特集 2016年6月21日

名古屋城でアリゲーターガーを探す

疑惑の一枚
疑惑の一枚
名古屋城のお堀に「アリゲーターガー」がいるらしい。
…なんだかこのニュース、定期的に報道されている気がするが、今回はなんだかいつもより取り上げられ方が大きいようだ。
ブームに便乗するわけではないが、興味が湧いたので現場へ行ってみることにした。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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ガーもでかいがお堀もでかい

で、そのアリゲーターガーという魚の姿なのだが、こんなんである。
テキサスで釣り上げられたアリゲーターガー。
テキサスで釣り上げられたアリゲーターガー。
とにかくデカい。
大きなものでは全長が2メートルを超え、世界最大の淡水魚といわれることも。
しかも、アリゲーターと名がつくように口がワニのように長く伸びる独特の容姿。こんな魚がお堀にいたら、一発で見つかるのでは。
というわけでやってきました名古屋城の外堀。左下に写っている人たちは地元のTVクルーで、やはりアリゲーターガーを取材しに来たんだとか。
というわけでやってきました名古屋城の外堀。左下に写っている人たちは地元のTVクルーで、やはりアリゲーターガーを取材しに来たんだとか。
そう思っていたのだが、いざお堀を目の前にするとまったく見当違いであることがすぐに分かった。
ひ、広いな…。
ひ、広いな…。
く、草茂ってるな…。
く、草茂ってるな…。
やたら広いし、そもそも立ち入り禁止だったり藪になっていたりで、水面を見渡せる場所がかなり限られる。
これは…、相当な苦戦が予想される。
季節は梅雨真っただ中。にも関わらず雨が降らなかったことだけが救いだ。
季節は梅雨真っただ中。にも関わらず雨が降らなかったことだけが救いだ。
アリゲーターガーは鰓呼吸以外に空気呼吸も行う。つまり、魚のくせに息継ぎをするのだ。
なので、定期的に浮上して鼻先を水面から突き出す。このタイミングが観察のチャンスである。
地元の方々から目撃情報の多いポイントを教えてもらい、うまいことそこで息継ぎの瞬間が訪れるのを待つことにした。
お堀の周りは市民の憩いの場。犬の散歩やウォーキング、ゲートボール、バードウォッチングを楽しむ人たちで賑わう。僕は柴犬の肛門ウォッチングに興じた。
お堀の周りは市民の憩いの場。犬の散歩やウォーキング、ゲートボール、バードウォッチングを楽しむ人たちで賑わう。僕は柴犬の肛門ウォッチングに興じた。
噂のホットポイントには、すでに人が集まっていた。
彼らは地元のテレビ局の撮影隊で、やはりアリゲーターガーを取材に来たのだという。
コイはうじゃうじゃいるんだが…。
コイはうじゃうじゃいるんだが…。
話を聞くと、早朝からもう二時間以上張り込んでいるが、まだターゲットは尻尾の先すら見せないという。
やはり簡単には出会えないか。
早々に集中力が切れ、一人で「珍しい柄の錦鯉を探せゲーム」に没頭していた。
早々に集中力が切れ、一人で「珍しい柄の錦鯉を探せゲーム」に没頭していた。
また、耳を疑うようなエピソードも聞くことができた。
このお堀にはたくさんの猫が住み着いているのだが、のどの渇きを癒しに水辺へ降りてきた子猫にアリゲーターガーが襲い掛かる瞬間が目撃されているというのだ。また、水面を泳ぐカモを追っていることもあるとか。
このお堀に住んでいるアリゲーターガーは二匹で、そのどちらも全長が120~130センチはあるというから、あながちありえない話でもなさそうだが…。
たしかに猫は多いが…。
たしかに猫は多いが…。
名古屋城でアリゲーターガーの目撃情報が報告されるようになったのは7年前のこと。
そういう状況で住民からの不安の声もあるのか、市はたびたび捕獲に挑んでいるのだが、未だに成果は上がっていないという。
まあ、これだけ大きなお堀で、たった二匹しかいない魚を選んで捕まえろというのはどう考えても難しい話である。
だが、昨年は設置した罠に一度はアリゲーターガーがかかったらしい。回収直前で逃げられてしまったそうだが…。
そして、その罠が今年も設置され、近日中に回収されるのだそうだ。
おお、その罠とやらを見に行ってみよう。もう二時間近く待って収穫無しなのだから、10分や20分席を外したところで何も変わるまい。
葦際に浮くフロートと簾。これが罠らしい。
葦際に浮くフロートと簾。これが罠らしい。
罠の設置現場へ行ってみると、水面に黄色いフロートと広げた簾が浮かんでいる。刺し網か定置網の類だろうか。
大きな魚がかかるとフロートが不自然に動くらしいが、特に異常は見られない。
まあ、こんなものかと納得して再び観測地点に戻ると、なにやら様子がおかしい。盛り上がっている。
あっ!これは!この感じはまさか!
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見逃してた!

「出ましたよアリゲーターガー!はっきり見えました!」
とTVの人。

うわーしまった!このタイミングで来ちゃったかー。でもTVの人たちは仕事をこなせたようでよかったよかった。

「きっと今チャンスですよ!またすぐに浮いてくるかも!」と激励をいただき(本当は暑くなってきたからそろそろ撤収しようかなって思ってたけど)、気合を入れなおして観察を継続することに。
晴れたら晴れたで暑い…。正午を迎えるころには体調がおかしくなってきた。
晴れたら晴れたで暑い…。正午を迎えるころには体調がおかしくなってきた。
しかし、1時間もすると暑さにやられて気分が悪くなってきた。
これは無理かもしれんな…。
昼の休憩にと名城公園の食堂へ。…アリゲーターガーは見つかりそうにないが、せめてみそかつでも食べて帰るか。
昼の休憩にと名城公園の食堂へ。…アリゲーターガーは見つかりそうにないが、せめてみそかつでも食べて帰るか。
みそかつはおいしいけど、日射病的な症状が出ているときに食べるとものすごく体に負担がかかるものだということがわかりました。
みそかつはおいしいけど、日射病的な症状が出ているときに食べるとものすごく体に負担がかかるものだということがわかりました。
きしめんもあったのか…。こっちにしとけばよかった…。
きしめんもあったのか…。こっちにしとけばよかった…。
途中、名古屋に来たのだからとついうっかりみそかつを食べてしまう凡ミスをおかし、日射病的な症状に胃もたれまで加わった。
だんだん自分が何をしに名古屋城に来ているのか思い出せなくなってきた。

と、ここで不意に巨大な魚影が水面に浮かんだ。遠くてよく見えないが、全長は1メートルほどありそうだ。
「アリゲーターガーだ、ろう!」とあまり強気になれないのは身体が弱っているからか。
だがあんなに大きな淡水魚、このあたりの在来種にはいないはずだ。
顔を見られる位置へ先回りし、カメラを構える。
残念、ソウギョでしたー。
残念、ソウギョでしたー。
ファインダーに飛び込んできたのは、それはそれは立派な…ソウギョだった。
…なるほど。たしかにソウギョは中国原産だから在来種ではない。あはは、一本取られた。

見つけた!のか…?

ところで、名古屋城を訪れて驚いたのが、予想以上に多くの人がアリゲーターガーの存在を気に留めていることだ。ゲートボールをしているおじいさんたちも「ニュースでアリゲーターなんとかいうのが出とったな」などとしゃべっているし、観光客らも口々に「アリゲーターガー」というワードを発している。
今、名古屋で一番ホットな話題はアリゲーターガーなのかもしれない。

そして、あいかわらず水面へカメラを向けている僕にも散歩中のおじさんが「兄ちゃん、ここに大~きい魚がいるの知ってるか?」と声をかけてくれた。
実はその魚を見に来たのだと答えると、おじさんはなぜか妙に嬉しそうにしていた。あんたもしかしてアリゲーターガーに誇り感じ始めてねえか。
その時である。対岸近くの水面に突如、細長い影が浮かんだ。1メートルはあるだろうか。
おおっ、この魚影はまさにッ…!
おおっ、この魚影はまさにッ…!
「兄ちゃんアレ!アレだよアリゲーター!」
それだと本物のワニになっちゃうでしょ!とツッコミたかったが、そんな野暮を言っている場合ではない。夢中でシャッター切る。が、距離がありすぎて手持ちのレンズでは鮮明に写すことができない。
歯がゆい思いをしているうちに、魚影は再び深みへと潜航し、再び浮かび上がることはなかった。
まさに探し求めたアリゲーターガー!……なの…かな…これ…。
まさに探し求めたアリゲーターガー!……なの…かな…これ…。
「兄ちゃんよかったな!アリゲーター見れたな!」とおじさんは喜んでくれた。
しかし、なんか手放しでは喜べないぞ。一応愛想笑いはしておくが。
撮影した写真を拡大すると、写っている魚影は非常にアリゲーターガーっぽい。…ではあるのだが、自分の目でその姿をはっきりと視認したわけではないので何とも言えないのだ。
たしかに魚体は細長かったが、痩せぎすのソウギョという線も捨てきれない。実際、ソウギョにはさっきだまされたばかりだし。
だが、また次の出現を待つ体力は残っていない。これを収穫として撤収準備に入る。
なんともスカッとしない、不完全燃焼な結末となってしまった。川口浩探検隊のオチみたいだ。
捕まえちまえよ!という声が聞こえてきそうだが、お堀は釣り禁止なので念のため。
捕まえちまえよ!という声が聞こえてきそうだが、お堀は釣り禁止なので念のため。
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名古屋の外来生物はアリゲーターガーだけじゃない

ところで、名古屋城のお堀にはアリゲーターガー以外にもこんな奇妙な物体が浮かんでいる。
オオマリコケムシ
オオマリコケムシ
人の頭ほどの大きさのこのブツ。ただのゴミの塊に見えるが、実はれっきとした生物、しかも藻類などではなく動物である。
オオマリコケムシという生物で、これもアリゲーターガーと同様に北米原産だったりする。
このほかにもお堀にはオオクチバス(ブラックバス)やブルーギル、ミシシッピアカミミガメ、ウシガエルなどの北米原産外来種が住み着いている。もはや、コイをのぞけばほぼアメリカの生態系である
外来生物は人の活動によって持ち込まれるものなので、人口の多い名古屋市街地にこうした生き物が多くなるのは必然なのかもしれない。
では蛇足かもしれないが、ちょっとお堀から離れてみよう。
名古屋市内を流れる小川。
名古屋市内を流れる小川。
名古屋市内には温排水を含んでいるのか、年間を通じて水温が高い川が流れている。
そこはとても細くて浅い水路のような見た目に反して、様々な動植物を育んでいるらしい。
その中には、やはり外国産のものも含まれているというのだが…。
岸際にこんもりと茂ったライトグリーン。
岸際にこんもりと茂ったライトグリーン。
その正体は観賞用に北米から持ち込まれたウチワゼニグサ。キノコのような姿をしているので「ウォーターマッシュルーム」とも。
その正体は観賞用に北米から持ち込まれたウチワゼニグサ。キノコのような姿をしているので「ウォーターマッシュルーム」とも。
川底をびっしりと覆うオオカナダモ。名前の通り北米原産。
川底をびっしりと覆うオオカナダモ。名前の通り北米原産。
あちこちで日光浴をしているのはミシシッピアカミミガメ。いわゆるミドリガメ(の大きくなっちゃったやつ)。
あちこちで日光浴をしているのはミシシッピアカミミガメ。いわゆるミドリガメ(の大きくなっちゃったやつ)。
水草の間を縫うように泳ぐのは大きなカムルチー(ライギョ)。中国大陸原産。
水草の間を縫うように泳ぐのは大きなカムルチー(ライギョ)。中国大陸原産。
なんとなく、川魚っぽくない見た目の奴らが群れている。
なんとなく、川魚っぽくない見た目の奴らが群れている。
パンくずを餌に釣り上げてみると、正体はアフリカ原産のナイルティラピアという魚だった。食用に持ち込まれた魚で、「イズミダイ」と呼ばれることも。美味い。
パンくずを餌に釣り上げてみると、正体はアフリカ原産のナイルティラピアという魚だった。食用に持ち込まれた魚で、「イズミダイ」と呼ばれることも。美味い。

なるほど。外国からやってきた生物がたくさんいる。
外来生物というと、どうしてもアリゲーターガーのように大きくて見た目のインパクトの強い種ばかりが取りざたされがちだが、こういう地味めな外来生物たちこそ、身近な自然に深く根付いているようだ。
…でも、ナイルティラピアやオオマリコケムシの話題で盛り上がる井戸端会議というのもそれはそれで嫌だが。
イシガメやオイカワ、カマツカなどもともと日本にる生物もちゃんと泳いでいた。ちょっとホッとするね。
イシガメやオイカワ、カマツカなどもともと日本にる生物もちゃんと泳いでいた。ちょっとホッとするね。

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アリゲーターガーをはじめ、いろいろな珍しい生き物の情報や捕獲記を発信していきます。
楽しいよ!みんな見てね!
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