和洋折衷ならぬ和希(日本&ギリシャ)折衷
「サモトラケのニケ」、もちろんご存知ですね。ギリシャのサモトラケ島で1863年に発見された、勝利の女神の像。両腕と頭部を除いて復元され、ルーヴル美術館で展示されている。欠損あるが故の魅力がそこにある。
さて一方のこけしである。実は数年前、別件でマイこけしを作ろうとして、ネットで「素のこけし」を探して購入したことがある。それがまだ押入れにあったはずだ。アレを使わせてもらおう。
鳴子のこけしでございます。
まさか彼女も、これから羽根が生え、自分が勝利の女神(ただし頭はない)になるとは思っていまい。
写真は載せないが、この後こけしの頭部を切り離した。ちょっと心が痛んだが、「不完全の美」を追求するため、やむを得まい。
さてサモトラケ方面の画像を集めて出力し、これを資料としよう。
真後ろの図などなかなか見つからず、レプリカなどにも頼る。
まずは作りやすそうな羽根から。土台となる形を描いてみる。
羽根は本当は「作りやすそう」でも何でもないのだけど、相対的に楽であった。ボディに比べればね・・・
さておき、厚紙で芯を作っていこう。
こうやって1枚1枚切り出して、
重ねて貼って行くのが結果的には楽だった。
石粉粘土を水でゆるくして、スキマを埋めたり質感を出したりしていこう。
ドライブラシなど使って、陰影をつけていこう。
羽根はこれでなんとかなりそうだ。問題はボディである。
そう、「こけし」と融合させるのだ。こけしの、つるんとしたすっきり和ボディに、ニケの、肉感あるドレープ盛り盛り洋ボディを、どうやって写し取ればいいものか。
まあ、こうやって塗ってくしかないんですがね。
360度ぐるっと、ニケ様の立体感を平面に置き換えねばならないうえに、細かいヒダが多くて、これは明らかに私の能力を超えた仕事であった。
どこまで塗ってもなんだかニケ様に見えてこないところをなんとか頑張って塗って、ボンドで羽根を付けたら、羽根のおかげでサモトラっ気が出た気がする。
さも、サモトラケであるかのように。
ニケ=NIKEなんですね。NIKEのあのマークはこの羽根を表しているとか。
ボディに躍動感がないのは仕方なし。
何がどう描かれているのか私にも最早わかりません。
真後ろもサービス。頭はなくとも、羽根があって本当によかった。
なんとかかんとか、サモトラケのニケシは完成した。
そういえば、企画段階で担当の石川さんに、内心ではいい語呂思いつきましたよという気分で相談したら、「語感の悪さに痺れました」との答えが帰ってきた。
再現性も語感も悪い、ニケシであった。
中学校の国語の教科書だったかに、このニケ像の欠損あるが故の美しさについて語られていた覚えがある。そうか、完全体ではなく、かえって不完全なところに鑑賞の妙味があるのか。以来強くその像は心に印象づけられ、今にいたる。
一方、こけしも手は付いてなく、その意味では不完全である。だが結果、そのミニマルな姿の内に追求される美がある。両者は相反する美を宿しつつ、共通点も見出されるのだ。
と、技術の不足を補うためにもっともらしい解釈をつけてみた。サモトラケのニケ復元図を元に頭も再現してみたのでここに載せて終わりとしたい。
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