特集 2016年6月30日

花はカレーで華麗に染まる

カレーで黄色の花に変身!
カレーで黄色の花に変身!
花屋さんでたまに、レインボーカラーの花が売られている。

あれはそういう品種なのではなく、業者さんが専用の着色水を吸わせ、白い花に色を入れ込んでいるのだ。

また、青い薔薇というのは自然界で作りだしにくいため、売られているもののほとんどは着色されたものらしい。

面白い。だって白い花があれば、自分の好きな色にできるのだ。 身近にある、例えばカレーやジュースを吸わせることで色をつけられないだろうか。
東京葛飾生まれ。江戸っ子ぽいとよく言われますが、新潟と茨城のハーフです。
好きなものは犬と酸っぱいもの全般。そこらへんの人にすぐに話しかけてしまう癖がある。上野・浅草が庭。(動画インタビュー)

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飲み物で花を染めてみよう

色水を吸わせ花の色を変える実験は、学校の授業などでよくやられているらしい。当サイトでも昔、「花の色を自在に変えたい」で試みている。

それらの情報をまとめてみると「絵の具のような粒子が大きい色素だと道管を通らず染まらない」「インクや食紅ならほんのりつけられる」というものだった。

今回は、飲み物の色素で染めることができるのか? を検証したい。
と、その前にまずは王道のやり方も試そう。ネットで専用の染色剤を手に入れた。
と、その前にまずは王道のやり方も試そう。ネットで専用の染色剤を手に入れた。
粉を水に溶かし、白いカーネーションをさす
粉を水に溶かし、白いカーネーションをさす
専用の染料を使えば、早いものでは20分もすれば色がつきはじめるという。なにこれ、すごいワクワクする。じっと見つめながら変化を待った。
ちなみに染料の粉はほんのちょっとでもすごい着色効果。うっかり台所に粉をこぼしてしまって床がドピンクに染まってしまった。すぐに拭けば落ちるけど、気を付けよう。
ちなみに染料の粉はほんのちょっとでもすごい着色効果。うっかり台所に粉をこぼしてしまって床がドピンクに染まってしまった。すぐに拭けば落ちるけど、気を付けよう。
待つこと45分…。ちょっぴり青がついた
待つこと45分…。ちょっぴり青がついた
2時間、やっと道管が見えてきた! キレイだけどこりゃ時間かかるぞ
2時間、やっと道管が見えてきた! キレイだけどこりゃ時間かかるぞ

新鮮な花をつかうべし!

パーっと一気に染まるのを期待していたのだけれど、時間がかかりそうな気配だ。でもこれ、原因に心当たりがある。

白い花を探していくつかの花屋を回っている時、とにかく「新鮮な花を使った方が良いですよ」と口々に言われていた。その点ではこのカーネーション、少し古いからとおすすめされなかったものなのだ。
8時間後。お、青がけっこう染まってきた!
8時間後。お、青がけっこう染まってきた!
元の色と比べてみる。部分的にしか染まってないけど、ちゃんと色づいてるのがわかる。可愛い。
元の色と比べてみる。部分的にしか染まってないけど、ちゃんと色づいてるのがわかる。可愛い。
ちゃんと花用の染料を使ったのになかなか染まらなかったので冷汗が出た。

実は都合で、購入後さらに数日経ってからの撮影だったのと、ひと束200円と激安だったので心配だったのだ。

しかし、とりあえず普通の染め方は成功。いよいよ飲み物で試してみよう。
ラーメン食べながらスタンパイする。
ラーメン食べながらスタンパイする。
染まりそうな液体を10種類用意した。
染まりそうな液体を10種類用意した。

厳選した10種類

中には飲み物以外もあるが、身近にある濃い色の液体をピックアップしてみた。

左から、カップラーメンの残り汁、コーヒー、しょうゆ、かき氷のブルーハワイシロップ、コーラ、ファンタグレープ、トマトジュース、青汁、オレンジジュース、カレー水である。


これだけ集めればひとつくらい染まるんじゃないか。
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新鮮な花も手配

なお、今回は花屋さんにお願いして、仕入れの日に花が手に入るよう手配した。そもそも、白い花じたいが意外と無いのでたくさん使う場合は発注した方が確実だ。

仕入れの曜日が決まっているというので、3日待った。
新鮮な花が手に入った。
新鮮な花が手に入った。
根っこがまだついている状態。あえて少し置いて乾かすのも良いらしい。
根っこがまだついている状態。あえて少し置いて乾かすのも良いらしい。

花屋さんは水あげと湯あげをしている

新鮮なだけでなく、「水あげ」していない状態のものを取りおいてもらった。水あげとは、茎を切り落とし、水につけている状態で、店に並んでいるものはみんなそうだ。おなか一杯に水を吸い込んでしまっている状態。

しかし、水あげを一度してしまうとその後は水の吸い込みが悪くなる。なので色をつける場合は水あげ前のものを使うと良いのだそうだ。
しかも「湯あげ」という作業もやっちゃうぞ。
しかも「湯あげ」という作業もやっちゃうぞ。
さらに湯あげという方法も教わった。水あげの前に、カットした切り口数センチを熱湯に5~10秒くらい浸す。こうする事でさらに水分が吸い込みやすくなるそう。

花の種類も、茎が太い方が良いと聞きガーベラにチェンジ。1本150円に値上がったけどそれは仕方ない。

どうだ、今回の態勢は万全である。
ちなみに茎は短めが良い。そしてできるだけ深いところまでつけた方が茎に圧がかかり吸い込みやすい。
ちなみに茎は短めが良い。そしてできるだけ深いところまでつけた方が茎に圧がかかり吸い込みやすい。
仕入れの日までいろいろ調べてたらずいぶん詳しくなってしまった。

花よ、堪忍な……

さて準備はできたが、いざ水以外のものに花を入れるとなるとちょっとした罪悪感を感じた。花たちは美味しい水を楽しみにしているだろうに、与えられるのはカフェインや塩分、砂糖など、色んな成分が入ったまったく別のもの。

美味しいお寿司を食べるつもりが無理やりおしぼり食べさせられるようなことか、と思うと胸が痛む。いやちょっと違うかな。
謝りながらコーラに突っ込む。さわやかなシュワシュワ音が10分くらい鳴っていた。
謝りながらコーラに突っ込む。さわやかなシュワシュワ音が10分くらい鳴っていた。
「なにこれ、なにこれ!」と驚いてそう。
「なにこれ、なにこれ!」と驚いてそう。
なんだかフォトジェニックになったコーヒー。
なんだかフォトジェニックになったコーヒー。
着色料「青色1号」が入ったブルーハワイ。今回の本命だ。花屋さんもこれならイケるかもしれないといっていた。
着色料「青色1号」が入ったブルーハワイ。今回の本命だ。花屋さんもこれならイケるかもしれないといっていた。
カップラーメンの残り汁としょうゆは一段と罪悪感を感じる。けど、興味が勝つ。ごめんよガーベラ
カップラーメンの残り汁としょうゆは一段と罪悪感を感じる。けど、興味が勝つ。ごめんよガーベラ
ちなみにガーベラは、私が一番好きな花である。

色とりどりあって明るい気持ちになるし、花言葉は「希望、常に前進」と前向き。白のガーベラの花言葉が「律儀、純潔」と知ってまた胸が痛むが今回は実験のためと割り切りたい。
匂いが一番きついカレー水。
匂いが一番きついカレー水。
これ全部色ついたら面白いぞ。
これ全部色ついたら面白いぞ。
はてさて結果はいかに。
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変わらない!

醤油とカレーのニオイが充満する寝室で一晩置いておいた。

その結果は、、なんの変化も無し!
裏側の道管もまったく色づいていないし、花が傷んでいるかも、と思っていたがそれさえもない。清々しいほど変化が無かった。
10時間たっても変化無し。
10時間たっても変化無し。
ブルーハワイはなぜか先がしょんぼりしちゃってる。ちょっと苦しげ。
ブルーハワイはなぜか先がしょんぼりしちゃってる。ちょっと苦しげ。
切り口を開いて見てみる。色が数ミリまでしかいってない。ああ、なんかこれ希望薄いわ…。
切り口を開いて見てみる。色が数ミリまでしかいってない。ああ、なんかこれ希望薄いわ…。
トマトジュースは赤色が付着してたけど、やはり先っぽだけだった。
トマトジュースは赤色が付着してたけど、やはり先っぽだけだった。

理科の先生にヘルプ

切り口を見て、色素がまったく通っていないのが見てとれた。そこで学校で理科を教えているライター加藤さんに相談してみることに。

加藤さん「それって単純にあれですよ、そんな濃い溶液に浸したらお漬物と一緒で、水を吸収ではなく、逆に切り花の水分がむしろ液体の方に奪われるってかんじのことじゃないでしょうか??」

なんですと!
たしかに漬物状態だわ! 特に醤油のやつが美味しそう。
たしかに漬物状態だわ! 特に醤油のやつが美味しそう。

溶液濃度が濃い=漬物化する

あれだけ万全な態勢でのぞんだのに、どうやら私は新鮮な漬物を作っていただけだったようだ。

さらに、花に色をつけるにはほんの微量でも色が強く濃く出る物質でないと難しいということも教わった。加藤さんが授業でやる時は万年筆用のインクを20倍希釈したものを使うという。

ぜんぜんダメじゃん!
気持ちを落ち着けるために専用の染料で染めてみた。今度はあっという間に染まった。
気持ちを落ち着けるために専用の染料で染めてみた。今度はあっという間に染まった。
このままじゃ記事にならないぞ、と焦る気持ちを落ち着けるため、専用染料で二色染めに挑戦したり(枝を2分割する)、加藤先生が染まるかも、と教えてくれていたブルーレットで染めたりしていた。
ブルーレットでも成功。ブルーレットのニオイはきついが花自体は無臭。
ブルーレットでも成功。ブルーレットのニオイはきついが花自体は無臭。
気づけば部屋がトイレの芳香剤の強烈なニオイで満たされ息苦しくなってきた。現実逃避するのも限界だ。

さて、どうしようか。気合を入れて花や飲み物など準備したのにアッサリ失敗してしまったのだ。だが今の状態だと、花たちは水分が吸えていない状態らしく、このまま枯れるのを待つことになる。それは悲しすぎる。
よし、全部漬けちゃえ!
よし、全部漬けちゃえ!

漬けて色をつける

漬物になっている、というのがヒントになり、染める方法は吸わせる以外にもう一つあることに気づいた。そう、溶液に花全体を漬け込むのだ。

最初とはまるで違う方向に向かっているけれど、花に色をつけるという目的は変わっていない。
冷蔵庫でふた晩。途中一度ひっくり返した。
冷蔵庫でふた晩。途中一度ひっくり返した。
結果はこちら。カレーがダントツで美しい。
結果はこちら。カレーがダントツで美しい。

カレーで華麗になった!

これを成功、と呼んだら殴られるかもしれないが、想像以上に美しく黄色に染まったガーベラをつくることができた。

他のものは残念な結果になったけれど、一つでも染まってくれたのはとてもうれしい。
嗅ぐとしっかりカレーの香りがする。カレーが食べたくなる花だ。
嗅ぐとしっかりカレーの香りがする。カレーが食べたくなる花だ。
コーヒーも渋くて悪くないかも。コーヒーのこおばしい良い香りがする。
コーヒーも渋くて悪くないかも。コーヒーのこおばしい良い香りがする。
ついでにタッパーも黄色に染まってしまったが、それは仕方ないことだ。

黄色のガーベラの花言葉は「親しみやすい、究極美」

花言葉そのままに、親しみやすいカレーの香りのする美しいガーベラをつくることができた。最後に反則技をつかったが全力を尽くした結果だ、満足である。

いま、私の机の上にはブルーレットとカレーで染まった花が飾られている。虫が寄ってきそうで寄ってこなそうな、不思議な花だ。気づけば「世界に一つだけの花」を口ずさんでいた。
ブルーレットで染まった花とカレーな花。完全にオンリーワン
ブルーレットで染まった花とカレーな花。完全にオンリーワン
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