特集 2017年8月12日

40年前の父と同じ写真を撮りたい(デジタルリマスター版)

一枚の写真を頼りに
一枚の写真を頼りに
私の父は12年前、50歳の若さで亡くなった。
当時私は家を出ていたから、最後の1年はほとんど会っていない事を考えると、父に会えなくなってから約13年が過ぎた。

誰に対しても優しくて、ユーモアがあり、笑顔が印象的だった父。そんな父のアルバムを見返していたら、気になる写真があった。

今回はその写真と同じ格好で、同じ場所に行き、父が見た風景を見に行くことにした。

※2010年12月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
東京葛飾生まれ。江戸っ子ぽいとよく言われますが、新潟と茨城のハーフです。
好物は酸っぱいもの全般とイクラ。ペットは犬2匹と睡魔。土日で40時間寝てしまったりするので日々の目標は「あまり寝過ぎない」(動画インタビュー)

前の記事:彦根の心霊スポットが本気で怖い~地元の人頼りの旅in滋賀県~

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父の写真

父の写真を見るのが好きだ。
もう会えない事を考えると悲しくなるが、好きだ。
特に若い時の父は、私が言うのもなんだが男前で好青年風で好きなのだ。
父の高校時代(右)。私の大きな口は父親ゆずり。
父の高校時代(右)。私の大きな口は父親ゆずり。
右から2番目。陸上部だった。
右から2番目。陸上部だった。
たぶん弾いてるフリ
たぶん弾いてるフリ
アルバムをめくっていくと、父は高校時代に陸上部に精を出していたんだなとか、仲の良かった友人はこの人かとか、ギター弾けるフリしてたんだなとか色々と分かって楽しい。

それらの中には、学校やら新潟の実家というように場所が大体想像のつく写真や、説明が書かれているものがある。
陸上部の合宿写真。(右から2番目、上)
陸上部の合宿写真。(右から2番目、上)
場所と共になぜか上の写真のサングラスの人の絵が。絵はあまり上手くなかったようだ。
場所と共になぜか上の写真のサングラスの人の絵が。絵はあまり上手くなかったようだ。
しかし大抵はどこだか分からないものや、これと言った特徴のない風景ばかりだった。
どこでしょうここは
どこでしょうここは
分かったとしても、何せ40年以上も前の写真。新潟の家も改装したし、学校や街の景色はきっと随分と変わっている事だろう。そう思いながらページをめくる。

すると「棒乃折山」という山の頂上らしき所で笑顔で旗を振っている写真を発見した。それが冒頭の写真だ。
大学時代の父
大学時代の父
今までなら次へとページをめくっている所なのだが、この時は「ん、まてよ」と思った。

山なら40年経ってもきっと変わらずあるだろう。ならば父がそこで見た風景を私も見られるんじゃないか、と。

さらによく見たらこの写真、後ろの景色がボンヤリしていてよく分からない。霧がかっているのもあるだろうし、白黒写真だからというのもあるだろう。

そこにはどんな景色があったのだろうかとさらに気になった。
「棒乃折山」を調べてみると、奥多摩にあるようだ。そんなに遠くないと知った私は、その週末にさっそく登る事にしたのです。
行ってきます
行ってきます

その前に準備

いや、ただ登るだけではつまらない。
どうせなら父と同じ格好で、同じポーズの写真を撮ったら面白いのではと思った。という訳で写真を改めてジックリと見てみた。


・白いシャツを着ている
・旗を振っている
・案内板に帽子をかけている

ポイントはこの3つだ。
白いシャツというのを私は持っていないのでワイシャツを買ってきた。帽子もそれっぽいものを用意。旗は・・・100円ショップでつっぱり棒と、布切れを買ってきた。
無地の布切れはこの色しか無かったがまあいいか
無地の布切れはこの色しか無かったがまあいいか
そんな訳で下にシャツ着てます
そんな訳で下にシャツ着てます
それでは高尾山以来の登山に行ってまいります。
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バスに合わせるため想定外の朝5時起床。

実は…色々な人たちに怒られそうだが、前日の夜までこの山を甘く見ていた。
早朝の奥多摩方面電車には山ボーイ&山ガールだらけ
早朝の奥多摩方面電車には山ボーイ&山ガールだらけ
2時間程で登れる低山である。経験者のブログを見ても「軽装でOK」「初心者向け」「ハイキングにいい」と書かれていたから、まあ動きやすい格好なら大丈夫と思って特に準備していなかった。

しかし今回つきあってくれた友人がどうやら高尾山とは違うらしいと前日に力説してくれた。

「普段着でも大丈夫じゃないの?」と面倒臭がりつつも、直前に調べたバスの少なさにようやく本格登山の匂いを感じとり、きゅうきょ登山靴やウィンドブレーカーを引っ張り出し(母の)、防寒着やカイロ等を大量にリュックに詰め(最後まで使うことは無かったけど)、とりあえずルートを(他人のブログを丸々)印刷。

このとき出発4時間前。
なので寝不足。山でもガールでもない感じの即席ファッション。
なので寝不足。山でもガールでもない感じの即席ファッション。
こうして素人2人で若干の不安を抱きつつ、電車やバスを乗り継ぎ登山を開始。

登るのは頂上まで最短で行けるコースを選んでいた(甘く見ていたから)。その為いきなりの急斜面・・・運動不足の体にはこたえる。すぐに暑くなった。
最初は涼しかったけど
最初は涼しかったけど
すぐさま暑くなってウィンドブレーカーを脱ぎ
すぐさま暑くなってウィンドブレーカーを脱ぎ
結局ワイシャツになった
結局ワイシャツになった
ノロノロゼエゼエ
ノロノロゼエゼエ
このコース、最初は小川とワサビ畑が並び涼しげで心地良い風景があったのだが、途中からは杉の木しか見えないような激しい坂が頂上まで続く。
ひたすら杉ですよ。
ひたすら杉ですよ。
迷いようがない道だからか、途中に案内板がほとんど無い。いまどの辺りかも分からないままゼエゼエと汗をかきながら登る。あまり人気のないコースなのか、人けは少なかった。途中で出会ったのは5人くらいか。
案内板もっと増やして・・・!
案内板もっと増やして・・・!
確かにあまり調べずに行ったのが悪いのだが、あとどの位登るのかが分からないのは辛かった。いつゴールするのだろうと早くも挫けそうになる。
すると突然現れた犬たち
すると突然現れた犬たち
突如、首輪をした大きい犬が2匹、私たちの横をへっへと通って仲良く通り過ぎすぐに視界から消えた。・・・犬達だけで散歩?


突然の事に足を止めたついでにちょっと休んでいると、犬達が戻ってきてまた私たちの横を通って降りていった。
どけどけーい
どけどけーい
既に疲労していた友人は「もしかして頂上まで行って戻ってきたのかな、だとするとそんな遠くないかもね」と適当な事を言って無駄に希望を持たせたられたが、結局ここから1時間半歩いた。

こんな事もありつつ、汗だくになりながらちょこっとずつちょこっとずつ、途中でチョコを食べながら頂上に近づいていった。
杉が無くなってきた。もうすぐ頂上か?!
杉が無くなってきた。もうすぐ頂上か?!
バスを降りてから2時間半後、ようやく杉の木とは違う風景が見えてきた。

ああやっと、父の見た景色がもうすぐそこに!
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誤算その1:黒ポチ

ガッカリだ。
景色にではなく、自分にガッカリだ。

頂上の景色を見てもらう前に、これを見てほしい。
撮影しようとすると黒いポチが出る。
撮影しようとすると黒いポチが出る。
実は私のカメラはけっこう前から、「全体が明るいところを撮ろうとすると黒い点(レンズの内側にある埃?)が出る」という欠点があった。

今日も出てしまった。天気が良いと出るんだこれが。
景色台無し
景色台無し
いい加減買い換えようとは思っていた。しかし買うタイミングが無かったのとたまにしか現れないからいいやとずっと使っていたのだが・・・こんな大事な写真に黒ポチが・・・自分のバカ。
しかも今までに出たことなかった左の影まで
しかも今までに出たことなかった左の影まで

父の声がする

父が私に「カメラ、もう買い換え時だね」と言っているのだな、そう思った。近々買い換えます。
友人が撮ってくれた写真。いつも友人に助けてもらってばかりです、父さん。
友人が撮ってくれた写真。いつも友人に助けてもらってばかりです、父さん。
黒ポチはショックだったが、綺麗な写真は友人のカメラに収めてもらうことにして、私は父も見ただろう風景を堪能した。

そこからの景色は、何の山だかは分からないが尾根が続き、終わりかけの紅葉と共に層を成していてとても美しかった。それまでの疲労が一気に消える。
父の見た風景を目に焼き付けながらご飯を食べる。
父の見た風景を目に焼き付けながらご飯を食べる。
いや、ご飯を食べてる場合じゃなかった。

企画のメイン「父と同じ写真を撮る」をせねばいけない。頂上の証である案内板に近づいてみる。
・・・あれ?「棒ノ嶺」?
・・・あれ?「棒ノ嶺」?

誤算その2:板が変わってる

写真と同じ「棒乃折山」の案内板はどこにも見当たらなかった。

どうやらこの40年のうちに変わってしまったようだ。えー。
ちなみにこの「棒ノ嶺」は埼玉側からの呼称であり、かつて書かれていた「棒乃折山」は東京側からの呼び方のようだ。

そして、案内板は背が高くなっていた。

誤算その3:板が高くなってる

これじゃ同じ写真が撮れない。
これじゃ同じ写真が撮れない。
という訳で、登ってきた側を向いている写真になってしまうが高さを考慮しこっちの案内板で写真を撮る事にした。
既に帽子が乗っていた。父がかけたかな
既に帽子が乗っていた。父がかけたかな

旗作り

旗をまだ作ってなかったので作りたいと思います。
よく見ると風で翻っている
よく見ると風で翻っている
この旗、最初は何が書かれているのかまるきり分からなかった。

だがしばし経ってから、大学生時代にフォークダンスのサークルに入っていたと言っていたのを思い出した。聞いた時、フォークダンスて!と思ったのを思い出したのだ。
そうだそうだ
そうだそうだ
上部分はよく分からないので日付を入れた
上部分はよく分からないので日付を入れた
真ん中にShall we dance?と書いたのは友人の助言で、意味はない。途中から筆記体になったのも友人の助言で、意味はない。
翻った時にも文字が読める様に裏から文字をなぞる
翻った時にも文字が読める様に裏から文字をなぞる
関係ないけど後ろの木に登っていたオールドボーイ。危ないよ!
関係ないけど後ろの木に登っていたオールドボーイ。危ないよ!
突っ張り棒に布を紐でくくりつけ、準備はできた。
それではいざ、父と同じ写真を撮ります!
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再び白いシャツ姿になり、板に自分の帽子をひっかけ、友人にカメラを託し同じように撮ってもらうようにお願いした。
ワンテイクめ。旗がなびいていない。
ワンテイクめ。旗がなびいていない。
むふー。
風が無いのでイマイチだ。
なので旗を振り回してるところを撮ってもらった。それがこちら。

父と同じ(ような)写真が撮れました

1970年頃、父
1970年頃、父
2010年、娘
2010年、娘
どうだ!
・・・
って全然違いますね。誤算もあったので間違いが結構ある。

しかしここは確かに棒ノ折山の頂上だし、この時は割と父に近づけたと思った。何よりも私が今でも満足しているからそれで良しとさせてほしい。

いっこ、肘の曲げ具合が惜しかったけれど。

こんな感じで今回の目的は達成した。
いつか私に子供ができる事があれば、3代目としてぜひ同じ写真を撮ってほしいと思う。その頃にはなぜ「フォークダンス」と書かれているのか不明だろうけど。
もういっちょ、娘(大きい方の標高板で撮った)
もういっちょ、娘(大きい方の標高板で撮った)
父さん、娘はやんちゃです。

足を攣りそうになりながらこの写真を撮っていると、父と同世代ほどの女性がうまくなびかない旗の端を引っ張ってくれていた。

最初は怒られるのかと思った(何となく)が、笑顔で手伝ってくれていたので、何をしているのか父の写真を見せながら説明すると「お父さん俳優さんみたいね。手伝えて光栄だわ」と言ってくれた。

そんな嬉しい言葉を頂いた後、大満足の気分で山を下りた。

帰り道

しかしこれまた帰りも想像以上に大変だった・・。
まだ余裕だった最初の頃。岩茸石という岩に登ってみたら通りがかった人に「そんな危ない事してたら結婚できないよー!」と呪いの言葉を発せられる。父の代弁者か・・?
まだ余裕だった最初の頃。岩茸石という岩に登ってみたら通りがかった人に「そんな危ない事してたら結婚できないよー!」と呪いの言葉を発せられる。父の代弁者か・・?
分岐点で迷っていたら薦められた人気コース。しかし下りはけっこう危険だった。
分岐点で迷っていたら薦められた人気コース。しかし下りはけっこう危険だった。
最初の数十分は快調だった。帰りは余裕だねなんて話していたのだがある分岐点を超えてから、ツルツルとした岩を下りて行くことに。途中、川を渡ったりとなかなかスリリングだった。
沢下りというやつでしょうか
沢下りというやつでしょうか
滑って転んでお尻だけ川に落ちるというハプニングも。
滑って転んでお尻だけ川に落ちるというハプニングも。
頂上から2時間半でやっとゴール、と思ったらここからバス停までノロノロと45分かかった。
頂上から2時間半でやっとゴール、と思ったらここからバス停までノロノロと45分かかった。
いつもの軽い気持ちから始まった今回の企画。結果的に思いがけず体力勝負のものとなったけどその分ずっと思い出深いものになった。こんな感じで怪我もなく無事終了!
温泉後に爆睡してる友人と饅頭。付き合ってくれて有難う。
温泉後に爆睡してる友人と饅頭。付き合ってくれて有難う。
(大変とはいえこの山、ちゃんと装備して気構えができていれば確かに初心者向けだと思います。温泉あるしお薦め。)

写真と山、変わらないもの

父はこの景色を見たか、この川を渡ったか、この空気を吸ったか。時々足を止め、生まれてもいない40年前に思いを馳せて、変わらない山に感謝した。

今回甘く見ていた為に大変な目にあい、途中「山登りをする人の気持ちが分からない」とか考えてしまったけど、もしかしたらそういった昔から変わらない景色を求めているのかもしれないなと思った。
人間は歳を重ねて変わって、いなくなっちゃうけど、写真にある笑顔のように山はいつでも変わらずそこにある。

この日、13年ぶりに父との思い出を作る事ができた。
久々に父と出会えた気がした。
何が入ると思う?と友人に聞いたら「思い出」とキレイに返された
何が入ると思う?と友人に聞いたら「思い出」とキレイに返された
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