意地でも英語は使わない
早速冒頭でご紹介したのが、今回作った日高屋風、キャラメルマキアートのポスターである。
商品名を白でフチ取り、さらに緑でフチ取り、斜めに影をつけた。
内容量や料金を大きくお知らせ。サイズは読みやすいカタカナでお知らせ。
栄養満点。
お店になじむのか
せっかく作ったので、スターバックスに来た。
スターバックス
貼られていた本家のポスター。かっこいい…。そしておいしそう。飲んでみたい。
並べるとこう。左の、商品名の読みやすさがすごい。
遠くから見るとそんなに変じゃない。
ちなみに写真を撮ったのは朝の7時前である。このあと会社へ行く。
時間の都合上ポスターも持って出勤したが、誰にも見られないように気をつけながら自分のロッカーにそっとしまった。
撮影の様子はさておき、盛りすぎ文字を使ったら、キャラメルマキアートも安い値段でおなかいっぱいになりそうな庶民的な雰囲気が出た。
飲み会の締めに、外回り営業の合間に、競馬の帰りに、キャラメルマキアートをかきこんで頑張っていこう。
…と、ここまでが成果物の発表であるが、
日高屋風のキャラメルマキアートのポスターを作ったのはなんとなく面白そうだから、ではない。
気になったことをふむふむと調べる、街歩きのような企画をしようとしたらなんだか歩き方が蛇行していたようで、このような結果となったのである。
では、いかにして人間は街歩きをしようとして自然な流れで日高屋風キャラメルマキアートのポスターを作るに至るのか、ご覧いただきたいと思います。
「盛りすぎ文字」問題
きっかけはポスターを作り出す3週間ほど前、ある看板が気になりだしたことからであった。
こちらである。
東京、神奈川、埼玉、栃木、茨城に店舗を展開する外食チェーン、日高屋の店外広告であるが、この「チゲ味噌」の文字、ちょっと「盛りすぎ」ではないかと思うのだ。
拡大して見てみよう。
チ
このチ、黒い文字にまず白いフチをつけて、さらにその周りに黄色いフチをつけて、それを赤い背景の上に置いている。
「チ」という文字の情報を伝えるために4種類もの色を使っているわけである。
「チ」と言いたいがために4色も使う。なんという贅沢。色バブルである。
「チ」である。「タチツテト」の「チ」。
棒を3本シャッシャッシャッとやれば書けるような黒色の字を、わざわざ白色と黄色がびっちり取り囲んで、赤色の上に乗っている。
過保護だ。
車で学校の送り迎えをしておやつには手作りのマフィンを食べさせてピアノ教室と乗馬教室に通わせているようなものだ。
この「チ」は将来グレる。
過剰包装がデパートや通販で問題になることがあるようだが、文字の「過剰フチ取り」という問題もあったのだ。現代社会には。
虹か!
すごいなあすごいなあと思って見ていたら、背筋に寒気を感じた。
4色では、ない…!
このように更に拡大して見ると…
色が…!
ゆっくり順番に見ていこう。
(1) まず文字自体の黒
(2) そして文字の影の灰色
(3) 文字を縁取っている白
(4) 白の影の濃い黄色①
(5) 白を縁取っている黄色
(6) 黄色に立体感を出すための濃い黄色②
(7) 黄色の影の濃い赤
(8) 背景の赤
このように文字の影などを1色とカウントすると、8色も「チ」に使われていることになるのである。
少年漫画で、強い敵をやっとの思いで追い詰めたらその敵が変身して、そこから更に桁外れに強くなってしまう、という一連の流れがあるがその時の主人公の気持ちがよく分かった。
しかし8色って…!
虹か!
パァァァァ…(虹が架かる音)
余談だが、上の虹は「チゲ味噌」の色の層を切り抜いて虹の形にしたものなので、ちゃんとした「チゲ味噌レインボー」である。
盛りすぎ文字を探す
見慣れた文字をこれでもかというぐらい拡大したら、分厚い色の層が現れた。
こんな大仰なものが「チゲ味噌」という単語を取り囲んでいたのかと思うと愉快である。
この、「盛りすぎ文字」は街にはどれくらいあるのだろうか。
どんな配色でどんな看板に多いのだろうか。
盛りすぎ文字が好きそうな秋葉原を中心に探してみた。
見つけたものを紹介しよう。
「AKIBAドラッグ&カフェ」の看板
どうかというぐらい拡大。「カフェ」の「カ」の右側です。(上の赤い四角形の部分)
左から、
淡い黄色 → 茶色 → 濃い茶色 → 白 → オレンジ → ピンク(濃いピンクの斜線)
という6色を使った盛り。
お菓子のようなかわいい配色の層になった。
一番右のピンクに斜線の装飾があるところもポイントが高い。
アニメかゲームかの広告
これは「2000万人」の「2」の下側を拡大
上から、
ピンク → 紫 → 黒 → 黄 → 青 → 黒 → 文字の影 → 背景
という8種盛り。
目がチカチカするような鮮やかな層が出てきた。
そしてこの広告の写真を撮るのはなんだかドキドキした。
今度は駐車場ののぼり
反転しているが、「有料」の「有」の字の左側
左から
黄 → 黒 → 赤 → 白 → 赤
の5種盛り。
こういう普段見慣れている文字が盛りすぎ文字であることを発見するとなんだか興奮する。
駅にあった都区内パスの広告も…
「都」の下側
上から
オレンジ → 灰色 → 白 → 黒 → 濃い黄色 → 黄色
の6種盛りである。
控えめに見えて6種も盛っていた。
派手な配色ばかり見ていたらクラクラしてきたので、神田明神に来た。空が広い。
日高屋は盛りすぎ文字が好きだ。
色々見つかるが、やはり最初の「チゲ味噌」のインパクトが忘れられない。
もう一度「チゲ味噌」を見ようと再度日高屋に来た。
盛りすぎ文字を探し回った目で日高屋を外から見る。
すると、レーダーに引っかかるのだ。
日高屋に掲げられたポスター達が盛りに盛られていた。
まずはこちら。生ビール310円の文字には、見事な色の層が2カ所もある。
】「生ビール」の「ル」の右下。上から、青→薄い青→白→黄→山吹色→白→濃い山吹色→背景 の8種盛り。
】「生ビール」の「ル」の右下。上から、青→薄い青→白→黄→山吹色→白→濃い山吹色→背景 の8種盛り。
ラ・餃・チャセット。漢字一文字では見慣れていないので「餃」という字が「鮫」に見える。
】上の「ャ」の右側を拡大。左から青→灰色→白→ピンク→黄色の5種盛り。
下の550円の「5」の右下。左から黄→黒→赤→白→緑の5種盛り。
日高屋は息つく暇を与えてくれない。
上にある「セットメニュー」の「ー」の下側。5種盛り。
上にある「セットメニュー」の「ー」の下側。5種盛り。
下の「餃子」の文字。5種。
ついに3つ、色の層が並んでしまった。なんだかかわいい。
立食パーティーとかによくある、カラフルな具が挟まった一口サイズのサンドイッチみたいだ。
もとはラーメン、チャーハン、餃子のポスターなのに。
メニューにあった「冷凍生餃子」の文字。(店内に入ってしまった。)
「餃子」の「子」の左側。青→水色→白→黒→水色→青→黒→背景の8種。出ました、8種盛りが出ました。
そして、やはりチゲ味噌である。
こうして
こうである。黒→灰→白→濃い黄①→黄→濃い黄②→濃い赤→赤!
日高屋すごい。
盛りすぎ文字のエレクトリカルパレードじゃないか。
こんなポスターが店内を取り囲むようにして等間隔に貼られているので、本当に誇張じゃなくエレクトリカルパレードのようなのだ。
チゲ味噌ラーメン食べました。おいしかった。
やってみよう
ここまでたくさん見たら、もうやってみたい。
エレクトリカルパレードに参加したい。
ミッキーマウスと練り歩きたい。
そして、どうせやるなら盛りすぎ文字を使ってなさそうな雰囲気があるところがいい。
洗練された都会的なデザインを、安い早いうまいの世界に招き入れるのだ。
据え置きの割り箸やセルフサービスのお水でおもてなしをするのだ。
味が薄ければコショウを振るのだ!
出どころの分からない情熱で、夜に作業をする。
そして、冒頭に戻る
できたポスターがこちらである。
「ジャーン」ではなく、「どべ~ん」という効果音が似合う。
ちなみに、作った色の層はこちらである。どれがどこかな?
何はともあれ、本家で写真撮影である。遠くから見ると、そんなに変じゃない。
というわけで、庶民的なキャラメルマキアートのポスターとそれを作るに至る経緯のご紹介であった。
できたポスターは編集部の古賀さんに見ていただいたら「何だこれ!」というシンプルな感想をいただいたし、妻に見せても「え?なにこれ?」とテンションは違うが同じニュアンスの感想をもらった。
僕自身もなんでこれを作ったのか、「え?なにこれ?」と不思議な顔をしている人間に簡潔に説明する自信はない。
平日の夜にポスターができあがって、なじむかどうか試しに行ったのが翌日の早朝であった。朝7時前である。
さすがにこの時間なら人も少ないのでポスター出しても恥ずかしくないだろう、と思ったらなんとほぼ満席だったのである。
昼も夜も行列しているのを知っていたので、じゃあもうひっきりなしに人が来るのだスターバックスには!と本当に驚いた。そもそも朝6時半からやっているのがすごい。
日高屋のことをすごいすごいと言っていたがスターバックスもすごい。引き分けである。
壁にあてがったりなどしてみたかったがこれが精一杯だった。