鮒寿司を求め滋賀県へ
やってきたのは滋賀県蒲生郡竜王町。JR近江八幡駅から車で15分ほど行ったところに、今回訪問した鮒寿司店「
鮒味(ふなちか)」があります。
こちらの実店舗が出来たのは2016年7月。新しく綺麗な外観。
話しを聞いたのは店主の大川さん。京都の料亭や旅館で15年以上、板前や料理長を勤めた鮒味の二代目です。
笑顔が素敵な鮒寿司屋店主で凄腕料理人の大川さん。
鮒味は年間2トン、鮒の数にして1万匹ほどの鮒寿司を製造。通常の鮒寿司の他、鮒寿司や鮎の薫製、鮒寿司の飯(いい)を使った漬物などの加工品も製造販売しています。
鮒寿司は真空パック状態で販売されています。
出来上がるまでに約1年半
鮒寿司の最初の仕込み工程は冬の終わりから春かけて行われ、訪問した時は丁度仕込みの最中でした。
岡山県産のゲンゴロウフナ。より値段の高い琵琶湖産の二ゴロフナの仕込みはもう少し後になるとのこと。
鮒寿司を仕込む工程は大雑把に以下のようになります。
1. 鮒のウロコと内臓をとって洗う。
2. 塩に漬ける。
3. 塩を洗って干す。
4. 米を詰めて漬ける。
漬け込み中の鮒寿司。こちらからは鮒寿司の香りがほんのり漂う
塩漬け工程が約半年。米を詰めて漬ける工程が約1年。合計で1年半ほどかけて鮒寿司は作られています。
電動ドリルのような機械で1匹ずつウロコを取り除いていました。
使う鮒は琵琶湖産の二ゴロフナと、国産のゲンゴロウフナ。二ゴロフナは琵琶湖とその周辺にのみ生息する固有種で、生息場所となる葦(ヨシ)の林の伐採、ブラックバスなどの外来魚の影響で生息数が減少。二ゴロフナの鮒寿司は貴重な品になりつつあります。
ゲンゴロウフナの鮒寿司は、二ゴロフナのものと比べ身や皮がやや硬く歯ごたえがあるそうです。二ゴロフナのものより買いやすい価格になっています。
1個の樽で鮒75kgほど仕込みます。
そして、こちらは塩漬け作業中の樽。こんな感じで塩と鮒を交互に入れた後に重石をして漬けていきます。
いきなり多くの重石を乗せると卵が潰れてしまうので、塩で卵が固まってくるのを見極めながら重石を増やしていくそうです。
漬け始めの樽。この周辺は結構生臭い。
ちなみに、樽の表面に写っている色のついた液体は、塩分により鮒から出てきた水。この時点ではまだ発酵した香りではなく、魚の生臭い香りを強く感じます。
重石とフタを外した米を入れて漬け込み中の物。周りについているのは密封用の縄。鮒寿司の香りがする。
こちらは塩漬け後に炊いた米を詰めて漬け込んでいる樽。発酵した鮒寿司の香りが漂ってきます。
漬け込むのに使う米は、日本酒を作る酒米が向いているそうです。鮒味では、滋賀県産の日本晴という酒米を使用していました。
鮒寿司の燻製や鮒寿司ラスク
続けて鮒寿司以外の加工品の作業場も見せていただきました。
鮒寿司の燻製。チーズのような風味でワインにも合う味です。
最初が鮒寿司の燻製。鮒寿司を3日かけてスモークしたのちに1日休ませ、さらにスモークして作る手間ひまのかかった品。スモークされる事により、チーズのような風味に変わり、鮒寿司の香りが苦手な人でも美味しく食べられます。
大型のスモーカーで冷燻にしています。
大川さんによれば、鮒寿司の消費量は年々減少しているそうです。昔は滋賀県の各家庭でひと樽は鮒寿司を漬けているというレベルで作られ食べられていましたが、今ではすっかり行われなくなりました。多くの伝統食品であるように、若者の鮒寿司離れが進んでいます。
一度出来上がった鮒寿司を更に3か月ほど酒粕に漬けた物も製作中。香りがよりマイルドになり、旨味も増すそうです。
また、鮒寿司の臭いを嫌う人もいます。臭いのレベルは数値的な話でいえば、鮒寿司は納豆と同レベルの臭いの強さです(臭いの程度を測定する、におい濃度測定用ガス検知器アラバスター装置での結果。焼きたてのくさやは約3倍、シュールストレミングは約20倍の数値とされる)。
琵琶湖産の鮎をつかった製品も各種ありました。干した鮎は燻製などになります。
しかし、臭いは人により感じる強さは変わり、不快な臭いの感覚も異なるので一概には言えません。大川さんはその料理の腕を活かし、鮒寿司が多くの人に受け入れてもらえるように色々な工夫をしました。
鮒寿司を漬ける時に出来る飯(いい)。これだけでも美味しい酒の肴になります。鮒味ではこれを使った加工品も各種作っています。
鮒寿司の燻製はその1つ。もともと鮒味の鮒寿司は独自の製法で臭いをおさえ、マイルドな仕上がりにしています。年配の人からは、鮒寿司の燻製など、こんな鮒寿司は邪道だと怒られる事もあるそうです。
鮒寿司の飯を使った「日野菜の飯漬け」。第一回 近江の野菜 漬物アイデアコンテスト「わたしのオリジナルレシピ」部門で最優秀賞を受賞しています。
とはいえ、まずは鮒寿司を使った品を食べてもらう。それで美味しいと思ってくれた人が、本来の鮒寿司を味わって貰えれば鮒寿司の世界が広がると、大川さんは様々な鮒寿司料理を開発しています。
鮒寿司ラスク。コクのあるチーズを練りこんだラスクという感じで凄くうまかった。
最近では、地元のパン屋とのコラボで鮒寿司を使ったラスクも開発しています。試食させてもらったところ、鮒寿司というより、何かクセの強いチーズを練りこんだような味で大変美味しかったです。
鮒寿司は元々好きでしたが、認識がさらに変わりました。
続いて、大川さんに聞いたオススメの鮒寿司料理を作ってみます。激しくうまかったです。
そのままでも美味しいが調理してみる
では鮒寿司料理を作ります。鮒寿司の食べ方と言えば、通常はそのままを食べます。
鮒寿司本体もうまいけど、後ろの飯も酒の肴としては最高なのですよ。
他の食べ方といえば、茶漬けなどが良く知られるところ。ご飯に乗せてお湯をかけるだけで、調理するという感じではありません。
鮒寿司には香り高い淡麗なものよりも、コクのある旨味のしっかりした日本酒の方が合います。滋賀県甲賀市の神開純米山廃仕込み一つ火で一杯。
しかし、鮒寿司はそのまま食べる単なる珍味ではなく、食材として非常に高い可能性を秘めています。
鮒寿司と日本酒。なんだこのパラダイス。笑いが止まらないな。
鮒味のホームページでも鮒寿司を使った
各種の料理を紹介しています。今回はその中から大川さんオススメのひと品を作ってみました。鮒寿司のカプレーゼです。
フォーエバーな味になる鮒寿司
用意する材料は以下になります。
・鮒寿司 数切れ
(燻製鮒寿司がいいが、そうでなくても可。)
・トマト 1個
・モッツァレラチーズ 1/2個
・バジルの葉 数枚
・黒胡椒、オリーブオイル、塩 適量
作り方は通常のカプレーゼとあまり変わらず。塩は少な目で。
まずトマトとモッツァレラチーズをスライスします。スライスしたらチーズ、トマト、鮒寿司を交互に重ねていきます。
鮒寿司とモッツァレラだけでも結構いけるはず。
元々鮒寿司に塩気があるので塩は少な目。黒胡椒は好みで多目で大丈夫。
続いてオリーブオイルをかけてバジルの葉を散らしたら出来上がりです。
油と塩と発酵食だ。不味いわけがなかろう。
チーズにも似た鮒寿司の風味がバジルや黒胡椒と上手く合わさり良い方向へ伸びています。旨味が強く、濃厚なチーズを使ったカプレーゼという感じ。
ワインもいいがやはり日本酒か。滋賀県の浅茅生特別純米滋賀渡船六号と。軽快な米の旨味がいいね。
ワインはもちろん、日本酒にも最適な料理です。コクのある日本酒をゆったり飲みながら味わいたい一品です。
フォーエバーな味がする。こりゃうまいね。
他にも大川さんは、鮒寿司とクリームチーズと味噌を使った料理など各種考えているそうです。鮒寿司凄いぞ。
売っている所はまだ少ない
鮒寿司も鮒寿司料理も大変美味しかったです。臭いの?それは無理!と食わず嫌いしている方。是非一度入手して食べてみてください。そんなに臭くないし、美味しいです。
鮒寿司は滋賀以外で買える場所は少ないですが、東京なら秋葉原の
「日本百貨店しょくひんかん」で鮒味の鮒寿司の取り扱いがあり、有楽町の物産館でも購入可能なようです。500円ぐらいからの小分けパックも売っています。
臭いかどうかはあなた次第。まずは食べて判断しましょう。
滋賀県は、あまり知られていないですが、日本酒を古くから作り続ける人気の蔵が多く、日本酒文化において日本各地にその功績を多く残しています。その話はまたいずれ。