「テニスとバドミントンのケース、見た目は同じだ!」
今というほうき星を追いかけるためには(天体観測、転じて今回の調査のことです)、とりあえず聞きこみだと思った。
幸い嫁が教師をしているので、各運動部の学生が移動中どんな服装をしているのか、見分けるポイントはあるのか聞いてみた。
すると出てくるのだ。
気をつけろ!
何部か考えるにあたってまず見るポイントは、その部活を象徴する道具を持っているかどうか、だろう。
弓を持っていたら弓道部だし、楽器のケースを持っていたら吹奏楽部か管弦楽部だ。棒の先に網が付いたアレを持っていたらアレだ。ラクロス部だ。
この要領で、テニスラケットのケースを持っていたらテニス部だし、バドミントンラケットのケースを持っていたらバドミントン部だろうと言ったら、嫁に「違う」と一蹴された。
テニスラケットのケースとバドミントンラケットのケースは見た目が同じなのだ。「体育会系界」の奥の深さに早くも足を取られることになった。
まだ何部か確定しない背中
何が出てくるか分からないのだ。この形のケースからは。
「集団の中にひとりだけ長袖長ズボンがいたら、そいつはハンドボール部のゴールキーパーだ!」
電車内でこの推理ができたら本当にかっこいい、という情報も得られた。
つまり、その集団はハンドボール部だ!
なんて興味深いのだ。その集団全体のトーンではなく、一人一人の服装まで見る必要があるなんて…。
なんでもハンドボール部のゴールキーパーは素肌を出してプレイをするとアザができてしまうので、夏場でもひとりだけユニフォームが長袖長ズボンなんだそうである。過酷なスポーツだ…。
「ハンドボール ゴールキーパー」で画像検索してみる。確かに長袖長ズボンだ…。ブルース・リーのコスプレみたいな画像もある。
知っている人には常識なのだろうが、僕は全く知らなかった。体育会系と文化系の知識格差である。
そして他にも、
「上はユニフォームやジャージなのに学校指定の通学靴を履いていたら室内競技だ」とか、
「たくさんのボールを分担して運んでいるのはサッカー部かバレーボール部、もしくはバスケ部」とか、
「くるぶしの靴下履いてるサッカー部なんて見たことない!」など、
こんこんと湧き出てくる嫁からの豆知識を呆気にとられて聞くことになった。豆の泉が大豊作である。
もちろん地方や学校によって細部は異なるとは思うが、推理の仕方としてすごく面白い。
「水泳部の焼け方はきれい、サッカー部はやばい」
この調子で広く知見を集めるために、教師の知人数人に話を聞いてみた。印象深かったものを挙げていこう。
サッカー部は異常な黒さで、歯だけが不気味に光る、らしい。(元中学教師・バレーボール部顧問 Sさんより)
ユニフォームの形によって腕や足に日焼けの輪っかができる(元中学教師 Kさん と 高校教師・サッカー部顧問Iさんより)
この話を聞いて、「そもそもリストバンドってなんのためにあるの?」と聞いてしまった。あれで試合中に汗を拭うんだそうである。なるほど…。(元中学教師Kさんより)
偏見が過ぎる。けど、なんか分かるような気もしてしまう。(元中学教師・バレーボール部顧問 Sさんの旦那さんより)
そのまんまだもんな。そもそも卓球部は部活のジャージやバッグなどをあまり作らない、らしい。(元中学教師Kさんより)
嫁も含めて4名の先生方と1名の社会人に話を聞いたが、気がつくと卓球部の話題に落ち着いている。
部活のジャージを作らなかったり、移動中にゲームやったり、カードゲームが好きだったりと、文科系の僕にも共感できる話が多かったからかもしれない。
卓球部は、体育会系と文化系が交わるパワースポットなのだ。落ち着いた落ち着いた。押入れの中のような安心感と仄暗さがあった。
屋外の部活だったら、手と首は絶対焼けている
情報が集まったのでまとめてみた。
顔や髪型は部活によって偏りが出ないよう、なるべく中立的なものにした。
僕を含めた6人の大人の偏見が具現化されていく…。
ということで、電車内で学生の団体を見つけたときのチャート図も作ってみた。
乱暴なチャート図
ハンドボール部と判断するには絶対に長袖長ズボンがいないといけないし、上半身ががっしりしてないと水泳部ではない。
5人の忙しい大人の偏見を、1人の暇な大人が腕力だけでまとめた結果である。牛乳パックとガムテープだけで作った工作みたいだ。
でも何か雰囲気のある図になったのでとてもうれしい。
足にミサンガをしていたらサッカー部だ
無謀だとは分かりつつ、この表を携えて学生を探すことにした。
朝6時半の中央線に乗って、神田駅から西を目指す。
駅のホームで早速学生が
荷物は多くない!日焼けしてる!背は高くない!上半身がっしりしてる!
→ 水泳部!
今まで蓄えに蓄えられた知識により、もはや表を見ずとも予測がついてしまった。
そしてそっとバッグに書かれた文字に目をやると「SWIMMING」らしき単語が! 正解である!
…挙動が不振だ俺は。
これからさわやかな汗を流しに練習や試合に向かう、未来ある少年をチラチラ見て何をやっているのだ。
何だか恥ずかしくなって別の車両に乗った。
そして怒涛の体育会系学生のラッシュである。
きれいに日焼けをしており、赤いポロシャツを着て携帯ゲームをしていた。単独行動が多いという陸上部か?
はいラケットのケース!で、日焼けしてる!テニス部!
すごく分かりやすくサッカー部。足首にミサンガしてたし。
はっきりと正解が分からないが、おおむね自信を持って推理することができる。何より推理のための武器が増えたので楽しい。
しかし足にミサンガをしちゃうぐらい高校生の時点でおしゃれだったら、大人になった時にどうなってしまうんだろう。
「そりゃあピアスも空けるわな」
と、これもまた偏見に満ちた心でその子が向かう(と勝手に思っている)過激なおしゃれを容認してみたりもした。
マックで浴衣を着てカードゲームをしていたら…?
そのうち、中央線が三鷹を過ぎると、たくさんいた学生がちらほらと降りていき、休日を楽しもうとする家族や団体さんが増えてきた。
すごく楽しそうだった。
目の前には大きなリュックを背負い、杖を携え帽子をかぶったおばあさんの集団が。
「登山部だ!高尾山に向かう、登山部だ!」
心の中で人差し指を突き立てたが、高尾山のはるか手前、立川駅でぞろぞろと降りて行ってしまった。
なんだったんだあれは。立川に山があるのでしょうか。
そして学生がまったく見当たらなくなったので、立川駅の次の日野駅で当てもなく降りてみる。
何の予備知識もなく降りた駅。日野駅。
日野駅で何かを待っていた学生の集団。男女混合で、日焼けはしておらず、皆シャツインしているのが印象的だった。やたらと荷物が多かったので、ボールを皆で運んでいるのかもしれない。そしてズボンを腰で履いていない。ということはバレー部!
近くのマクドナルドで休むことにし、飲み物を頼んで席を探すと、テーブルにカードゲームの道具を広げて、あのカードは強いだの、あの大会はどうだったと議論する学生4人が。
朝から何をやっているのだ、と自分を棚に上げて思った。
そしてその中の年長者らしき学生は、なんと浴衣を着ていたのである。朝8時前のマックで、浴衣を着て、見るからに年下の学生とカードゲームに興じている…。
あれは…、何部なんだ…?
…卓球部か?
「一組でも見つかればいいな」と思い、早起きして電車に乗ったわけだが、結局、たくさんの体育会系の学生に巡り会えて存分に推理をすることができた。
「この子達は、自信ないけどサッカー部かな…?」と思って見ていた学生が降りる駅で、別の車両からも同じ服と同じバッグを持った学生が一斉にどばっと降りて行った時の景色は壮観であった。
通勤ラッシュとは違う、爽やかな趣があった。
あと、同じような顔をたくさんかいた。ハンドボール部ゴールキーパーの顔が気に入ってます。