無理やり悩みを聞いて、アンパンをあげる
アンパンマンになりたいな、とここ数年ほど思っていた。困った人の悩みを聞いて解決してあげるのだ。
そりゃ難しいことは解決できないかもしれないけれど、例えば「お腹がすいてる」レベルだったら簡単に解決できる。
それこそアンパンを渡せばいいのだ。
アンパンの用意はバッチリ
悩んでそうな人を探そう
というわけで人がたくさんいる上野公園にやってきた。
これだけの人がいれば私にだって一つくらい悩みを解決できるはずだ。もし手に負えない悩みだとしたら、せめてアンパンをあげて元気を出してもらおう。
そこにいる誰もが皆ハッピーになる、素晴らしい餡だろう。いや、案だろう。
困ってそうな人の狙いをつけるアンパンマン
この直後いわれた言葉
昼間からお酒を飲んでいたおっちゃん。ポジティブだった
公園内を移動しながら、何人かに悩みが無いか聞いてみる。
しかし急には思いつかなかったり、人(しかも他人)に相談するほどの悩みは無い、というのが大半だった。
これだけ人がたくさんいるのに、困っている人に当たらない。それよりなにより、みんなスマホに夢中である。
悩み解決よりポケモンGO
実はこの日は、日本にポケモンGOが上陸してから初めての週末。公園にいる人の8割位がポケモンめあてでやってきた人たちだった。
一見困っていそうに見えたカップル。ポケモン探し中だった。
どうぞ移動してください、としか言えなかった。
スマホを見てうつむいている人が多いので一見悩んでいるようにも見えるが、心の中では楽しくて仕方ない人たちばかりである。
時代はアンパンマンよりポケモンだ。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
もしかしてアンパンマン、時代遅れ? 急に恥ずかしくなってきた。
ここまで8組くらいに声をかけたが悩みのある人に全く出会えない。見渡す限りポケモントレーナーだ。それによくよく考えれば、ここは動物園やら博物館があるような公園だ、トレーナーでなくてもほとんどが遊びにやってきている人たちだ。
そんな人たちから悩みを引き出すのは無謀だったか。
上半身裸で日焼けしてた人に悩みを聞いてみる
悩んでいる人を発見! しかし書けない内容
9人目にして悩みがある人を見つけた。50才くらいの男性だ。 「本気のやつ話してもいいの?」ときたもんだ。
ようやく役に立てるかもと思い、喜ぶ私。しかし、その詳細はここでは書けないほどズシリと重い悩みであった。
これは絶対茶化してはいけない悩みだ
概要を言えば、重度の鬱病で、生きているのがつらい、ということだった。今はとにかく治療に専念しているそうだ。
彼の話し方は論理だっていてしっかりとしているし、日焼けして健康そうに見える。しかし話しているうちに、考え込みやすい真面目な性格が見えてきた。日焼けも、気分転換に意識的にやっているという。
本当は人と話すだけでも疲れちゃうそうだ。
40分話を聞いた。自分が落ち込んだときはこうしてます、と言うのが精いっぱい。
結局、解決できる内容ではぜんぜんなかったけれど、一通り話終えた後「聞いてくれてありがとう」と2回言ってくれた。
それを聞いて、無理やり悩みを聞きだしてしまった自分の胸がチクリとした。考えれば、すぐに悩みが出てくるような人はずっとその事で頭が一杯で苦しんでいる人なのだ。
最後に思い切って「アンパンあるんですけど食べませんか」と言うと、「大丈夫、気持ちだけで」と大きく笑っていた。ちょっとだけ、アンパンが役立った。
そして起こったハプニング
友人が頭を抱えている。どうした?! (ここからしばし再現写真)
少し休憩をしていると、この日撮影を頼んでいた友人が焦りだした。
私の財布がなくなった!
彼には私の財布を預けていたのだけれど、リュックの中をいくら探してもそれが見当たらないという。どこかで落としてしまったぽい。うそーん!
友人と二手に分かれ、必死になって公園を探し回る。周りはみんなポケGOだ。
財布をゲットされたら困る。全員が敵に見えてきたぞ
自分の悩みを解決するのに必死になる
これまで公園中を歩き回っていたので、どこに落ちたのか見当がつかない。そのうえ、園内には下を向いてポケモン探しに夢中な人ばかり。財布が持っていかれている可能性もある。
頭の中が焦りで満たされフワフワする。これは人の悩みを聞いている場合ではないぞ。
そうだ、交番に届いてるかも! 急げ!
そういえば近くに交番があったことを思い出し、マントを翻しながら急いで向かった。
アンパンマンのように飛べたなら良かったけど、現実はただただ急いで走るのみ。マントは邪魔以外のなにものでもなかった。
やった、財布は無事届いていた! 1時間半も前に。
みんながアンパンマンだね
ありがたいことに親切な人が交番に財布を届けてくれていた。突如訪れた自分の不運から、一気に開放され喜び。これこれ、この喜びを私は誰かに与えたかったのだ。
拾ってくれた方に、保管してくれていた警察の人。私にとってみんながアンパンマンである。
拾ってくれた方はお礼はいらない、と連絡先を残していかなかったそうだ。かわりに警察の人にアンパンを差し出そうとしたが「おれさっき食べたばかりだから大丈夫」と丁重に断られてしまった。
ホッとしたらお腹がすいてきた。悩みが解決したあとのアンパン最高だな。
結局この日、他人の悩みを解決することはできなかった。しかし自分の悩みはおかげさまでなんとか解決できた。
アンパンマンは実はそこら中にいるのだ。
ありがとう、アンパンマン。
ちょっとこれ、ほんとにうまいよ
どんどん相談しよう
ものを落としたとき、自分の足だけでは見つからないことがある。でも友人と探せば見つかる確率はあがるし、交番に行けば簡単に見つかるかもしれない。
だから、悩みがあるとき、それがどんなものでも(100%どうにもならないこと以外)、たとえ他人であってもどんどん誰かに相談すればいいんじゃないか。そのぶん、解決にたどりつく確率があがるのだ。
どこかの誰かが私の財布を拾って届けてくれたように、思いもよらない人が自分にとってのアンパンマンになるかもしれない。そんなことを思った一日だった。
最後、特に悩みはないがアンパンマンは知っているという外国人を発見。アンパンをあげたら喜んでくれた。