私設ポストとの出会い
私と私設ポストとの出会いは突然だった。いつものように街を歩いていると、ふいに目に飛びこんでくるものがあった。
最初は「この消火栓、なんか変わってるなー」と思い、とりあえず写真に撮っていた。しかしよく見てみると……
「私設ポスト」って書いてあったのだ
ちゃんとポスト番号も記載されていて、投函も可能。「え、何なの、私設ポストって!?」というのが、いまから数年前の出来事
いきなりこんなものを見つけてしまったら、もう気になって仕方がない。それ以来、ふらふらと街を歩きながらも、視線はいつも私設ポストを探していた。山崎まさよし「One more time, One more chance」の歌詞ではないが、思い人を無意識に追ってしまうような、そんな感じだったのである。
探していると、意外と見つかるもので。これなんかは、どう見ても普通の郵便ポスト(郵便差出箱12号)だが、
よくみると「私設」の銘板が。こんな調子なので、みんな知らないうちに目にしている可能性がある
私設ポストって何?
私設ポストとは、平たくいえば個人や法人が自費で設置しているポストである。有償で契約すれば、普通のポストと同様、定期的に回収してもらうことができる。
テナント数の多いビルで、玄関前やエレベータホールに設置されてるのがよくあるパターン。これなんかは、ただの郵便受けみたいに見えるけど
取集時刻も掲載されてるので、投函可能なポストだと分かる
回収料を払えば誰でも設置できるものの、契約には一定の条件がある。詳細は、日本郵便「
内国郵便約款」の、第7章・第5節「郵便差出箱の私設の承認請求等
を参照してほしい。簡単に書くと、
・取り集めに支障のない場所に設置されていること(例えば人家のない山奥などは不可)
・一日の平均差出し見込み数が、10通以上であること
という、これくらいの条件である。
費用は同じく内国郵便約款の「料金表」に記載がある。例えば一番安い条件である、
・道路に近接する場所に設置し
・一日3回以下の取集を依頼する
という場合は、年額82,290円とのこと(2016年7月確認)。
意外と安いな、と思った。大手キャリアのスマホ料金くらいだと考えると、まあ個人で出せない額ではない。しかし趣味で設置するとなると、費用よりも「1日10通以上」の条件がネックになりそうだ。
私設とはいえ、立ち入り禁止の場所でなければ、基本的には誰でも投函できる。ただし、関係者以外の投函を禁止しているポストもあるので注意したい。
関係者以外の投函を禁止している私設ポストもある。設置者の意向により、ポストごとに事情が違うようだ
私設ポストの色や形は自由
さて、ここからが私設ポストの面白いところ。ポストは自費で設置することになっており、色や形に関する規定は特にないのだ。
ポストは赤いものだという固定概念も、私設ポストの前では無意味。例えば、こんな灰色のポストもある(郵便差出箱7号を塗装したものと思われる)
このゆるい条件が、色違いのポストや、最初に見つけた特殊な形のポスト(消火栓型など)を生んでいるのである。
いろんな私設ポストを知りたい
私設ポストを知るにつれ、「いったい街には、どんな私設ポストが設置されているのだろうか?」と気になってこないだろうか。私は気になって仕方なかったので、調べてみることにした。
ここからは、独自研究による私設ポストの分類を紹介したい。
と、その前に、分類するからにはある程度のサンプル数を集める必要がある。手持ちの写真だけでは心許なかったので、1日かけて大阪市内にある私設ポストを40個ほど追加で訪問してきた。
私設ポストを探す手がかりとしては、「
ポストマップ」という、郵便ポストの設置場所をみんなでマッピングするサイトの情報を利用させてもらった。
「ポストマップ」の情報を地図に書き出して、それを見ながら地道にひとつずつ訪問
ちなみに大阪では、梅田~本町にかけてのオフィス街が、私設ポストの密集地帯となっている。丸印が全部そうで、狭い範囲にこんなにあるとは想像だにしてなかった
普通の郵便ポスト型
いきなり拍子抜けするかもしれないけれど、結構あるのが「普通の郵便ポスト」と見分けが付かない私設ポスト。
特に屋外に設置されていると、私設ポストだと気付かずに利用している人も多そうだ。でもよく見ると……
私設ポストって書いてある
これも見分けにくいけど私設ポスト
運良く郵政カブとのツーショットが撮影できたこのポストも、やはり私設ポストなのだ
大阪駅前第3ビルの一階には、このような普通のポスト風(でも郵便ポストとは何か違う)の私設ポストが、
なんと二つ並べて設置されている。これは珍しいので、大阪に来たら一度は見ておきたい
壁埋め込み型
一般のビルでよく見られるのが、壁埋め込み型である。
壁に埋め込まれる形で設置されている。小型の扉と一体になっており、簡単に郵便物の取り出しができそうだった
「私設郵便差出箱」という立体文字が書かれた、似たようなタイプのポストが非常に多い
他にもこんなに。ビル用の標準的な商品として販売されているのかもしれない
差出口型
ホテルのフロントなどによくあるのが、壁と一体になっていて、差出口だけがぽっかりと開いているタイプ。
エレベータ脇に、ぽっかりと空いた差出口、
これも私設ポストである。見逃さないようにしたい
このタイプは取集口が表にないので、裏側にまわらないと郵便物が取り出せない。機能性よりも見た目を重視しているのかもしれない
また、シューター方式になっている場合も多かった。
シューターとは、投函した郵便物が、ビルの一番下の階にあるポストまで落ちていく方式である。収集するものは違うが、ダストシュートと同じような思想だ。
例えば、大阪駅前第1~第4ビルには、もれなくシューターが備えられていた。各階にこのような差出口があって、それがすべて地下3階にあるメール室へとつながっている
ただ途中で詰まることが多いらしく、どの差出口にもサイズ厳守の注意書きがついていた。中の構造がちょっと気になる
この2つは別の場所だが、やはりシューター
シューター方式は、仕組み的になかなかグッと来るものがある。ぜひ今度投函してみたい。
消火栓型
最初に見つけたのが消火栓みたいな私設ポストだったので、この形状にはとりわけ思い入れがある。探してみると、意外と見つかった。
別に消火栓に似せたわけではないと思うけど、大きい蓋が手前にパカッと開く形状になっているのは、結果的に消火栓っぽく見える
銀色のを見ると、「ああ、これは『壁埋め込み型』の大型バージョンなのだな」と合点がいった。「私設郵便差出箱」が立体文字になっている点も共通しているので、同種の商品だと思われる
これも類似のタイプだろう。だんだん見る目が養われてくる
色が付くと妙に印象的だ。そして、やはり消火栓みたいだなと思う
これだけ低い位置にあるポストは珍しい感じがした。梅田の阪神百貨店1階にひっそりと設置されてるので、探してみよう
こちらは壁に合わせた黒い塗装。もはやポストらしさが差出口にしか残っていない
メールボックス型
ビルの集合ポストと一体化したタイプの私設ポストもあった。
完全に一体化してるので、集合ポストとのセット商品なんだろうと思う。カタログを調べてみないといけない
別の場所で類似の集合ポストも見つけたのだが、そこでは普通の郵便ポスト(郵便差出箱13号)が、私設ポストとして使われていた。ほんとにポストは何でもいいんだな、というのがよく分かる
異色異形型
「これは確かに郵便ポスト……だけど、なんか知ってるのと違う!」そういう私設ポストを最後に紹介したい。
単純に別の色で塗られただけなのに、
すごく「これじゃない」感のあるポストたち……
特に「亜種」という呼び方がぴったりだと思ったのは、このポスト。普通のポストよりも赤色が微妙に濃いところも違和感ありありなのだが、
形が全体的に鋭いところも、知ってるポストと何か違う。もしパラレルワールドがあったなら、きっとこういう微妙にずれてるポストがいっぱいあるんだろうなあ、なんていう妄想がふくらんだ
なぜか頭の丸いやつ
既製品にも見えないが、そのわりには普通の郵便ポストのイメージを引きずっている。どういう立ち位置なんだ
最後、私のお気に入りがこれ。ステンレスむき出し、角も尖りまくり
ただただ、無骨
渋すぎだろう。一家に一台欲しい
私設ポスト探しの旅は続く
今回の調査で、典型的な私設ポストの傾向がなんとなく見えてきた。
ウェブで検索すると、華やかな私設ポスト(日本一大きい私設ポストなど)の情報は出てくるけど、こういった市井の私設ポストについてのまとまった情報になるとほとんどない。しかし、普通の街中にあるのは、こういった地味な私設ポストたちなのだ。
ほとんどの人に気付かれることなく、ひっそりと存在している私設ポスト。これからも気にかけて探していきたい。
私設ポストとは関係ないのだけど、この調査の最中、めずらしい「定礎」に出会った。
イ、イシズエ……たしかに定礎の「礎」だけど、これもパラレルワールドっぽい
定礎も、私設ポストばりに何でもありの世界である。撮りためた写真がいっぱいあるので、またいずれ紹介したい。
お知らせ・裏メイカー祭開催
DPZも出展する「Maker Faire Tokyo
と同じ日、同じ会場で、「裏メイカー祭」というイベント(ほぼ個展)を開催します。
過去の記事で作った工作、
・
電光掲示板
・
どこでもエレベータ
・
昔の電話
の展示のほか、物販等もあります。ぜひMaker Faireのついでにお越し下さい。
【裏メイカー祭】
2016/8/6(土)13:00~17:00頃
東京ビッグサイト 会議棟・601会議室
その翌週は、「コミックマーケット90
(夏コミ)にも参加してますので、こちらもよろしくお願いします。
【コミックマーケット90】
2016/8/14(日)東京ビッグサイト 東館
ヘ-29a「NEKOPLA」