特集 2015年10月29日

極めろ! 電光掲示板

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技術は日々進化を続けている。例えば、私が初めて買ったデジカメは30万画素だったけれど、いつの間にか5000万画素とかになっているし、テレビもハイビジョンになったかと思いきや、すぐにその上の4Kへと移り変わりつつある。

しかし街に目を向けると、まだまだドットが荒い表示が残っている。一般的には「電光掲示板」と呼ぶ人が多い、「LEDマトリクス」というディスプレイだ。今回はその魅力に迫りたい。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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街角のLEDマトリクス

LEDマトリクス(LEDドットマトリクスとも)とは、各ドットを1つのLEDで表現するタイプのディスプレイである――なんて説明するよりも、見てもらった方が早い。これだ。
これがLEDマトリクス
これがLEDマトリクス
普段は何気なく目にしているこのディスプレイ、改めて見てみると、かなりドットが荒い。
目を凝らすと、丸いドット(LED)が見える
目を凝らすと、丸いドット(LED)が見える
ゲームで「ドット絵というとノスタルジックな印象を受けるのに、街中に堂々とドットがあっても意外と気にならないものである。LEDマトリクスは、もはや私たちの日常に溶け込んでいると言えるだろう。

あのLEDマトリクスは、どれくらいのスペックなのか

LEDマトリクスのことをもっと知るため、よく目にする「あの表示がどれくらいのスペックなのか、調べてみることにした。
手始めに、駐車場の「空・満」表示を見てみよう
手始めに、駐車場の「空・満」表示を見てみよう
たった256画素! たぶんこれが、日常的に見る最もミニマムなドット表示だと思う
たった256画素! たぶんこれが、日常的に見る最もミニマムなドット表示だと思う
バスにも多くのLEDマトリクスが付いている
バスにも多くのLEDマトリクスが付いている
側面は結構な情報量だが、これでようやく1万画素を超えたくらい(車種によって違いがある)
側面は結構な情報量だが、これでようやく1万画素を超えたくらい(車種によって違いがある)
他にもエスカレータや、
他にもエスカレータや、
自動改札にもさりげなくLEDマトリクス
自動改札にもさりげなくLEDマトリクス
最後は、おなじみの駅で見かけるこの表示を改めて見てみる
最後は、おなじみの駅で見かけるこの表示を改めて見てみる
ホームにある発車標と呼ばれるものだったり、
ホームにある発車標と呼ばれるものだったり、
電車の方向幕にもLEDマトリクスが使われている
電車の方向幕にもLEDマトリクスが使われている
ドットを数えてみると、発車標は縦16ドット、方向幕は縦32ドットと、2倍の差があることが分かった。たしかに方向幕の方が、よりフォントの個性が表現できている。

見れば見るほど奥深いぞ、LEDマトリクス。

不思議な魅力のあるLEDマトリクス

芸術では、「制限」があることによって創造性が高まるとも言われる。その点、LEDマトリクスはまさに制限のかたまりである。
ドット数だけでなく、色数も限られている。最近はフルカラーの表示もあるが、なにせ幅を利かせているのは単色や3色の表示である
ドット数だけでなく、色数も限られている。最近はフルカラーの表示もあるが、なにせ幅を利かせているのは単色や3色の表示である
限られたドット数と色数の中で、いかに分かりやすい表示ができるか。そこが工夫の凝らしどころと言える。
例えば、今年開通した「東京上野ライン」の案内表示はすごい。幅が足りないため、無理やり二行にして押し込めている。もちろんこれも縦16ドットしかない
例えば、今年開通した「東京上野ライン」の案内表示はすごい。幅が足りないため、無理やり二行にして押し込めている。もちろんこれも縦16ドットしかない
大阪環状線では、電車がどこを走っているかをイラストで表現
大阪環状線では、電車がどこを走っているかをイラストで表現
汚い写真で申し訳ないが、ICOCAのマスコット「イコちゃん」が表示されているのも一度だけ見たことがある
汚い写真で申し訳ないが、ICOCAのマスコット「イコちゃん」が表示されているのも一度だけ見たことがある
ゲームの世界では「ドット職人」なる言葉があるが、LEDマトリクス業界でも、分かりやすい表示を目指して随所に職人の技が光っているのが見て取れた。

そんなLEDマトリクスが、なんと我が家に

この記事は当初、街にあるLEDマトリクスの魅力を語り尽くすという内容で考えていた。しかし調べていると、なんと駅に設置されているLEDマトリクス(実際に使われているらしい)が市販されているとの情報を発見してしまったのだ。

これは買うしかない! ということで、さっそく大阪・日本橋の電気街に行って買ってきた。それがこちらのパネルである。
横32ドット、縦16ドットのLEDマトリクス。3枚で1万円だった
横32ドット、縦16ドットのLEDマトリクス。3枚で1万円だった
駅の発車標をよーく見ると、横32ドット単位で切れ目が見えるので、物好きな方は確認してみよう
駅の発車標をよーく見ると、横32ドット単位で切れ目が見えるので、物好きな方は確認してみよう
ただ、これは本当にパネル部分だけなので、表示させるには周辺回路と制御プラグラムを自作する必要がある。
詳しい作り方は省略するが、最終的にこういう感じで仕上がった。私の場合は、Arduinoというマイコンボードを使ってLEDの制御を行う構成に
詳しい作り方は省略するが、最終的にこういう感じで仕上がった。私の場合は、Arduinoというマイコンボードを使ってLEDの制御を行う構成に
駅らしさを出すため、それっぽい被せ物も作ってみた
駅らしさを出すため、それっぽい被せ物も作ってみた
これをLEDに被せる。正確に切り抜くのが難しかったのだけど、上手いこと入ったので一安心
これをLEDに被せる。正確に切り抜くのが難しかったのだけど、上手いこと入ったので一安心
完成品したものがこちら。これはもう、完全に駅だ
完成品したものがこちら。これはもう、完全に駅だ
LEDマトリクスについて語るつもりが、気が付いたらこんな所まで来てしまった。

さらっと書いたけれど、プログラミングから被せ物に至るまで、制作に丸一週間かかった労作である。

さっそく、いろいろ表示して遊んでみよう。

自宅LEDマトリクスで遊ぶ

LEDの表示パターンを作るため、まずは縦16ドットの画像を用意する。
表示がおかしくなっているのではない。PC上で見ると、とんでもなく小さいのだ
表示がおかしくなっているのではない。PC上で見ると、とんでもなく小さいのだ
これをプログラム上で使うビットのパターンに変換し、
これをプログラム上で使うビットのパターンに変換し、
PCからマイコンに書き込むと……
PCからマイコンに書き込むと……
出た! これが自宅LEDマトリクスだ
出た! これが自宅LEDマトリクスだ
もちろんここは家なので、待っていても電車は来ない。しかし意外となじむ
もちろんここは家なので、待っていても電車は来ない。しかし意外となじむ
自由に表示を作れるのは、思いのほか面白い。ドット絵職人になった気分である。
この調子でいろんな表示を作ってみることにした。
まずはオーソドックスな発車標風。もちろんこんな特急はありません
まずはオーソドックスな発車標風。もちろんこんな特急はありません
特急デイリーポータルZの乗車案内は、たぶんこんな感じだろう
これは発車標マニア垂涎なのではという気がしてきた。何と言っても、好きな文字が自由に表示できてしまうので、もう何でもありの世界だ。
ネットで出回っている面白画像のような誤表記も、簡単に再現可能
ネットで出回っている面白画像のような誤表記も、簡単に再現可能
駅っぽい表示にこだわらなくても、例えば天気予報を表示してみてもいい
駅っぽい表示にこだわらなくても、例えば天気予報を表示してみてもいい
株価を表示すると、とたんに頭が良さそうに見える。これ、円筒状に並べると東証Arrowsが作れてしまうのでは
株価を表示すると、とたんに頭が良さそうに見える。これ、円筒状に並べると東証Arrowsが作れてしまうのでは
ダムの貯水率が出たら面白くないかな
ダムの貯水率が出たら面白くないかな
こういう細かな情報を表示するサブディスプレイとして、LEDマトリクスは優れていると感じた。

スマートウォッチで通知を確認するように、家の壁にあるLEDマトリクスでいろんな通知を受けて情報をチェックするのだ。お、なんだかビジネスの香りが……。
いっそのこと、本当にドット絵を打ってみるのもいい。これは何だか分かるだろうか
いっそのこと、本当にドット絵を打ってみるのもいい。これは何だか分かるだろうか
夢中になって、アニメーションも作ってしまった
こんなことができてしまうということは、駅の発車標でも同じことができるはず。可能性を感じずにはいられない
こんなことができてしまうということは、駅の発車標でも同じことができるはず。可能性を感じずにはいられない
街にあるLEDマトリクスを味わうつもりが、いつの間にかLEDマトリクスの可能性について考えるようになってしまった。

高画素化が進む現代においても、LEDマトリクスは現役で活躍している。それはきっと、導入コストとか、電気代の面で有利だから、などの理由からだと思う。
だが理由はどうであれ、LEDマトリクスはこんなにも街にあふれているのである。そして日々、いろいろなドット表示を我々に見せてくれている。

決して最新テクノロジではないけれど、だからこそ面白いLEDマトリクス。今後も注目していきたい。

青色LEDの発明により、白を含むフルカラーが表現できるようになった最近のLEDマトリクス。色は鮮やかになって見栄えはするけれど、やはりドットは荒い。このパネルもどこかで売ってるかなあ(欲しい)。
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