特集 2016年12月16日

高さ150mの恋文・チェルノブイリの秘密軍事基地

高さ150m、長さ500mのOTHレーダー!
高さ150m、長さ500mのOTHレーダー!
「チェルノブイリ2」という秘密軍事基地跡地に行ったので、その様子をご覧頂きたい。

名物はOTHレーダー。上の写真がそれだ。ご覧いただければわかると思いますが、これがすごかった。ほんとうにすごかった。

なんでこんなタイトルになったのかの理由は最後に。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:原発事故で廃虚になった街に行った

> 個人サイト 住宅都市整理公団

とにかくすごいぞOTHレーダー

先日書いたチェルノブイリツアーでの一幕です。

一刻も早くこのびっくりぐあいをお伝えしたいので、単刀直入に写真をご覧頂こう。どーん!
高さ150m! 長さ500m! の巨大アレイ。腰を抜かした。150mって何メートル!? って感じです。
高さ150m! 長さ500m! の巨大アレイ。腰を抜かした。150mって何メートル!? って感じです。
下に人がいるのがわかるでしょうか。こういう大きさです。って言われてもよくわからないでしょう。それほどでかいです。
下に人がいるのがわかるでしょうか。こういう大きさです。って言われてもよくわからないでしょう。それほどでかいです。
どうやったて写真では伝わらない巨大さ。ぐいっと見上げてパノラマにしてみたりしました。が、まったく伝わらない。はがゆい。どうしたらいいんだ。行ってもらうしかないか(全天球画像は→こちら)
どうやったて写真では伝わらない巨大さ。ぐいっと見上げてパノラマにしてみたりしました。が、まったく伝わらない。はがゆい。どうしたらいいんだ。行ってもらうしかないか(全天球画像は→こちら
別名
別名"Steel Yard"という。一歩移動するたびに表情を変えるなモアレがぼくを眩暈へと誘う。それにしても30年間放置されていたとは思えない、整った列。この状態で残っているのがほんとうにすごい。日本だったら錆びて朽ちてるのではないか。ツタや苔に覆われてるだろうし。
角度によっていろいろな模様が見えてきて、もうね、一日中、いや、1週間ぐらい泊まり込みたい。「今夜はここで」って言ったけど「だめ」って言われました。けちんぼ。
角度によっていろいろな模様が見えてきて、もうね、一日中、いや、1週間ぐらい泊まり込みたい。「今夜はここで」って言ったけど「だめ」って言われました。けちんぼ。
画面下の円筒+円錐のカゴがいわゆる放射器だと思われます。画面上のワイヤー群は反射器だろうか(高校物理程度の知識・理解しかなく、アンテナの仕組みについて全く疎いので、違っていたらすみません。詳しい方いらっしゃったら教えてください)
画面下の円筒+円錐のカゴがいわゆる放射器だと思われます。画面上のワイヤー群は反射器だろうか(高校物理程度の知識・理解しかなく、アンテナの仕組みについて全く疎いので、違っていたらすみません。詳しい方いらっしゃったら教えてください)
まあとにかくつまりなにが言いたいのかというと、これだけばかでかくても、結局はすごく単純なアンテナにすぎない、ということ。そこがまたいい。(全天球画像は→こちら)
まあとにかくつまりなにが言いたいのかというと、これだけばかでかくても、結局はすごく単純なアンテナにすぎない、ということ。そこがまたいい。(全天球画像は→こちら

周辺環境もすごい

今回の記事は、これらの写真がすべてなので、これで終わりにしてもいいぐらいなのだが、このOTHレーダーとは何なのかの説明をしよう。

まず場所。冒頭に書いたように「チェルノブイリ2」と呼ばれる場所にある。つまり、チェルノブイリにある。

先日記事にしたあのチェルノブイリ原発から直線距離で10km弱という至近距離。空中に張られたメッシュとして、さぞかしよく放射性物質を受け止めたことだろう。なで回しちゃったけど。
チェルノブイリ2の場所はここ。それにしてもまわりなにもない。
「直線距離で」もなにも、ご覧の通りの周辺っぷりなので、直線で距離測るよそりゃあって感じ。

OTHレーダー自体にはもちろん度肝を抜かれたが、このまわりの平らっぷりも印象的だった。
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到着して、バスから降りてふり返ったら、こんなだ。すごく平ら。
到着して、バスから降りてふり返ったら、こんなだ。すごく平ら。
Google Earth で見るとさらにその「まわりに何もなくひたすら平ら!」がよく分かる。そして誰かがていねいにOTHレーダーを3D化していた。
Google Earth で見るとさらにその「まわりに何もなくひたすら平ら!」がよく分かる。そして誰かがていねいにOTHレーダーを3D化していた。
Wikipediaの
Wikipediaの"Woodpecker array"より。よじ登っててっぺんからの様子。ぼくも登りたかった。怒られても登るべきだったか、といま後悔している。それはとにかく、まわりの平原っぷりがやはりすごい。
「チェルノブイリ2」というなんともそそるネーミングは、いわばコードネームのようなもの。70~80年代ここは秘密軍事基地だった。現地で聞いた話によると、対外的には「青少年自然の家」という設定だったそうだ。うん、確かに自然だ。

そんな当時の秘密も、いまやGoogleマップであっさり見ることができちゃうのだ。こんな時代が来るとは。

秘密にする理由が、このOTHレーダー。1976年に稼働開始し、86年の原発事故により使われなくなった(前述の通りなんせ直線距離で10km足らずなので)。つまり、これだけのものがわずか十数年しか利用されなかったのだ。

OTHは"Over The Horizon" のことで、その名の通り地平線を越えて電波を飛ばし・受信するためのもの。マイクロ波を電離層に反射させることで地平線を越える。アメリカの弾道ミサイルや戦闘機などを索敵したわけだ。


[*現地で聞いた話と、その後調べたところによると、このシステムは "DUGA-1" という名前で(ネット上ではDUGA-3となっているものも多くあり混乱が見られる)、チェルノブイリ2にあるこれはレシーバーにあたり、トランスミッターはドニエブル川の向こうの街・チェルニヒウにあったようだが、詳細が分からない。これも詳しい方がいたら教えてください。]

グロテスクで滑稽

バスからおりた途端、木々の向こう、雨にけぶる空にちらっと見えるOTHレーダー。この時点で大興奮!
バスからおりた途端、木々の向こう、雨にけぶる空にちらっと見えるOTHレーダー。この時点で大興奮!
秘密基地とはいっても、これが稼働していた当時、その存在は世界中で一般市民にも知られていたという。なぜなら、その強力な電波はいろいろな放送に迷惑を与えていたからだ。

特にラジオ無線の趣味の方々の間では「ロシアン・ウッドペッカー」として知られていたという。特有のノイズがキツツキのたてる音に喩えられたのだ。良いネーミング。
敷地の入口のゲートはこんな。
敷地の入口のゲートはこんな。
すごく共産っぽいデザインにぐっとくるが、はやくOTHレーダーを見たい一心。そわそわしちゃう。
すごく共産っぽいデザインにぐっとくるが、はやくOTHレーダーを見たい一心。そわそわしちゃう。
この門もいかにも旧ソ連っぽい。が、その向こうに見える雄姿にもう鼻血が出そう。
この門もいかにも旧ソ連っぽい。が、その向こうに見える雄姿にもう鼻血が出そう。
そんな迷惑なレーダー。しかも役立たずだったというからおもしろい。

これだけのものをつくったのに実際のところ解像度は低く、また当時の技術では敵機だかノイズだかの見分けも満足につかないというありさまだったとか。今だったらうまいこと情報処理できるんだろうな、と思った。
過日の記事で書いたように、同道したツアー仲間は30名超。しかし門をくぐった途端、ぼくひとりだけダッシュして、その後の記憶があまりない。この風景で我に返った。驚きと感動の声はひとりでも出しちゃうものだ。うおー! って言ってた。
過日の記事で書いたように、同道したツアー仲間は30名超。しかし門をくぐった途端、ぼくひとりだけダッシュして、その後の記憶があまりない。この風景で我に返った。驚きと感動の声はひとりでも出しちゃうものだ。うおー! って言ってた。
うおー!
うおー!
うおー!!
うおー!!
おそらく、現代の軍事情報のシステムはもっと巧妙で複雑でしばしば物体を伴わない「見えない」ものになっているのだろう。

敵の行動を知るためにこのOTHレーダーのようなバカみたいに巨大なものを物理的におったてるのって、なんだかもはやほほえましい。
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ようやくみなさんが追いついた。後に本ツアーのプロデューサーである東浩紀さんに「あのときの大山さんの鬼気迫る雰囲気はちょっと異様だった」と言われた。うん、そうだったろうなとぼくも思う。
ようやくみなさんが追いついた。後に本ツアーのプロデューサーである東浩紀さんに「あのときの大山さんの鬼気迫る雰囲気はちょっと異様だった」と言われた。うん、そうだったろうなとぼくも思う。
あいにくの天気だったが、レーダーのみんなの傘の組み合わせは、なんだかファンタジックでいい。
あいにくの天気だったが、レーダーのみんなの傘の組み合わせは、なんだかファンタジックでいい。
あと、あらためてなぜ土木が英語で "civil engineering" なのかがよく分かった。

こういう軍事土木構造物を普通につくるような国では、市民の生活のための土木はそれと対比した言い方にならざるをえないだろうな、と。

まあ、ここは英語の国じゃないけど、たぶんイギリスもアメリカもこういうノリなんだろうと思う。ちなみにロシア語でも土木はほぼ同じく「市民建設」と呼ぶらしい。
150mの鋼鉄の構造物に落ちる雨音は、今まで聞いたことのない音だった。まわりの森の木々がたてるサウンドと全く違う。電波に耳を澄ませるものが音を立てる、って詩的。けぶる雨、ゆれるカラフルな雨傘、静寂の中に期越える2種類の雨音。月並みな表現だが「幻想的」としか言いようのないふしぎな雰囲気。
150mの鋼鉄の構造物に落ちる雨音は、今まで聞いたことのない音だった。まわりの森の木々がたてるサウンドと全く違う。電波に耳を澄ませるものが音を立てる、って詩的。けぶる雨、ゆれるカラフルな雨傘、静寂の中に期越える2種類の雨音。月並みな表現だが「幻想的」としか言いようのないふしぎな雰囲気。
思えば、電波の中でも可視光線に近いごく短い波長を捉えるためにこんな巨大なアンテナをつくったわけだ。そういえばチェルノブイリ原発も、目に見えないごく小さい原子の反応のためにあれだけの大きな構造物をつくった。

そういう極小と極大が対面しちゃうふしぎさ、もっと言えばぶきっちょな感じにぼくは惹かれたんだろうな、と今思う。

さらに言えば個人と国家の関係も似たようなところがあって、政治のグロテスクで滑稽な感じって、このOTHレーダーに通じるものがあるな、と思った。

まるっきり小学生の自由研究

なんだかそれっぽいこと言っちゃった。はずかしい。

いやもうね、写真見せて「すごいよね!」っていう以外、伝えたいことがないんですよ。あとは各自現地行ってくれ、って。

なので無理矢理なにか書こうとするとこういうこと言っちゃうわけです。すみません。

あ、でも当然これだけのシステムを運営してたので、付随する設備がいろいろあったのだ。それの話をしよう。
レーダーの裏側を歩いて行って
レーダーの裏側を歩いて行って
建屋の中に。それにしても危険。前回も書いたけど、日本でのツアーだったらぜったい立ち入り禁止されるはずのところをずいずい行く。ちょうたのしい。すてき。
建屋の中に。それにしても危険。前回も書いたけど、日本でのツアーだったらぜったい立ち入り禁止されるはずのところをずいずい行く。ちょうたのしい。すてき。
ザ・廃虚である。
ザ・廃虚である。
壁の塗装のはがれ具合がいい。
壁の塗装のはがれ具合がいい。
ふしぎだったのが非常口マーク。まさかチェルノブイリで出会うとは思っていなかった。
ふしぎだったのが非常口マーク。まさかチェルノブイリで出会うとは思っていなかった。
おなじみのピクトだ。何か所かでみかけた。これ日本生まれのデザイン。つまり逃げている彼あるいは彼女は日本人なのだ。で、いまや世界標準なんだけど、ISOに登録されたのは1987年なので、ここが閉鎖された後のはず。事故後に描かれたものか。ふしぎ。
おなじみのピクトだ。何か所かでみかけた。これ日本生まれのデザイン。つまり逃げている彼あるいは彼女は日本人なのだ。で、いまや世界標準なんだけど、ISOに登録されたのは1987年なので、ここが閉鎖された後のはず。事故後に描かれたものか。ふしぎ。
それにしても良い廃虚。
それにしても良い廃虚。
フォトジェニック。
フォトジェニック。
あれだけの巨大レーダーなので、その運用・メンテナンスのために何千人もの人が住んでいたという。今回残念ながら行けなかったが、敷地内に団地の廃虚があるのが航空写真でわかる。

で、ぼくたちが入った建物は、いわば学校。ここでレーダーについての教育が行われていたという。

以下がそのハイライトだ。
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興奮したのがこの部屋。ハイライト。
興奮したのがこの部屋。ハイライト。
なんとも魅力的な絵や図が。
なんとも魅力的な絵や図が。
レーダーの原理が説明されている。
レーダーの原理が説明されている。
みんなむちゅうになった。
みんなむちゅうになった。
特に眼を惹くのがこのペンキ絵。各種弾道ミサイルが描かれているのだが
特に眼を惹くのがこのペンキ絵。各種弾道ミサイルが描かれているのだが
昔の少年SF雑誌の挿絵のようなタッチが愛おしい。
昔の少年SF雑誌の挿絵のようなタッチが愛おしい。
極めつけはこれ。まるっきり小学生の自由研究の成果物。
極めつけはこれ。まるっきり小学生の自由研究の成果物。

圧倒的な「いつか見た未来」感がほほえましい。

いや、ほほえましく思っている場合ではない。だってこれ、冷戦時代におけるまさに東側中枢の教材なのだよ。これが。この小松崎茂さんを目指して途中で諦めたようなペンキ絵が。
「士官候補生がここで教育を受けた」と言っていたが、ほんとうだろうか。なんだこのほんわかタッチは。あと右のキャラかわいい。
「士官候補生がここで教育を受けた」と言っていたが、ほんとうだろうか。なんだこのほんわかタッチは。あと右のキャラかわいい。

たしかにパソコンも普及していない時代の教材はこうならざるを得ないのかもしれないが、それにしたって、OTHレーダーを見たあとだけにギャップに心打たれる。

冷戦時にはよく「うっかりミスで核ミサイルのボタンが押されて人類が危機に」っていう物語を見たものだが、このお子さま向けタッチの教育現場を目の当たりにすると、あながちあり得ない話ではなかったのではないかと思う。くわばらくわばら。

軍事と恋愛は見分けがつかない

見終わって思うのは「アンバランスさ」だ。ウドの大木・OTHレーダー。やっていることと、その教育現場の挿絵のギャップ。「グロテスク」も「滑稽」もつまるところアンバランスさが醸し出している。

サラリーマン時代、どうでもいいようなことを社内のお歴々が雁首揃えて延々と大まじめな顔してそれでいてなんの実りもない会議をえんえんやって、ふと我に返ったときのあの感じを思い出した。組織は放っておくとついグロテスクで滑稽なことをやってしまうのかも。
でもやっぱり惹かれちゃう。
でもやっぱり惹かれちゃう。
すごいよなあ。
すごいよなあ。
つくりたくなる気持ちはよく分かる。
つくりたくなる気持ちはよく分かる。
一方で、なにもない真っ平らな大地に雨に打たれて孤独に立ち、地平線の向こうからのメッセージをじっと待つOTHレーダーを見てると、まるで恋文を待つぶきっちょな思春期の子みたいだな、とも思う。

相手の考えていること、一挙手一投足を必死に追う軍事は、恋愛と区別がつかない。巨大な出力のノイズでまわりに迷惑をかけながら、まったく実りがなかった、っていう点も思春期っぽい。

もういっかい行きたい

記事書くために写真見返してたら、また興奮してきた。また行きたい。

晴れた日の姿も見てみたいし、できれば夜見てみたい。

あとよじ登りたい。

冬コミでチェルノブイリ写真集リリースします!

表紙(予定)。
表紙(予定)。
今月末のコミケでチェルノブイリの写真集をリリース予定です。

12/30日(金)、場所は「東7ホール・ i13a」
一緒にチェルノブイリに行った『ほったらけの旅』さんのスペースにおじゃまします(ぼくは抽選落ちたので)。

みなさんぜひー!
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