ロボット相撲の大会
ヘボコンについては上記リンクを読んでほしい。要はロボット相撲である。ただし、参加していいのは「技術力の低い人」だけ。もしも高い技術(センサーによる遠隔操作や自動操縦など)がロボットに実装されると、減点がある。
勝ちに行く
ロボット相撲なので「勝ち負け」がある。ここがポイントだ。僕はこれまで当サイトで数々のヘボ工作を発表してきた。
単にヘボい工作を作るだけなら、もう今さら、何の面白味もない。しかしヘボいままで、積極的に勝ちを狙ってみたら楽しいんじゃないかと思った。
コロンブスの卵はヘボ
有名な「コロンブスの卵」という話がある。
みんなコロンブスがスゴイって思っているだろう。しかし、もしもコロンブスに卵を立てられるような技術力があれば、卵を割らずに済んだのだ。
冷静に考えてほしいのだが、卵の価値は、割れているのと割れていないのとじゃ、全然違う。コロンブスは卵を割ってしまっている分だけヘボである。
なのに、コロンブスは「立てる」という目的を達成しているために、逆にそのヘボな部分がカッコイイ、ということになっている。
僕が今回狙うのはコロンブスである。
どんなふうに勝つか
ロボット同士がぶつかったら、重い方が勝つはずだ。できる限り重たいロボットを作ればいいのだろうが、問題点が3つある。
1.敵より重たいロボットでないと勝てない
2.敵がどのくらい重たいロボットかわからない
3.重たいロボットを動かすのはきっと大変だろう
単純に重さ勝負だと「いかに重たいものを動かすか」という技術力の勝負になってしまう。
それは避けたい。あと重たいものって材料が高そう。
それでは「てこ」のような機構を用いて、相手を転ばせるというのはどうか。しかし、相手のロボットの形状がわからない状態で、どんな風に相手を引っ掛けたらいいのかがわからない。
そこで目を付けたのが「遠心力」
あれこれ考えて、こんな攻撃方法を思いついた。
モーターで分銅を回すことにより、遠心力がつき、自分の重さ以上のパワーが出る。分銅での攻撃は相手の形状にかかわらず、ダメージを与えることができる。
さらに、モーターというのはそもそも回転運動なので、分銅を回転させるのも簡単にできるはずだ。
ここまでスーパーのフードコートで一気に考えた。他の出場者には申し訳ないが、これ「正解」だろう。待ってろ世界!
モーターをどう回せばいいかわからない
まず、分銅を回さなければいけない。東急ハンズにやってきた。
店員にモーターのありかを聞いて案内されたのがこちら。
よくみると、ここで売られているのはモーターではなくて、モーターを入れるボックスのようだ。ここにあるものだけではモーターは回らない気がする。
ここは新宿のハンズである。秋葉原まで足を伸ばした方が良いのかもしれない。そうすればきっと豊富にパーツがあって、モーターも簡単に回せるのでは? そうだよな、パーツを買うといったら、やっぱり秋葉原だよな。
秋葉原のパーツ屋
秋葉原には何回か来たことがある。しかし、こうした電気部品の店に来たのは初めて。
せまくて暗い
パーツを扱う店は、外国としか思えなかった。店員同士が、怒っているような口調で世間話をしている。このへんで詐欺があった、とかそんな話だ。
モーターを売っているところを見つけたが、さっきのハンズの方がまだ品揃えが良い気がした。店員は怖い。何かを聞ける雰囲気ではない。ましてや分銅ロボの相談はぜったいムリ。早く日本に帰りたい。
ミニ四駆を買ってみたらどうか
しかし、新宿・秋葉原を回って何も買えないのか……と絶望的な気持ちになる。
ここで一つアイディアがひらめいた。
ミニ四駆を買ってみたらどうだろうか。説明書通りにミニ四駆を一台組み立てれば、とりあえずモーターは回すことができる。
ミニ四駆専門店
買ったもの
結局買ってきたのは、ミニ四駆一台と電池。分銅ロボはまだ影も形もないが、ミニ四駆を組み立てながらどうすればいいかを考えることにしよう。これでひとまず一歩前進である。
ミニ四駆を作る
ミニ四駆は小学生のころに一度だけ組み立てたことがある。作ること自体はそれほど手間取らないだろう。
ただ、本当の目的は「ミニ四駆を作るという体験を通して、分銅を回す方法を見つける」ことである。
まさか。と思っていたが、ミニ四駆を作るのに、ものすごく手間取る。さらに組み立てていて気付いたのだが、ミニ四駆のモーターは別売りなのだ。
モーターのないミニ四駆。手でタイヤを動かすと、動く
ミニ四駆の形は出来たけれども、動かない。分銅を回すアイディアも出てこない。
天啓でストレスを受ける
そのかわり、作りながらわかった。「分銅ロボではまともに戦えない」ということだ。遠心力が付くほどの回転では車体が不安定になる。スイッチを入れた瞬間に分銅で自分が怪我をする。
こういうことが雪崩のような勢いでわかってきた。手を動かしている物だけに訪れる天啓だ。
あまりのストレスで、大好物である、カップヨーグルトを凍らせたものをむさぼり食べる。
こういうことが起きた時のために、冷蔵庫にストックしてあるのだ。一連の出来事は、おいしさで上書きしよう。
そして僕は寝た。もう起きていても何もいいことがない。
それから、いろいろあった……
1週間後、最終的に出来上がったロボットがこちらである。
同じミニ四駆をもう一台購入。二台のミニ四駆の上にボール紙を瞬間接着剤で留める。ヘボコンにおいて、敵はこちらに向かってくるはずなので、ボール紙ですくい上げて、転がすという作戦である。
ポイントは、幅をヘボコンの土俵(土俵とは言うが長方形)ギリギリに作ってあるところだ。相手がどう動いてきても、最終的にはこちらのボール紙にすくい取られることとなる。
シンプルに「買ってきたミニ四駆を走らせたらいいのでは」というところから発想した。だって、もうそうするしかなかった……という事情もある。
意外と良い
しかし、である。追い詰められて作ったものだが、これはこれでなかなか良いと思っている。ものづくりの神様みたいな存在がいるのだろう。
名前は「amazing quick floor」(素晴らしく機敏な床)とした。英語である。改めてみると、真っ白な長方形はアップル社製品を思い起こさせる。見た目については意識していなかったのだが、機能を追求した結果、美しくなっている。
ipadみたい
ニコ生で前哨戦
ヘボコンを前にニコニコ生放送で前哨戦が行われることになった。他のロボットと対戦させるのは初めてである。
というか、スイッチを入れてロボを動かすこと自体が3回目だ。このロボットは何かに激突して止まるしかないので、あんまり動かすと壊れる。
対戦相手は「ユズルロボ」。モーターでアームがぐるぐる回って攻撃するロボットである。
対戦相手のユズルロボとamazing quick floor
ユズルロボのアームはamazing quick floorまで全然届きそうにない。この向かい合った状態で既に必勝の構えである。
ところが実際に対戦させてみると。
0.1秒でコースアウト。土俵の幅いっぱいに作ったのが完全に裏目になっている。
この後も何回か対戦してみたが、真っ直ぐこのロボットを走らすのは難しい。ただ、まっすぐ走りさえすれば、ユズルロボを倒すことはできた。
強力ではあるが、操作者の腕が試されるロボットである。弓道とかダーツとか、ああいう操作感だ。
形状を変えようかなとも思ったが「操作にテクニックが必要」というところが、カッコいい。当日の一発勝負に賭けるのだ。
ヘボコン当日
会場前の列
ヘボコンは告知の段階でかなりの盛り上がりを見せ、大人気のイベントになった。なんとめざましテレビが取材に来ている。
僕のロボットがキー局で全国放送されるかもしれない! そう思ってポスターを付けた。
ロボにスポンサーのポスター付けた
この「下北沢ふしぎ指圧」というのは、僕が個人的にやっている治療院である。めざましテレビで「下北沢ふしぎ指圧」の文字が流れたらどうだ! 宣伝効果は計り知れない。
そして、広告をつけること自体がロボットの格を上げていると思う。まるでF1マシンみたいじゃないか。
メディアには全然相手にされず
しかし、テレビが僕の方に全然来ない。近くに寄ってさりげなくPRするも、完全無視である。
どうしてだろう。広告があるからテレビに映してもらえないのかな? 写りこんでしまった場合は広告部分にモザイクかけられたりして……。
しょうがないので、広告は外した。
両面テープの跡が痛々しい
裏面の広告だけは残しておいた。意地だ
広告を外したのちも、テレビはこっちの方には全然来なかった。ロボットと思われていなかったのかもしれない。
フジの女子アナにインタビューされている人たちが本当にうらやましい
対戦相手が最悪
今日クジ引きできまった1回戦の相手は、ダイオウオオグソクムシロボだ。
よりによって転びそうにもない相手だ。ふつうにやったら勝てない。ただし、この戦いはヘボコンである。開始と同時に相手のモーターが逆回転する可能性もあるのだ。
そういう相手のミスを祈るしかない。しかし、祈れば祈るほど、自分の不利が心の中にきっちりと刻み込まれてゆく。
試合開始
試合が始まった。とにかく、土俵に対してまっすぐにロボットを発射しなければならない。
OK!ロボットの軌道はど真ん中のストレートコース。今までやった中で一番うまくいった発射だ。敵のロボもトラブルを起こすことなく、真っ直ぐこちらに向かってくる。ガチンコ勝負である。
そしてこちらのロボは作戦通り、相手のロボをすくいあげる。ただ、敵のロボが安定し過ぎていて、ひっくり返らない。
そしてグソクムシロボは何事も無いかのように、amazing quick floorを通過。
そしてそのまま、amazing quick floorは真っ直ぐにコースアウト。グソクムシロボは悠々と土俵に残った。
悔しい
全てが作戦通りだった。僕はちゃんとロボを真っ直ぐ発射できたし、 ロボはちゃんと相手をすくいあげた。
ただ、最初の作戦が間違っていただけである。しかし、あの場で僕がとれた作戦は、あれだけだったんだ(そんなはずないだろ、という人はこの記事を最初からもう一度読み直してくれ!)。
やるだけやった。悔いはないはずである。でも、悔しい!!
楽屋でうなだれる
何一ついいところなかったが満足
1回戦で敗退し、メディアには鼻もひっかけてもらえず、最後の各賞にも入らなかった。自分の治療院の宣伝にもならなかった。というか、イメージダウンになっている可能性もある。
しかし今までにない「やり切った」感。心が筋肉痛になりそうである。