当たり前の旅 2015年11月5日

仙台の牛たんはうまいことがわかった

牛タンを食べに仙台に行く
牛タンを食べに仙台に行く
東北新幹線に乗って仙台で乗り換えるとそのホームには牛たん、牛たん、牛たんの文字。牛の舌だろうそれは。前面に出すには変化球すぎやしないか。

しかしどうやら人々は牛たんをたべに仙台へ行く。ねぎし(東京の牛たんチェーン)に行けばいいという話ではないのか。

みんな一体何をしているのか。ふつうの旅行をしてきた。

この記事はとくべつ企画「当たり前の旅」シリーズのうちの1本です。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:どん兵衛や納豆のハロウィン仕様にピピピ! ハロウィン警察始動!

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

家族旅行かそれとも記事か

牛たんをたべに仙台へ行く。しかも妻子もつれて行く。完全な家族旅行である。こんなことをインターネット上に公開していいのだろうか。

担当編集の古賀さんに本当にいいのかときいたら、いい、だが私なら断る、という話だった。わかる。でもさようならプライベート。私たちは牛たんをたべてみたい。
家族三人でいく。ふだん取材でどこそこ行ったと言っては「いいなあ」と言われていた。そういうんじゃない、仕事だ。と言い訳してたがそのウソが今日ばれる。
家族三人でいく。ふだん取材でどこそこ行ったと言っては「いいなあ」と言われていた。そういうんじゃない、仕事だ。と言い訳してたがそのウソが今日ばれる。
東京から新幹線で1時間30分。5歳の娘が退屈するだろうから人生初のハイチュウが買い与えた。その味に感動している娘に何味か訊くと「梨」とのこと。青りんごだった。

妻は2枚の10円玉をすばやく指でずらし残像によって20円を30円に見せている。贋金で時間をつぶすな。
仙台駅には牛たん通りという牛たん店街がある。そこでさえ並んでる
仙台駅には牛たん通りという牛たん店街がある。そこでさえ並んでる
仙台駅にずんだシェイクというのがあってそれがいいらしいと妻
仙台駅にずんだシェイクというのがあってそれがいいらしいと妻
ズズズ。はい。今仙台を好きになりました
ズズズ。はい。今仙台を好きになりました
でもおれの好きな仙台は伊達政宗が好きすぎるということがわかった。三角関係だ
でもおれの好きな仙台は伊達政宗が好きすぎるということがわかった。三角関係だ
仙台駅から地下鉄で2駅。牛たん発祥の店に行く
仙台駅から地下鉄で2駅。牛たん発祥の店に行く

牛たん発祥の店を目指そう

しかしなぜ仙台といえば牛たんなのか。肉牛が多く舌をくう文化ができあがったのだろうか。

検索をすると元祖牛たんの店というのが見つかった。せっかくなのでそこをめざそう。地下鉄で2駅行くが、牛たんを求めて仙台に来るような人はこれくらいするだろう。

日曜日の12時前である。どれくらい並ぶのだろうかと思ったが、行列はない。中も見えない。みんな発祥の店など目指さないのだろうか。
めちゃくちゃ人気あった。肉の焼ける匂いがたちこめる。これはテンションが上がる
めちゃくちゃ人気あった。肉の焼ける匂いがたちこめる。これはテンションが上がる

ぎちぎちに混んでる

中に入るとぎっしり。肉が焼ける匂いが立ち込め大勢の人が黙々と肉を食っている。肉の煙と人、その密度がすごい。

奥の座敷に通されて座布団に座ると後ろの人と背中が触れるくらい。これはみちみちに詰め込まれてきたのであろう。
発祥の店というものがあってそこからごたごたしているようだ
発祥の店というものがあってそこからごたごたしているようだ

張り紙がこわい

牛たんですか?ときかれて、定食1人前か1.5人前をえらぶ。選択の余地がない。

店の壁には張り紙がしてある。どうやら分家本家のごたごたが書いてあるようだ。そういうの今流行ってるしな。トレンディだ。

かと思えば牛たんの味に集中すべく新聞雑誌を読むなと書いてある。こわい。妻がそれに気づかず観光パンフレットを読んでいる。殺されるかもしれない。
カナダの牛の舌を仙台でたべる。「シュールな世界観」とかいわれかねないぞ
カナダの牛の舌を仙台でたべる。「シュールな世界観」とかいわれかねないぞ

洋食のたんシチューから来ているらしい

張り紙によると今日の牛たんはカナダ産らしい。やはり仙台で牛を飼いまくってるわけではなかったのか。

牛たんの由来がメニューの隣に書いてあった。初代店主が昭和20年代に洋食のたんシチューにヒントを得て考案。人気が出て県や市の観光担当も注目して「麦飯・テールスープとの"黄金"セットの『牛たん定食』が誕生した」んだそうだ。

牛たんというより「牛たん定食」なのだなあ。この定食押しの理由は食べて実感することになる。
麦飯とテールスープ。ねぎの千切りがのっている
麦飯とテールスープ。ねぎの千切りがのっている
これが牛たんか。野沢菜がついてるんだなー
これが牛たんか。野沢菜がついてるんだなー
みんなこれをめざして仙台まで来るのか。あんまりピンとこないな
みんなこれをめざして仙台まで来るのか。あんまりピンとこないな
先にたべた妻。グワーッと叫んだあとうなずきまくった。どういうことだ
先にたべた妻。グワーッと叫んだあとうなずきまくった。どういうことだ
なにをそんなにうなずいてるんだ
なにをそんなにうなずいてるんだ
あ、わかった~
あ、わかった~

全部わかった~

わかった。

なぜ人々は仙台まで牛の舌をめざすのか。なぜ新聞雑誌を読むなと怒っているのか。なぜ先にたべた妻は何回もうなずいているのか。口に入れた瞬間に全部わかった。

かのアルキメデスが牛の舌をたべて「わかった!」と叫んだという。浜辺のピアノマンもこれをたべて牛たんの記憶だけ戻ったという。

(……価値! 牛たんの価値! わかる! おれ、わかる!)

だまって食べてはいたが心の中で原始人がどんぐりとの味の違いを涙ながらに語っていた。
塩しかついてないのでは。それでなんでこんなにうまいんだ
塩しかついてないのでは。それでなんでこんなにうまいんだ

飽きのこなさすごい

わっせわっせとたべすすめる。

それにしてもシンプルな味だ。牛たんと塩とあと炭火の味。適度なコゲから立ち上る香ばしさが鼻から抜ける。もうコゲ自体ひとつの調味料といってもいい。

肉の油分が少なくシンプルな味付けである。腹がいっぱいになってからも強い。飽きが来ない。

テールスープもまた一口目は物足りなかったが終盤近くになってしりあがりにうまくなってきた。薄味だから最後までうまいのだろう。

「まさかこいつ、この短時間でさえ成長しているということなのか!」

少年ジャンプのバトル系マンガでよくこういうの読んでいたが、あれテールスープのことだったのだ。
陰の主役はテールスープ。ねぎをこんなに入れようなんてよく思いついたものだ
陰の主役はテールスープ。ねぎをこんなに入れようなんてよく思いついたものだ

塩しかついてないのではないか

牛たんのあとに野沢菜。乳酸菌の旨味とシャキシャキの歯ざわり、合いすぎる。野沢菜いってからの麦飯。合いすぎる。麦飯いってからのテールスープ、合いすぎる。

組み合わせがすごいなこれ。

牛の舌、野沢菜、それに麦と米にネギとしっぽである。世の中の食材からランダムでくじひいたような組み合わせだ。

だれが考えたんだろうか。先代だ。これは分家許さんの気持ちもわかる。考えた人が偉すぎる。

一歩間違ったら「たい焼きとラザニアと栗ごはんにカルピス」とかそんなでたらめな定食ができていたかもしれない。これを考えた人の料理センスに感謝するしかない。
「ああ、うまかった…」本当に言っていた
「ああ、うまかった…」本当に言っていた

「うまいなあ…」があちこちで湧いている

「ああ、うまい…」という声がどこからきこえてくる。えっ、そんなことってあるだろうか。

と思ってもまた「…どうですかお母さん、うまいですか?」「うまいねえ」とむこうのテーブルのおばあさんからきこえてくるのである。こりゃすごい。

「うまい」があちこちで湧く、湧水群みたいなものだ。あっちこっちで「ああ、うまい…」がもれきこえてくるのである。

本当にうまい店はなんかそれはそれでちょっとしたネイチャースポットみたいなことになってくるのだ。
腹パンパンである
腹パンパンである

牛たんはうまい。松島はどうだろう

ああ、すごいものだなあ。と牛たんに感動したあとはあたりまえの仙台観光をすることにした。

仙台から電車で40分。日本三景の松島を見に行くことにした。

ところで松島へ行っても牛たんに心奪われていた私達である。日本三景で考える牛たんのことは最高だった。なのでここからは妻から牛たんへのラブレターとともに松島めぐりを紹介しようと思う。
公園ではわいわい祭が開催されていた。仙台は彫刻の街だそうだ
公園ではわいわい祭が開催されていた。仙台は彫刻の街だそうだ
高瀬克子 (たかせかつこ)

1968年秋田県生まれ。食べたり飲んだりしていれば概ね幸せ。興味のあることも飲食関係が中心。もっとほかに目を向けるべきだと自覚はしています。

妻から牛たんへのラブレター

この店が特別においしいのだろうか。それとも今まで食べてきた牛タンがイマイチすぎたのだろうか。そもそもこれまで食べてきたのは本当に牛タンだったのか…?

そんなことを思わずにいられないほど、今回食べた牛タンのおいしさは格別だった。完全に心を撃ち抜かれた。これが人間なら恋に落ちている。
松島に移動。政宗公ゆかりの瑞巌寺へ。ただいま本堂修復中のため屏風絵がプリントだった。つるつるペタペタしていた
松島に移動。政宗公ゆかりの瑞巌寺へ。ただいま本堂修復中のため屏風絵がプリントだった。つるつるペタペタしていた
炭火で焼かれた肉厚のタンは「絶妙というのはこれの、この硬さのことを指すのだ」と力説したくなるほどに、柔らか過ぎず、かといってもちろん硬くもない。いい塩梅すぎて憎らしくなるほどに理想的な噛みごたえであった。

そして圧倒的なうま味。塩だけで味付けしてあるというが、いったいどうやったらこんな味になるのだ…と不思議に思うほど、うまさが凝縮されまくっている。
船への列。これ全部乗れるのだろうか。家族でこの列に並びながら強制収容所のドキュメンタリー『ショアー』を思い出していた
船への列。これ全部乗れるのだろうか。家族でこの列に並びながら強制収容所のドキュメンタリー『ショアー』を思い出していた
こちらは芭蕉コース巡りと銘打ってる。みんな芭蕉気分にひたりたいのである。高速で水上移動する芭蕉気分を…
こちらは芭蕉コース巡りと銘打ってる。みんな芭蕉気分にひたりたいのである。高速で水上移動する芭蕉気分を…
タンを食べ、麦飯をかき込む。うまい。これ以上の幸せがあるだろうかと怖くなり、次は麦飯だけを口に入れる。そこへ付け合わせの野沢菜漬けをポリポリっとしたところで、さらなる幸せが押し寄せる。

誰だ、この組み合わせを考えた人は。天才か。しかも切り方がいい。刻むところがいい。トンカツにおけるキャベツが千切りであるように、ここでの野沢菜も大きく切ってあっちゃダメなんである。
松島湾内をめぐる船でとにかく島を見る。小判に似てるから金島だとアナウンスが入ってはみんな写真に撮る。今だけはこの船にいる間だけはみんな島マニアだ。
松島湾内をめぐる船でとにかく島を見る。小判に似てるから金島だとアナウンスが入ってはみんな写真に撮る。今だけはこの船にいる間だけはみんな島マニアだ。
口の中が幸せすぎて汁物でブレイクしようとするも、そのテールスープがまた「おいおい困るよ、こんなにおいしくされたら逃げ場がないよ」と泣きたくなるほどにうまい。これでもか! とどっさり入れられたネギがまた素晴らしい。

なんなんだ。どれもこれも塩で味付けされたものばっかりなのに、どうしてこうもうまいのだ。

ああ、この完璧な組み合わせよ…。牛タン定食という名の宇宙よ…。
人々が島をみまくる異常な船ともいえる。「有料橋がかかっていて…」のところで「有料橋!?」という声が2件あがった。みんな島まみれになって他のことに敏感になっている
人々が島をみまくる異常な船ともいえる。「有料橋がかかっていて…」のところで「有料橋!?」という声が2件あがった。みんな島まみれになって他のことに敏感になっている
夢中で食べたらあっという間になくなった。
ふと気がつくと、隣で子どもが「うまっ」と言いながらスープをじうじうと吸いまくっている。たまに牛タンを小さくちぎりながら食べては「ここボツボツがあるからイヤだ」とバチ当たりなことを言う。

普段なら「ちゃんと食べなさい」と叱るところであるが、今回ばかりは「そうかー。イヤかー。じゃあ無理して食べなくてもいいよー」とあっさり引き下がり、残りは全部もらった。
船内では演歌が流れている。演歌が島を盛り上げるのか、島が演歌を盛り上げるのか。どちらでもなくとくに関係がないに一票入れたい。
船内では演歌が流れている。演歌が島を盛り上げるのか、島が演歌を盛り上げるのか。どちらでもなくとくに関係がないに一票入れたい。
あれから数日経つが、今でもときどき思い出す。また食べたい。すぐにでも食べたい。そのためならまた日帰りで出かけてもいい。

(高瀬克子)
ビールが売っていたので買ってみた。寒い。それにしても芭蕉、こんなに高速で水上移動したのかな…
ビールが売っていたので買ってみた。寒い。それにしても芭蕉、こんなに高速で水上移動したのかな…

牛たんはうまいし松島は島多いというあたりまえ

仙台駅はなぜあんなに牛たん牛たんいってるのだろうと思っていた。駅のホーム、駅の中の商店街、駅の看板。牛たんまみれなのだ。

前に仙台駅を利用したのは秋田までジャンボうさぎをたべに行く取材だっただろうか。ふだんはそういうもの目当てでしか遠地に行かない。乗り換えの仙台駅でも牛たんは無視だ。

しかしたべてみるとわかった。一瞬ですべてを理解した。

牛たんはうまい。そしてあなたたちは正しかった。
牛たんの旅、子供は退屈してゲームセンターに行ってみたいといいだした。仙台まできてゲーセンか…
牛たんの旅、子供は退屈してゲームセンターに行ってみたいといいだした。仙台まできてゲーセンか…
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