なぜジャカルタの電車をみておきたいのか?
鉄道マニアのひとなら「ジャカルタの電車」と聞けば「あーはいはい、あれね」という感じでわかっていただけると思うのだが、この記事は鉄道マニアだけが読む記事ではないのでご説明申し上げたい。
ジャカルタと近郊の町を結ぶ鉄道「KRLジャボタベック」では、日本から譲渡された車両がたくさん走っており、日本ではすでに引退した車両なども現役で走っているという。
異国の地で走る日本の鉄道車両といえば、ブエノスアイレスの丸の内線などが有名だが、ジャカルタの電車はちょっと数が多い。そのうえ、行き先が日本語の地名のまま走っていることもあるという。
ジャカルタを走っている電車なのに、行き先が「我孫子」や「取手」となっているなんてヘンテコな電車、ぜひこの目でみてみたい!
というわけで、ジャカルタ市内のターミナル駅、コタ駅にやってきた。
コタ駅
コタ駅は、ジャカルタ近郊へ向かう鉄道路線の始発駅になっている。いわゆる「櫛型ホーム」とよばれるタイプの駅で、日本だと、小田急や京王の新宿駅みたいな私鉄のターミナルによくある構造の駅である。
コタ駅は規模としては山手線でいうと、田端ぐらいの規模に感じた。
インドネシア人にまじり、駅の中に入ってみる。
天井が高くて、セブン-イレブンやA&Wなどが入っていた
改札の外側から、ホームに停車している電車を観察してみる。おぉ、たしかに日本の電車っぽいのが並んでいる。
これは、東急? かな?
これは、浅草線でみたことあるような……なんだろう?
えー、正直に告白すると、鉄道車両についてはそれほど詳しくない。
もちろん、電車や鉄道は好きなのだが、車両の型番とかはあんまりわからない。しかも、塗装があきらかに日本にいた時のものとは違う。スーパーマンみたいな色のと、ヤマザキのダブルソフトみたいな色になってしまっている。
これはどうしても改札内に入って電車をよく見てみなければいけない。
とりあえず、乗るか
ガイドブックには、バスウェイの乗り方やタクシーのぼったくりについて注意喚起が書かれているものの、電車については乗車方法など触れられておらず、役立たずである。
仕方ないので、ネットで検索し、見よう見まねで切符を買った。
切符売り場に並び、行きたい駅の名前を言ってお金を出す
Suicaみたいなカードが貰えるので
とりあえず、一番遠い駅、ボゴール駅までの切符を買った。たしか5000ルピアほどだったと思う。日本円で50円ぐらいだ。
ジャカルタからボゴールまでは50キロぐらい離れてるので、異常に安い。
自動改札を通る
ヘルメットをかぶった警察が改札の横に常にたって常時監視している。地下鉄に乗るのに手荷物検査と金属探知機があったインドにくらべるとまだましだけども、これはビビる。
ダブルソフト色の日本の電車
もたもたしてるうちにさっき改札の外から撮影した電車がどちらも行ってしまい、別のダブルソフトみたいな色使いの電車がやってきた。
真ん中に扉があるから、地下鉄でも走ってた電車かなこれは
あったー! クハ203だこれ
クハ203、2011年に引退したJRの車両。主に常磐線や千代田線で活躍した電車だ。
おぉ、こんな異国の地で、クハ203に出会うなんて……。(知ってて来たんだけど)
さて、車内はどうなってるのか?
うぁー、完全に日本だここ
完全にJR、あるいは千代田線の車内がそこには広がっていた。あれ、ここ東京ですか?
乗ってるインドネシア人の雰囲気も、大目に見たら日本人に見えてくるから不思議だ。
消火器のあるこの位置の席、いいんですよね。
異国の地で出会う、見慣れた車内の風景。脳みそが混乱してきた。12時間もかけてやってきたジャカルタで訪れたのは常磐線の電車という。少し不思議な感覚。これは面白い。
しかし、細かいところを見ていくと、いろいろとジャカルタカスタマイズされていることがわかる。
路線図はもちろんジャカルタ用に変更
ドリアン禁止、行商禁止、地べたに座るの禁止
禁止事項もジャカルタカスタマイズされている。ドリアン禁止というのが南国っぽい。そうか、ドリアン食うようになったのか、国会議事堂の下を走ってたころよりずいぶんかわったな。
乗務員室はそんなにかわってない
消火器は日本製のものそのままだ
行き先が日本になってる電車、どうしてもみたい
さて、いろいろとジャカルタ化されている日本の電車であるけれども「行き先が日本の地名になっている電車」をどうしても見たい。
駅でしばらく粘っていたものの、来る電車、来る電車、みんな行き先は黒いか、ジャカルタの地名のボードが差し込んであったりして、なかなか出会えない。
真っ黒でなにも書いてない
クハ205
これはおそらく埼京線で使用された電車だ。行き先が新木場とか大宮だったらいいのだが、行き先は真っ黒でなんにも書いてなかった。
「ジャカルタ 電車」でネットを画像検索すると、行き先が日本語の電車の写真がいっぱいヒットするのに、なぜぼくの目の前に姿を見せてくれないのか。
どこでどうやって待っていれば行き先が日本語の電車が来るのかわからない。こうやってコタ駅で日がな一日待っていてもしょうがない気がして、なんとなくぼんやりとボゴール行きの電車に乗り込んだ。
しかしこれ、完全に常磐線だな
ジャカルタの町並みをぼんやりと眺める
なかなか現れない日本語の行き先電車
で、結局ボゴールまできてしまった。
ぼんやりと目的もなく来てしまったボゴールの日差しは暑かった
ジャカルタからボゴールまで、各駅停車の電車に乗ってしまったので、1時間半ほどかかってしまった。これからジャカルタ市内まで戻るのにまた1時間半か。
ぼんやりしているうちに時間をけっこうロスしてしまった。
これはいったんホテルにもどって明日仕切り直しするしかない。
ボゴール駅にあった「なめるとビリっとする乾電池」のオブジェ
PESINGというちょっと町外れの駅にやってきました
ホテルから少し離れたPESINGという町外れの駅にわざわざやってきた。
ここで電車をまってみることに。
しばらくすると、電車がやってきた。
おぉきたぞー
あー、行き先かいてないな……
残念ながら行き先が書いてない。
ほんとに行き先が日本の地名になってる電車なんか走ってるのだろうか? と疑念がわいてきた。
ジャカルタの鉄道会社が、ここ半年ほどで、日本語の行き先表示を全部撤去してしまったとか。そういう何かがあったのだろうか?
塗装の剥げてるところに千代田線の痕跡をみる
ところで、きた電車をよくみると6015と書いてある。これはおそらく千代田線で走ってた電車だ。
千代田線や有楽町線は、運転台の横に扉がついてて左右対称じゃないので、色がかわってても顔つきでわかる。
キノコ型貫通扉なつかしい
乗ってみると、インドネシア人の雰囲気は、日本人とそんなに変わらないので、この写真だけみると、完全に日本だ。
扇風機に営団地下鉄のSマーク!
しかしやっぱり行き先は書いてない(DURI駅行きのプレートは出ている)
外側から電車をよく観察してみると、千代田線の痕跡が見え隠れしているのは発見できた。
カッティングシートが禿げてるところから千代田線の緑色が見える!
カッティングシートで覆われている部分の端っこがすこし剥げており、地の千代田線の緑色が見えてるところが多々あり、前世の記憶が一瞬だけ、フラッシュバックしたような雰囲気があった。
このダブルソフト色の電車は、今はジャカルタでインドネシア人を乗せて走っているけれど、前世は緑色で、日本の東京で霞ヶ関に通う官僚やら原宿に通う女子高生やらを毎日乗せて走っていたのだ。
もう一回だけ!
もう、いくら頑張っても行き先が日本語の電車になかなか遭遇できない。
ただ、最後にもう一回だけホテル近くの駅に向かって電車を眺めてみたい。
一回ホテルに戻り、支度しなおしてホテル近くのKemayoran駅にむかった。
電車が来てないときは線路の上で子供が遊んでいる
たぶん野生のニワトリ
ここで行き先が日本語の電車にあえるのか
でかい踏切がしまった
駅横のでかい踏切が鳴り始めたので、急いで駆け寄り、電車の行き先を確認する。
うーん違うな
やはり、行き先が日本の地名になっている電車はなかなかこない。もう、時間があまりないのだ。駅の中で待ってみることにする。
お! きたぞー
あぁ、行き先が日本語じゃないな……
正面の行き先は日本語じゃない……。やはりだめか……と、思ったそのとき。
!!
あ! 急行日吉! きた!
電車が停車すると、行き先表示板があるところまで駆け寄る……あ、やっぱり日吉行きだ!(BGMは幸福の黄色いハンカチのラストシーンのやつでお願いします)
異国の地で日吉行きに出会うとは!
日本から5000キロ以上離れたこのジャカルタの地で、急行日吉行きに出会う。この奇妙で不思議な興奮ったらない。
あまりにもうれしくなったので記念の自撮りを何回もしていると、見かねた兄ちゃんが写真を撮ってくれた。
よく見ると後ろのおねえちゃんに笑われてるな
東急8000系はかなり古い車両だ
この東急8000系、製造されて20年~30年は渋谷と横浜の間を何往復もしたはずだ。塗装がかわっても、側面の方向幕の「急行日吉」という微かな記憶をよすがに、故郷の東急沿線を思いつつ、懸命にジャカルタを走る……しかし、そのうち、その方向幕も外され、故郷の記憶も薄れて行く……。
うわー、やばい、なんか泣けてきたこれ。
感動してます。くさいのではない
実は泣ける話だったのか、ジャカルタを走る日本の電車は。
奇妙な雰囲気が味わえるジャカルタ鉄道の旅
主に首都圏の中古電車が走るジャカルタ。
ぼくが2日かけて見てみたところ、行き先が日本語のままのものはあまり走ってなかった。
ただ、日本の電車の雰囲気をそのまま残した車内に感じる奇妙な違和感は面白い。
ジャカルタに行くさいは鉄道ファンでなくてもぜひ見ておいたほうがいいと思う。