「野球 スカウト」で検索した格好でライターの北村真一に来てもらった。首からカードだそうだ
スカウトの格好とはなにか
しかし実際のスカウトマンとはどのような格好をしているのか。たとえば巨人帽はかぶっているのか。いないだろう。
「野球 スカウト」で画像検索をして出てきた格好で来てほしいと同じくデイリーポータルZのライターの北村真一に伝えた。
北村は首からIDカードをぶら下げていた。要るのかときくと、要るのだという。人のスカウト観はさまざまだ。
私の考えるスカウトマン
河川敷のグラウンドにやってきた。土手の上から見てる人たちがいたので並んでみる
土手にとつぜん現れた巨人軍のスカウトたち
遠くからのスカウトは意味がない
他の見物客と同じように土手から河川敷のグラウンドを見てみた。スカウトらしき雰囲気はでたが距離が遠い。
これではだめだ。双眼鏡で選手の動きは見られるものの、選手たちがこちらに気づかずプレッシャーを与えられない。
もっと近づかなければ。近づいてスカウトの存在を気づかせて選手をピリッとさせ動きをよくしてあげたい。私たちは気づかれてこそのスカウトなのだ。
中学生くらいが試合をしていた。さあスカウトだ
中学生の試合に現れたスカウトマン
野球の試合に近づくべくグラウンドのそばまできた。保護者や下級生、他のチームがすでに観客として見ている。40人くらいだろうか。
そこにピッチャーの真正面に位置する二人。手にはノートや双眼鏡。スカウトである。巨人軍のスカウトがやってきたのだ。
スピードガンを持ってきた。その辺の中学生の球速を計るのである
うむ、そこそこだ。しかし選手に緊張が走ったような気がした
スピードガンで計る
スカウトマンの手にスピードガンが握られた瞬間から視線が増えたような気がした。場の空気がピリついた感じもする。
投手は顔つきが真剣になり、球速も上がったように思えた。やった。スカウトが試合の質を向上させたのだ。
球速も速まってる気がした。スカウトが試合の質を向上させたのだ
中高の試合だと埋もれてしまうか
しかしスカウトがピリっとした雰囲気を作ったというのは思い込みだったかもしれない。
投手の正面に位置して投手の顔にむけてスピードガンをかまえていたのだが、彼はこちらを見てないようにも見えた。
もしかしたらこういう状況はすでにあるのかもしれない。敵を研究する熱心なチームがいるな…と思ってるくらいなのかも。
そもそも観客が多いし、気づいてないのかもしれない。中高の試合レベルでは目立たないのだ。もっとレベルを下げないと。やはり少年野球、それも試合ではなく練習にスカウトが現れるべきだ。
雨が降り出してきて帰る人達。スカウトが来る状況ではない
雨の中、少年野球のキャッチボール練習がはじまった。さあスカウトの出番だ
少年野球のキャッチボールにスカウトがくる
もうひとつのグラウンドでは雨が降って試合をとりやめたチームがあった。何人かは残ってキャッチボールをはじめた。監督がいなくて私語も多い。だらけている。
これだ、チャンスだ。彼らをスカウティングしよう。
だらだらしたキャッチボールに熱心なスカウトマンが現れた
スピードガンでだらけたキャッチボールの球速をはかっている
あきらかにざわつく
野球少年との距離、10m。スピードガンを取り出したあたりからあきらかにざわついた。
そしてキャッチボールをしていた少年がこっちをふりむいた! だらけた私語が少なくなった。
(一体なんなのだこの人達は。スカウトなのか、本物のスカウトなのか…!?)
そんな思いがひしひしと伝わる。そうだ、君たちの疑念はただしい。私たちはスカウトだ。それも野良のスカウトだ! なんなれば趣味だ!
全員に緊張がはしる。キャッチボールしている者がぐるっと振り向いて我々を確認していた
ただのキャッチボールである。それを真剣な顔して見定めるのだ
スカウトが照れる
とにかく注目度が半端ではない。あれがスピードガンか、マジか、なんであの人俺たちを測ってんだ、という声が目線から伝わる。そして実際に声としても聴こえる。
これは照れる。30代半ばになってここまで注目される機会があるとは思ってなかった。
少年野球の練習に本当のスカウトが来たらその人も照れることだろう。私たちは照れに負けた。視線に耐えられなくなって一旦退散した。
しかしそれでいいのだ。少年たちの夢を大きくできたし、私語は減って練習の質も高まった。
ハトが休んでいたのでスカウトをすることになった
スピードガンでハトをはかってみよう
飛んでいった。スピードガンが緊張を与えたのかもしれない
ハトをスカウトしはじめる
野球少年を実際にスカウトすると照れる。そんな経験知を得た私たちはスカウティングミーティングを開いた。そこでスカウトの対象を動物にまで広げようという結論になった。
ハトをドラフトで指名してはどうだろうと休憩中のハトの群れにスピードガンを向けてみた。
するとほどなくハトの群れは飛び去った。
スピードガンの与える緊張感というのは生物全体に及ぶのかもしれない。
我々が次にスカウトしたのがこちら
カニである
なかなか計測されないカニの動き。スカウトマンの目にも力が入る
カニをスカウトしはじめる
ハトはだめだ、飛ぶから。スカウティングミーティングでそんな結論になった私たちが次に目を向けたのがカニであった。
「こんな県大会止まりの高校に160km投げるピッチャーが……!?」そんな感覚で「こんな都会の河川敷にカニが…!?」と我々はカニを発掘した。
ためしにカニにスピードガンをむけてみる。ハトとちがって飛ばずにゆっくりと動くカニ。はたしてその速度は……
「計測不可能ですね」
北村真一が言う。その声にはなにか確信めいたものがあった。私たちのドラフト候補が決まったのだ。
この年、ドラフトでカニが一位指名されることになった
原宿でスカウトをする
再びスカウティングミーティングが開かれ、カニが一位指名されることになかばやけくそ気味になった私たちはスカウトといえば原宿だろうと原宿にむかうことになった。
スカウトといえば原宿の竹下通りに来た
「まちがった芸能界のスカウト」以上でも以下でもなかった
スカウトマンがうどんを食う速度は時速24kmだった
野球少年には刺激が強すぎるスカウト
これがスカウトの力か。私たちはスカウトの持つ影響力を知った。キャッチボールを投げた野球少年はぐるっと振り向き、チームはざわめき、ハトは飛び立ち、カニはじわりと逃げる。
「濡れ手で粟」と同じように「その辺の適当な野球少年たちにスピードガン持ったスカウトマン」である。驚異的なレベルで反応が得られた。
一方スカウト側になってわかったが、スカウトは自分のそのような影響力の強さを恥じていたのである。
スカウトは照れる。巨人軍に入れるかもしれないという少年の夢とひきかえに私たちは照れに襲われることになる。
もちろん私たちは野生のスカウトマンだから実際に巨人軍に入れるわけではない。「このキャッチボールをスカウトマンが見ていたらなあ…」といった夢のもう一歩先でしかない。
しかしそれでもいいではないか。次世代の夢や希望を大きくすることが今の大人たちの役割だ。少しでも夢を大きくしてやろう。私たちは大いに照れよう。
怪しまれないようにカメラを担当してくれた人にもスカウトの格好をしてもらっていた。申し訳ないのでここで出す
よシまるシンさんの『猫相関図』シリーズからヤバいビジュアルが