いくら豚&脂が好きでもそのままは無理
ちなみにパッケージには、品名であるところの「あぶらかす」と、製造者の住所氏名しか載ってない。
まあ地元の人はいちいち原材料名など書かれてなくても当然なんであるかを知っているのだから、これはこれでいいのだ。
豚のブの字もない。ちなみに190円くらいだった。
ネット情報によると、このままスナック感覚で食べる人もいるというので、まずは試しにひとくちかじってみた。
固いところ柔らかいところ、薄いの厚いの、いろいろ混じっております。
う、う、うわーーーーーーっ!!!!!
脂がまだぎっしり詰まっている。
強烈だった。とにかく強烈としか言いようがなかった。豚の脂がダイレクトに口いっぱいに広がる。そして強力な塩っけ。
食感はサクッとかカリッというよりは「ヌシャッ」とか「ニショッ」に近い。つまり中がまだウェットなのだ。完全に脂が抜け切れていないのだろう。もしやサービスか。
とにかく「なにかとてつもない物が詰まりすぎている」としか言いようがない味に盛大にたじろぐばかりである。たとえビールであっても太刀打ちできない力強さを前に、そのまま食べることは断念せざるを得なかった。無念だ。
加工用ということか
そういえば店のおばちゃんは「スープに入れるとおいしい」と言っていた。そうか。あれは単におばちゃんの好みじゃなく、そうやって軽く調理して食べるのが正しい使い途ということだったのだな。
ちょうど春雨スープが少しだけ残っていたので、あぶらかすを数片ぽいぽいと鍋に放り込み、軽く煮込んでみた。
こういうことでいいのかな。
煮込むにつれて、スープの染み込んだあぶらかすが徐々にプルプルになっていく。
これはヤバい。これはうまい。食べなくても分かる。賭けてもいい。絶対にうまい。
脂がいい具合に抜けたあぶらかすが、トロットロのフワッフワに!
箸で持ち上げると、ご覧の「でろーん」っぷり。よく汁の染みた「お麩」っぽくもある。
もともと豚骨風味のスープだったのだが、あぶらかすを入れたことにより、うま味が一気に爆発した。
すごすぎる。家人にも食べさせたところ、口にするなり「暴力的なうま味!」と叫んでいた。わかる。
味噌汁はどうだ
春雨スープはアホかっちゅうほど旨味が強くなったが、強い塩分も加わったことによりスープというより「汁気の多いごはんのおかず」になってしまった。
ならば次こそスープを作ろう。味噌汁なんてどうだ。バランスを考えて、具は可能な限りあっさりした物にしたい。できれば爽やかも追求したい。それが叶う野菜といえば…。
すばり「ねぎ」ではないでしょうか。というか、ねぎ一択だろう!
またトロトロになっちゃって、ンもう…(目尻が下がること下がること…)
あぶらかすの塩分を考慮し、味噌は小さじ1杯しか入れてない。それなのに、この色、この香り…。
あぶらかす、ねぎ、味噌と出汁のハーモニー。完璧じゃないか!
あ、この感じ、八戸で食べた「せんべい汁」のせんべいっぽい!
これはたまらん…
染みた。なんでこうも深い味わいになってしまうんだろう。すごい。あぶらかすがすごいのか、元の豚がすごいのか。捨てずに再利用する沖縄の人ももちろんすごかろうが、とにかくすごさが大集結した味噌汁になった。
これはたぶん、どんな汁物にも合ってしまう。細かく刻んでカレーのトッピングにしたり、クルトン代わりにスープに浮かべたり。考えただけで「そらうまいだろ!」と思う。
…ハッ! もしかして富士宮やきそばで使う「肉かす」って…(調べました。やっぱりあぶらかすのことでした。富士宮では「肉かす」という名称とのこと)
すげえ。いつの間にかひとりでB-1グランプリをやってたとは。そりゃおいしいはずですよ。
コロッケもどきになるか
いったん汁物を離れよう。
プルプルさせるばかりでなく、せっかくの歯ごたえをうまく生かした食べ方を探してみようではないか。
ザクザクと、細かく刻んでみた。ところどころ固いところ(軟骨?)もある。
包丁にべったり張り付いた、この脂! 頼もしい!
茹でたじゃがいもと合わせて、
黒胡椒もいれて混ぜてみた。
挽き肉とじゃがいも、そして衣が合体したのがコロッケとするならば、あぶらかすは一人二役(肉と衣)が出来るのではないか?
味の方向性としては間違えていないはずだが…。
小判型にまるめて、フライパンで焼いてみた。
凶暴があいつが紛れてるとは思えない、かわいらしい見た目になった。
こういう味の、スナック菓子ある!
おいしい。じゃがいもにコーティングされたせいなのか、細かく刻まれたせいなのか、やけにマイルドな味わいになった。子どもも「うまいうまい」と食べている。
ちなみに調味料は黒胡椒しか入れてない。それなのにこのうま味、この塩分…。やっぱり恐ろしい子だ。
刻むのはいいぞ
さらに刻んだあぶらかすを利用して、ごはんに乗せるものを作ってみた。
味噌、砂糖と一緒に混ぜ、
さらに出汁パックの中の粉末も少々。
見た目はまあアレですが、味噌団子のようなものが出来ました。
イメージしたのはアンダンスー(油味噌)だ。
(→過去記事参照
豚肉部「あんだんすー」)
ちゃんと作るとなれば手間も時間もかかる料理だが、果たして近づくことは出来るのだろうか。
ドキドキしてきた。
どれどれ…
おー! アンダンスーっぽい! ぽい!
あっけないほど簡単だったのに、見事に油味噌、禁断の味であった。しかも本家にはないサクサクという歯ごたえまである。
あぶらかす、本当にすばらしいな…。
熊肉に学ぶ
そういえば以前、クセのありすぎる熊肉をトマトやハーブで煮込んだところ、途端においしくなったことを思い出した。
(過去記事参照→「
マタギの里で熊肉を買った」)
今こそ、あれを試すべきでは。
まずはあぶらかすをニンニクで炒めて、
ザク切りトマトを大量投入。じゅわー。
もう勝算しかない。
今回も塩分は一切足さなかった。入れたのはニンニク、ローリエ、オレガノのみ。
既にあぶらかすには絶大なる信頼を寄せているので、ワインなども入れなかった(なかっただけだが)。
もう、見るからにうまそうだもの。トロトロなんだもの。
まずかろうはずがない。当然おいしい。
知らずに食べさせられたら「これモツ?お肉の下処理大変だったでしょう?」と聞きたくなるんじゃなかろうか。
家人にも感想を聞いたところ「トリッパ! これトリッパみたいだ!」とのこと。やっぱり内蔵っぽくなるということなんだな。よし、いいぞ…。
正面からぶつかってみたい
あぶらかす、とにかく使えるヤツだということはよく分かった。とんでもない能力を隠し持っていることも十分すぎるほどに分かった。
でもトマトや味噌やイモでごまかすのはもうやめよう。ここまできたら、脂には肉で応えようではないか。裸と裸のぶつかり合いみたいな、そんな正々堂々の勝負をしてみたいのだ。(闘ってたのか)
つまり何がやりたいかと言うと…
これを、こう乗せて、
くるくるっと巻いて…
ジューと焼く、と…。
弩級のストロングスタイルである。人によっては見ただけで胃もたれがするかもしれない試みである。
しかし、やらねばならぬ時がある。それがいまだ。
やってしまった。あぶらかすの肉巻き。味付けナシ。
作っておいてなんであるが、食べる段になって、さすがにいささかひるんでしまった。最初に食べたあぶらかすのあのインパクトが忘れられない、というのもある。
それをさらにバラ肉で巻いたときた。いくらなんでもやりすぎじゃないのか。何を考えているんだ。
まあいい。ダメならダメで潔く諦めよう…と、思い切ってひとくち食べてみた。
ジュワッ…
うそーっ!
信じられないかもしれないが、これがおいしかった。思わず「うそー!」と声が出たほどだ。
とにかくバラ肉が素晴らしい。ふわっと脂身が甘く香り、そしてあとから塩分の効いたあぶらかすが存在を主張する。口の中で甘さとしょっぱさがいい塩梅に混じり合い、もう、もう、我慢できずに速攻でビールを開けた。たまらん。
バラ肉の脂が染みてしっとりとしたあぶらかすが、自分を隠すことなく堂々としているのがとてもいい。食べていて心地よいのだ。肉にすべてを委ねているかのような安心感・開放感すら覚える、といえば言い過ぎだろうか。
それでもなんだかとても嬉しかった。
またいつか会おう
たったの190円で下処理も要らず、汁物にはポイッと放り込むだけでうま味が爆発するわ、煮込めば手をかけたモツっぽくなるわ、肉に巻かれれば急にイキイキしだすわ、あぶらかすよ、まったくおまえはなんてやつなんだ。
こんな超手軽な「うま味調味料」兼「たんぱく質」が普通に買えてしまう沖縄が本当に羨ましい。
またいつか沖縄に行ける日まで、東京でも売ってるところをどうにかして探し出したいものだが、たとえあったとしても190円では買えないのだろうなあ。
…自作? 断じてしません!