子供の寝顔にキスをする親の特権をいつまでもつづける方法はないのか
キスがしたい。子供の寝顔にキスがしたい。
子供の寝顔へのキスは親の特権である。唇はだめだ。虫歯がうつるから。ほっぺたにキスだ。しかしついに終わりがきた。小学校に上がった娘がキレたのだ。
なんとかこの関係をつづけることはできないのか。私はキスのマシーンを作ることにした。
ついに娘がキレた
「どんなに疲れていても子供の寝顔を見ると、ああ明日もがんばろうって思えるんです」
こんな風に語る"頑張りやのお父さん"のインタビューを読んだ。ほっぺにキスしながらがんばろうと思うのだろう。
ある日私が酔っ払って帰ってきていつものように子供の寝顔にぶちゅーっとやったとき、娘が泣いて怒りだした。
しまった。
お前はどうしてこういうことをするのだと。寝ぼけていて意味のわからない言動もあったが要約すると娘はこういうことをいっていた。
私はどうしてこういうことをするのだろう。反省した。そしてあの幸せな日々は帰ってこないことを知った。
こんにちは筆者です。36歳です。ラップを巻いたまま失礼します
電子工作でどうだ
なんとかキスの代わりになるものはできないか。キスができない今、かぎりなくキスに近いものがしたい。
たとえば唇のようなものはできるだろう。それを娘の寝顔に押し当てるのはどうだろう。しかしそれだけだと味気ない。
押し当てた感触を数値化するのはどうだろうか。調べると圧力を計る感圧センサーとマイコンボードで実現できるそうだ。それだ。
そして私はキスがしたい一心で電子工作に乗り出すこととなった。
ガサッと買ってきた電子工作のたぐい。(キスのために)Arduinoをはじめるのだ
すべてはキスのために
電子工作に必要なものを通販サイトの「これ買った人はこれも」で揃えていく。解説本を買ったら『Arduinoをはじめよう』と書いてあった。電子工作をはじめる理由はさまざまだ。キスがしたくてはじめてもいいはずだ。
この後、Arduinoを作ったDavidというおっちゃんにインタビューをする機会があった(※ヘボコン世界選手権にて)。キスをするために私も買いましたとは言い出せなかった。
「I wanna kiss (キスがしたい)」とプログラムに書く。走らない。しょうがないので習作としてLEDを光らせるプログラムを書く
LEDが光った……なるほど、これはおもしろいな
LEDを光らせた
ためしに本に載ってるとおりのプログラムを書いてマイコンボードにつないだ。光った、LEDが光った。言われたとおりにやってるだけだが、機械にうとい自分にもできたという感動がある。これはおもしろいな。
ちがう、キスだ。LED光らせただけで喜んでどうする。クリスマスじゃないんだぞ。志は高く唇は厚く、である。
人体にはやるなよと注意を受けつつ買ってきた。人体の型取りをする
キス型をつくる
電子工作のめどがたったので感圧センサーを注文し、届くまでの間、キスの型をとることにした。
東急ハンズで「唇の型をとりたい」と相談したところ「人体はかぶれるからダメです」と却下された。キスをするんだろうなと思ったことだろう。
わかりましたと言いながらシリコンを買った。このお客さんはかぶれてまでしてキスがしたいのだなと思ったことだろう。
ラップの上からやればいいのではないでしょうか
型取り30分。キスのまま待ちます。はー、キスがしたいキスがしたい
これがおれのキス型か。こんなでかいものを毎日押し当てられてたんだ、娘もたまったものではないな
唇にシリコンを当てて待つ
唇にシリコンを押し当て30分待つ。ずっと手で押し当てるのはつらいので途中から横になった。なにもできない。
キス顔のまま待つこと30分。今までの人生でこんな熱烈な30分はなかっただろう。
30分後、キスらしい型がとれた。そこに人肌くらいの硬さになるというゲルを流しこんだのだが湿度が高いと固まらないらしく大雨の中の作業がたたり失敗した。
熱帯雨林でキスを固めるのは難しいのだなと思った。
人肌のゲルを流しこんだのだが雨がびしゃびしゃに降ってたので固まらなかった
結局粘土を押し当てた。最初っから粘土で唇を作ればよかったのではないか
感圧センサーが届いたのでつないだ。つなぎ方やプログラムは検索して出てきたものをそのまま使った。
うごいた。押すと数値が上がる。作業やプログラムは掲載情報そのまますぎて味気なかったが、目的の達成が第一だ
これをキス型の裏に仕込む。これが私の新しい唇だ
父親のキスマシン完成
以上でキスマシンが完成した。手のひらにのるキス型粘土と感圧センサー、それにマイコンボードとUSBでつないだノートパソコン。
父親のキスを物に置き換えるとこういうことになっていたのである。
さあ、娘が寝静まったころをみはからって寝室に行こう。親の特権が復活するときがきたのだ。
深夜寝静まったころ、こっそり娘の寝顔に押し当てる…これが新時代のキスだ
やった、バレない。人の気配がないからだろうか。娘のほほに粘土を押しあてる
上がった上がった、数値が上がった。330前後だった数値が400を超えた。キスだ。キスをしたのだ。これが新たな唇のファーストキスである
新たなキスを開発した
これがこれからの父親のキス。キスの新しい形。
キスの画面を見ると圧力の数値は330前後で動いている。325、327、331、332……、正常に動作しているようだ。よし。寝息をたてる娘のほほにキス型の粘土をそっと押し当てる。……332、331、331……366、403! 403だ! キスだ! そして416! 400を超えたのだ、なんてこった、キスだ、私は今キスをしている!
これが本当の間接キスというものではないだろうか。健康的で持続可能な、新しいキスの形だ。
そしてこれがファーストキスを終えた顔である。小さな盛り上がりであった
400を超えて、500まで。いいのだろうか。こんなに熱烈にキスしていいのだろうか。いいのだ。父親が夜中に頬に粘土押し当ててるだけだからいいのだ。
これが未来か。IT技術がもたらしたこれからの父親のキスの形なのか
新たなキスは夕飯時にレゴブロックを噛むような味気なさである。これが子が大きくなった親の気持ちというものなのかもしれない
親はみな変態である
私は変態である。私だけではない。あなたの父もその父も変態である。変態の子が「明日もがんばろう」と寝顔にキスをしてはまた変態を産むのである。
あなたのほっぺたに夜な夜な粘土を押し当ててくる者がいる。それが親だ。そうして子供は大きくなりまたほっぺたに粘土をくっつけて人はつづいていくのだ。
だからといって自分を正当化するつもりはない。私は一層罪深い。写真にとり、文章にしてインターネット上に載せてはプロバイダの会社から原稿料を頂いている。彼女は小学校に上がり、インターネットへの興味も出てきた。数年のうちにこの記事も読むことだろう。
娘よ、ここまで読んでくれてありがとう。せめて弁解させてほしい。お父さんはふざけてるように見えるだろう。
ちがうんだ。残念なことにお父さんは真剣なんだ。
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