きっかけは昨年の記事
昨年「
外国人達にオセロを挑んでたら元世界王者と戦う事になった話」という記事を書いた。
そこらへんにいる外国人たちにオセロ対決を挑み、自分の強さに調子に乗った私が、東京ブロックのオセロ大会に急きょ参戦したところ元世界王者たちが何人もいて滅多打ちにされた、という話だ。
私はそこで日本がオセロ最強国だと学んだのだった。
昨年戦わせていただいた元世界王者、村上健 九段。このドヤ顔が忘れられない。
そして今年、世界大会が水戸で開かれることを知った。日本で開催されるのは10年に一度という。この機会を見逃してはならぬとやってきたのだ。
オセロの発祥地は水戸だった!
水戸がなぜ開催地になったかと言えば、オセロを考案した長谷川五郎さんの出身地だからだ。てっきり外国のものかと思っていたけどオセロは実は日本が発祥とのこと。日本人がオセロに強い理由が見えてきたぞ。
(似たようなゲームは他にもあるけど、きちんとルールが確立してて、世界に広まっているのはオセロである)
会場は水戸駅近くのホテル
試合は11月頭、ド平日の朝から始まり丸4日間行われた。私は準決勝と決勝が行われる最終日だけ見ることに。
落ち着いた雰囲気の会場。受付で英語の案内をもらう。
通路にはオセログッズの販売が。5万円の高級オセロは石が少し重くて打ちやすい。いくつか売れたらしい。
試合を観戦する部屋。一般の人でも入れる。
その一角に、生みの親である長谷川五郎さんが書いた本が並んでいた。本当に残念なことに、長谷川さんは今年の6月に亡くなってしまっている。
フロア全体が貸し切られているようで、一番奥が試合会場、その隣が解説者たちが中継する部屋、そして少し離れたところに大きいモニターが設置された部屋があり、そこで試合観戦ができるようになっていた。
半数は外国人だろうか。メディア関連の人たちも多い。
事前申請していたので特別に試合前に撮影させてもらった。緊張が走る。
試合は握手からスタート。中国のヤンソン選手と日本代表の高梨悠介 九段による準決勝対決。
ちょうど無差別の部の準決勝が始まるところだった。写真右が、いま日本で一番強い男・高梨九段。すごく若い。これまで世界王者に4度なっていて、今回も最有力候補だ。
ただしヤンソン選手に1敗1分けしているのでここで勝たないと決勝に進めないという大事なシーンである。
その隣では15歳以下のユースの決勝が行われた。日本代表の和田真幹 三段と、スイス代表のアーサー君。
カメラに囲まれた選手たちを見ていたら、私まで緊張が高まってきた。
しかも今回は想定よりも外国人勢が強いという。「日本で一位は世界で一位も同然」と聞いていたが、今年はどうなるか。会場についたばかりなのにドキドキしてきた!
解説の人、見たことある!
観戦会場に戻ると、モニターに見たことがある顔が映しだされていた。昨年戦わせてもらったあの村上さんだ!
試合の解説役として登場した村上さん。しかも英語で通訳もしちゃう。
村上さんは選手たちの動きを予想したり振り返って解説していた。時にはオセロの簡単な説明も添えてくれる。しかも、日本語だけでなく英語でも説明する活躍ぶり。いよいよ凄い人だったんだな。
対戦中の画面に出る豆知識がおもしろい
試合が始まると、画面には両選手の表情と対戦中のオセロが映し出された。
下部分に、専門用語や選手紹介など初心者にはありがたい豆知識が流れる。
持ち時間はそれぞれ35分(決勝は40分)。最長で一時間を超す長丁場である。
解説があるので試合の流れはなんとなく理解できるけど、素人には分からないことも多い。そこで、下に流れる豆知識がうれしい。初歩的なことを教えてくれるのだ。
そうか、オセロを打ったことがある人は6億人もいるのか。
そうか、オセロやっててモテるかどうかは不明なのか。(後半は選手同士が結婚することもある、と続く)
オセロにはプロ制度がない
一番意外な豆知識は「オセロにはプロ制度がない」というところだ。これだけたくさんの人がやっている競技で、日本においては段位制度もあるのにプロがいないのだ。
みんな学生や、本業を持ちながらの戦いなのである。そのため本業が忙しくなるとオセロにかけられる時間が足りなくなり、たとえ王者になったとしてもその座を維持するのは難しい。
会場に人が増えてきた。いよいよ決勝戦である。
ふたつ前の写真でわかる通り、残念ながら高梨選手は負けてしまった。もう一人準決勝に進んでいた日本人選手も負けてしまい、決勝は外国人同士の対決となった。日本人が決勝に出られないのは、なんと2002年以来のことだとか。
昨日までの予選では日本人が1位と2位をとっていたらしいから、さらに悔しい結果となってしまった。
優勝はタイのピヤナットさん。嬉しそう!
対戦が終わると会場に大きな拍手が起こった。手早い返しで常に攻めの姿勢だったピヤナットさんが、照れた笑顔を見せる。
その後、観戦会場にやってきてインタビューが始まった。
日本語の質問を右の女性が英語にし、タイの通訳者を経てピヤナットさんに聞く。大変だな
対策は「仕事しない」こと
いろんな質問がされたが、印象的だったのは「世界大会に向けてどういう対策をしたか」、に対する答え。
なんと「2週間前から仕事しない」だそうだ。さきほど書いたように、プロ制度がないため本業と練習の時間を天秤にかけないといけない世界である。できるだけオセロに熱中できる環境が望ましいのだろう。ちなみに仕事は病院の事務関係だそうだ。よく休めたなあ。
惜しかった日本勢。長野泰志 七段(4位)と高梨悠介 九段(3位)。
中学2年から始め、ことし社会人になったという高梨選手にも聞いてみた。
やはり、学生時代とは違って時間が無くなり、どうしても練習量が減ってしまうと言っていた。「でも、今までの積み重ねがある」と自信は無くしてない様子。
オセロは営業に活きる
それに、逆にオセロが仕事に活きてる部分があるという。相手がどういう風に考えているのか先読みするクセがついているそうなのだ。なるほど、その能力うらやましい!
そして夜、盛大な表彰式へ!
表彰式も特別に見させていただいた。
テーブルは各国の選手およびその家族たちで埋め尽くされていた。お酒も入り、解放感からみんなにこやか。国籍関係なく写真を撮り合ったり、オセロを対戦する様子がなんとも平和で微笑ましい。
やっぱり強いぞ日本勢
無差別の部では1位と2位を逃したものの、団体戦ではしっかり優勝していた日本勢。ほか、15歳以下のユースでは優勝、女子の部では準優勝をとっていた。
団体戦では日本が一位(前列の5人)。なんと12連覇!
ユースの部(15才以下)では和田君が勝利。この日偶然12才の誕生日だったそうだ。最高の日だな。
女子の部では1位中国のチェンさん(左)、2位に木下央子 五段(右)
オセロ考案者の故 長谷川五郎さんの奥さんがプレゼンターとなり一人一人にメダルをかける。その度に大きな歓声とピュイピュイーっとあちこちから指笛が鳴り、水戸ではなく外国に来たような盛大な盛り上がりになった。
無差別の部の上位4人。着物の女性は長谷川五郎さんの奥さん。今回のプレゼンターだ
ちなみに優勝賞金は3,000ドル。将棋や囲碁の大会と比べたら少ないけど、自分の力を世界の人たちと競い合う楽しさや、同じ競技にいそしむ同志のつながりはなにより貴いだろうな。
見ているだけで感動してきた。
チャンピオンのピヤナットさんに向けて各国からサプライズでメッセージを贈ろうということに。三屋伸明 六段(右端)がスマホで調べてタイ語で書いていた。ちゃんと読めるかは不明だそう。
まだやり足りないのか、オセロをはじめる選手。
握手してまわる選手たち。昨日のライバルは今や大事な仲間だ。
最後に、初めて出場する選手たちが並びオセロが渡された。今さらオセロあげるの? と思うかもしれないが海外ではなかなか手に入らないそう。
団体戦、無差別の部、女子の部、ユースの部の発表で終わるかと思いきや、粋なことに「初めて出場する選手たち」も壇上に上がらせて、オセロを贈っていた。
試合の結果に関係なく、国を代表して来てくれた人たちに日本から感謝とエールを送っているように見えた。
記念に私も壇上に上がらせてもらった。会場で一番弱いと思うけど
笑顔にあふれた授賞式は、自分が参戦してもいないのにすごく楽しかった。日本でうまれたオセロを好きになった人たちがこんなにいるんだなと思うと、なんだか誇らしい気持ちである。
そして翌日、のほほんオセロイベント
翌日、今度は水戸市主催のオセロイベントがあるというので向かうことに。会場の水戸芸術館広場へ着くと、シュールな光景が広がっていた。
傘でオセロしてる!
暑いくらいの晴天のなか、黒と白の傘を利用し人間が石になってオセロをやっていた。
壇上にいる梅大使と茨城ロボッツ(バスケチーム)のチアリーダーがオセロ対決し、緑のシートに座った人たちが黒と白の傘をその通りに入れ替えていくというものだ。
なんだか分からないがインパクトはすごかった。
「暇です」と言っていた角の人。裏返ることが無いからやることがないのだ。
昨日の緊張感やグローバル感から一転、この気の抜き加減がたまらない。
外国人選手たちによる多面打ち
別のコーナーでは、外国人選手たちによる多面打ちがあった。なんと同時に6人を相手に戦うというものだ。
中央に立った選手は順繰りに周って相手をしていく。
大人気だった多面打ち。相当頭疲れるだろうな
こちらは選手が一周するまでに次の手を打っておけばいいが、選手はそんな時間が無い。数秒から数十秒の間で戦略を考え、打っていった。
時には「ここ返し忘れてない?」と教えている場面もあったから、全ての盤面をある程度頭の中に浮かべているのだろう。スゴ業だ!
こっちの方が有利なのに負ける。くそう
私も2人の選手とやったが、どちらも負けてしまった。打てる所がドンドン無くなり、気づけば相手の思うがまま。
昨年、東京ブロックの大会に出た際に2級を獲得した私だが(初心者に一勝と不戦勝の合わせて2勝により獲得)、まだまだ世界は遠いことが身に染みて分かった。
こちらは変わったオセロが試せるコーナー。角がやたら多いのが特徴。
通常8×8マスのところ、1列減ってるオセロ。(左の方は昨日プレゼンターをしていた長谷川五郎さんの奥さん。さすが、勝っていた)
お腹がすいたら、フードコートもある。
外国人選手たちが多く来ているということもあってか、フードコートはタイ、ベトナム、ネパール、韓国、スリランカなど世界各国の料理がたくさん並んでいた。
この日一日中いたので3食も食べてしまった。
外国人選手たちとなんとなくの英語で会話する地元の人たち。こういう光景、あんまないよな
初対面の人との対戦
たくさんオセロが並ぶスペースもあり、空いている席に行って初対面の人とオセロを打ったりもした。
こういう風に年齢国籍問わず他人同士が接することができる場というのがとても貴重に感じる。それもこれも、誰もが簡単にできるオセロがあるからこそだ。
地元の方と打った。初対面同士で対戦するって楽しい。
昨年、道行く外国人に話しかけてオセロを挑んだ時もそうだった。私は英語がまったくできないが、オセロがあるからコミュニケーションがとれる自信があったのだ。
今年もそれが感じられてうれしい。
インドネシアからの留学生とも対戦。初めてというので教えながら。
時間がたつにつれてどんどん席が埋まっていった。たまたま通りがかり急きょ参加したという人も。
ちなみに、水戸市では今後も引き続きオセロでまちを盛り上げる予定らしい。これから水戸市民のオセロのレベルが一気にあがりそうな予感がするぞ。
ゆるキャラのガチ対決
さらに水戸市のゆるキャラ「みとちゃん」もオセロ負け知らずなのだとか。この日は2019年茨城国体キャラ「いばラッキー」と対決していた。
「ここに置いて」とスタッフに指示するいばラッキー
自分でオセロを持ち、投げて置くスタイルのみとちゃん
いばラッキーは過去に一度みとちゃんに負けているらしく、因縁の対決だった。そのためしっかり勉強してきたのか、意外な展開を見せみとちゃんに食らいついていた。
結果はなんと引き分け! 水戸だけでなく茨城県全体がオセロに強くなるかもしれない。
こんな感じで、色んな意味でオセロにどっぷりとつかった2日間だった。
世界の人々をひきつけるどころか、通りすがりの人までひきつけてしまう単純かつ奥が深いオセロ。
もっともっと世界に広まればいいなと心から思う。
今回さんざんオセロ打ってるのに大きいオセロでまたヒートアップする選手たち。ほんと好きだな
今後も見逃せない
オセロの強豪国は日本の次にアメリカ、最近ではシンガポールやタイ、中国などのアジア圏が強くなってきている。(豆知識より)
日本のように各地で毎月のようにオセロ大会が行われているような国は、まだまだないだろう。しかし今回の試合を見るに外国勢のレベルは着実にあがっている。いずれ追いつかれるかも…と想像すると、今後のオセロ界に目が離せない。
日本人選手たちの顔を覚えたので今後もチェックしようと思うし、あわよくば自分もまた挑戦してみようかと思っている。
今回もし興味を持った人がいたら気軽にオープン戦にでも行ってみると楽しいかも。
詳細は日本オセロ連盟HPへ。
昨年の記事を興味深く読んだ、と言ってくれた村上さん。再会できて凄くうれしかった。