特集 2015年10月13日

秘境の温泉に行ったら人生を考えさせられた

自分の家の風呂っぽいですが、違います。
自分の家の風呂っぽいですが、違います。
こないだ、時間だけはとにかくある無職の友人から「いい温泉を見つけた!」と連絡がきた。

いつだって温泉はいいものなので「よし、行こう!」と一緒に行こうとした当日、「行けなくなったから、行ってきて」と連絡が。

なので1人で行ってきたところ、すごいところだった。
1988年神奈川県生まれ。普通の会社員です。運だけで何とか生きてきました。好きな言葉は「半熟卵はトッピングしますか?」です。もちろんトッピングします。(動画インタビュー)

前の記事:色とりどりのラーメン食べ歩きの旅


温泉は神奈川県の逗子にある

調べてみるとその温泉は神奈川県の逗子にあるという。分からない人は神奈川県の右下くらいを指させばたいだいそこだ。

あと余談だが、逗子市という言葉が「豪快な人が笑っている」感じがして好きです。ズシシ。
三浦半島のつけ根部分が逗子。
三浦半島のつけ根部分が逗子。
そこからバスに20分弱乗り、最寄りのバス停に着く。
絶景すぎて不安になる。
絶景すぎて不安になる。
最寄りのバス停に着いたのだが、周りに何もない。山しかなく「ヤッホー」と叫びたくなるぐらい絶景が広がっていた。降りたのも私1人だった。

「良い温泉というのはだいたい絶景の場所にあるものだから、きっとかなりいいんだろうな」と自分に言い聞かせる。そうしないと「無かったらどうしよう…」という気持ちに負けてしまうからだ。
山の中へ続く道を行き、
山の中へ続く道を行き、
どんどんと森が深くなる道を行く。
どんどんと森が深くなる道を行く。
「本当にこっちでいいのか…」
「本当にこっちでいいのか…」
看板みたいなのがあった。
看板みたいなのがあった。
バス停から20分歩くと、山の途中で看板が出現。多分これだと思う。
煙が上がっている。ここだ!
煙が上がっている。ここだ!
無事に到着した。遭難しなくて本当によかった。

さっそく温泉に入る

ここのご主人。笑いがたえない楽しい方でした。
ここのご主人。笑いがたえない楽しい方でした。
「ごめん! 今、先に入っている人いるから少し待って!」と言われた。その時に少しお話を伺おうかと思ったが、ご主人にはやることがある。
薪で風呂を沸かすスタイル。
薪で風呂を沸かすスタイル。
ここのお風呂はボイラーのような機械でお湯を沸かすのではなく、薪を使って沸かすのだという。「こっちのほうが熱くできるし、お金もかからないからいいんだよ」とのこと。

昔はボイラーと薪の両方で沸かしていたが、ボイラーで沸かすと温度が低くなり入りやすくなるらしい。しかし常連の人たちには熱いお湯の方が人気で、ボイラーが壊れたことで「もういいやってなっちゃってね。お金ないし」となったそうだ。

なんだろうか。親近感がある。
多少のノスタルジックな雰囲気
多少のノスタルジックな雰囲気
早くお風呂に入りたくて脱衣所の写真を取り忘れたが、浴室はこんな感じだ。

スーパー銭湯のような充実さはないが、それを補うぐらいお風呂が気持ちよいのだ。
これがお風呂。「家?」と疑問に思うが、これがちゃんとした温泉なのだ。
これがお風呂。「家?」と疑問に思うが、これがちゃんとした温泉なのだ。
昔、家にある風呂がこれだった。最初、見たときに「あれ、タイムトンネルを通って昔の自分の家に来ちゃったかな」と思うぐらいのステンレスの浴槽。

しかし、風呂に手を入れると普通のお湯ではないことに気付く。
「熱っ!」となったが完全に温泉だ。
「熱っ!」となったが完全に温泉だ。
浴室に描かれている絵。ご主人のお兄さんの知り合いが湘南の海を書いたらしい。
浴室に描かれている絵。ご主人のお兄さんの知り合いが湘南の海を書いたらしい。
入浴をしている雰囲気をお届けします。
入浴をしている雰囲気をお届けします。
普通浴室でカメラを使うと怒られるが、ご主人がいい人なので「全然いいよ!ネットとかわかんないから」と笑いながら言ってくれた。どれだけ最高なんだ。

実際に入ってみると山の中なので、静かな入浴が楽しめる。たまに鳥のさえずりが聞こえて天国かと思うぐらいリラックスできる。普通のお湯を沸かすのとでは気持ちよさが全然違う。体力が20%だったのが100%になるぐらい気持ちいい。そんなゲームが昔あったな。
不安だったけど、良いお風呂でした。
不安だったけど、良いお風呂でした。
出た後に肌を触ってみると肌がツルツルしている。きっと上質な温泉なんだろう。

この壊れっぷりがすごい

風呂から上がり敷地内を見渡すと、いたるところで建物が崩壊している。壊れないでいるのはお風呂のある建物だけだ。
全体で見ると、左側の壊れっぷりよ。
全体で見ると、左側の壊れっぷりよ。
屋根も壁も崩れて、木も倒れている。
屋根も壁も崩れて、木も倒れている。
事情を聞いた。

「元々は休憩所だったんだけど、屋根が崩れちゃって、木も倒れて来たんだよ。それで、直そうと思ったけど、お客さんが「車で休むからいいよ」って言ってくれるからそのまま。そのうち、ひざを悪くしちゃって直せなくなってね」

「そうしたら、お客さんたちが自分たちで作ってくれて本当に感謝してるよ。でも、大雪のせいで小屋が傾いたのかドアが閉まらなくなって、今は使ってないんだけど壊すのも大変だからそのままだよね」

ご主人は自分で直したいが動くことができない為、そのままだという。でもこの雰囲気、なんかいい。
生活感がすごいが使ってないらしい。
生活感がすごいが使ってないらしい。
ここにはカラオケがあったが壊れてからはそのままにしている。
ここにはカラオケがあったが壊れてからはそのままにしている。
愛車の原付バイク。ボロボロだったが、自分で全部直して乗っている。
愛車の原付バイク。ボロボロだったが、自分で全部直して乗っている。
「こないだ、藤沢までバイクで行ったんだけど、帰りにパンクしちゃってさ。押して歩いてきたよ。3時間かかって、本当に疲れた。ギリギリまで使えるだろうと思っちゃだめだね」

あとでやろうなんて思ってはダメなのだと話を聞いていて思った。まさか、お風呂に入りに来たのに人生訓を学ぶとは思わなかった。

ここを開いた経緯を聞いてみた

――なんで、このお風呂を開こうと思ったんですか?

「30年前ぐらいにアスレチックブームがあって、父親がここでアスレチックを作ってやってたんだけど、ブームが去ってから人が来なくなってね。そしたら、『ここを掘れば温泉出るから掘るぞ!』って業者の人呼んで、掘ったら本当に出たんだよ。それから引き継いでやってるよ」

出たはいいが源泉が16℃しかないために、薪を使って沸かしているのだという。当時、温泉が出た時は、家族も業者もビックリしたという。

しかし、調査もしないで温泉を引き当てるなんてすご過ぎる。石油の国に行ったら、石油を引き当てて帰って来るかもしれない。
蛇口から出てくる水も源泉。浴びれるし、浸かれる。ただ、使いすぎないように!
蛇口から出てくる水も源泉。浴びれるし、浸かれる。ただ、使いすぎないように!
「来る途中に、小さな小屋に色々書いてあったでしょ? ここ周辺でアスレチックをやってた名残だよ」

そういえば、来る途中に小屋があった。触れてはいけない危ない小屋だと感じたので触れなかったが、あれもご主人のお父さんが作ったものだ。
来る途中にあった小屋。話を聞くと結構大きなアスレチックだったらしい。
来る途中にあった小屋。話を聞くと結構大きなアスレチックだったらしい。
アスレチックでの注意。
アスレチックでの注意。
甘酒や豚汁を販売してた。
甘酒や豚汁を販売してた。
「アスレチックがあった頃は、こどもの日にはたくさん来てにぎわっていたけどね。父親は色々と思いついたことをやる人だったので、色んな遊具を作ったり、山登りのマラソン大会を開いたりとよくしてたな」

ちなみに優勝したのは、消防団の人だったらしい。

思いついたことを色々とやった方が、人生楽しそうだ。ご主人も「父親はずっと楽しそうだった」とおっしゃっていた。
思いついたことをすぐやることは大切なのかもしれない。

外国の人も来る

――結構、人って来るんですか?

「土日になるとちょっと来るぐらいで、後はあんまり来ないね。交通の便が悪いから。でも、企業の社長さんや外国の人もたまに来たりするよ」

「外国の人って日本の風呂知らないでしょ? 入った後、全部お湯を抜いちゃってね。次に入るお客さんがびっくりしたことがあったな。色んな人が来て、色んなことがあるからお金が無くてもやってて楽しいよね」

話していると常に笑っている。多分、この仕事が楽しいから常に笑えるんだろうな。こういう常に笑える仕事につきたいものだ。

また行きたい温泉でした。

行くまではかなり不安だったが、行ってみると人柄も温泉も全部、最高だった。
10枚で1回無料なので10枚ためてみようと思う。
10枚で1回無料なので10枚ためてみようと思う。
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