特集 2015年8月28日

電柱が愛おしいのでネックレスにした

シルバーの電柱ネックレス。微妙な出来ですが、どうか制作過程を聞いてください。
シルバーの電柱ネックレス。微妙な出来ですが、どうか制作過程を聞いてください。
土木・インフラ趣味のぼくだが、いままでその中でも最もポピュラーかつ重要なものについて記事にしてこなかった。

それは電柱だ。

満を持して、土木・インフラ趣味界のキングとも言えるこれについて、ぼくなりにどうにかしたいと思う。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:キリンの指輪「キリング」を作った

> 個人サイト 住宅都市整理公団

結論から言うと、ネックレスにしました

これまで工場やジャンクション、鉄道高架や調節池などいろいろな土木構造物について、ここデイリーポータルZで記事にしてきたが、電柱はスルーしていた。

興味がなかったわけではない。むしろ電柱にはいつも熱いまなざしを注いできた。

いいよねえ、電柱と電線。
近所の風景。どこにでもある、というのもすばらしいと思う、電柱って。
近所の風景。どこにでもある、というのもすばらしいと思う、電柱って。
ではなぜ触れなかったのかというと、電柱趣味の世界には偉大な先人がたくさんいて、ぼくなどの出る幕ではないからだ。

インターネットが普及して、いわゆる個人サイトと呼ばれるものが登場しはじめた時代、かなり初期から「電柱サイト」はあった。

おそらく鉄道と同じぐらい歴史があって趣味人口も多い。ぼくからすると偉大な先達たちである。
「整理」と「混沌」の両方を併せ持つこの感じがいいと思うのです。それにしてもこの電柱すごい数の金具が巻き付いてる。
「整理」と「混沌」の両方を併せ持つこの感じがいいと思うのです。それにしてもこの電柱すごい数の金具が巻き付いてる。
こういう「電線交差点」もいいですよね。四方向に伸びていくさまが。
こういう「電線交差点」もいいですよね。四方向に伸びていくさまが。
とはいえこういうシンプルなのもいい。腕金で電柱からぐっと離しているさまに「がんばってるなあ!」と思う。
とはいえこういうシンプルなのもいい。腕金で電柱からぐっと離しているさまに「がんばってるなあ!」と思う。
今でも「電柱」で検索すると、そんな電柱趣味の方々のウェブサイトがたくさんみつかる。

一見、なにがどうなっているのか分からない電柱・電線の仕組みだが、これらのサイトを見れば「なるほど」となるだろう。詳しく分かりやすく説明している人たちがたくさんいる。インターネットすばらしい。
かくいうぼくも他のサイトで1回だけNTTの方に取材をして記事を書いたことがある(→「空中インフラ寄合所」)。そこで、この写真のように電柱には「なわばり」があるということを知った。
かくいうぼくも他のサイトで1回だけNTTの方に取材をして記事を書いたことがある(→「空中インフラ寄合所」)。そこで、この写真のように電柱には「なわばり」があるということを知った。
なので、本記事で電柱および電線についての解説はしない。いまさらぼくから付け加えることもない。上手く説明できない気がするし。

で、別の形で電柱にラブコールを送ることにした次第だ。

結論を言うと、ネックレスに仕立てた。

まずはじっくり目の前の電柱を愛でてみる

「電柱いいよね」と当たり前のように言ったが、街の景観の「悪者」の代表格としてとらえている人が大勢いらっしゃるのも知っている。

が、ぼくが電柱に惹かれちゃうのはどうしようもない。一方、同好の士が少なからずいるのも事実だ。有名どころでは画家の山口晃さんがすてきな電柱の絵を描いておられる。お金持ちになったらあの絵を買うのだと決めている。
海外行くとすごい電線とか撮っちゃいますよね。これはバンコク。すごいことになっとるな。
海外行くとすごい電線とか撮っちゃいますよね。これはバンコク。すごいことになっとるな。
そういう景観論における電柱・電線の有りや無しや、という話もここではやめておこう。2ちゃんねるに始まり現在SNS上でのやりとりにいたるまで、何を言っても両派の溝は埋まる気配はない。平行線である。電線だけに。

なので、もっぱらぼくの個人的な愛でっぷりから始まり、やおら彫金を始めるまでの経緯のみをお伝えしよう。

で、まずは部屋の窓から見える電柱を、あらためてじっくりと観察してみた。
窓から見える道の向こうに、電柱があるのだ。
窓から見える道の向こうに、電柱があるのだ。
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その窓から見える電柱を撮り、やおら切り抜いてみた。自分で言うのもなんだが、すごく、いい。
その窓から見える電柱を撮り、やおら切り抜いてみた。自分で言うのもなんだが、すごく、いい。
ぼくが今住んでいる部屋は2階なのだが、建物が工場のリノベ物件という代物で、天井の高さが3.5mほどある。

なので、窓からの視線が実に電柱観賞向きのよい高さ。ちょうど電柱の真ん中。

で、足元からてっぺんまでを写真に撮り、電柱を切り抜いた。電柱・電線って細いので、背景とごっちゃになっちゃうからだ。もっとじっくり電柱のみを観賞したかったのだ。
電柱以外を丹念に塗りつぶしていく日々。
電柱以外を丹念に塗りつぶしていく日々。
実にたいへんだった。2日かかった。気が遠くなった。
実にたいへんだった。2日かかった。気が遠くなった。
「切り抜いた」って言うのは簡単だが、実際の作業はたいへんだった。

ほんとうにたいへんだった。

たいへんすぎて、一瞬、反電柱派に寝返りかけたぐらいだ。なんでこんなに細けえんだよ! だから嫌われるんだよ! って。
この作業のためだけに、ペンタブを購入した。
この作業のためだけに、ペンタブを購入した。
たいへんだったが、切り抜いた結果はすごくすてきだった。日本じゅうの電柱すべてをこういう風に切り抜いて図鑑にしたい。

電柱の「ライブ感」すごい

さて、あらためてじっくり見た結果、電柱の「何か行われている感」すごいな、と思った。

どういうことかというと、まず建築と違って「むき出し」である点だ。いまさらあたりまえだが。

ふつうの建築は中に人が入るための「容器」であるということもあり、正体を隠す傾向にあると思う。中で何が行われているか、ということが建築の外観デザインに表れることはあまりない。
そういえば近所の電柱に常設の人がのぼって作業をするためのスペースがあって「のぼりたい!」と思ったがこらえた。
そういえば近所の電柱に常設の人がのぼって作業をするためのスペースがあって「のぼりたい!」と思ったがこらえた。
加えて、建築は構法も隠す。素人眼にはどうやって建てたのかはよく分からない。

でも電柱はそこで何が行われているのか明らかだし、どのようにして立っているのかも丸わかりだ。

隠す気も飾るつもりもない。ここらへんのざっくばらんさも、好き嫌いが分かれる原因ではないかと思う。
あと電柱って、本来の役目以外にいろいろな用途に使われちゃってて、そこらへんも愛おしいなあ、と思うのだ。標識、看板、掲示板、ゴミネット収容などなど。
あと電柱って、本来の役目以外にいろいろな用途に使われちゃってて、そこらへんも愛おしいなあ、と思うのだ。標識、看板、掲示板、ゴミネット収容などなど。
植木を固定されちゃったり、電照看板くくりつけられちゃったりね。
植木を固定されちゃったり、電照看板くくりつけられちゃったりね。
建築との比較ではなくて、土木・インフラと比べても、電柱には「何か行われている感」がある。

防波堤や堤防、道路の舗装など、身近な土木代表例たちの機能は「食い止める」だと思う。河川の流れや雨風のよる浸食、いわゆる「遷移」を止めるのが土木構造物の大きな機能だ。
電柱看板でいうと、この「歯医者キャラ」すごかった。サイがキャラなのだが(なぜサイ)、角のところにちょうど足場ボルトが。狙ったのか、偶然か。
電柱看板でいうと、この「歯医者キャラ」すごかった。サイがキャラなのだが(なぜサイ)、角のところにちょうど足場ボルトが。狙ったのか、偶然か。
ところが電柱は「食い止める」というものではない。ぼくらのために情報や電力を運んでいるのだ。水道管やガス管も同じだが、やっぱり見えているというのが面白いと思った。しかも空中をだ。電力って空飛ぶインフラだ。

加えて、水道やガスと違って、電気は発電と消費がほぼ同時に行われる、という点にも「ライブ感」がある。

いま目の前に見えている、自分の家に電気を運んでいる電線の中の電気は、ほんの一瞬前に発電されたもので、そしてほぼ同時に家に入ってきて電灯を光らせ部屋を照らしている。それを支えているのが電柱だ。ライブだ。

しかもそういうものが町中にたくさんある。眼に見えて隣につないでいる。変圧器なんかも乗っかっちゃったりして「電圧下げてますよ!」っていうのがあからさまなのもいい。このライブ感にぼくはぐっとくるのだなあ、と思った。

電柱の醍醐味はどうやらシルエットっぽい

切り抜いたものを塗りつぶした。シルエットだけで「電柱だ」と分かるのってすごい。
切り抜いたものを塗りつぶした。シルエットだけで「電柱だ」と分かるのってすごい。
以上が、非常に共感を得られづらい「電柱のどこらへんがすてきか説明」でした。

で、ネックレス化ですが、まずはどの程度電柱を再現するかを検討した。その結果、シルエットだけでいいのでは、と思った。
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電柱の写真やイラストを画像検索すると、シルエットのものがけっこうある。

空に向けて撮ったり見たりすると、背景が明るいので、どうしても影になりがちというのも原因だと思うが、やはりこのむき出しのごちゃごちゃ感はシルエットにしたとき際立つのだろう。
あらためてペンでシルエットをどこまで簡略化できるか描いてみて、銀の板を切り出す。
あらためてペンでシルエットをどこまで簡略化できるか描いてみて、銀の板を切り出す。
それにしてもシルエットになっても「あ、電柱」ってわかるってすごい。電柱リテラシーだ。というかむしろシルエットになるほど「電柱感」が増している感じもある。

いわば認識的に電柱・電線は「シルエット」なのだと思う。

これだけ身近にありながら、かつ、むき出しでありながら、どの線が何なのか乗っかっている装置の機能は何なのかを把握している人のほうが少ない。

なんか分からないけど、そういう形をしているよね、という「認識的シルエット」。
銀の棒を電柱本体に見立て削り、銀ロウで小さいでっぱりを付けていく。
銀の棒を電柱本体に見立て削り、銀ロウで小さいでっぱりを付けていく。
土木構造物モチーフの銀細工は、前回ガントリークレーンの指輪を作って記事にした。そこで自己流ながら彫金がどのように行われるのかをある程度解説したので、そこらへんのことは割愛する。

って書くと「ははーん、前回のリングと一緒に作ったのを小分けにして2回分の記事にしたな」とお思いの方もいらっしゃるかもしれないが、完全に別件である。ということだけは言っておきたい。

なんか……かっこわるいぞ

で、問題はここからだ。

なんか電柱に見えないのだ。
変圧器やボックスを付けていったが……なんか……ちがう……
変圧器やボックスを付けていったが……なんか……ちがう……
立体的な「ミニチュア電柱」にしたほうがよかったのか。

シルエットの省略しぐあいを誤ったのか。

いやいや、電線が加わればいっきにそれらしくなるのでは?
ちゃんと電線の数の分の皮ひも(電線風に黒)を通してみたが、なんだかぜんぜんだめだ。
ちゃんと電線の数の分の皮ひも(電線風に黒)を通してみたが、なんだかぜんぜんだめだ。
細かいごちゃごちゃまで忠実に再現するか、でなければもっと単純化した方がよかったのかもしれない。
たとえばこんな風に単純化すべきだったか? いやいや。
たとえばこんな風に単純化すべきだったか? いやいや。
いやいや、やはりいちばん上に6.6KVの三相交流線があって、下に変圧器があって単相100Vがその下にある、というようなリアリズムをぼくは大事にしたかったのだ。

って、かっこいいこと言っても(かっこいいか?)失敗してるんじゃしょうがないけど。
で、結局細ーく切った銀を電線にした。うーん…いまひとつ…
で、結局細ーく切った銀を電線にした。うーん…いまひとつ…
でもまあ、首にかけてもらえば、なんとなく……
でもまあ、首にかけてもらえば、なんとなく……

再チャレンジします

これではぼくの電柱愛も中途半端な表現だ。くやしい。再度じっくり電柱を観察して再チャレンジします。
お気に入りの電柱Tシャツ。やはりこれぐらい忠実に描かなくてはダメなのかな。悩ましい。
お気に入りの電柱Tシャツ。やはりこれぐらい忠実に描かなくてはダメなのかな。悩ましい。
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