじゃないだろうか。いや、こんなに寝るための設備がそろっている今、寝ないでいたらもっともったいないんじゃないだろうか。悩んでしまった。
結局少し寝てみたのだが、体勢がちょっとぎこちない気がした
結局少し寝てみたのだが、体勢がちょっとぎこちない気がした
せっかくの機会を、すみっこまで味わいつくしたい気持ちでいっぱいになっていた。

骨付き肉やカニを食べるときに、極限まで肉を掘り起こそうと必死になる気持ちにちょっと似ているかもしれない。食べ慣れていないから、骨(殻)と肉をきっちり分断するスキルが足りていないのに、どうにかせねばと心ばかりあせってしまう、あの感じだ。
「暮らせる」「泣きそう」「『どうしよう』ってさっきから思いすぎている」飛行中に書いたメモを読み返すと、この人大丈夫だろうかという気持ちになる
「暮らせる」「泣きそう」「『どうしよう』ってさっきから思いすぎている」飛行中に書いたメモを読み返すと、この人大丈夫だろうかという気持ちになる
だけど慣れはむごい。着陸するころには、この豊かな席にもすっかりなじみ始めていた。もう何も知らなかった頃には戻れないんじゃないだろうか。もし、エコノミーに座って物足りなくなんぞなってしまったら今後どうしようか。

夜行バスでは、三列シートを選ぶようになってから、四列シートを選べなくなってしまった事例がある。
と、不安視していたものの帰りは帰りでエコノミーにしっくりと馴染んでいた
と、不安視していたものの帰りは帰りでエコノミーにしっくりと馴染んでいた
ビジネスとのいちばんの違いはお手拭きかも(個人感)
ビジネスとのいちばんの違いはお手拭きかも(個人感)
プラスチックのコップの安心感よ
プラスチックのコップの安心感よ
ビジネスクラス、いつかまた乗ってみたい気もするけど、ずっと先の「いつか」でまだ大丈夫そうだ。とりあえず、今度飛行機に乗るときは、今回座れなかった窓際の席に座りたい。

帰りは帰りで「席がありません」って言われた

帰国便の受付では、席が足りてないと言われた。オロオロしていたら、日本語がしゃべれる空港の人に「たぶん乗れるよ!」とおおらかに言われ、そういうものなのかなー?と思いながら進路に進んでいったら、結局ちゃんと乗ることができたのだが。
その時のチケット
その時のチケット

搭乗ゲートに向かう途中でネット検索した情報によると、オーバーブッキングの際には振替に応じてくれる人を募るという話もある。わたしの席はもしかしたら誰かが譲ってくれたものなのかもしれない。

オーバーブッキング、今回でみっちり覚えた。今後も遭遇する時は遭遇してしまいそうだが、とりあえずチェックインを早めにするように心がけたいなぁと思う。
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