特集 2016年1月6日

昼は消えるバスラーメン屋と名前の無いワンボックスおでん屋

昼間は消えるラーメン屋
昼間は消えるラーメン屋
動くかどうかあやしいボロボロのマイクロバスの横に煌々と灯る「ラーメン」の看板と「おでん」の提灯。

ここほんとにやってんのか?
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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地元の人は誰でも知ってるバスラーメン

青森県五所川原市の地図を見ると「バスラーメン」とだけ書かれた場所がある。
ストリートビューを見ても、ラーメン屋の看板はあるものの、店舗がない。
地元の人に聞くと「あー、あそごな。むがしっからやってるきゃな。(あー、あそこな、むかしっからやってるよね)」と誰でも知っているラーメン屋らしい。

いつ行けばいいのかを聞くと「さぁ、夜やってるのはみだごとあるばって、昼間はいねんでね?(さぁ、夜やってるのは見るけど、昼間はいねえな)」という。

ラーメンの移動販売だろうか? 夜になるのを待って現地に行ってみた。

地図で示された場所に向かうと、駐車場の中にバスラーメンとおぼしきマイクロバスを発見。
バスラーメン、ほんとにあった
バスラーメン、ほんとにあった

昭和を煮しめたような雰囲気

屋台とか、移動販売のラーメン屋はよく見かけるが、マイクロバスそのものがラーメン屋というのは珍しい。しかし、調べてみると、全国に少なからずあるらしい。
バス後方がキッチンになっている。
バス後方がキッチンになっている。
中に入ると、すでに先客がラーメンを待っていた。

しかしこの、匂いたつ郷愁はどうだ。外の一面の雪景色とあいまってたまらないものがある。高倉健演ずる刑期を終えて出所したばかりの主人公が座っていても不思議ではない。
ノスタルジーのせいでメガネが曇った
ノスタルジーのせいでメガネが曇った

雰囲気を味わいたい

メニューは一般的なラーメン屋と変わらないのだが、ひとつだけ「なっとうラーメン」というのが気になった。
「天ぷらラーメン」もなんか気にはなるな
「天ぷらラーメン」もなんか気にはなるな
ご主人に、なっとうラーメンを注文し、待っている間におでんを選ぶ。
青森のおでんはこんにゃくが白くて四角い。あと凍み豆腐(高野豆腐)も関東ではあまり見かけない
青森のおでんはこんにゃくが白くて四角い。あと凍み豆腐(高野豆腐)も関東ではあまり見かけない
車内は、完全に食堂みたいになっているものの、ディティールを見るとやっぱりバスである。
よく見るとバスだ
よく見るとバスだ
ご主人にいつ頃からこの形態でラーメン屋をされてるんですか? と聞いたところ、「もう40年になるよー」と恥ずかしそうに教えてくれた。

もしかしてこのバスも40年前のもの? と思ったが、車内で調理するためバスの傷みが早く、この車両は3代目とのこと。食堂用にバスを改造してくれる専門業者がいるらしい。
これだけ結露するわけだから傷みも早いわけである
これだけ結露するわけだから傷みも早いわけである
味がしっかり染みこんでてうまい
味がしっかり染みこんでてうまい
青森おでんの特徴、生姜味噌をつけて食べる。うまい。というか、おれはいま旅情を食ってる。

これでビールが無いのか……。と思ったが、ご主人に聞くとビールはメニューには書いてないけれどあるとのこと、車で来店してなければ出してくれるらしい。「メニューに書いてると欲しくなっちゃうでしょ、だからわざと書いてないの」と恥ずかしそうにいうご主人。

そんな話をしているうちになっとうラーメンがきた。
なっとうラーメンきた
なっとうラーメンきた
なっとうラーメンは、普通のしょうゆラーメンにひき割りなっとうを入れただけのシンプルなものだ。
普通にうまい
普通にうまい
ベースのラーメンは、オーソドックスな普通の醤油ラーメンなのだが、ひきわり納豆が入ることにより、納豆汁とラーメンを同時に食べているようなきもちになれる。

こう言っちゃ何だが、貧乏くさいといえばその通りとしか言いようが無い。でも、こういう昭和枯れすすきみたいな雰囲気にはよく合ってる。

ワンボックスカーのおでん屋もあるらしい

さて、マイクロバスのラーメン屋について情報収集するなかで、五所川原には夜だけ営業するワンボックスおでん屋が存在すると教えてもらった。

その店は
1) おでんとそばだけを売っている。
2) そばの値段は時価。
3) ほぼ年中無休でやってるが、昼間は消える。
という。

そばの値段が時価。という信じ難い話だが、場所はマイクロバスのラーメン屋から歩いて10分ほど。これもぜひ行っておきたい。
歩道は雪で歩けないので車道を歩くしか無い
歩道は雪で歩けないので車道を歩くしか無い
当然、公共交通機関もないし、タクシーを使うほどの距離でもないので、歩いて行くしかない。
あー、あれじゃない?
あー、あれじゃない?
雪に埋もれるようにあった
雪に埋もれるようにあった
中のおばちゃん(というか、おばあちゃんだが)に聞くと、まだ準備中だからもうちょっと待ってくれと言われた。

近くのコンビニで時間を潰してあらためて来てみると、赤々とちょうちんがついてた。
反乱を起こすコンピューターみたいな光りかたの提灯
反乱を起こすコンピューターみたいな光りかたの提灯
中に入ると、車内を所狭しと動きまわって準備するおばちゃんがいる。
車内がおばあちゃんにちょうどいいサイズ
車内がおばあちゃんにちょうどいいサイズ
タコは特別扱いだった
タコは特別扱いだった
とりあえず、天ぷらそばを頼んで、おでんをいくつか選ぶ。
たこはいっかいつゆにつけて温めてから食べてって言われた
たこはいっかいつゆにつけて温めてから食べてって言われた
おばちゃんは、ここで商売をはじめて37年になるらしい。お店の名前を聞いたら「ないよ、『工業の前』で通じるからみんな『工業の前』って言ってるな」という。
地図でみると確かに工業高校の前である。工業高校の前だから「工業の前」。明快すぎて気持ちがいい。
五所川原名物、竹鼻製麺のぼんじゅそば
五所川原名物、竹鼻製麺のぼんじゅそば
出てきたそばは、竹鼻製麺の「ぼんじゅそば」である。

竹鼻製麺とは、五所川原の製麺業者で、そこの袋麺のそばの商品名が「ぼんじゅそば」である。

ぼんじゅそばはスーパーでも大量に売られているほか、五所川原市内の食堂などで頼むと出てくるそばは「ぼんじゅそば」の場合が多い。

ちなみに、そばの上にのっている天ぷらは竹鼻製麺の天ぷらである。これもスーパーで大量に売られている。
これな
これな
それはそうと、ぼんじゅそばである。
うめえ
うめえ
煮干しのだしが効いた汁、柔らかめの麺、異論はない。味に異論はない。そしてなにより、この極寒の野外で立ち食いというのがよい。

たべものは、旅先だったり、屋外で食べたりすると、うまさが数割増しになるが、この「工業の前」のぼんじゅそばもドラに裏ドラがのった時みたいなことになっている。

年中無休でやっている

一年中働いてるぞ
一年中働いてるぞ
おばちゃんの話によると、ご主人が毎日、夕方にここまでワンボックスを運転して持ってきて、だいたい8時頃から夜は夜中の適当な時間に営業終了するらしい。ちなみに、年中無休だそうだ。

おでんだけを買って帰るひとや、車でやってきて、注文したそばを車の中で食べるひとが多いようだ。

「なんか、そばが時価だって話聞いたんですけど」と恐る恐る尋ねると「え? アハハ、違うよ」と軽く笑い飛ばされた。

食べ終わってお代を聞くと、650円であった。そばは基本350円、天ぷらがプラス50円。タコ200円、こんにゃく50円だという。

担がれたなー。

バスラーメンという文化

最初にも書いたが、バスの車体を利用したバスラーメンというものは日本各地に残っているらしい。

特に、北関東から東北北海道にかけてよく残っているという。

ぜひ他のバスラーメンもたずねてみたい。
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