流氷うごめく極寒の海で船が傾く程のホタテづくし、腰が笑う労働、でかい貝柱とウニのダブルパンチ体験。これから暖かくなっていくが、この先2ヶ月は反芻しそうだ。そんなこんなしてるうちに鮭が帰って来て、また道東へ行くのだろう。なんでかわからんがFaceBookには中標津・別海町の移住応援サイトの告知ががんがん表示されるようになった。本当に恐ろしいのは寒さでも流氷でもない、情報だ、ザッカーバーグだ。
押し寄せる流氷
野付半島は3月になってもまだ俄然冬で、見渡す限り一面の虚無に飲まれそうな雪景色。
かんたんに思慮深そうな写真が撮れるぞ!
ただただ白くて、エゾシカのつぶらな瞳がこちらを見ているシンプルな世界。表計算ソフトエクセルのワークシートの果てはきっとこんな世界なのではないか。シカとかがいそうな気がしてたんですよ、エクセルの外側。
表計算の世界へ帰れ。
人に慣れすぎているキタキツネ。エサはやったらいかんというのに、マジで。
海を見るとシルキーな杏仁豆腐のような、上質感のある流氷ががんがん押し寄せている。
うわーこれはやばい。
氷たちが微妙に動き、ぶつかり、ポジションを取り合っている。湘南国際マラソンのスタート地点のようなにぎわい。
まどろむオジロワシ。
のっけから、流氷見てきたんですよいいでしょう、すごくないですかみたいな感じになったが、冬の野付半島を堪能しながらも私の小さな胸には一抹の不安がよぎっていた。
「船、出られるのかな」
翌朝のホタテ漁船に乗りに来た。昨年の秋、鮭漁体験をさせてくれたオホーツクのゴルフ漁師、小崎さんの乗る船である。
「船、出られるのかな」
翌朝のホタテ漁船に乗りに来た。昨年の秋、鮭漁体験をさせてくれたオホーツクのゴルフ漁師、小崎さんの乗る船である。
暴走したゴルフ愛が自宅に作らせたゴルフ部屋。
バーカウンターも併設されていた。快楽の場だ、堕落の園だ。
この時期、漁は流氷に激しく影響される。ロシアのアムール川からやってくる流氷は野付の速い潮と風に乗り、ひと晩でかなり動くので予測が難しい。沖に出たところで流氷に阻まれて引き返す事もあるそうだ。
「まあ、とりあえず船は出るから」
アイアンの飛距離を5ヤード伸ばして満足げな小崎さんと朝を待つ。
「まあ、とりあえず船は出るから」
アイアンの飛距離を5ヤード伸ばして満足げな小崎さんと朝を待つ。
無事決行!
翌朝4時30分、気温は-10℃。刺すような冷気を顔面に感じながら港へ向かう。寝覚めのいい寒さよ。
この港では一番古いタイプではないかとの事、兄弟舟だ。
――あれ? サケの時と船が違いますね。少し小さいかな。
「サケとは漁のやり方も船に乗る人数も違うから」
――ホタテは養殖してるんですか?
「地撒きっていうんだけど、稚貝(貝のこども)を放流して自然に育ったやつを捕るの。4年目の貝を捕るんだわ」
――海底にいるから底引き網みたいなやつを使うんですね。
「八尺っていうね、まあでかい熊手だな。海の底に落として、船で引きずるの。」
――大がかりな潮干狩りだ。
「サケとは漁のやり方も船に乗る人数も違うから」
――ホタテは養殖してるんですか?
「地撒きっていうんだけど、稚貝(貝のこども)を放流して自然に育ったやつを捕るの。4年目の貝を捕るんだわ」
――海底にいるから底引き網みたいなやつを使うんですね。
「八尺っていうね、まあでかい熊手だな。海の底に落として、船で引きずるの。」
――大がかりな潮干狩りだ。
これが八尺。中世の拷問具ではない。
「ホタテはね、とにかく重労働だから、サケ漁なんかより」
――えー、サケのほうが重いし暴れるしで大変そうですけどね。
「まあ、見てみればわかるよ」
――流氷が少ないといいですけどねえ……。
――えー、サケのほうが重いし暴れるしで大変そうですけどね。
「まあ、見てみればわかるよ」
――流氷が少ないといいですけどねえ……。
船室で情報収集に余念がない。
――お、流氷情報ですか?
「いや、ゴルフのブログだよ」
――いやいや、流氷大丈夫なんすか流氷。
「いや、ゴルフのブログだよ」
――いやいや、流氷大丈夫なんすか流氷。
そんなこんなで出港!
朝焼けをバックに港を出てゆく船の灯が連なる。壮観!
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流氷は北からの恵み
沖には流氷は少なく、漁には支障なさそうだ。操舵室の窓からかけらのような流氷がすれ違っていくのが見える。
かけらといってもそうとうでかい。
流氷は北からの恵み
「流氷がぶつかると、このプラスチックの船じゃ穴が開いちまうからな」
――あ、そうなんですか。南極観測船みたいにバリバリ砕氷していくのをイメージしてました。流氷おそろしいですね!
しかし漁師達はみな口を揃えて言う。
「流氷が来るおかげでいい漁ができるんだよ」
流氷には植物性のプランクトンが大量に付着しており、それをエサとする生物達を集める。遥か北方から大量の養分をオホーツク海に運び、海に豊穣をもたらしているのだ。
――あ、そうなんですか。南極観測船みたいにバリバリ砕氷していくのをイメージしてました。流氷おそろしいですね!
しかし漁師達はみな口を揃えて言う。
「流氷が来るおかげでいい漁ができるんだよ」
流氷には植物性のプランクトンが大量に付着しており、それをエサとする生物達を集める。遥か北方から大量の養分をオホーツク海に運び、海に豊穣をもたらしているのだ。
流氷の上でハイテンションでカラスを追うオジロワシ。豊穣なればこそ。
百害あって一利なしのように思える流氷も環境を持続する仕組みとして重要な役割を担っている。
突然人類の作業を阻むウィンドウズのアップデートや永遠に終わらないプリンターのヘッドクリーニングもきっと、母なる地球(ガイア)の秩序の維持に不可欠な営みに違いない。近くを滑空するカモメと少し目が合った。
突然人類の作業を阻むウィンドウズのアップデートや永遠に終わらないプリンターのヘッドクリーニングもきっと、母なる地球(ガイア)の秩序の維持に不可欠な営みに違いない。近くを滑空するカモメと少し目が合った。
「兄弟たちだ!」って北方領土付近で戦艦ポチョムキンやってる場合ではない。
船上で食らう貝柱たまらん
空が白む頃、船は漁場に着き、いよいよホタテを捕る八尺を海に投下。しばらく船で引きずる。
何が出るかな、何が出るかな(ホタテだ)
頃合いを見て引き揚げると、桁網(けたあみ)はぱんぱんにふくれあがっている。
姿を表したホタテ軍団。重みで船が傾く。
せっかくなので動画見ていきんさい。
あっという間にホタテの丘ができる。
左舷からもドサーッ。
見た事もないボリュームのホタテに制圧された甲板を茫然と見ていると、小崎さんが1枚のホタテを開帳した。
明らかにでかい。
パッカー、ごくり……。
「ホタテの食い方でなにが一番うまいって塩水で洗っただけの貝柱にかぶりつくの、とにかく味が引き立つから」
塩水をぶっかけただけ。なんとワイルドな朝食。いただきます。
大木の切り株のようにどっしりとした貝柱をほおばる。みずみずしく、ぷりぷりの歯ごたえ、少々の塩気のあと、ほのかに広がる甘み。規格外の寒さを超える規格外の旨さ。何これ幸せ濃縮されてない?と満たされたメンタルでいると、目の前ではすでに次の仕事が始まっていた。
過酷なホタテ選び
船上はホタテパニック。
――これからなにが始まるんですか?
「”選ぶ”っていって、ホタテをどんどん選別してかごに入れてくの、これが重労働なんだわ」
問題ないもの、殻の割れているもの、ヤスデ(ヒトデ)などホタテですらないものなどを素早く仕分けしてカゴに納める。すぐにまたホタテ網を引き揚げるのでそれまでに甲板を片付けないとホタテはさらにあふれ、船が埋め立てられて江東区みたいになってしまう(意味不明)。時間との勝負だ。
「”選ぶ”っていって、ホタテをどんどん選別してかごに入れてくの、これが重労働なんだわ」
問題ないもの、殻の割れているもの、ヤスデ(ヒトデ)などホタテですらないものなどを素早く仕分けしてカゴに納める。すぐにまたホタテ網を引き揚げるのでそれまでに甲板を片付けないとホタテはさらにあふれ、船が埋め立てられて江東区みたいになってしまう(意味不明)。時間との勝負だ。
プロの手さばきを動画でどうぞ。
あのスピードにしてこの正確さよ。
たしかにこれは大変だ。
「やってみる?」
――もちろん!
「やってみる?」
――もちろん!
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レッツホタテ選び
さあ、選ぶぞー。選び尽くすぞー。
おお、宝の山!
この中にどんなスターやアウトローが眠っているのか。気分はホタテオーディション。
君、いいねえ~、昭和シェル然としてるねえ(合格)
君はちょっとヒトデっぽいかな。(不合格)
君はそうねえ…ちょっともげちゃってるかな。(不合格)
と、いちいち所感を抱いていたら到底追っつかないので一心不乱にホタテをカゴに放り込む。
固い甲板についた膝に痛みが走り、ほどなく腰痛、肩痛、手首痛、デジカメの不調、蛭子能収の絵のような大量の発汗を併発する。
さらに肥えまくったホタテをぎゅうぎゅうに詰め込んだカゴを船尾へ運びスタッキングしなければならない。この重さでまた腰が悲鳴を上げる。
固い甲板についた膝に痛みが走り、ほどなく腰痛、肩痛、手首痛、デジカメの不調、蛭子能収の絵のような大量の発汗を併発する。
さらに肥えまくったホタテをぎゅうぎゅうに詰め込んだカゴを船尾へ運びスタッキングしなければならない。この重さでまた腰が悲鳴を上げる。
取材のはずが結構労働した。
――いやーきついですねー。
「今日なんかまだいいよ。二日酔いの時なんかもうヘロヘロで地獄だからね」
――それは自業自得じゃないですか。
「ホタテにはタウリンがあって酔いに効くでしょ、だからホタテ食いながら頑張るのさ」
――成分に頼ったそのサイクルがむしろ地獄感ありますね。
「今日なんかまだいいよ。二日酔いの時なんかもうヘロヘロで地獄だからね」
――それは自業自得じゃないですか。
「ホタテにはタウリンがあって酔いに効くでしょ、だからホタテ食いながら頑張るのさ」
――成分に頼ったそのサイクルがむしろ地獄感ありますね。
必殺グルメ「おれのホタテバーガー」
一連の作業を昼頃まで繰り返す。ゴールが見えてきた頃、小崎さんがまたホタテを取り出した。
「あ、そうそう、ホタテバーガー食べる?」
聞いた事あるぞ、別海町のご当地グルメだ。ホタテをバンズではさんだやつだ。
――いただきます!しかし、この船にバンズなんてあるんですね。
「ほれ」
「あ、そうそう、ホタテバーガー食べる?」
聞いた事あるぞ、別海町のご当地グルメだ。ホタテをバンズではさんだやつだ。
――いただきます!しかし、この船にバンズなんてあるんですね。
「ほれ」
ホタテがバンズかい!
ウニをホタテではさんだ「ホタテバーガー」、なんという悪徳、これは悪い、罪深い食事だ。思わず天をあおいだ。
バフンウニもとれたて!
神よ、お許しください……うんまー!
カメラが壊れてやたらソフトフォーカスになっているが、むしろ私の心象を忠実に描写しているかもしれない。輪郭がいささかはっきりしない天使が微笑みながら降臨してくる。うますぎる、悪徳なんてとんでもない。これは間違いなくジャスティスだ。
――これがあれですか、いわゆる漁師めしってやつですか。
「いや、そんなの漁師もやらないよ、俺だけだ」
――なんだその紹介しづらさ(したけど)
陽も高くのぼった頃、港に帰着。
――これがあれですか、いわゆる漁師めしってやつですか。
「いや、そんなの漁師もやらないよ、俺だけだ」
――なんだその紹介しづらさ(したけど)
陽も高くのぼった頃、港に帰着。
祈るように殻を閉じてかごにおさまっているホタテ様。
荷揚げとほぼ同時に仲買人が集まり、競りにかけられ出荷される。
向こうから大勢が白い巨塔みたいな感じでやってきた。
トラックに積まれたホタテ達をかっぱらおうとするやつら。
小崎さんに「サケとホタテやったから次はゴルフだな(なんで)」他の漁師さんからは「次はカメラなしで(働きに)こいよ」とそれぞれの立場からねぎらいをいただき、帰路についた。
こじんまりした部屋でホタテをかざすとよりでかさが際立つ。30000mAhくらいの大容量モバイルバッテリーのよう。
小崎さんの所作を思い出しながらおっかなびっくりヘラで貝殻をこじあけた。固く閉ざされている封印を中の様子をのぞきながらおそるおそる開いていく、週刊誌の袋とじをはじめて開いた時のようなときめきを感じた。
うれしはずかしバター醤油焼。うますぎてXジャンプ3回。
漁協の建物が海物語っぽかった。