特集 2017年7月31日

え、たらい舟って今も現役なんですか!

たらい舟、佐渡島で今も現役でした。
たらい舟、佐渡島で今も現役でした。
たらい舟をご存知だろうか。佐渡島の観光を計画する上で、必ず候補に挙がるのがたらい舟の体験乗船。あとは金山とトキ。

私も「昔はこんな舟を使っていたんだ~」なんて思いながら乗ったのだが、その認識はちょっと間違いだった。

その昔、一寸法師は茶碗の舟に乗って旅へと出たが、佐渡の漁師は今でもたらい型の舟で漁をしているのだ。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

観光用のたらい舟なら乗ったことがある

2011年の秋、当サイトのプープーテレビなどでおなじみの宮城マリオさんに案内されて、日本海に浮かぶ佐渡島へと初めてやってきた。

そのときに定番の観光スポットとして訪れたのが、おけさ傘をかぶったおねえさんが漕ぐ、たらい舟の乗船体験である。
宮城マリオさんとそのお父さん。
宮城マリオさんとそのお父さん。
たらい舟という存在は前から知っていたが、なんに使う舟なのか、いつの時代まで使われていたのか、その辺のことはなにも知らないまま、無邪気にたらいで海に浮かぶという行為を楽しんだ。
ここ最近のたらい舟のイメージは、婦人倶楽部という佐渡在住の婦人達による「たらい舟に乗って」という曲。使い道はよくわからないけど、楽しそうな舟だなーという感じ。
その時から数えて、佐渡にはもう10回以上来ているのだが、あるとき海辺をドライブしていると、たらい舟乗り場ではないところで、プカプカと浮かんでいる舟を発見した。

島在住の友人によると、たらい舟は今もなお現役の漁船で、これで漁をしている人がいるのだという。

なんと、今でも実用品だったのか!

佐渡の中でも最果ての地にやってきた

たらい舟に乗っている現役漁師を取材したい。そして可能なら一緒に乗せてもらい、私も何かを捕まえて食べたい。

佐渡の友人に相談すると、佐渡島南西の小木半島に位置する、深浦という小さな集落を教えてもらった。
海と山に囲まれた深浦の集落。すごい立地だ。
海と山に囲まれた深浦の集落。すごい立地だ。
集落前の入り江。この一帯がたらい舟の漁場となる。
集落前の入り江。この一帯がたらい舟の漁場となる。
いきなりアポなしでいっても都合よく漁はやってないので、事前に取材の相談をしなければいけないのだが、もちろんネット上に窓口などはない。

そこで、この深浦の集落に惚れこんで、空き家を借りている東京在住の友人の友人に間に入っていただき、集落のまとめ役の方に取材の話を通してもらって、対応してくれる漁師さんを教えてもらった。人づての人づての人づてだ。
ドローンでの空撮みたいな写真が続いたが、平成14年にできた橋からの撮影でした。
ドローンでの空撮みたいな写真が続いたが、平成14年にできた橋からの撮影でした。

なんだか辺境の地の少数民族を取材するような段取りだが、数年前にはピコ太郎をプロデュースする前の古坂大魔王がNHKの生放送で訪れたりしているので、決して閉鎖的な集落ではない。

ただただ、昔からの文化や町並みが色濃く残っているだけなのだ。流行によって平均化されることのなかった日本の一部。なんでも鎌倉時代あたりからずっと続く集落なのだとか。
実際に来てみると、深浦という地名に納得するしかない立地。
実際に来てみると、深浦という地名に納得するしかない立地。
深浦は佐渡の中でも辺境といえる場所。すぐ近くにある宿根木の町が重要伝統的建造物群保存地区として観光地化しているのに対して、この街に観光の要素はまるでない。たらい舟もあくまで実用品だ。

先祖代々から受け継いできた田んぼや畑で百姓をやりながら、目の前の海で漁をする、昔ながらの半農半漁というスタイルで暮らしている人達が住む場所なのである。
目の前の海を漁業権で管理することで、生きる糧である水産資源を長年に渡って維持し続けている。平地が少ない場所なので、田んぼや畑は海のすぐ近くまで作られている。
目の前の海を漁業権で管理することで、生きる糧である水産資源を長年に渡って維持し続けている。平地が少ない場所なので、田んぼや畑は海のすぐ近くまで作られている。
こんな場所にもバス停がちゃんとあった。
こんな場所にもバス停がちゃんとあった。
自給自足はできるけれど、現金収入となる仕事が少ないため、若い人はみんな島を出ていってしまう。そのため17世帯の家があるけれど、過疎化が進んで実際に住んでいるのは13世帯だけらしい。

それでも、家を継ぐ長男が定年退職を迎えて戻ってくることもある。還暦を過ぎてはいるが「あんちゃん」と呼ばれて、ここでは若手扱いされるそうだ。
さすが深浦という時刻表。
さすが深浦という時刻表。
これが佐渡のバス路線図で、左下にある灯台の下が深浦。まさに佐渡の果てだ。
これが佐渡のバス路線図で、左下にある灯台の下が深浦。まさに佐渡の果てだ。
集落のまとめ役である御夫婦が、仲睦まじく網の手入れをしていた。
集落のまとめ役である御夫婦が、仲睦まじく網の手入れをしていた。
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たらい舟で漁に出よう

深浦という場所がすごすぎて前置きが長くなったが、ここからようやくお目当てであるたらい舟の話となる。

取材させていただいたのは、佐渡汽船の船乗りを退職後、20年ほど半農半漁の生活をしている亀屋さん。そして撮影用にわざわざ船を出してくれたのが佐久間さん。本当にありがとうございます。
亀屋さん。
亀屋さん。
そして佐久間さん。
そして佐久間さん。
たらい舟とは、この小木半島一帯で昔から使われている、直径1.5メートル程の楕円形をした小舟のこと。

この辺りの海岸線は、1802年の地震によって1メートル余りも隆起したため、グニャグニャと複雑に入り組んだ磯場になっている。

そこに潜むサザエやアワビ、あるいは海藻類を捕るために、従来の和船よりも小回りの利く、たらい舟という独特のスタイルが開発された。
まさにたらいの舟だ。舟の前側で使用する一本の櫂(かい)だけで操船をする。
まさにたらいの舟だ。舟の前側で使用する一本の櫂(かい)だけで操船をする。
甲羅干しをする亀のように、当たり前に存在するたらい舟。
甲羅干しをする亀のように、当たり前に存在するたらい舟。

江戸末期なのか明治の初めなのか、あるいはもっと前なのか、その発祥時期は定かでないが、洗濯桶を改良したものだとか、牛馬のエサを入れる飼い葉桶を利用したとか、いろんな誕生説があるようだ。

この辺りに伝わっている話では、佐渡南部にはマルダイという大きな味噌蔵があったため(そして今もある)、味噌樽を作る職人と船大工の技術が融合して、このたらい舟が作られるようになったのではとの話だった。

味噌樽を半分に切ったような形なので、「半切り」とも呼ばれている。
亀屋さんのたらい舟。エンジンを積んで走るため、船舶として登録がしてある。
亀屋さんのたらい舟。エンジンを積んで走るため、船舶として登録がしてある。
100年以上に渡って、この地で変わることなく使われてきたたらい舟だが、最近になって大きな変化が訪れた。エンジンが付いたのだ。

なんだか自転車に原動機をつけたモペッドみたいだ。たらい舟の漁はそんなに遠くへ行く必要もないので、今も櫂だけで操船する舟もまだ多い。
昔ながらの櫂を漕いで出船。たらい舟は前側に立って操船するのが特徴だ。
昔ながらの櫂を漕いで出船。たらい舟は前側に立って操船するのが特徴だ。
ブオーーンとエンジンで進んでいく、現代のたらい舟。
ブオーーンとエンジンで進んでいく、現代のたらい舟。
蝉の鳴き声と、鳥のさえずりと、たらい舟のモーター音。深浦まで来てよかった。
亀屋さんの出船を見送り、同行いただいた佐渡の映像を撮り続けている山本政次さんと私は、佐久間さんの船に乗り込む。

この深浦みたいな場所に家を構えて、こんな船でのんびり釣りをする日々が訪れたら最高だろうなーと、どうしても妄想してしまう。
たらい舟もいいけれど、普通の舟もやっぱりいいな。
たらい舟もいいけれど、普通の舟もやっぱりいいな。

これがたらい舟の磯ねぎ漁だ

今回みせてもらった漁は、海底のサザエやアワビを長い竹竿で捕る「磯ねぎ漁」という漁法。

船縁から箱メガネという水中を覗く道具でサザエやアワビを探し、たらい舟の全長よりも何倍も長い竹竿を使って捕るという漁だ。この深浦では男女問わず必要に応じて行っている。

夏場は海が濁っているため(といっても泳ぎたくなるほど綺麗だが)、4~5メートル程度の竿を使うが、これが冬になると透明度が格段に上がるため、そして獲物が深いところに移動するため、この倍くらいある長竿を使うそうだ。

そこまで長くなると舟に乗せて運ぶという訳にもいかないので、海に浮かべて紐で引っ張って移動するのだとか。
舟の何倍も長い竿を積んで移動している姿を見ると、エンジンを積みたくなる気持ちもわかる。
舟の何倍も長い竿を積んで移動している姿を見ると、エンジンを積みたくなる気持ちもわかる。
竹竿の先は2種類あり、サザエを捕るのは3本の鉄棒が三角錐型に広がったサザエヤス。そして岩にへばりつくアワビを引っぺがすのがアワビカギ。

サザエは磯にへばりつく力がそれほど強くないので、このサザエヤスを上からギュッと押しつけて引っ張ると、簡単に外れて捕れるそうだ。

アワビカギは竹の先にシナクチ(サルナシ)という木が継いであり、この木の絶妙なしなりを上手に使って、アワビに傷をつけることなく引っぺがす。今年は残念ながらアワビは不漁だそうで、この日は出番がなかった。
長さの違う2本のサザエヤスと、シナクチの木を継いだアワビカギ。
長さの違う2本のサザエヤスと、シナクチの木を継いだアワビカギ。
この辺りは急な掛け上がりになっていて、サザエやアワビが潜むのは、岸から続く海中の岩肌。

舟が岩にぶつかるんじゃないかと心配になるような場所が漁場となるため、確かに普通の和船よりも、圧倒的に小回りの利くたらい舟が使いやすそうだ。どんな狭い場所にも入れるし、岸に舟をつけるのだって簡単だ。
丸くて小回りの利くたらい舟が、今もなお使われている理由がよくわかった。片手で操船できるのもポイントなのだろう。
丸くて小回りの利くたらい舟が、今もなお使われている理由がよくわかった。片手で操船できるのもポイントなのだろう。
右手の櫂で器用に舟を操り、左手の箱メガネで覗きながら獲物を探すという、100年以上も変わらない完成されたスタイル。

漠然としたイメージでしかなかったたらい舟での漁が、鮮烈な記憶となって脳裏に焼き付いていく。
箱メガネは斜めにして覗くのがコツだそうです。
箱メガネは斜めにして覗くのがコツだそうです。
海底のサザエを見つけると、水深に合わせたサザエヤスを手に取って、水中にスルスルと落とし込む。
海底のサザエを見つけると、水深に合わせたサザエヤスを手に取って、水中にスルスルと落とし込む。
三角錐型の鉄棒に挟まって、サザエがあがってきた。
三角錐型の鉄棒に挟まって、サザエがあがってきた。
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突然の雨

これが磯ねぎ漁なのかーと関心しながら眺めていたら、ポツリポツリと雨粒が落ちてきて、すぐにドサドサと本降りになってしまった。

雲行きが怪しいなとは思っていたのだが。私がこの深浦の神様に歓迎されていないのだろうかと、不安になる空の荒れっぷりに心が沈む。
「雨が降ってきたかな」
「雨が降ってきたかな」
ドサー。
ドサー。
カメラマンとして同行いただいた山本さんもぐっしょり。晴れていたらドローンを飛ばす予定だったんだけどね。
カメラマンとして同行いただいた山本さんもぐっしょり。晴れていたらドローンを飛ばす予定だったんだけどね。

普通だったら即取材終了となるような雨なのだが、こんなのは雨雲が通り過ぎるまでだからと、亀屋さんは気にするそぶりも見せずに漁を続けてくれた。我々が乗る船を出してくれた佐久間さんも、なんてことないさという表情で動じずに操船している。

私はこういう温かさに弱く(ただし感情が表に出てこないとよく言われる)、ちょっと泣きそうになった。
おかげで幻想的な写真が撮れました。
おかげで幻想的な写真が撮れました。

たらい舟に乗せてもらった

しばらくすると雨は上がり、せっかくだからとたらい舟に乗せてもらえることになった。

観光用のたらい舟なら2度ほど乗ったことがあるけれど、これは漁師さんが使っている本物のたらい舟だ。

個人的にはどんな高級車や高級クルーザーよりも興奮する、「さあ、お乗りなさい」である。一瞬、亀屋さんが王子様に見えた。
たらい舟が私を乗せるために近づいてくるという、人生に何度もないであろう喜びの瞬間。
たらい舟が私を乗せるために近づいてくるという、人生に何度もないであろう喜びの瞬間。
夢のタンデム(二人乗り)。まさにドンブラコという感じで揺れる。
夢のタンデム(二人乗り)。まさにドンブラコという感じで揺れる。
うれしい。とてもうれしい。
うれしい。とてもうれしい。
全長1.5メートルの小さなたらい舟は、落ちようと思えばいくらでも落ちれるくらいには揺れるけど、落ち着いてさえいれば意外と安定している。

「ほら、ここにサザエがいるよ」と、手作りの大きな箱メガネを覗かせてもらうと、海水が濁りやすい夏場とはいえ、海底の様子は丸見えだった。

なるほど、箱メガネを使うとこんなにハッキリと見えるのか。ただし、サザエを見つけられるかは別問題である。
ここにザザエがいるからと、箱メガネを貸していただいた。
ここにザザエがいるからと、箱メガネを貸していただいた。
えーと、どこですか?
えーと、どこですか?
これがまったくわからない。上の写真にサザエがいるのだが、これを読んでいるあなたは見つけられるだろうか。

亀井さんは「まわりとちっと違うから」というのだが、その違和感がわからない。ちなみに私の視力は1.5くらいあるはずなのだが。
「ほら、ここ!」「え、どこ?」
「ほら、ここ!」「え、どこ?」
櫂でわかりやすく指してもらって、ようやくどれがサザエなのか理解できた。なるほど、確かにあるね。素人目には三角形の石だけど。
櫂の先にあるのがサザエ。
櫂の先にあるのがサザエ。
これはほんの1~2メートル程の水深だが、冬になれば10メートルも先にあるサザエを見つけなければならないのだ。

老眼で新聞の文字は読みづらいかもしれないけれど、10メートル先にある海中のサザエを迷わず見つけられるのが、漁師の目というものなのだろう。

この時の自分をなぐりたい

憧れのたらい舟に乗れたし、箱メガネでサザエを見ることもできた。突然の大雨でどうなるかと思ったが、大満足の取材となった。

この時は本気でそう思っていたのだが、帰りの車の中で、ふと思い出した。

そうだ、私は自分で漁をしたかったんだ。
これを自分で捕りたかったはずなのだが。
これを自分で捕りたかったはずなのだが。
この海には漁業権というものがあって、勝手にサザエを捕ることはもちろんできない。ただ、今回は集落のまとめ役である方の了解を得た上での取材であり、漁師さんがすべてのおぜん立てをしてくれている。

据え膳食わぬはなんとやら。こんな機会は2度と訪れないかもしれないのに(普通に生きていたら絶対にない)、ここまでの満足感、充実感が私の心を一杯にしてしまって、自分で捕らせてもらうという発想がまったく浮かばなかったのだ。

あとでカメラマンの山本さんに聞いたら、「なんで捕らないんだろう?」と不思議に思っていたとか。

バカバカバカ、私のバカ。そこで遠慮をしてどうするんだと、あの時の私をサザエヤスで殴りたい。古坂大魔王だって捕ったのに。
引き上げるときの亀屋さんの表情が、今見ると「なんでお前は捕りたいといわないんだ?」と思っているようにみえる。あー。
引き上げるときの亀屋さんの表情が、今見ると「なんでお前は捕りたいといわないんだ?」と思っているようにみえる。あー。
サザエヤスの先端を触って満足してないで、それでサザエを捕ってこい。
サザエヤスの先端を触って満足してないで、それでサザエを捕ってこい。
磯ねぎ漁というものがどんなものなのか、間近で見せていただいたので十分に知ることはできた。

それでも、自分で一つのサザエを捕ることで、竹竿の重み、水中での扱いの難しさ、サザエヤスを突いたときの感触、そして獲物を手にする喜びが感じられたはずだ。ただ見ているだけと、己の手でやることの違いをわかっていたはずなのに。

なんて航海の後悔を公開してみたりして。また深浦の地に来て、たらい舟に乗せてもらえる日が来たら、今度こそサザエを一つ捕らせてもらおう。

あそこで竹竿を握らなかったのは、また来たかったからなのかもしれない。
観光としてのたらい舟なら、矢島体験交流館が雰囲気もよくてオススメです。
観光としてのたらい舟なら、矢島体験交流館が雰囲気もよくてオススメです。

カメラマンをやってくれた山本さんは、佐渡に戻ってきたUターン組。「佐渡は一度来て、もういいや~となる人と、なにかの繋がりを掴んで、導かれるように何度も来る人に分かれます」と言っていたが、まさにそうなんだと思う。

この深浦のような、ガイドブックにはなかなか載っていない場所や、まだ知られていない文化が至る所にあり、おもしろい人やちょっと変わった人もいる。もちろん佐渡に限った話ではないけれど。

とりあえずまた9月に来島する用事もあるので、また少し深入りできたらいいなと思う。
次は自分で捕ります!次っていつだ!
次は自分で捕ります!次っていつだ!
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