特集 2017年7月26日

夏は桜のかわりに夜間工事を見ながら飲もう

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春に花見をするように、夏も外で飲みたい。でも、大人になると周りもみんな忙しくて、単に「集まって外で飲もうぜ」だと人が集まりづらいのだ。

その点で、お花見というシステムはよくできている。「花を見る」という大義名分でイベント感を出してくるので、ついつい参加したくなるのだ。夏の外飲みにもイベント感を出せないだろうか。そこで提案したいのが、お花見ならぬ「工事見」である。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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工事見とは?

工事見とは、文字どおり、工事を見ながら飲むことだ。とはいえ日中は暑いので、狙うのは夜間工事。工事現場のランプがきれいだし、重機が活躍するアトラクションもある。なにより、なにかができていく様子はそれだけで楽しいものだ。それを見ながら飲む。それ以上のことはないよね?

この記事では僕が先日開催した工事見の体験をもとに、工事見を楽しむためのノウハウを紹介したい。

1.見る工事を決める

このあいだ用があって豊洲市場の近くを通ったとき、高架工事をしているのに出くわした。
左の高架はゆりかもめ、右から伸びてきているのが首都高晴海線らしい
左の高架はゆりかもめ、右から伸びてきているのが首都高晴海線らしい
写真だと見づらいけどこの首都高の高架は左側からも伸びてきていて、ゆりかもめの線路の上、幅10mくらいだけあいている。

マリオカートだったらここはジャンプして通るコースだなと思いつつ、これは現実なので、きっと今後の工事でつなげるのだろう。
そう思いつつ脇を見ると、
高架の下に、つなげる部分のユニット?がもう用意されてる
高架の下に、つなげる部分のユニット?がもう用意されてる
現場にいた警備員さんに聞いてみると、7/13の深夜にこれをつなげる工事をするのだという。100トンのクレーンが来て、あのユニットを持ち上げ、高架に接続するそうだ。絶対見たい。
通行止めの予告もされている。間違いない。
通行止めの予告もされている。間違いない。
これが今回、僕たちが見に行った工事だ。

工事見には、こういう大型の工事が向いていると思う。高速道路とか、橋とか、巨大な重機がやってくるやつ。水道管工事や道路の補修など小さなものはずっと見てると作業員さんにプレッシャーを与えてしまうし、目が合ったりするとお互い気まずいので避けたい。「遠くから眺められる」規模の工事がよいだろう。

2.飲み仲間を探す

次のステップは参加者を探すこと。道路工事の情報を知った僕は、この情報をひとりじめするのはもったいないぞと思い、当サイト関係者のSNSに投稿。一緒に見に行く人を募集した。
最初は取材ネタとして投稿したものの、後日、「工事見」を思いつき飲み会に変更
最初は取材ネタとして投稿したものの、後日、「工事見」を思いつき飲み会に変更
手をあげてくれたのは、県境や辞書でおなじみライターの西村さん、そして工作ライターの藤原麻里菜さん。

工事見の唯一の弱点は、時間だ。夜間工事に合わせるとどうしても平日深夜になりがちである。今回も終電後から始発までという参加しづらい時間の開催だったが、2人も集まってくれた。ありがたい。最高の飲み会にするぞ!!

3.買出し

深夜の工事に備え、当日は日中にスーパーでおつまみを買っておこう。
本日のおつまみ
本日のおつまみ
買出しのポイントとしては、なるべく持ち運びやすいおつまみを選ぶことだ。後述するけどお花見みたいに敷物を敷くスペースがあるとは限らないし、工事の進行により途中でビューポイントが変わり移動することになるかもしれない。僕が買ったような惣菜類より、スナック菓子とか、串ものなんかが向いているかもしれない。

それからいったん寝て、参加者は終電で集合。コンビニで各自お酒を買い、工事現場に向かう。
夜の湾岸を歩く
夜の湾岸を歩く
「夏は夜」である。この日はまだ熱帯夜の時期でもなく、少しだけ蒸し暑いくらいの気候に、湾岸の海風が本当に気持ちよかった。

豊洲はいいところですね、学校さぼって行ってた横浜を思い出します。と藤原さん。おっさん二人にはそんな経験はなかったが、「わかる」と同意せずにはいられない潮風だった。

4.飲む場所を探す

ほどなくして工事現場に到着。
これが今からつながるのか…!
これが今からつながるのか…!
静止しててもこの眺め、しかもこれから巨大クレーンによる作業が始まるのだ。これ無料で見てもいいの!?という気持ちになる。

せっかくなので特等席からこの大規模ショーを鑑賞したい。ちょうど近くにベンチなどあるといいのだが、そうそう都合よくはいかず、飲み場所を探してウロウロすることに。
終電後だがゆりかもめの駅が開いていた
終電後だがゆりかもめの駅が開いていた
眺めは申し分ない!けどここはもう少しで閉まるのだろう。別の場所を探す
眺めは申し分ない!けどここはもう少しで閉まるのだろう。別の場所を探す
お花見を意識して敷物も持ってきたのだが、深夜といえど公道に広げるのは気が引ける。
そうこうするうちに座れる場所探しも面倒になってきて、今回は立ち飲みスタイルで工事見を決行することになった。
バス停のベンチに食べ物だけ置かせてもらった
バス停のベンチに食べ物だけ置かせてもらった
そして、いよいよ宴のスタートだ。
藤原さんの提案で、高架工事にむけての「乾杯!」
藤原さんの提案で、高架工事にむけての「乾杯!」
徹夜に備えて家で少し寝てきたので、寝起きの胃にビールが染みる。こんな不摂生な飲み会、学生時代以来だろうか。そう思うとさらに開放感が増してきた。

みなさんが工事見をする場合も、よっぽど都合のいい場所でない限り、たいてい立ち飲みスタイルになると思う。ただ、立ったまま工事をいろんなアングルから眺めつつ、フラフラ飲む酒もなかなかいいものだ。

ところで前述の、おつまみ問題。この日はうっかり手に持ちにくい、スーパーの惣菜中心のラインナップ。「これは失敗でしたね」等と話していた矢先…
西村さんが鱒寿司をドーン
西村さんが鱒寿司をドーン
ポータブルなのが向いてますね、と言ってるそばからの重量級で笑った。(そして、つい30分前に賞味期限が切れたてである)
さらにもうひとつ、西村さんが台湾の土産を披露。
肉松。日本でいう「でんぶ」(桜でんぶとか)の肉版。
肉松。日本でいう「でんぶ」(桜でんぶとか)の肉版。
これが八角が効いてて、いわゆる「台湾の味」。ものすごくうまかった。
即座に検索して買おうとする藤原さん
即座に検索して買おうとする藤原さん
前言撤回。どんな食べ物でも失敗ということはない。食べたいものを持ってくるのがベストなのだった。

5.タイムテーブルを予想すべし

工事見が始まったら、序盤のうちにぜひやっておきたいことがある。工事のタイムテーブル予想だ。工事はその日付こそわかっていても、詳細な工程とタイムテーブルまではわからない(少なくとも今回はそうであった)。それを逆手にとって、みんなで予想してみるのだ。

3人で話し合った結果、以下のような予想をした。

・通行止めの開始が1:15
・高架の下を通るゆりかもめの始発が5:15ということは、それより早く終わるはず。
・ということは作業可能はぜんぶで4時間
・高架の部品はすでに完成しているから、持ち上げてはめるだけ。意外にすぐ終わるかも
・始発ギリギリまでやることはないだろう
・高架をかける作業は3時くらいではないか

工事現場を見ながらああだこうだ言っているだけで、十分、酒の肴になる。

そして予想が立つと、宴会計画が決まる。今回は工事見の山場を3時と予想し、以下のような計画を立てた。

1.少しこのあたりを散歩、待機中の様子を眺める
2.戻ってきて高架がかかるのを見る
3.ゆりかもめの始発に乗って、「初めて効果をくぐった乗客」になる。

計画というにはずいぶんざっくりだが、しかし完璧なプランだろう。特に始発に乗るところ!
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6.探検しよう

そうと決まったらさっそく、おつまみをいちど撤収して散歩に出かける。まだ工事が始まっていなくても、工事の準備は始まっている。そんな光景を眺めながら、これから始まる大規模ショーへの期待を高めていこう。
改めて近くに寄って見る高架の部品。これをまるっと持ち上げるのか
改めて近くに寄って見る高架の部品。これをまるっと持ち上げるのか
真下から眺める高架の切れ目
真下から眺める高架の切れ目
この段階で、いちばん見栄えのしそうなアングルを見定めるのもいい。工事が盛り上がりはじめてから撮影ポイントを探してあたふたしなくてすむように。
目の前に巨大なクレーンが!これが警備員さんの言っていた100トンのクレーンだろうか
目の前に巨大なクレーンが!これが警備員さんの言っていた100トンのクレーンだろうか
通行止めサインを載せた車両が道路わきに泊まっている。時間になったら一斉に出動するのだろう
通行止めサインを載せた車両が道路わきに泊まっている。時間になったら一斉に出動するのだろう
首都高とゆりかもめの高架の間、この隙間の写真を撮れるのは今日が最後
首都高とゆりかもめの高架の間、この隙間の写真を撮れるのは今日が最後
ついでに周辺のいいスポットも見つかる。
「あれかっこいいですね」「駐車場ですかね」「水道橋にいい立体駐車場があるんですよ。透明で中が見えるんです」。次は駐車場見もいいかもしれない
「あれかっこいいですね」「駐車場ですかね」「水道橋にいい立体駐車場があるんですよ。透明で中が見えるんです」。次は駐車場見もいいかもしれない
ひとしきり見物すると、だいたい工事の全貌が頭の中に描けてきた。
そこからはいちど落ち着いて、計画の2つめへ。酒宴を満喫しつつ工事が始まるのをまとう。

7.注意点

工事見が盛り上がってきたところだが、ここでちょっと持ち物について補足しよう。
工事見に最も必要なもの、それはむしよけである。
スプレーする二人
スプレーする二人
これがあるかないかで快適さが全然違ってくる。絶対に持参しよう。
そしてもうひとつ、ぜひ持参したいのが、インターバル撮影のできるカメラ。
カメラを設置する西村さん
カメラを設置する西村さん
工事が始まると、目の前の景色がみるみる変わっていくのだ。その一部始終を抑えておかない手はない。そこでうってつけなのが、一定時間おきに自動でシャッターを切ってくれる、インターバル機能である。
ほんとに撮れてるのか急に不安になる二人
ほんとに撮れてるのか急に不安になる二人
撮れてたものをアニメーションでどうぞ
撮れてたものをアニメーションでどうぞ
しばらくぼんやり眺めてから「工事すすまねーな」と思ったあなたは正しい。15枚くらいだけ撮れて、あとはカメラがスリープ状態になっていた。上のGIFはそれをループしているだけだ。
本気の工事見学だったらがっかりのトラブルだが、酒の席ともなるとこれもいい思い出である。

そして宴も本格化

再び乾杯
再び乾杯
「古いMacがめちゃくちゃ熱くなってやけどしそうなので、ひざの上にクッションをおいて断熱していた」「家の近所にスーパーが3つ並んでる。超激戦区」みたいなどうでもいい話をしながらダラダラ飲む
「古いMacがめちゃくちゃ熱くなってやけどしそうなので、ひざの上にクッションをおいて断熱していた」「家の近所にスーパーが3つ並んでる。超激戦区」みたいなどうでもいい話をしながらダラダラ飲む
おもむろに立ち上がって写真を撮りに行くのも楽しい
おもむろに立ち上がって写真を撮りに行くのも楽しい
いやー工事見、楽しいな。ところで、けっこういい時間になってきた。工事っていつ始まるんだろう。もう2時近いというのに、1:15予定だったはずの通行止めが全然始まらない。
ずっと見ていたい眺めだが、それにしても「ずっと」すぎやしないか?
ずっと見ていたい眺めだが、それにしても「ずっと」すぎやしないか?
代表で僕が様子を見に行くことにした。すると…
代表で僕が様子を見に行くことにした。すると…
ちょっと歩いたところ、橋のふもとに通行止めのサインが
ちょっと歩いたところ、橋のふもとに通行止めのサインが
もう少し進むと何やら橋を工事している
もう少し進むと何やら橋を工事している
はて?カメラを取り出し、先日撮った写真を確認。「7月13日、木遣り橋 通行止」
はて?カメラを取り出し、先日撮った写真を確認。「7月13日、木遣り橋 通行止」
おかしい。通行止めはもう始まっていた。だが、区間がなぜかあの高架を含んでいない。そして橋で別の工事をしている。

……ハハァン、わかったぞ。さては今日の通行止め、高架じゃなくて橋の工事だな…?
つまり今日は高架工事なんてなくて、僕に教えてくれた警備員が日付を間違えてたんだな?

僕は聡明なので一瞬にしてこれらすべてを理解した。いやー、頭の回転が速いってこういうことを言うんだろうな。さすが俺だよなー……
工事を楽しみにしていた、あの二人に何て言えば…
工事を楽しみにしていた、あの二人に何て言えば…
こうして僕は核心にたどり着いた。僕が独自の情報源から掴んで得意げに共有したあの情報、実はデマだったのである。
平日の、終電も終わった午前2時半。高架のふもとでは、工事を楽しみにわざわざ来てくれた2人が僕の戻りを待っている。
これ、どうするんだ…。

8.工事の予定はわからない

とりあえず二人のところに戻った。

石川「西村さん藤原さん、今日、工事ない可能性ありますよ」
藤原「えっ!?」
西村「えへへ」

素で驚きの声を上げる藤原さんと、思わず笑う西村さん。

石川「むこうで橋脚工事を…」
西村(言い終わらないうちに)「なるほど!うん、じゃあ宴会しようか!」

棒読みだがしかし力強い一言で、強引に酒宴のテンションを立て直す西村さん。これが大人力だ。
そのあともダラダラ飲みながら、最初に集合した直後「これで工事なかったらがっかりですね」と冗談を言い合っていたのを思い出す。「そうなったら飲んで終わりじゃないですか?(石川)」「そういうのもいいよね…っていう記事にね(西村)」

まさか本当にそうなるとは…!
考えてみれば予兆はあった。あんな大工事なのに、人が少なすぎる。そして通行止めの時間もなんだか短すぎる。

結局、この日、朝まで高架がかかることはなかった。工事が本当にあるかないか、始まってみるまで予定はわからない。それも工事見の醍醐味の一つなのかも……ってそんなことはないか。西村さん藤原さん、すみませんでした!!
そのあと反対側の橋を渡って夜景を楽しんでから帰った
そのあと反対側の橋を渡って夜景を楽しんでから帰った
高架、かからなかったなあ…
高架、かからなかったなあ…

3日後にかかった

あとで調べてみると、あの橋は17日の夜にかかったらしい。我々が空振りしてから、わずか3日後の話である。あの日は前夜、とは言わないが、前前前夜だったのだ。

しかし強がりを言うわけではないが、当初の目的であった「夏も外で飲みたい」という目的は一応達成されたのだ。ライター二人を騙す結果になってしまったが…。

なんにしろ楽しかった。工事見、おすすめである。(お前が言うな感)。あと普通に工事見学の取材にしなくて本当によかった…!
このあとなんだか重苦しい朝焼けが出ました。
このあとなんだか重苦しい朝焼けが出ました。
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