ぼくが今まで作ってきた工作
今まで作ってきた僕の工作はすべて失敗している。作っているときは「完成度は低いものの、必要な機能は満たしている。ゆえに失敗はしていない」とか思っているんだけど、時間をおいてみるとすべて失敗だ。こんなに失敗しているのに「できるだろ」と思う。客観的に見て、頭が悪いか天才なんだろう。
実用的な機械を作る
今回石川さんからのリクエストは「実用的な機械」だ。
靴下かわかしマシンアイディアスケッチ
そこでぼくが提示したのは「靴下かわかしマシン」だ。洗濯物を干すと靴下だけがかわいてないって状況はあるだろう。早朝にドライヤーで乾かしたりする。その作業を機械化したものだ。
しかし石川さんからは「せっかくロボットキットを提供してもらえるので、キャラクターっぽくしましょう」というオーダーがついた。なんでキャラっぽくする必要があるんだろう? 要望には応えてみる。
靴下かわかしマシンアイディアスケッチ2(顔がついた)
細いキャラと正方形のキャラで見た目のコントラストを出した。性格は正反対だけど、一緒に協力して靴下をかわかすのだ。
石川さんはキャラ性には触れず「 『まんべんない温風』のところの机上の空論感がすごいですね」とだけいったが、とりあえずアイディア的にはOKっぽい。
材料は選んでもらえる
アイディアをもとに、ロボットキットを販売している
スイッチサイエンスが材料を選定し、提供してくれる。一番難しいところなので、ありがたい。この条件がなかったら工作やる気にならなかった。
数日後に石川さんから一枚の画像が届いた。
申し訳なさそうにぼくのアイディアスケッチを見せる編集部安藤さんと、困り果てるスイッチサイエンスの方々
ぼくの案を見せたら、スイッチサイエンスの方々ものすごく困ったらしい。打ち合わせに行った編集部は気まずかった、とのこと。
特に「少し動く」と書かれた部分を見て「こいつ何をいってるんだ?」という雰囲気になったそうだ。何いってるんだ、はこっちのセリフである。少し動かないと靴下が焦げて火事になるよね?
さらに何日かたって、うちにスイッチサイエンスから「車の工作キット」が一式届いた。
えっ! これで本当に靴下かわかしマシンができるの……?
材料はこれでいいのか
車のキットを開封したところ
石川さんによると、この「車のキット」か「レゴみたいに基本部品がいっぱい入ったセット」が工作材料の候補に挙がったという。
しかし「『レゴみたいに基本部品がいっぱい入ったセット』では斎藤は絶対に何も作れずに終わる」と編集部の安藤さんが主張。「車のキット」ならとりあえず車はできるから、そこからカスタマイズして靴下かわかしマシンにつなげてほしい、とのこと。
これ、材料半分しか来てないような気がするのだけど……。
とりあえずやってみる
カスタマイズは工作しながら考えよう
説明書にほとんど文章がないうえに、あったとしても英語だった
まずは手順1だ。車のホイールにネジをつけて部品をとめる。
……ん? なんかうまくとまらない。なぜだ。
説明書と実物を見くらべてみてください
うまくとまらないこと1時間。部品の取り付け位置が全然違うことに気づいた。なるほど、ネジと金具はホイールを挟むようにしてつけなきゃいけなかったのか。
だまし絵を見た時のようなアハ体験である。だまし絵と違うのは、ぼくが勝手にだまされているだけということ。脳科学的な効果はきっと同じだと思う。
アハ体験も繰り返すと疲れる
こんな感じでアハ体験を10個くらい繰り返しながら、手順2まで終えることができた。
なぜかモーターがバラバラになってしまう
しかし手順3がどうしてもできない(ちなみに全工程で手順11まである)。モーターを支える金具を取り付けるところなのだが、なんどやってもネジが締まらないのだ。
いろいろ試してみたらモーターが分解されてしまった。なんで作っているのに壊れてゆくんだ? おれは絶対に悪くない。
なにがなんだかわからない
手順3に数時間を費やし、頼みの綱のアハ体験も特に起こらない。ぼくはこれ30分くらいで車が全部組みあがると思っていたんだけどな……。
石川さんの超能力がすごい
もうどうしようもないので「締まらないネジがあるんです」と石川さんに手伝ってもらいに行く。
場所はニフティの応接スペース
―― ……というわけで、ネジを締めようとしてもうまくはいらなくて。いろいろやっていたらモーターが分解されちゃってるんです。
石川(部品とマニュアルを一瞥して)「ああ、これはこうやってつけるんですよ」(この間1分足らず)
――あっ。確かにマニュアルどおりにしないでこっちに取り付けたらうまくいった……。でもなんでパッと見でそんなことわかるんですか? ぼくなんかマニュアルを読み解くことさえ時間がかかるのに、石川さんはマニュアルの上をいっていらっしゃるっていうことですよね……?
なんでわかるんですか? の問いには笑ってはぐらかされた そこ一番知りたいのに
どうしてわかるんだろう。石川さんが仙人みたいに見える。工作やっている人ってみんなこういう超能力みたいなのでやっているんだろうか。理系だと思っていたのにオカルトだ。恐いな。
(編集解説:モーターにある金具取りつけ用の穴を見落としていた斎藤さん。説明書どおりの場所に穴がない→代わりにネジがある→ネジを外せば穴ができる!という独自の解釈によりネジを外し、モーターをバラバラにしていました。まさに、「その発想はなかった」。
斎藤さんには「説明書の上を行っている」ように見えた石川も、実際は説明書どおりやっただけです。)
編集部の安藤さんも加わった
編集部の2人は仕事をしながらぼくをなんとなく横目で見る。ぼくは工作の続きをすることに。子守りみたいな体制だ。
着々と完成に近づいてきた
だんだんと車らしい形になってきた
前輪と後輪にモーターが無事付き、車の形になってきた。(ここまでで手順5が完了)
しかし、車輪がどうしても一つ浮いている。ガタつくのだ。理由はわからない。何度バラして組みなおしてもガタつく。
石川「なんでガタつくんでしょうねー」
今度は石川さんに聞いてもわからず。
安藤「それちょっと見せて」
なんか取り外してゴソゴソっとやったら
安藤さんが一瞬作業したら車輪がガタつかなくなっていた。
――安藤さん今なにしたんですか? 完全に直りましたが……
安藤「おれも何したかよくわかんない。というか、なんでガタついていたのかがよくわかんない。これ、ガタついているほうがすごいよ」
また超能力だ。
安藤「なんかもう、工作あきらめた後の展開で面白く見せたほうがいいんじゃないかなあ。河原に行くとか 。市販のキットを作って苦しんでいるところ書いても面白くないし」
そんなこといわれたら、逆にその手は使えないじゃないか。……そのとき、お尻が急に冷たくなった。
作業中にミネラルウオーターをイスにこぼしているのに気づかず、座ってしまった
その後も0.3歩進んで0.2歩下がる、みたいな感じで進めてゆく。
できたー!
ギャー! 形は完成!(本当にニフティの応接スペースで大声をあげてしまった)ただ、このままでは動かない。石川さんによるとスイッチサイエンスがリモコンをキットの中に入れるのを忘れていたらしいとのこと。
へーこれ操作できるラジコンキットだったんだ! 作っていて全然わからなかった。
とりあえず今日の作業は終了で、追加でリモコンを送ってもらうのを待つばかりである。ヤッター!
動かない
なんでだ
リモコンが送られてきた。しかし、リモコンを使ってもピクリともしない。
どういうことだ
何が悪いんだ。配線を間違えてるんだろうか。何度もバラして組みなおすがわからない。数日放置していると石川さんからメッセージが入った。
石川「この間の動きました?」
――全く動かないのですが
石川「 マイコンの方の問題かもしれません。平日ニフティに来れる日ってありますか?」
え? これ、コンピューター制御だったのか? 初耳だ。
何度も組みなおしていたらいつの間にかまたガタつくようになっていた、もう気にしないことにする
「またガタついてるねー」と安藤さん
こんなパソコンつながるようなサイバーなマシンだったとは
やはりマイコンの問題だったようだ。パソコンとつないで、メーカーのウェブページからプログラムをダウンロード。車のマイコンに入れると……。
ヒャー!(また大声をあげてしまった)
動いた。
実はちょっと変なところがあって「リモコンで前進と後退のボタンを押すと左右に方向転換して、左右に方向転換のボタンを押すと前進と後退を行う」ということになっているのだが、そこは人間が理解しカバーすればよい。完成だ。
ありがとうございました。これで工作は終了です! ……と一瞬思ったが「靴下かわかしマシン」の製作はここからがスタートなのだった。ちなみに、この間に記事の締め切りには全く間に合わず、掲載スケジュールを3回リスケしてもらっている。
(編集部解説:本来はパソコン使わなくていいそうなのですが、斎藤さんに渡したのは以前イベントで使うために中身を改造していたみたいです。斎藤さんごめん。ただし進行方向の件は組み立て時の配線間違いです。)
ドライヤーを取り付ける
ドライヤー乗る気がしない
最初からずっと疑問だったのだが、この車はドライヤーを乗せる場所がない。しかしここは無理をしてでも取り付けないと先に進まない。
ヒモで仮止めできるかな
壊れそう!
マイコンが搭載されている部分がメキメキいいだした。
実はこの部分、作った時からずっとグラグラしている。ここは説明書通りに作っているのだから仕様のはずだ。やっぱりドライヤーは乗らない車なんだ。どうなっているんだ!(編集部解説:前段階でつまづきすぎたため忘れてしまったのだと思いますが、そこを工夫するのがそもそものミッションです。)
温風はあきらめる
小さな卓上扇風機で風を送るのはどうだろう。このさい温風じゃなくてもいい。何かをあきらめることによって開ける道というのもあるはずだ。
電気屋に行って「このお店で一番小さい扇風機をください」っていった
USBで給電する扇風機買った
すごくいいサイズのものが手に入った。羽がぱっと開いた花のようだ。
できた!!!
あつらえたようなサイズ感でぴったりと乗る。ノートパソコンで給電するとちょっとサイバーな雰囲気もかもしだしてくる。完成だ!
靴下もよくかわくような気がする
あ……でもこれは何か変だな。車が必要ないというか、扇風機だけで事足りてしまうというか。有線で給電しているから車は動かせないし。
有線で給電しなくちゃいけないのはドライヤーも同じこと。この工作は最初のアイディアスケッチの段階で、完全に間違えていたんだ。
仕様変更
もうどんづまりなので、もうすべてやり直そう。この車に直接靴下を乗せて動かせば、相対的に風を浴びていることと一緒になる。
理解していただけたでしょうか。理解できない人は理解できるまで動かないでください。昼休みはなしです。
これでどうだ
このメソッドにのっとり、靴下を直接取り付けてみた。完成! と思ったけど、これ完全に引きずっている。洗ったはずの靴下が汚れてしまう。
もっとラディカルに考えよう。靴下をかわかせるようにロボットを改造するのではなく、このロボットにもかわかせる靴下を調達してくるのだ。
当然こちらも理解できるまで見直してください。時間がかかったら晩ご飯は抜きになります。この記事がきびしく見えるかもしれないけど、あなたのためなんですよ。
子どもがいないのにベビー用品売り場に行く。そういう妖怪いそう
ユニクロに行ってベビー用の小さい靴下を買ってくる。
赤ちゃんの足って小さいんだなあ……
できた!!!
GIFアニメで見るとキビキビよく走る
靴下がちょっと風ではためているのがご覧いただけるでしょうか。確実に風を受けてかわいている。完成だ。
未来の子どもたちのために
まったく予想もしないところで子どもたちに役立つ機械が完成してしまった。ものづくりの醍醐味である。この機械を作ってから、赤ちゃんの足が冷たくなっているところが浮かんできて、胸がギュッと締め付けられる。はやい普及が望まれる。