映画を見てつり橋効果が得られるのか
今回の記事は映画『ザ・ウォーク』とのコラボ企画である。
『ザ・ウォーク』は綱渡りの映画。ニューヨーク、ワールド・トレード・センターの2つのビルのてっぺんに、ワイヤーをかけて綱渡りで渡ったというむちゃくちゃな人の話である。昔の実話をもとにしているのだけれど、現代の技術で映像化するとこうなるのか!というくらい迫力が半端なかった。見ていて手がびしょびしょになるほどである(実話)。
これだけドキドキするということはだ、この映画を見ながらでもつり橋効果が得られるんじゃなかろうか。だとしたらすごいことだと思う。
これは後ほど検証したい。
これだけドキドキするということはだ、この映画を見ながらでもつり橋効果が得られるんじゃなかろうか。だとしたらすごいことだと思う。
これは後ほど検証したい。
つり橋効果を生み出す装置を作る
まずは映画に頼らず、自力でつり橋効果を再現してみようと思う。これは実際につり橋に行けばいいことなのだけれど、それは遠いし危ない。そこでつり橋に行かなくても、簡単にかつ安全につり橋効果が得られる装置を考えた。
それがこれだ。
それがこれだ。
つり橋効果体験くん初号機。
『ザ・ウォーク』の映像が現代技術ですごい、とか言っておきながら半世紀戻ったかのようなこの装置である。
装着するとこうなる。
装着するとこうなる。
妙なフィット感。
写真だけでどうなっているのか、なんとなくわかってもらえるかと思うのだが、いちおう説明しよう。
この「初号機」を装着すると、あなたの目の前にはこんな風景が広がる。
この「初号機」を装着すると、あなたの目の前にはこんな風景が広がる。
ミラーに高いところから撮った写真が映る。
顔の前に設置されたミラーにより、腰の位置にある高い位置から撮影した写真が目の前に見えるようになっている。つまり高いところからの景色を眺め続けながら歩くことができるのだ。
ミラーは東急バスの部品である。ガラクタ市で買ってきた。
視界をすべて覆うような大きなミラーを探していたところ、ちょうどこの部品を見つけたのだ。バスのミラーは広角になっていて景色を広く、遠近感を強調して見せる。これは完璧に要件を満たしているだろう。記事に導かれている、そう思った。
でも作ってみたら失敗だった。
ミラーは東急バスの部品である。ガラクタ市で買ってきた。
視界をすべて覆うような大きなミラーを探していたところ、ちょうどこの部品を見つけたのだ。バスのミラーは広角になっていて景色を広く、遠近感を強調して見せる。これは完璧に要件を満たしているだろう。記事に導かれている、そう思った。
でも作ってみたら失敗だった。
装着して歩くと、それなりに怖いんだけど。
なんか違うのだ。
やりたいことはわかる。しかしなんというか、素直に没入できない。目の前のミラーにだけ意識を集中すると、なんとなく高いところから見下ろしているんだな…、という感じにはなるが、視界の外に目が行くとそこで集中が途切れる。
やりたいことはわかる。しかしなんというか、素直に没入できない。目の前のミラーにだけ意識を集中すると、なんとなく高いところから見下ろしているんだな…、という感じにはなるが、視界の外に目が行くとそこで集中が途切れる。
直接ビルの下の景色を見が方が怖かった。
こういう時、テック系の記者さんならばきっとVR(バーチャルリアリティ)を使うのだろう。そういうの、素直にいいなと思う。
子どもの頃、「もしもピアノが弾けたなら」という曲を聞いて(どうして練習しないんだろう)と思っていた。しかし大人になった今ならわかる。いまさら練習するくらいならピアノ弾くのがまんする。
「もしもVR技術が使えたら」である。使えないものは仕方がないのだ。ここは技術におぼれることなく、僕は僕なりの方法で夢をかなえたい。
子どもの頃、「もしもピアノが弾けたなら」という曲を聞いて(どうして練習しないんだろう)と思っていた。しかし大人になった今ならわかる。いまさら練習するくらいならピアノ弾くのがまんする。
「もしもVR技術が使えたら」である。使えないものは仕方がないのだ。ここは技術におぼれることなく、僕は僕なりの方法で夢をかなえたい。
失敗を糧に、二号機爆誕
試行錯誤を繰り返して生まれたのがこちら、つり橋効果体験くん二号機である。
二号機。
次のページで二号機の衝撃の性能が明らかになる。
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実験開始
それではさっそくつり橋効果検証実験に入りたいと思う。人はつり橋効果で嫌いな物を好きになることができるだろうか。
今回の被験者のSさん(仮にスミさんとしよう)はニンジンが嫌いである。
今回の被験者のSさん(仮にスミさんとしよう)はニンジンが嫌いである。
嫌いなニンジンを見ただけで明らかにテンションが下がるSさん。
事前のヒアリングで「どう調理されていても無理なものは無理です」と言っていたのでいっそ生で持ってきた。
さらに都合のいいことに、スミさんは高いところも苦手だという。
つまりつり橋効果が効きやすい、ということだ。よかったですね!これを機会に嫌いなニンジンを好きになれたら、これは僕はスミさんに感謝されてしまうかもしれない。
ですよね、住さん!
さらに都合のいいことに、スミさんは高いところも苦手だという。
つまりつり橋効果が効きやすい、ということだ。よかったですね!これを機会に嫌いなニンジンを好きになれたら、これは僕はスミさんに感謝されてしまうかもしれない。
ですよね、住さん!
「安藤さん、これ、中ぼくじゃなくてもよくないですか。」
つり橋効果体験くん二号機
いま住さんが装着しているのがつり橋効果体験くん二号機である。初号機に改良を加えていくうち、ほぼ別のものになった。
説明しよう。中はこうなっている。
説明しよう。中はこうなっている。
住さん「ちょ、ちょっと、これ怖いんですけど。」
初号機で学んだことは、できるだけ視界をすべて覆わないと現場への没入感が得られない、ということだった。
そこで二号機では360度すべてを高いところから撮った写真で覆った。写真は撮りおろしである。都庁の展望台で撮影してきた。
そこで二号機では360度すべてを高いところから撮った写真で覆った。写真は撮りおろしである。都庁の展望台で撮影してきた。
すでに足がすくみますな。
撮影した写真をつなぎ合わせて3メートルくらいの帯状にプリントアウト。
都庁は高さ200メートルほどなので『ザ・ウォーク』で綱渡りしている400メートルの半分だが、それでも十分高い。むしろ地上が近い分、怖さが増す気がする。
そう思いませんか、住さん。
そう思いませんか、住さん。
高さ200メートルの世界へようこそ。
工夫した点として、首を回したときに風景も一緒に回ってしまうと興ざめなので、ヘルメットとのジョイントにボールベアリングを使い、急な頭の回転には風景が追従しないようにした。慣性の法則である。
住さんにはこの装置をつけて綱渡りをやってもらう。すると『ザ・ウォーク』の世界が再現できるというわけだ。そのドキドキ感が(ニンジンへの)恋へと変わるのかどうか、実験である。
住さんにはこの装置をつけて綱渡りをやってもらう。すると『ザ・ウォーク』の世界が再現できるというわけだ。そのドキドキ感が(ニンジンへの)恋へと変わるのかどうか、実験である。
ドキドキが数値化できるよう、被験者の住さんには心拍計を装着してもらっています。平常時の心拍が70くらい。なんですか住さん、機嫌悪いですか?
スラックラインは現代版綱渡り
いきなり綱渡りをやってもらうのも酷なので、「スラックライン」という現代版綱渡りを用意し、インストラクターの先生にも来てもらった。こんなにしてまで住さんのニンジン嫌いを直してあげたいのだ僕たちは。『ザ・ウォーク』でも主人公が綱渡りを成功させるために、たくさんの友人が協力をしてくれるのだけれど、今がまさにそれである。
住さん、これがこれからやってもらうスラックラインです!
住さん、これがこれからやってもらうスラックラインです!
「え?」
「ちょ…」
「ちょっと、これは無理でしょう。」
スラックラインの先生として、エクスエイラー(エレファントスラックラインズの日本総代理店)の上田さんと我妻さんに来てもらった。ちなみに我妻さんは元日本チャンピオンである。
もちろんいきなりこの上で二号機をつけて綱渡りしてください、と言っても無理だと思うので、まずはやり方を簡単に教えてもらった。
もちろんいきなりこの上で二号機をつけて綱渡りしてください、と言っても無理だと思うので、まずはやり方を簡単に教えてもらった。
インストラクター上田さん「体の力を抜いて、両腕を肩より上にあげまーす。」
スラックラインのコツは膝を柔らかくして片足で立つこと。この時、もう片足は完全に力の抜けた状態にする。この力を抜いた状態のことを「スラック」と呼ぶのだとか。そして上げた両腕を肩から動かしてバランスを取る。このやり方はサル等の動物の動きにも通じるのだとか。
なるほど勉強になります。
では住さん、お願いします。
なるほど勉強になります。
では住さん、お願いします。
「住さん住さん、力を抜いたらいけるみたいですよ!」
「無理だよ!」
住さんは小さくぶつぶついいながらすぐにフレームから消えていくのでうまく撮影ができなかった。そんなことでニンジンが好きになれると思っているのだろうか、しっかりしてほしい。
埒があかないので、まずは先生にひじを支えてもらいながら練習してもらった。
埒があかないので、まずは先生にひじを支えてもらいながら練習してもらった。
「……。」
「………。」
これ、つり橋効果で先生に恋しちゃうパターンである。
この後、映画でも使われる基本的な座りポーズである「ドロップニー」を習った。とりいそぎここまでできれば十分である。あまり慣れてしまうとつり橋効果が得られないかもしれないし、ここで先生と恋に落ちるのもいろいろまずい。
この後、映画でも使われる基本的な座りポーズである「ドロップニー」を習った。とりいそぎここまでできれば十分である。あまり慣れてしまうとつり橋効果が得られないかもしれないし、ここで先生と恋に落ちるのもいろいろまずい。
捕えられた宇宙人、ではない。
ではいよいよつり橋効果体験くん二号機の登場である。本当につり橋効果は得られるのだろうか。
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つり橋効果は得られるのか
住さんにはつり橋効果体験くん二号機を装着してもらい、さらに臨場感をプラスするため、風音を録音した音源も聞いてもらうことにした。
より臨場感を出すため、風音を聞いてもらっています。
棒を持てばほぼ『ザ・ウォーク』の世界。
これで住さんには地上200メートルの高さを綱渡りしている感覚が得られているはずである。
実際にはこんな感じだけれど。
実際にはこんな感じだけれど。
棒は両側から支えているので絶対安心です。
住さんから言葉が消えた
この時点ですでに住さんの心拍数はうなぎのぼりだった。僕もやってみてわかったのだけれど、スラックラインってものすごい全身運動で、バランスを取っているだけでぐんぐん体力を消耗するのだ。
住さんの心拍数は70から90台へと突入。
いいドキドキである。
この胸の高鳴りを恋だと認識させればいいのだろう。これはいいつり橋効果が得られそうだ。
どうですか?住さん。
この胸の高鳴りを恋だと認識させればいいのだろう。これはいいつり橋効果が得られそうだ。
どうですか?住さん。
「怖い怖い怖い…」
二号機の効き目が思った以上にすごい。ちゃんと怖いと言ってもらえて満足である。
ここで住さんには大嫌いなニンジンが渡される。
ここで住さんには大嫌いなニンジンが渡される。
はい、住さん、ニンジン!
「え、ちょ、と、まっ、て、よ!」
この時、心拍は本日の最高値をマーク。
そのドキドキ、もしかしたらニンジンに恋をしているんじゃないですかね。どうでしょう、住さん!
「違うよばか!」
住さん、汗びっしょりである。映画『ザ・ウォーク』はとにかく迫力の映像に手に汗を握るのだが、実際の綱渡りでは全身汗だくになるようだ。
どのくらい手に汗を握ったのか、視覚的にわかるよう手に持った棒には水に濡れると色が変わるシールを貼っておいた。
どのくらい手に汗を握ったのか、視覚的にわかるよう手に持った棒には水に濡れると色が変わるシールを貼っておいた。
しかし見た感じさほど色は変わっていなかった。
スラックラインは全身運動なので心拍は上昇し全身汗だくになるが、手汗はさほどでもないようだった。そして残念ながら、期待したつり橋効果も顕著には得られることがなかった(つまり住さんがニンジンを好きになることはなかった)。
元チャンピオンの我妻さんに「で、どうしてニンジンを食べさせられていたんですか。」って聞かれていた。
しかし諦めるのはまだ早い。次はいよいよ映画でつり橋効果を検証だ!
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映画でつり橋効果が得られるのか
次は映画『ザ・ウォーク』を見た場合のつり橋効果を検証したい。
もしも映画を見るだけでつり橋効果が得られるのならば、それはものすごく得なのではないか。ちょっと気になる人と一緒に映画を見たらいいことになるだろう。これはたいへんだ。
住さん、たいへんですよ!
もしも映画を見るだけでつり橋効果が得られるのならば、それはものすごく得なのではないか。ちょっと気になる人と一緒に映画を見たらいいことになるだろう。これはたいへんだ。
住さん、たいへんですよ!
主人公のプティが綱渡りをするところでは同じように住さんにも棒を持ってもらい、映画の世界に入り込んでもらった。
映画は進みいよいよ主人公のプティが綱渡りを実行するところにさしかかった。一番いいところである。
この時点で心拍数は77と、平常時よりは多少高めだが、やはり映画館というリラックスした場所だからだろうか、それほど顕著な上がり方ではなかった。
この時点で心拍数は77と、平常時よりは多少高めだが、やはり映画館というリラックスした場所だからだろうか、それほど顕著な上がり方ではなかった。
その後もだいたいこのくらい。
でももしかするかもしれないので、いちおう住さんにはニンジンを食べてもらった。
小声で)「住さん、これ、お願いします。」
「すぉ!」
「………。」
僕も隣で見ていたのだが、映画は面白かった。ロバート・ゼメキス監督はタイムスリップみたいな映画が得意なのかと思っていたのだけれど、こういうのも抜群である。
映画が終わった後、住さんを見るとまだニンジンをくわえていた。飲みこめなかったようだ。
おかしい。つり橋効果でニンジンが好きになったのではないのか。聞いてみた。
住さん、ニンジン、好きになりました?
映画が終わった後、住さんを見るとまだニンジンをくわえていた。飲みこめなかったようだ。
おかしい。つり橋効果でニンジンが好きになったのではないのか。聞いてみた。
住さん、ニンジン、好きになりました?
「そんなわけないじゃん!」
住さんいわく「だってニンジンだもん、気持ちが通じるわけないじゃないですか。つり橋効果ってそういうことじゃないから!」と。
すみません、なんとなくそうかな、とは思っていました。
ただ、さすが『ザ・ウォーク』である。手汗検出シールはちゃんと変色していた。
すみません、なんとなくそうかな、とは思っていました。
ただ、さすが『ザ・ウォーク』である。手汗検出シールはちゃんと変色していた。
見えにくいですが、ばっちり手で握った跡が残っていました。
一緒に見ていた僕もものすごい手汗をかいた。ただ、隣に座っていた住さんに恋をするということはなかったので、まあつり橋効果っていうのはそんな簡単なことではないぞ、ということなのかもしれません。
おまけ
最後に、元日本チャンピオンの我妻さんの華麗な綱渡り(スラックライン)を見ながらお別れしたいと思います。
こんなの地上でもできない。
どうしてそこから宙返り!!
本格的手汗体験をあたなに
嫌いなニンジンは食べられるようにならなかったけれど、スラックラインは本当にドキドキするし、映画『ザ・ウォーク』は手に汗をびしょびしょになるまで握るので、ちょっと気になる人と一緒に体験してみると、いい効果が得られるかもしれませんよ。