オオサンショウウオを観察しに鳥取へ
この観察会を主催しているのは、鳥取県西伯郡大山町を中心にオオサンショウウオの調査・観察活動をしている「大山・オオサンショウオの会」という民間団体。
自然豊かな大山には、身近なところにもオオサンショウウオが今も生息していていることを感じてもらうべく、諸々の許可と協力を取り付けて実施しているそうだ。
今年はまだ開催予定があるので、ご興味のある方は
こちらからチェックしてください。
私が訪れたのは、第2回の8月4日。夜19時半に集合場所となっている施設に集まり、まずは会の方々からオオサンショウウオの生態について、しっかりとレクチャーしていただいた。
オオサンショウウオに会えるかもしれないとあって、私を含めて遠方から来ている人も多かったようです。
せっかくなので、ここで学んだ内容の一部をシェアさせていただきます。
・オオサンショウウオは現存する世界最大級の両生類で日本固有種。
・約3000万年前からオオサンショウウオは存在している。
・昔は自宅の池で食用として飼う人もいて、白身でプリプリした食感なのだとか。
・通常は全長は60センチ前後だが、1.2メートル以上に育つこともある。
・ 60~70年は生きると思われるが、記録がなく詳細は不明。
・近畿から四国、九州にかけて生息しており、中でも鳥取は生息密度が高い。
・京都の鴨川水系などでは、人の手によって安易に移入されたチュウゴクオオサンショウウオとの交雑個体が増えてしまい、 純粋な種の存在が危うくなっている。
うかつに手を出すと、この口でガブリとやられる可能性が高いので気をつけましょう。写真は鳥取県立大山自然歴史博物館の剥製。
・夏の繁殖期になると、産卵するための巣穴を求めて移動する。
・巣となる穴がないコンクリートの護岸、乗り越えられない高さの堰といった人工物によって、繁殖が妨げられている。
・巣穴でメスが生む卵は500~600個で、それをオスが約5か月間も守る。
・孵化してからしばらくは、ウーパールーパーのようにエラのある姿をしている。
・危険を感じると背中からネバネバする体液を出し、それが山椒の香りだからサンショウウオだという説もあるが、実際は全然違う匂いらしい。
ハンザキと呼ばれているのは、口が大きく開いて裂けるように見えるから、体を二つに裂いても生き続ける(と思われている)から、の2つの説があるそうです。
へー、へー、へーと、へーの連続である。なんとなく姿はイメージできるけど、どんな生物なのかまでは理解していなかったオオサンショウウオ。
その不思議な生態や希少性を理解することで、さらに出逢うことに対する期待度が高まった。特に体液の匂いが気になるので、チャンスがあれば嗅いでみよう。
その辺の川にいた!
集合場所から田んぼの脇の真っ暗な道をしばらく歩くと、会の方が目星をつけていたポイントへと到着した。人里離れた場所ならぬ、人里の中。え、ここ?
ざわざわする参加者に、「民家のすぐそばなので、なるべく静かにしてくださーい」との注意の声がかかるような場所だ。
探す相手はオオサンショウウオである。人間が立ち入ることのない山を登り、その谷を流れる渓流を歩き回って探すものだと思っていたら、車道のすぐ横を流れる川に、隠れることもなくドーンといらっしゃったのだ。
つい敬語を使いたくなるほどの圧倒的な存在感である。でかーい。
あの丸太みたいなのがオオサンショウウオなのか!
ここまで人間の生活圏と重なる場所に、天然記念物のオオサンショウウオがいるとは思わなかった。
この人とオオサンショウウオの距離感を体で感じることが、この日の目的なのだろう。それにしてもでかいな。
いっぺんに全員が観察するという訳にはいかないので、半分に分かれて観察。この場所だけで3匹もいるようだ。
穴の中を覗いてみよう
私はのんびりと後半組で観察に行ったのだが、すでにお目当てのオオサンショウウオは堰に開いた穴に隠れてしまった後だった。
以前に撮影された豊哲也さんの写真をお楽しみください。
この穴の中に隠れているそうです。
こんな機会はもう二度とないだろう。どうしても間近でみたいので、ちょっとした滝行を覚悟して、水のカーテンの向こう側を覗いてみることにした。
頭を突っ込むのにちょっと躊躇する水量。でも突っ込むよ。
穴の奥に横たわるオオサンショウウオ、ゾクゾクします。
オオサンショウウオ、ものすごい存在感だ。普通のサンショウウオが鉛筆くらいの大きさなのに、唐突にこの抱き枕サイズである。アマゾン川でもナイル川でもなく、日本の小さな川に世界最大級の両生類がいるというのがすごい。
石造りのほこらのような穴の中で、横たわるオオサンショウウオの姿の神々しさ。60年以上は生きるらしいので、私よりも年上なのかもしれない。
今となってはとても貴重な存在なのだが、昔はよく食べたという話も理解できる。この大きさのタンパク質が近所の川にいたら、そりゃ食べるだろう。大山で知り合ったおじいさんの話だと、昔は大雨のあとで車に轢かれたやつを食べることもあったそうで、きれいな水に生息するから臭みはなく、蒲焼にすると上等なウナギのようにうまかったそうだ。
オオサンショウウオを観察した堰は、オオサンショウウオを通せんぼする堰でもある。
オオサンショウウオの匂いを嗅いでいる
堰にいたオオサンショウウオのうち、一匹を会の方が慣れた手つきで優しく捕まえ、埋め込み式マイクロチップによる標識調査をおこなった。もちろん許可を受けての調査である。
そして我々参加者も、オオサンショウウオにあまり負担をかけない範囲で、じっくりと観察させていただいた。
穴にいたのとは別の個体を確保して、移動範囲や生息密度などを調べるために、個体識別調査のためのマイクロチップを埋め込む。
大山町にはチップの入ったオオサンショウウオが70匹近くいるそうだが、この個体はまだ未調査だったようだ。体長などを調べて記録した上で、注射器のような道具で小さなチップを打ち込む。
もしチップの入った個体が調査で見つかれば、その番号と記録と照らし合わせることで、成長の様子や移動範囲などを知る手掛かりとなるのだ。
この距離でオオサンショウウオを見ることができるなんて。
まん丸のつぶらな瞳がチャームポイント。
前足は四本指。
後ろのあんよは五本指。
ちょっとならさわってもいいという話なので、ありがたく指先でふれてみる。
皮膚はヌメヌメしていて、デコボコでブヨブヨ。そして意外と丈夫でしなやかな感じがする。ナマズとヒキガエルを足したような感触だろうか。その皮の下にはしっかりとした筋肉を感じた。
ちょこっとだけ触らせていただいた。
さて一番気になっていた匂いだが、さわった指を嗅いでみたり、鼻を直接オオサンショウウオに近づけてはみたものの、特に感じとることはできなかった。
危険を感じると背中からでるという、白い体液が出ていなかったためだろうか。会の方の話だと、今までに山椒の匂いがしたことはないとのこと。
もしかしたら時期によるものなのか、もっと強いストレスが必要なのか、あるいはただの伝説なのか。
カトちゃんぺ。
オオサンショウウオにとって、夏は繁殖のために巣穴を探して歩き回るシーズン。こいつも上流へと巣穴を探しに来たけれど、高い堰に通せんぼをされていたのだろう。そのストレスで山椒の匂いがする体液はすでに全部出てしまっていたのかもしれない。
事前のレクチャーで堰が遡上の邪魔をしているという話は聞いていたが、こうして実際に川を登れないオオサンショウウオをみると、どうにかバリアフリーにしてやれないものかと思う。
もしウナギのような味だとすれば、山椒が合うからサンショウウオなのかなと、ぼんやり考えながら宿へと戻った。
オオサンショウウオが大山を流れる普通の川に住んでいるということを、人に聞いて知識として知るのと、このように実体験で知るのでは、同じ情報でも体に染み込んでくる深さが違う。
私になにかができる訳でもないのだが、この観察会に参加できて、本当によかったと思う。