特集 2017年6月14日

北限よりちょっと南のハブに会いに行く

宝島で俺の宝探しをします。
宝島で俺の宝探しをします。
前回の記事では、トカラ列島の小宝島でついに北限のハブ「トカラハブ」に遭遇した。その勢いでトカラハブが住むもうちょっと南のの島、宝島を訪れた。

※トカラハブは毒が弱いとはいえ立派な毒ヘビなので見つけてもむやみに近づいたり触ったりしないでください。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:加計呂麻島 筒がある暮らし

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

おれの宝島

小宝島を出たフェリーとしまは南下して30分ほどで宝島へ入港準備をはじめる。
この図でいうところの②。今のうちに言っておくけど③はハブ見つからなかったので記事にしません。
この図でいうところの②。今のうちに言っておくけど③はハブ見つからなかったので記事にしません。
渋谷から乗って明大前で降りたみたいな感覚で宝島へ上陸。
渋谷から乗って明大前で降りたみたいな感覚で宝島へ上陸。
大迫力の壁画、中央に金色のハブが描かれている。
大迫力の壁画、中央に金色のハブが描かれている。
民宿「とから荘」へ投宿。
民宿「とから荘」へ投宿。
宝島という名の通り、この島にはなんと17世紀のイギリスの海賊、キャプテンキッドが財宝を隠したという言い伝えがあり、スティーブンソンの有名すぎる冒険小説「宝島」のモチーフになったとも言われている。
民宿にも配本されておる!シルバー!
民宿にも配本されておる!シルバー!
19世紀にはこの島にイギリス人が上陸し、島の牛をめぐって殺傷沙汰を起こした。後の「異国船打ち払い令」施行のきっかけになったといわれている「イギリス坂事件」である。
事件の舞台となった「イギリス坂」の傍等に建てられた碑。
事件の舞台となった「イギリス坂」の傍等に建てられた碑。
「このイギリス人は隠された財宝を掘りに来たんじゃないか、いや違うかも」という説もあるらしい。なんともロマンあふれる島に上陸したではないか。

しかし、私が宝探しのパイレーツの一味だったらボスにこう進言しただろう。
「親分、宝島って言いますけど、じゃあ宝ってなんなの?って話だと思うんですよ。人にはそれぞれ違った価値観があって、宝といってもそれはお金かもしれないし恋人かもしれない、世界にひとつだけの花かもしれないですよね。この島にはトカラハブっていう大変珍しいかわいいハブがいるんですけど、僕にはそれこそがお宝なんですよ。そっちを探してきていいすか?あ、金銀財宝?ほしいですもちろん」そっこく解雇されそうだな、エイホーラム酒だしばり首。
目指すはこのヘビ。島の売店で売っているハブ注意ステッカー。
目指すはこのヘビ。島の売店で売っているハブ注意ステッカー。
そんな感じで宝島を舞台にハブと、できれば金銀財宝(中古のマンションを買いたいので2400万くらい、最悪4万でも)を探すハブクエストが幕を開けた。
75人で海に出て、生き残ったはただ1人。
75人で海に出て、生き残ったはただ1人。

宝の地図をゲット!

宿で、トカラハブってどのへんで見られますかねえとたずねてみた。主人は長く宝島に住み、昔はハブ捕りもしていたという。

「動き出すのは夜だけど、昼のうちから見たければ島の反対側の水源地へ行くといい。木に登っているから枝を探すといいですよ」

「そうだ、これをあげましょう」と地図をもらった。なんだこの宝島的展開は!
またお宝が水源地っていうのがいいじゃないですか。 ※赤字は筆者の画像加工 ※宝=トカラハブ
またお宝が水源地っていうのがいいじゃないですか。
※赤字は筆者の画像加工 ※宝=トカラハブ
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ハブを求めさまようおっさん

地図にある水源地を目指して石塀の間を走る細い路地を通り、集落を抜けて林道に入る。
路地という路地を踏破したくなる(したんだけど)
路地という路地を踏破したくなる(したんだけど)
猫とにらみあっていたトカラヤギにチラ見された。
猫とにらみあっていたトカラヤギにチラ見された。
同じ景色が続くと思ってたら突然バナナ畑が現れたりと油断のならない周遊道路。
同じ景色が続くと思ってたら突然バナナ畑が現れたりと油断のならない周遊道路。
道すがらハブを探したがぜんぜん見つからない。島の反対側にさしかかった頃、前から1台の車がやってきて目の前で停車した。
緊迫した場面で草を食う牛達。
緊迫した場面で草を食う牛達。
車内の人がこちらに何か伝えようとしている。読唇術の心得がない私でも何を言ってるのかすぐにわかる簡潔な口の動きだ。
「ハ ブ」
「い る よ」
私と同じ便で宝島に渡り、現地ガイドツアーで島内を観光していた一行である。ガイドさんが木の枝にからまっているハブを発見したのだ。
ほら、あの枝のとこ。
ほら、あの枝のとこ。
ルートも限られ、訪れる人も少ないトカラ列島、小宝島から宝島に渡った人達の間で「ハブを探してぶらぶらしているおっさん(わたし)」はほんのり噂になっていた。
わーい、宝だ宝だ宝田明。
わーい、宝だ宝だ宝田明。
で、彼らがガイドと車で島を観光していると、前方約20mに噂のハブおっさん(しつこいが私)を発見、同時に上方の枝にハブも発見という奇縁にめぐまれたのであった。

走る車の中から枝でまどろむハブを見つけるとは、そのハブセンサーの精度にはただ感服するばかり。「ほら、木の枝がちょっとちがった感じになってるだろう」長嶋監督のような才気あふれるコーチングを受ける。
ドン!木を揺らされてずり落ちそうになる。
ドン!木を揺らされてずり落ちそうになる。
「じゃあ、落とすよー」
私には宝でも住民にとっては害獣である。このハブは木から落とされて退治されてしまった。
死骸の写真を撮る。写真を提示しても少額のお金が支払われる(住民のみ対象)
死骸の写真を撮る。写真を提示しても少額のお金が支払われる(住民のみ対象)
今回のように生活圏で遭遇したものは駆除するが、いちいち山奥に入って捕りに行くようなことはしない。
地図をくれた宿の主人は「奄美大島のハブなんかに比べたらこっちのハブはかわいいですよ」と言っていた。
もう一匹、ミルキーな色を発見。かなり高い所にいて手が出せず命拾い。
もう一匹、ミルキーな色を発見。かなり高い所にいて手が出せず命拾い。
他の生息地と同じく、宝島のハブは時には危険生物、時には畏怖される存在と愛憎相反する2つの感情を受け暮らしていた。

この後もガイドさんは島の集落や道端で会うたびに「どうだ、ハブはいたか?」「さっき洞窟でハブを見つけたぞ」と様々なハブ情報を提供してくれた。ありがたいことである。ちなみに私たちはハブ以外にお互いの事を何も知らない。
昼間でも薄暗く、ハブが出やすいと言われている観音堂。私が言った時は見つからなかった。
昼間でも薄暗く、ハブが出やすいと言われている観音堂。私が言った時は見つからなかった。
一行と別れ、道路から目的の水源地に向かう小道に入る。
取り込み中のアカギカメムシ。
取り込み中のアカギカメムシ。

ゴールにはやはりボスキャラが!

おお、いい雰囲気出てる!
おお、いい雰囲気出てる!
「最近は通る人も少ないですからうっそうとしてますよ」と言われたが、確かにどこかの大学にうっそう学科があったら准教授に招聘したいくらい見事なうっそうさだ。
キノコもでかい。
キノコもでかい。
進むにつれ、うっそうに磨きがかかる。
進むにつれ、うっそうに磨きがかかる。
地図に記された水源地、おれの宝探しの目的地である。上体をかがめ低木をくぐり、肩にかかった枝を振りはらおうとすると……
ごっついのと目があった!
ごっついのと目があった!
今まで見た中で最もたくまく黒々としたトカラハブが目の前でこちらを見つめ、首をS字にくねらせていた、つまり警戒して攻撃準備に入っていた。
ロッテのチョコレート「マリブのさざ波」を思わせる流麗な曲線(古くてすいません)。
ロッテのチョコレート「マリブのさざ波」を思わせる流麗な曲線(古くてすいません)。
人が寄り付かない森で悠然と体を横たえ、その顔には充実感がみなぎっている。 「養ってるねえ、英気」と声をかける。実にいいハブを見た。帰ったらネットで高額商品を買ってしまいそうなテンションになった。
うれしい、きっと空も飛べるはず(写真は宝島近海のトビウオ)
うれしい、きっと空も飛べるはず(写真は宝島近海のトビウオ)
さらに白ハブも見つけた。4コマ漫画の3コマ目が思いつかないみたいな顔をしていた。
さらに白ハブも見つけた。4コマ漫画の3コマ目が思いつかないみたいな顔をしていた。
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夜も当然、宝を探して徘徊する。
クロマイマイかな?ぜんぜんわかりません。
クロマイマイかな?ぜんぜんわかりません。
南国の夜にヤモリはつきものだが宝島のヤモリはこの島の固有種である。まさにお宝。
タカラヤモリ。口元が黄色い。
タカラヤモリ。口元が黄色い。
で、お目当ての皆さんも、こんどは地上でまったりしている。
ブラックハブいた!
ブラックハブいた!
ハブの頭は毒腺とその毒をしぼりだす筋肉があるため、あごが張り出した三角形になっている。
顔の先端には「ピット器官」があり、わずかな温度の違いを感じて暗闇でも獲物を探知できる。ルームエアコン霧ヶ峰のようなセンシング能力。
顔の先端には「ピット器官」があり、わずかな温度の違いを感じて暗闇でも獲物を探知できる。ルームエアコン霧ヶ峰のようなセンシング能力。
そのはり出したアゴをいからせて夜の闇の中を音もなくさまよう姿はなんともハードボイルド。宍戸錠演じる昭和の殺し屋のようだ。
トカラハブが歩くだけの動画をどうぞ!他になにもしません。
夜はなぜか黒ハブのみだったが滞在中に10匹近いトカラハブを発見する事ができた。金銀財宝は100円玉すら落ちていなかったが。

トカラハブ比べ

こうして無事に宝島、小宝島両島のトカラハブを観察した。餌の事情から小宝島(カエルなどの両生類がいないので餌が少ない)のトカラハブは宝島より体が小さくなる傾向があると聞いていたがサイズの違いは正直、よくわからなかった。
宝島にはカエルがかなり生息しており、両生類のいない小宝島より餌環境はよさげ。
宝島にはカエルがかなり生息しており、両生類のいない小宝島より餌環境はよさげ。
何より違いを感じたのは体の模様で、小宝島在住の方々のほうがはっきりとした輪型になっているのが多い気がした。表を作ったので参照していただきたい。
魂のエクセル。小宝島のほうがちゃんとした輪っかになっている。黒はわかりにくくて申し訳ないが実際問題、黒くてわかりにくかったのだ。
魂のエクセル。小宝島のほうがちゃんとした輪っかになっている。黒はわかりにくくて申し訳ないが実際問題、黒くてわかりにくかったのだ。
たった1回の訪問でそれぞれ黒白あわせて10匹足らずしか見ていないのでたまたまそういう個体を見つけただけかもしれないが、お見合いとかで相手が輪っか模様のトカラハブだったら「あれ、もしかして小宝島の生まれっすか?」などと話をふってみると「え、ちょっとまじで?、なんでわかるんですかw」みたいに歓談もはずむのではないか。

とうっすい根拠で清々しくまとめたところで宝島で見つけた俺の宝を何点か挙げて終わります。

トカラハブはがんがん見られてものすごくうれしかったのだが、人の欲望は尽きないもので「もっとウミヘビも見たかったんですけどねー」と言ったら「じゃあまた来りゃいいじゃん」と返された。反論の余地がどこかにあるものでしょうか、いやない。
再びトカラ列島を行脚できるような大型連休が日本を直撃する日を待ちながら、東京砂漠の隅に潜伏するのだ。
またこれに乗りたし!
またこれに乗りたし!
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