上限48文字、「短文」と呼んでいます
メールでの質問にこたえてくれたのは朝日新聞のネットメディア「withnews」編集長の奥山晶二郎さん。
withnewsといえばネタ系のニュースもがんがん配信しているおもしろ寄りのメディアではないか。その中の人たちも「ニュース速報配信サービス」みたいなガチのニュースの仕事の経験があるのか…。それが新聞社…。
とにかく聞きたいことが多すぎて大量の質問をぶつけてしまったのだが本当に一つ一つ丁寧に答えてくださった。ご回答を順番に紹介していこう。
そもそも、新幹線で流れるような短いニュース文というのは誰がどういうタイミングで作っているのでしょうか。
念のため、新幹線で流れるニュース、こういうところにテロップで出るやつのことです
(以下、緑色の文字は奥山さんからのご返事)新幹線などの端末に配信している、短いニュース原稿は社内で「短文」と呼んでいます。文字数は48文字が上限です。
午前6時から翌日1時ごろまで、基本的には1時間に1本ペースで配信しています。つまり1日20本ほどを配信しています。
うおおお、午前6時から翌日1時まで毎時1本の締め切りが。時事ニュースの世界! と言う感じでいきなりふるえる…。そして社内で「短文」と呼ばれているというのがまたぐっとくる。これからは私も新幹線で配信を見たら「短文きた」と心で思おう。
1文目と2文目の長さは4:6程度が理想…!
その時間帯は担当者が、ほかの仕事を兼務しながら席についています。
短文をつくるのは、記事がネット配信(朝日新聞デジタルに掲載)されたあとです。
重大ニュースほど記事が出てきたら即座にネット配信されるので、短文も早くつくれますし、優先的に新幹線などに配信しています。
なんと、兼務なのか! 別の仕事をしながら1時間に1本書く、ちょっとできる気がしない…。
マニュアルみたいなものはあるのでしょうか。
社内マニュアルはしっかり整備されています。
・要素の羅列感を避けるため、2つの文章での構成を推奨
・1文目はできるだけ伝えたい内容をシャープに伝える。2文目に丁寧なデータを盛り込むとバランスがよくなる。1文目と2文目の長さは4:6程度が理想
・主語と述語の関係をわかりやすく
などと書いてあります。
うわーっ、これはしびれる。
文章のマニュアルだが、48字、2つの文章、4:6でまとめる。数字でのガイドラインがある。これは国語のパズルだ。
一目で分かるのが重要
「短文」は記事を48文字以下に削りこむため、例えば「出発する」ではなく「出発へ」とするなど、1文字でも節約する工夫をしています。
また、「てにをは」を省略したり、「~する」といった語尾を削って体言止めにしがちで、それが独特のリズム・語調を生んでいるのだと思います。
「影響も」
しかしあまりに削ると、単語の羅列になって分かりにくい短文になってしまいます。
新幹線などでさっと流れるものなので、読み返せませんし、一目で分かるというのは重要だと思います。
ですので、
・あまりに「てにをは」や「語尾」を削りすぎない
・漢字がずらずら並ぶ言葉は、うまく分割する。たとえば「天皇退位特例法案」という言葉がいきなり表示されて、読み取れるか微妙だと思います。そういうときは文字数はとりますが、「天皇退位の特例法案」「天皇退位を巡る特例法案」といった表記に変える場合もあります。
あの独特のニュース文体が、48字という制限された文章のなかでいかに理解されやすく構成されるために研ぎ澄まされたものなのだということがびしびし伝わる。
もうちょっと私はありがたさでヒザががくがくしてるんですが、みんなは大丈夫ですか。
情報の優先度を見極める
マニュアルのほかに、うまく書けるようになるコツみたいなものもあるんだろうか。
たとえば以下のような記事があるとします。
2013年に東京・築地市場の初競りで1億5540万円で競り落とされた青森・大間産の222キロの本マグロが「セリで落札された最も高額なマグロ」としてギネス世界記録に認定され、1日、落札したすしチェーン「すしざんまい」の運営会社に認定証が授与された。
これを48文字以下におさめようとすると、どれか情報を削らなくてはなりません。私はこうしました。
青森・大間産の1億5540万円の本マグロ、ギネス世界記録に。「セリで落札された最も高額なマグロ」
この記事で最も重要なのは、どこ産の本マグロが、なんの世界記録に認定されたのかです。そして「高額」というからには、値段も必須です。
その代わり、何年に競り落とされたものか、重さ何キロだったのか、という情報は削りました。
こうした記事中の情報の優先度を見極めて、うまく文字数に収めるのがコツです。
制限された中でのパフォーマンスの異常な高さにしびれまくる!!! わーん。
これ、メールでご回答をいただいたんですが、読み進めるうちに手からの汗がとまりませんでした。ひとことでいうなら「ありがたい」!
興奮ついでに半額の本まぐろの写真を載せておきます(
こちらの記事より)
「どこで、何があった」のニュースはまとめやすい
では、こういうタイプのニュースはまとめやすい、逆にまとめにくいタイプのニュースもあるのでしょうか。
事件事故のように「どこで、何があった」という原稿は、短文にしやすいです。長い長い経緯を経て、終わった裁判を報じた記事などは、状況が複雑化しすぎて要約しにくいときがあります。
また極めて厳格性が求められる科学・医療分野の記事なども、要約を断念することがあります。
さらにやわらかい部分のお話も聞いてみてます。これはうまくかけたぞ! というようなこともあるんじゃないでしょうか。
申し訳ないですが「覚えていない」んです。1日に多数の短文をつくりますし、ほかの仕事との兼務でもあります。だから結構スピードが要求されて、職人技的な仕事なんですね。それに過去に自分がつくった短文を、振り返る方法も無いんですよね。(ものすごく探せばあるかもしれませんが)。ですので結構、「その日限り」の仕事でもあります。
場数を踏むことで洗練されてゆく
ではニュースごとに個性みたいなものはあったりしますか? あ、これは誰々さんの短文だな、と気づいたりするようなことは。
一定のセオリーがあるので、あまり個人差は出ません。逆に「あ、あの人だ!」と分かるのは、不慣れな人がつくった短文ですね。流れが不自然だったり、読みにくかったり。それも場数を踏めば、洗練されていきます。
うおおおお! なるほど…。ニュースはニュースであり「作品」ではないんですよね…(高まる興奮をがんばって抑えてます…!)。
ならばならば、うなぎの世界みたいに「串打ち三年、割き五年、焼き一生」みたいに、スキルとして何年やったら一人前、みたいな感覚はあるのでしょうか。
人によりますが、数カ月たずさわれば、それなりにつくれるようになると思います。多くの担当者は、記者として記事を書いたり、編集者として紙面の見出しをつけたりといった経験があるので、慣れるのは何年もはかかりません。
作業にあたる方々はそもそもがプロなのだ。なんというか、恐れ多い質問をしてしまった。「そりゃそうか」のレベルが高くて黙らざるをえない…!
48字、2つの文章、1文目と2文目の長さは4:6程度に
惜しげもないこの作法の伝授。すごいことである。
教えていただいたマニュアルに沿って冒頭で書いてみた俺ニュースをみてみよう。
「雪の宿」再評価高まりおやつのレギュラーメンバーに。2017年に入り「ソフトサラダ」しのぐ。
なんと46文字。偶然にもぎりぎりおさまっており、かつ2つの文章で構成されているが、1文目がもたついている印象である。
1文目で内容をシャープに、2文目に丁寧なデータをという教えを守って少しなおしてみた。
「雪の宿」おやつのレギュラーメンバーに。2017年に入り再評価。「ソフトサラダ」しのぐ。
あっ!こんどは3文になってしまった…。
さすがにプロと同じようにやってやろうというのはなかなか難しい。
精進します…! 奥山さん、ありがとうございました!
ぜひみなさまも #新幹歌 で日常を詠ってください
そもそもがニュース報道というシビアな世界の仕事である。本気の裏事情はさすがにハードボイルドであった。
そのエッセンスで遊ぶのすらちょっと恐縮にも思えてきたが、しかし作法を学んでいよいよ日常をそれっぽく詠ってみたくもなる。
趣味としての新幹歌、ぜひ続けたい。みなさまも上手に詠えたらぜひぜひ
#新幹歌 でツイートしてください。よみにいきます!
「アイスキャンディーの意外な提供方法に驚きの声。グラスに逆さに刺す、港区の焼肉店のデザートで。」まだまだだー!