特集 2017年3月17日

赤いオープンカーでダムのトンネル見学会へ

ダムの水を放流するために造られたトンネル
ダムの水を放流するために造られたトンネル
愛媛県にある鹿野川ダムでは、いま大規模なダムの改造工事が行われている。洪水調節能力を上げるため、ダムの本体を迂回するように、貯めた水を放流するためのトンネルを掘っているのだ。
このトンネルの内部を見学させてもらえるというので、四国まで行ってきた。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:水飲み場の水を導く溝に興奮する

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唯一の交通手段

トンネル見学の記事としては完全に蛇足ながら、今回は諸事情により移動手段も楽しかったので紹介したい。
行きは国内唯一の寝台特急サンライズで
行きは国内唯一の寝台特急サンライズで
鹿野川ダムは愛媛県の西部にある大洲市というところに設置されている。松山空港から車でおよそ1時間だが、東京からの始発便が到着するのが9時。今回は10時半から見学がはじまるのだけど、飛行機を降りて荷物を受け取ってレンタカーの手続きをして…、と考えると間に合うかどうか分からなかった。あと、朝イチの飛行機に乗るためには、5時過ぎに家を出なければならず辛い。
思い立ったら寝台特急に乗れる、のが大人になっていちばん良かった点
思い立ったら寝台特急に乗れる、のが大人になっていちばん良かった点
また、前日は21時頃まで仕事があり、夜行バスにも最終の飛行機にも間に合わなかったので前乗りも無理。というわけで、僕にとっては東京駅22時発のサンライズが四国入りするための最後の、そして唯一の手段なのだ(とは言え「乗りたかった」のがいちばん大きい理由なのは言うまでもない)。
1人用個室「シングル」。広くはないが絶妙な狭さでアガる。あと完全に横になれるのは大きい
1人用個室「シングル」。広くはないが絶妙な狭さでアガる。あと完全に横になれるのは大きい
四国入りとは言ってもサンライズは高松行きだ。そこで、四国に入って最初の停車駅、坂出で降り、そこからレンタカーで向かうことにした。サンライズの坂出到着は7時9分、駅前のレンタカー店の開店は8時。坂出から鹿野川ダムまでは検索によると2時間20分だけど、開店と同時に手続きをして出発すればギリギリ間に合う計算。
というわけで夜景を眺めながらまったり
というわけで夜景を眺めながらまったり
夜行列車に乗ったとき、過ぎ行く知らない街並みを眺めながら、ここにも多くの人の営みがあって、一人ひとり違う人生を歩んでいるんだよなあ、などと考えて途方に暮れながら眠りに落ちるのが好きだ。

気がつくと窓の外が明るくなっていた。
おはようございます
おはようございます
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サンライズから見るサンライズ

名古屋や大阪も通過しながら夜通し走ってきたサンライズは、早朝の岡山駅で、進路を北に変え日本海側に抜けるサンライズ出雲と、瀬戸大橋を渡って四国に上陸するサンライズ瀬戸に分かれる。
瀬戸大橋のサンライズは絶景である
瀬戸大橋のサンライズは絶景である
瀬戸大橋からの眺めをゆっくり見ていたいが、降りる坂出駅は渡り切ったらすぐなので急いで身支度をする。しかし、このあともうひとつオススメの絶景があるのだ。
四国に上陸したら、進行方向左手にまず見えてくるのがさまざまな大きさや形のタンク群
四国に上陸したら、進行方向左手にまず見えてくるのがさまざまな大きさや形のタンク群
間髪入れず登場する工場!
間髪入れず登場する工場!
そしてトドメは巨大な造船所!
そしてトドメは巨大な造船所!
僕はこれまで乗ったサンライズがすべて進行方向左側だったので毎回見ているけれど、確実に見たい人は切符を取る段階で指定してみよう。

興奮冷めやらぬうち、サンライズは7時過ぎに坂出駅に到着。

坂出駅前にはレンタカー店が2店あるが、どちらも開店は8時。少し待ってから予約した店に向かい、手続きを済ませて車に乗り込んだ。
その車がこれである
その車がこれである
この派手な赤い車はホンダのS660。ちょうど2年前に発売されたばかりの、軽自動車のオープンカーである。レンタカー店のホームページを見ていたところ、この珍しい車がレンタルできることを知り、迷わず予約しておいたのだ。
小さいがめちゃくちゃ獰猛である
小さいがめちゃくちゃ獰猛である
車体の高さはフェラーリより低くランボルギーニよりやや高いくらい、座席は運転席と助手席だけの2シーター、エンジンはF1と同じく運転席の後ろ、という、スポーツカーというよりスーパーカーと言っていいシロモノだ。

押し入れの下段に置いた座椅子に身体を入れる、というような感覚の運転席に座ると、まわりの車より1段低い視界はまるでゴーカート。走り始めてもダイレクトな操作感覚、振動、そしてブオーンとギュイーンとキーンが混ざった和音のようなエンジン音は、車というよりマシンという感じで思わず全身に力が入る。
そんなエンジン音をよく聴けるように頭の後ろの窓が開くようになっている
そんなエンジン音をよく聴けるように頭の後ろの窓が開くようになっている
全身に力がみなぎる運転席
全身に力がみなぎる運転席
しかしじっくり味わっている時間もなく、高速道路に乗って鹿野川ダムに急いだ。
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アグレッシブなトンネル工事見学会

休まず運転して、何とか時間ギリギリに鹿野川ダムに到着。
ダムとしては巨大、というほどではない
ダムとしては巨大、というほどではない
鹿野川ダムは1958年に完成した高さ61m、総貯水容量約4800万立方メートルのダムで、現在は国土交通省が管理している、主に治水用のダムだ。

現在、ダムの機能を強化するために全体的な改造が行われていて、そのひとつとして「トンネル洪水吐」が建設されている(詳しくは公式ホームページ参照→こちら)。

トンネル洪水吐は、貯水池からダム本体を迂回しながら下流に掘ったトンネルだ。ふだんは水が流れないように水門を閉めておき、大雨で放流が必要になったときに水門を開けて放流するのだ。

管理事務所内でダムや工事内容について説明を受けたあと、いよいよ見学に出発だ。
ちなみにこの後しばらくの間の写真は、通常一般立ち入り禁止の場所から許可を得て撮影しています。
まずは通常見られない位置からダムの鑑賞
まずは通常見られない位置からダムの鑑賞
これも今回の改造で新設された「連続サイフォン式取水設備」の制御部
これも今回の改造で新設された「連続サイフォン式取水設備」の制御部
貯水池の中に造られたトンネル入口を建設するための立坑
貯水池の中に造られたトンネル入口を建設するための立坑
この底まで階段で降りていく。真ん中にはトンネル入口を制御する水門
この底まで階段で降りていく。真ん中にはトンネル入口を制御する水門
こういう、まさに「現場」の通路を進む
こういう、まさに「現場」の通路を進む
立坑の底まで降りてきた!
立坑の底まで降りてきた!
工事現場の作業員の方が使っている狭い階段を延々と降りて、立坑の底に降りてきた。そこから内部に進むと、目の前に直径11.5m、長さ約460mのトンネルが現れた。

大雨で放流するときは、この中が完全に水で満たされ、毎秒600立方メートルもの量が流れるという。想像するだけで恐怖で泣いてしまいそうだ。
ここをものすごい勢いで流れる水を想像してほしい
ここをものすごい勢いで流れる水を想像してほしい
下流へ向かってトンネルを進む
下流へ向かってトンネルを進む
出口付近でトンネルはコンクリートから鉄管に変わる。内側にはステンレスが貼られ神々しい
出口付近でトンネルはコンクリートから鉄管に変わる。内側にはステンレスが貼られ神々しい
非日常感に興奮しながら歩いてきたところ、ここで参加者が集まった。実はこのトンネル、昨年から一般向けの見学会を何度か行なっていて、その取り組みが昨年末行われた「日本ダムアワード2016」でイベント賞を受賞。今回はその報告と、記念の楯をお届けするのが目的だったのだ。
(日本ダムアワードについてはこの記事を読んでください→こちら
トンネルの中で記念楯を関係者の方にお渡し
トンネルの中で記念楯を関係者の方にお渡し
事務所の方でこんな幕を用意してくれてた!そしてやたらドラマチックな場所で記念撮影
事務所の方でこんな幕を用意してくれてた!そしてやたらドラマチックな場所で記念撮影
このトンネルの見学会は、これまでにないさまざまな取り組みが行われてきた。たとえばトンネルを貫通させる瞬間も一般見学者を招待して一緒に祝ったり、トンネルの中を好きなだけ見学できるフリーウォーキングというイベントには1200人もの人が集まり2時間近い待ちの列ができるなど、斬新な企画はダム好きだけでなく地元の方々の間でも話題で、ダムアワードでも圧倒的な得票を集めての受賞だった。
出口は四角い水門が2つ設置されるので円形から角形に断面が変わる
出口は四角い水門が2つ設置されるので円形から角形に断面が変わる
トンネルは2つに分かれ、この先に水門が設置される
トンネルは2つに分かれ、この先に水門が設置される
外に出てきた。左奥のクレーンの後ろがトンネル出口
外に出てきた。左奥のクレーンの後ろがトンネル出口
というわけで今回の見学会兼受賞ご報告&記念楯お届けは終了。工事はもうすぐ終了するらしく、運用を開始したら見学は難しくなるので、いまのうちにぜひ見に行ってみてください。10人程度の団体が望ましいそうだけど、少人数でも見学対応可能な場合もあるとのこと。

翌日は雨

今回、現地で1泊して、翌日はS660で四国のダムめぐりを堪能した…かったのだけど、雨男ぶりを遺憾なく発揮、せっかくのオープンカーも屋根を閉じたままの無念のドライブとなった。
後ろから見ると特殊な形が際立つ
後ろから見ると特殊な形が際立つ
こういう山道は最高に楽しかった
こういう山道は最高に楽しかった
荷物はまったく積めないのでほぼ1人乗り(助手席は荷物置き場)
荷物はまったく積めないのでほぼ1人乗り(助手席は荷物置き場)
実用性はないけどまた乗りたい
実用性はないけどまた乗りたい

2日目はほぼ1日中雨だったので、どのダムもチラリと眺めるだけ、だったおかげでほぼ1日運転しっ放し
だったのだけど、飽きることなく運転を満喫して空港までたどり着いた。また四国に行くことがあったらぜひレンタルしたい。
少し時間オーバーしてしまった
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