高倍率デジカメは遠くが大きく見える。
40倍ズームというカメラを買った。
Canon PowerShot SX720 HS
この風景の中央をズームすると、
こうなる。
大きく見えすぎて、最初の風景のどこが見えてるのか分からないくらいだ。
月面も見える。
この大きさの月が、
ここまで大きく見える
お餅をつくうさぎのようすも分かる。こんな小さなカメラでここまで見れるなんてすごいと思う。オススメです。
などと言ったものの、ぼくは新しいカメラの紹介をしたいわけじゃない。街なかの、隠されたメッセージが読みたかったのだ。
たとえばこういう風景。
クレーンです
「クレーンだ」以上の感想は、ふつうないと思う。しかしここには隠されたメッセージがあるのだ。
クレーンの足元をズームしてみる。
なんか書いてある!
「11t-40m、20t-22m」。
正確な意味は分からないけど、荷物が重いほど作業半径に制限があるよ、みたいなことだろう。
そしてまた別のクレーン。ひっかける所を拡大すると、
やっぱりなんか書いてある!
「1T」だ。たぶん、この部品でひっかけられるのは1トンの重さまでだよ、という意味なんじゃないか。
こういうメッセージが、本当は今までもずっと上空にあったのだ。気づかなかっただけで。
そんなふうに、上空には今まで見えていなかった情報が他にもあるに違いない。それを探しに行ってみよう。
電柱周辺のメッセージを読む
つねづね読みたいと思っていたのが、電柱に隠されたメッセージだ。
電柱の周り、ごちゃー
ここには、実は関係者に向けたメッセージがたくさん含まれている。ただ、高いところにあるから普通の視力ではぜんぜん見えないのだ。
これをズームの力で見てみる。
NEC「N-75 OPT N-C」
電線にこういう箱がつながっていた。ケーブルテレビ用の光伝送装置というものらしい。つまり、つながってる線は光ケーブルで、テレビ用だ。
街路灯も、本体にラベルが貼ってあった。
岩崎電気「H748」
調べてみると、HIDという方式のランプで、希望小売価格は約5万5千円だった。名前さえ分かれば、いろいろと辿ることができる。
もちろん、HID方式とは何かみたいな新たな謎が出てくるんだけど、何かを調べるっていうのはそういうものだ。
そして柱上変圧器。
このイガイガしたやつ
電柱の上のこのイガイガにも、ラベルが貼ってあった。
ダイヘンの「都市型耐雷柱上変圧器」だ
電柱の上のこのイガイガが「柱上変圧器」であることを知っている人も多いと思う。
しかしそれが株式会社ダイヘンによる都市型耐雷柱上変圧器であり、総重量が約850kgもあることを見抜ける人はそうはいない。いるとしたら業界関係者か、高倍率デジカメを持った素人のどちらかだ。
隣の電柱には高岳製作所「都市型柱上変圧器(巻鉄心形)」があった
隣の電柱にはまた違うメーカーの変圧器があった。これで少なくとも二つのメーカーを知ったことになる。ダイヘンと高岳製作所。シェアはどっちが多いんだろうか。
10メートル以上の高さにあるこんな小さなラベルが読めると、いろいろ世界が変わる。
J:COM、そしてNTT
昭電「SD-BC-2」
この黒い筒みたいなのは、この中で光ファイバーを接続したり分岐したりするための機器で、クロージャーという。
知ったかぶって書いたが、ぼくは相変わらずズームカメラを手に入れただけの一般人だ。でも、とたんに物知りになったような気がする。
「東京路上博物誌」という本のなかで、博物学者の荒俣宏が街中のあらゆるものについてことごとく解説する博学ぶりを見せていた。ズームできるデジカメがあれば足元くらいには追いつけるんじゃないか。そんな気がする。
天井に張り付くメッセージたち
ぼくたちはふだん、上を向いて歩かない。例外は坂本九くらいである。
しかしいったん上に目を向けると、そこには意外とメッセージがあることに気がつく。
たとえば非常口のサイン。
逃げるピクトさんは、パナソニック「コンパクトスクエア FA40312」
非常口だな、と思うことはあっても「コンパクトスクエアだな」とは思わないだろう。
しかし今日からは「パナソニックのあれかー」と思うことができる。景色が違って見えるとは、なんと素晴らしいことだろう。
電車の到着時間を教えてくれるこれは、日本信号「LED表示器 FD3695E」
方面を教えてくれるこれは、新陽社「電気掲示器」
看板を照らす照明は、岩崎電気「FHCF773」
照明の岩崎電気はさっきの街路灯でも見た。街が明るいのは岩崎電気のおかげかな・・という気持ちになってくる。
監視カメラは、パナソニックの2009年製である
監視カメラもおちおち油断していられない。監視カメラがこちらを覗くとき、こちらもまた監視カメラを覗き込んでいるのだ。
別タイプの監視カメラ。パナソニック「BB-HCM547」
別の監視カメラもパナソニックだった。地元の駅では主にパナソニックの機械に監視されていることが分かった。
それはいいとして、調べたらやたらと高機能だった。マイク付きで、ズームも可能。インターネットで映像を送れるらしい。約12万円。自宅用に買って録画したら、ライフログになるかもしれない。
こういう景色も、
今ではこう見える
上の写真は、箱に書いてある名前をそのまま載せただけだ。それぞれが結局何なのかはよく分かってない。でもその状態が楽しいという気持ちもある。
交通システム電機「出発反応標識」。ラベルは「山下9PK1」。
たとえばこれ。この黒い機械が「出発反応標識」だとは分かっても、それが何かは分からない。そして「山下9PK1」はもっと分からない。
だけど、それがいい。分からないままでいたい。
ふたたび外へ出る
外で見かけるもので楽しかったのはクレーンだった。見るたびに発見がある。
これの真ん中あたりをズームすると、
分度器!
なんと、これでクレーンの角度が分かるのだ。いまは60度くらいだろうか。
みんなー、これで角度が分かるよー!とみなさんに知らせたいくらいの気持ちだ。
秋葉原で見かけたこのクレーンの足もとにも、
こんな表が!
重い物を持つときはクレーンを横に倒せないよ、という表だろう。
だとは思うけど、詳しくは分からない。知らない世界を見ている!という気持ちが楽しい。
こっちの工事現場では、
「つり荷の下に入るな」
こっちも、「つり荷の下に入るな!!」
ビックリマークが2つもついてた。つり荷の下にはよっぽど入っちゃだめなんだ。もし工事を任される機会があれば注意したい。
ところで、一枚目の下にも小さなメッセージがあったのに気づいただろうか。
ここです。「NSSMC HY 490」。
「NSSMC」とは、新日鐵住金という製鉄会社のことだ(Nippon Steel & Sumitomo Metal Corporation)。それのH型鋼という建材がここに使われているのだ。
これはちょっと感動した。ビルが完成してしまえば、このNSSMCの文字は絶対に見られない。今しか見られないし、ズームしない限り見られない。
上空のメッセージは、橋にも書かれている。
秋葉原駅前の鉄橋にズームすると、
「御成街道架道橋」
御成街道架道橋なんていう名前だったなんて、ぜんぜん知らなかった。ラジオセンターの上の橋、くらいの認識だった。
日本ペイント株式会社が3回塗ったなんてことも初めて知った。人生が豊かになった気分だ。
橋みたいに公共で使うものは、こんなふうに身なりを明らかにするという決まりがあるのかもしれない。逆にいうと、そうでないものはなかなか詳細が分からなかった。
たとえば、携帯電話の基地局のアンテナ。
携帯電話会社は主に3社ある。どのアンテナなのか会社名が書いてないかなーと思ったのが、どんなに拡大してもなにも書いてなかった。
あそこにドコモのアンテナがあるぞ、とか分かったら楽しそうと思ったんだけど、ハードルは高かった。
上空には知らない世界がある
もともとは街路灯について知りたかった。ラベルがあって、そこに情報があることは知ってた。でも、高すぎて全然見えなかったのだ。車道用の街路灯だとなおさらだ。
カメラを買って、遠くの小さな文字はちゃんと見えることが分かった。それはよかった。問題は、なにも書いてないときだ。途端に全然わからない。
文字が見えても見えなくても、そこにあるのは結局知らない世界だ。地道に見ていくしかないなーと思った。